いつの日か…   作:かなで☆

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某地方の祭りの内容を少し変えて引用しています。
ご了承ください。


第七十四章【祭りの夜の出会い】

 「どこが大丈夫なの?」

 「ですね」

 デイダラに進められて鬼鮫と共に祭りに来た水蓮が顔をひきつらせ、隣で鬼鮫がため息をついた。

 

 

 奥まった場所にある小さな町。それゆえにそう目立たず出入りは問題ないだろうと、そう言われ来た二人であったが、街の中は想像以上に人であふれかえっていた。

 確かに小さな町ではあったが、祭りは町全体を上げて行われているようで、出店も一部にではなく町中のいたるところに軒を出している。

 「どうやらそこそこ有名な祭りのようですね」  

 「これ、ちょっとよくないんじゃないの?」

 ほほをひきつらせたまま水蓮は町を見回す。

 歩けるほどの余裕はあるが、ひしめき合う人ごみ。よくよく見れば額あてを付けた忍の姿もそう少なくはない。

 その種類は様々で、今のところ木の葉の物は見当たらないが、これだけの人。いないとは限らない。

 それに、すでに夜の暗がりが下りているとはいえ、祭りの明かりが煌々と街を照らしており、一人一人の姿はよく見える。

 とても落ち着いて楽しめる雰囲気ではない。

 「か、帰ろうか…」

 しかし鬼鮫はフッと小さく笑みを浮かべた。

 「大丈夫でしょう。私は姿を変えていますし、あなたはそう知られていない。それにこれだけ人がいれば逆に目立たないでしょう」

 そう言う鬼鮫は今日は女性の姿に変化している。

 黒い髪の少し上品な感じの姿。

 それは以前【竜の心】と呼ばれる水晶を探しに行った、花橘町の旅館の若女将にどこか似ていた。

名前は以前イタチが「緋月(ひづき)」とつけたらしく、水蓮も今日は名前だけでも、と香音を名乗る事にした。

 「いきますよ、香音」

 「あ、うん」

 歩き出す鬼鮫に慌ててついてゆく。

 「せっかく来たんですから。それに彼に団子くらい買って帰った方がいい。機嫌取りに」

 「機嫌取り…」

 昨日からどこか機嫌のよくないイタチを思い出す。

 「そんなに嫌いなの?」

 デイダラの名は伏せて小さな声で問う。

 「さぁ、どうでしょうね。それより…」

 鬼鮫は小さく笑いながらあたりを少し見回し、人ごみをうまく避けて近くにあった店を覗き込んだ。

 「一体何の祭りでしょうね?」

 店は小物屋のようで、和柄の布で作った金魚、鶏、貝、子供の形をした人形などが多く並べられていた。

 「よくできていますね」

 鬼鮫が小さな蝶の小物を手に取る。

 「かわいいね」

 鳥の形の物を手に取り隣で水蓮がうなづく。

 「あんたたち、何の祭りか知らずに来たのかい?」

 店員が「ハハ」と笑い、小さな金魚の人形をつまみ上げた。

 50代ほどの細身の男性。前合わせの作務衣のような服を着ていることから、職人なのだろうとそんなことを思いながら二人はうなづきを返す。

 「ここに並んでるのは全部吊るし人形さ」

 「吊るし人形」

 「ほら、あれだよ」

 指さした後方にはきちんとした門構えの店舗があり、硝子戸の向こうに小さな小物がいくつも連なっている飾りが見えた。

 それはまるでベビーベッドの上に吊るす赤ん坊用のおもちゃのような形をしている。

 「この吊るし人形はこの町では吊り下げて使うことから【吊りもん】って呼ばれている。全部で25種類あって、一つ一つ意味があるんだよ。あそこに書いてある」

 男の視線の先を追うと、出店の壁に貼られた紙に一つ一つ意味が書かれていた。

 「金魚は緩やかに泳いで人の目を楽しませる。鼠は子だくさん…とかね。それぞれ自分の願いにあった物を選んで、木の椀に入れて川に流すんだよ。祈りを込めてな。そして最後に下流で集めて火にくべる。願いが天に届くように。この【吊りもん】を使う祭りだから【吊りもん祭り】といわれてるんだ」

 「うちの七夕祭りに似てる」

 水蓮は自身の地元での七夕祭りを思い出す。

 七夕の夜、短冊を付けた笹を川に流し、願いが天に届くようにと祭りの最後に火に焚く。

 その川には大きな橋が架かっており、流した笹が無事に流れていくかを見るためにその橋を右から左へと走った。

 そして川を流れる笹を見ながら、願いがかなうように橋の上で祈った。

 あの時の短冊に、自分はいったい何と書いたのだろう…。

 記憶をたどってはみるものの、もう10年ほど前の事。思い出すことができず何とはなしにさみしくなり、水蓮は手にした小物をじっと見つめた。

 「買いますか?」

 いつもより近い位置から聞こえる声に、水蓮は首を横に降る。

 「川辺は人が多そうだから…」

 おそらく祭りのメインイベント。

 さすがに行かない方がよいだろうと、手に持っていた鳥の吊り下げ人形を元に戻す。

 「そうですか」

 鬼鮫も人形を手放し、二人は店をあとにした。

 行き交う人の合間から見える出店は、先ほどと同じように吊り下げ人形を売っているところがほとんどで、親子、兄弟、恋人、友人同士。様々な人々が楽しげな表情でどの人形にするかを話している。

 そこには幸せそうな笑顔があふれていて、その温かい雰囲気を目に映すたびに水蓮の気持ちは逆に沈んでいった。

 それはやはり本人の無意識下に起こっているようで、時折「にぎやかでいいね」「きてよかった」と発せられる言葉はどこかとってつけたような響きがあった。

 笑顔を見せるもののどうしても翳りを消せない水蓮のそんな様子に、鬼鮫は早々に切り上げた方が良いかと少し背伸びをして辺りを見回す。

 「彼への土産を見つけて帰りましょう」

 いつもより背の低い姿。やはり不便だと思いながらもうまく人の波の合間に団子屋を見つける。

 「ありましたよ。売切れる前に早く行きましょう」

 人形屋程ではないが列のできている様に、鬼鮫は少し足を速めて歩き出した。

 いくばか歩いてようやく目当ての店の前にたどり着き、鬼鮫が一つ息をはく。

 「彼は来なくて正解でしたね。この人込みでは余計に機嫌が悪くなっていたかもしれない」

 言いながら振り向き、鬼鮫は小さく息を飲んだ。

 そこには時折詰まりながら流れゆく人ごみがあるのみ。

 すぐ後ろにいたはずの水蓮の姿はなかった。

 「見事にはぐれましたね…」

 のんびりした口調ではある物の、鬼鮫は慌てて水蓮を探そうと足を踏み出した。

 しかし、すぐに止まり小さく笑う。

 「子供じゃあるまいし」

 それに互いにチャクラを感知すればすぐに見つけられる。

 まずはイタチへの献上物を手に入れようと、団子屋の列に並ぶことにした。

 しかし、一つトラブルが起こると物事はうまくゆかないのか、鬼鮫の数人前で団子は見事に売り切れとなった。

 「困りましたねぇ…」

 今から別の店を探していては水蓮を探すのが遅くなる。

 数分たった今になっても水蓮がこちらに来ないということは、自分のチャクラを感知できていないという事。

 何かあったのか、それともチャクラを感知すればいいということに頭が回っていないのか。

 どちらにしてもすぐに探しに行ったほうがよさそうだと深くため息を吐く。

 「彼の機嫌を取り損ねそうだ…」

 もう一度吐き出されたそのため息に、どこかで聞いたような声が重なり聞こえた。

 「どうされた、御嬢さん。そんな深いため息、美人が台無しだ」

 柄にもなく、心臓がドキリと小さく鳴った。

 顔をそちらに向けながら、鬼鮫は心の中で何度目かのため息を吐き出す。

 

 どうも彼女といるとトラブルが寄ってくるようだ…

 

 鬼鮫はそんな胸中を完璧に隠し、声の主を見つめてニコリと上品な笑みを浮かべた。

 「いえ、何でもありません」

 「何でもない事はなかろう。こんな老いぼれでよければ力になるぞ」

 白銀の長い髪を揺らめかせ、その人物はニカッと笑い名乗りを上げた。

 「こう見えて伝説と名のつく者。3忍の一人、この自来也様に解決できぬことはなし!だ」

 胸を張ってそこにたたずむのは、以前相まみえ深手を負わされた自来也。

 

 まさかこんなところで鉢合わせるとは…

 

 眼前の者を見つめ、鬼鮫は心うちに生まれたすこしの動揺を抑え込み、もう一度笑みを浮かべ直して小さく会釈する。

 「いえ、本当に何でもありませんので」

 一般人の多いこの場所。いざ戦いとなれば、それを傷つけまいとする自来也相手に有利なのは鬼鮫だろう。

 それでも、鬼鮫はこの場をうまく去ることを選ぶ。

 水蓮を巻き込まぬために。

 「失礼します」

 スッと踵を返し人ごみに身を投じる。

 しかしその鬼鮫の手を器用に選び取り、自来也が引き寄せた。

 「まぁ、そうつれなくするな」

 「…っ!いえ、本当に」

 思わず本気で振り払いそうになり、慌てて取り繕う。

 そんな鬼鮫の前に竹の皮の包みが差し出された。

 「ほれ」 

 「え?」

 「団子を買いそびれたのだろう。一つ持って行け」

 よくよく見れば腕にかけられた紙袋の中に同じものがいくつか入っているようだった。

 

 売り切れの原因はこれか…

 

 ひきつりそうな顔をしっかり整えて、鬼鮫は手を伸ばした。

 素直に受け取り早々に立ち去ろう。そう思っての事であった。

 「すみません。助かります」

 しかし、その手が包みに触れそうになった瞬間。スッとそれが引かれた。

 「……………」

 

 気取られたか…

 

 一瞬緊張が走った。

 しかし自来也は変わらず無警戒な笑顔を浮かべ、機嫌のよい声で言った。

 「その代わり、ちと付き合ってくれんかのぉ」

 グイッと上げられたその手の中で、酒の瓶が祭りの光を受けて鬼鮫のほほに反射を映した。 

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