いつの日か…   作:かなで☆

77 / 146
第七十五章【巡り会わせ】イタチの章

 「一体どこが大丈夫なんだ」

 先日デイダラが残した祭りのチラシにあった町。

 行かないと言ってアジトに一人残ったイタチであったが、結局は水蓮が気にかかり二人から少し遅れて町を訪れていた。

 祭りには様々な場所から人が集まる。中には木の葉の関係者もいるかもしれないとの考えから、桔梗の姿ではなく、20歳ほどの青年の姿に変化している。

 「あいつ…」

 祭りの明かりの中、所狭しと行きかう人の多さに目を細めながらため息をつく。

 「適当な事を」

 脳裏にデイダラを思い浮かべると、なぜかその隣で笑う昨日の水蓮を思い出しもやもやとする。

 サソリの死という、今までにない近しい者の命の終わりに触れ、本人の気付かぬところで沈み続ける水蓮の心。

 比例して陰りゆくその表情を、自分ではない誰かが笑顔に戻したという事に対しての苛立ち。

 それは自分の無力さへの怒り…。

 「いや、違うな…」

 その考えを否定し、イタチは再び心のもやの正体を探る。

 それはすでにわかりきっていた。

 

 

 嫉妬

 

 

 自分以外の異性の隣で笑う水蓮を見て嫉妬したのだ。

 ましてデイダラは水蓮に好意を持っている。

 そうではない鬼鮫にすら実のところ時折感じていたそれは、デイダラであればなおさらであった。

 気づかぬふりで色々な理由をつけていたその感情は認めてしまえばひどくちっぽけなもので、そんな感情を抱いてしまう事と、それを隠そうと必死に理由を探してたことの両方に情けなくなる。

 水蓮の心が自分以外に向けられる事はないと、そう確信を持っているにもかかわらず自分は何をしているのだろうか…。

 「参ったな…」

 子供じみた自分。そしてそうさせる水蓮に対して。

 二つの意味合いを持ったその一言に、可愛らしい女性の声が重なった。

 「どうかしましたか?」

 聞き覚えのある声…。

 「何か困りごとですか?」

 イタチの脳裏に記憶がよみがえる。

 風に揺れるサクラ色の髪。キラキラと光る翡翠色の大きな瞳。

 サスケに好意を抱きその姿を美しい瞳に映しては顔を赤くしていた可愛らしい少女。

 そしてついこの間一尾の封印の最中に相まみえたカカシと共にいた、サソリを倒したくノ一。

 確か名は…

 サスケがその少女を呼ぶ光景と共にそれを思い出す。

 

 

 サクラ…

 

 

 ゆっくりとそちらに目を向けて、その姿を映す。

 

 まさかここで会うとは…

 

 「大丈夫ですか?」

 思いがけないことに言葉が出なかったイタチにサクラがニコリと笑う。

 「…あ、ああ」

 何と返そうかと一瞬思案し、イタチは「連れを探している」と短く返しほんの少し辞儀をして町へと足を踏み入れた。

 このまま場を離れよう。そう思った。

 しかし、すぐにサクラがそのあとをついてきた。

 「私もなんです。人が多くてはぐれちゃって」

 「そうか」

 「というか、いつも勝手な行動するやつで、気づくとどこかに行ってるんですよ。本当に困ったやつで」

 その言葉に『まさか』とドキリとする。

 「まぁでも、声が大きくてうるさいし、髪の毛が金髪で目立つからすぐに見つかるとは思うんですけど」

 嫌な予感が的中し、イタチは内心で溜息をつく。

 

 

 うずまきナルト

 

 

 この間もサクラはナルトと共にいた。

 その事からも、そして今サクラが言った特徴からも間違いなくナルトの事であろう。

 

 鬼鮫がいるこの場所に居合わせるとは、タイミングが悪い…。

 

 

 あいつは本当にトラブルを寄ぶな…

 

 

 水蓮を思い描き、呆れつつもなぜかそれがおかしくなり小さく笑う。

 が、すぐにそれを収め、ちらりとサクラを見る。

 任務か…

 暁が動きだしたことを知ってナルトを祭りに遊びに行かせるほど里は緩くないだろう。

 それでも、そう聞いては察しが良すぎる。情報を聞くためにも、イタチは歩みを少し遅めた。

 「祭りを見に?」

 「はい。今日ここであると聞いて」

 ニコリと可愛らしく笑う。

 

 なるほど。情報は漏らさない、か。

 

 おそらく任務である事に違いない。

 それでも、内容を明かさぬように答えるサクラにイタチほっとする。

 当たり前の対処だが、それをきちんとこなす里の若い忍に安堵したのだ。

 「そうか」

 答えてしばし考える。

 

 カカシはおそらく来ていないだろう…。

 

 この間のデイダラの話を聞く限り、カカシが使った術がカムイであろうと想定でき、うちはではないカカシが写輪眼でその術を使えば、それ相応のダメージを受けているはずだ。

 そうすぐには動けないだろう。

 

 となると、誰か他の上忍が同行していて落ち合う場所を決めているのか…。

 それとも任務先で合流することになっているのか。

 どちらにしても、暁から狙われているナルトを里からだし任務につかせるとは。

 

 綱手様らしいな…。

 

 イタチは幾度か会った事のある綱手の快活な笑い声を思い出す。

 ナルトの事を人柱力としてではなく、木の葉の一戦力として信頼しているのだろう。

 そして同行させる彼女の事も。

 

 ちらりとサクラを見て考えを戻す。

 とにかくナルトと鬼鮫が接触することは避けたい。

 今の状況から考えれば、ナルトのそばには自来也がいることも十分に考えられる。

 もし戦闘になればただ事では済まない…。

 水蓮の事が気にはかかるが、そちらには鬼鮫がついている。

 ここはサクラと行動を共にしてナルトを見つけ、早々に木の葉に帰した方がよさそうだ。

  

 「オレが探しているのは黒い髪の女性だ。髪は一つに束ねている。背はこれくらいでグレーの外套を羽織っている」

 水蓮の特徴をサクラに伝え視線を合わせる。

 「一緒に探してもらえるか?二人の方が効率がいい。オレも君の探している人物を探すよ」

 弟に好意を持っていた人物。そしてサスケも気にはなっていたようだった。

 そんなサクラに対しての口調と表情は自然と柔らかくなる。

 「頼めるか?」

 意識せずとも浮かんだ笑みに、サクラが少しドキリとする。

 変化している姿ではあるが整った顔立ち。

 そして内面から出る優しい雰囲気に思わず頬が髪と同じ色を帯びた。

 その頬が緩んで笑みがこぼれ、そのすぐ後にほんの少しのさみしさを浮かべた。

 「似てる…」

 サクラの口から呟きが漏れた。

 「え?」

 イタチが首をかしげる。

 「あ、すみません。知り合いに少し似ているような気がして」

 「知り合い…」

 「はい」

 うなづきサクラは歩き出した。

 「一緒に探していただけると私も助かります。お願いします」

 「ああ」

 人ごみに紛れそうになるサクラの一歩前に出てイタチは上手く道を作る。

 「あの、私サクラと言います。よろしくお願いします」

 少し振り向くとサクラは小さく頭を下げた。

 「オレはハルトだ」

 軽く微笑んだその表情にサクラはまた頬を染めた。

 「やっぱり似てる」

 「知り合いに?」

 視線を前方に戻しながら問うイタチの背中に、ひどく切ない声が響いた。

 「はい。というか、好きな人に」

 ほんの少しイタチの肩が揺れた。

 「それで思わず声をかけてしまったんです。すみません…」

 幾秒かの間を置き、サクラは言葉を続ける。

 「今ちょっと事情があって離れてしまっているんですけど、大切な仲間で、私の大好きな人です」

 「どんな人なんだ?」

 「とても強くてクールで、何でもさっとこなしてしまう人で、すごく人気があって。とても私なんか釣り合わないような素敵な人です。自分にも周りにも厳しくて、妥協を許さない。すごい人です」

 考えるまでもなくサスケの事だとイタチは悟る。

 自分がいなくなった後、サスケは周りからそう見られるような優秀な実績を里で築いていたのだろうと嬉しくなる。

 だが、今そのサスケが大蛇丸のもとにいるのかと思うと悔しく、心配でならなかった。

 その身。そして何よりその心が。

 

 なぜなら、サスケは…

 

 「でも」

 サクラの声に思考が引き戻される。

 「本当はその人、すごく優しいんです」

 思わず振り返る。

 少し伏せられたサクラの瞳には柔らかく穏やかな光が揺れている。

 「優しくて、それから少し弱いところがあって、そのくせ意地っ張りで周りにそれを見せないで一人で悩むんです。寂しがり屋なくせに」

 サクラは「フフ」と小さく笑った。

 「それに、なんでも軽くできるように見せてたけど、本当は誰よりも練習してた。みんなが見てないところで必死に練習して、何でもないふりしてやって見せるんです。かっこつけて。頑張ってるところを見られたり言われたりすると嫌がるんですよ。もう、プライド高くて。でも本当に、本当に優しいんです。いつも私を、私たちを守ってくれていた」

 笑んで細められた瞳がなお光を帯びてキラキラと輝いた。

 

 この子は本当のサスケを見てくれている。

 その上で、本気で好いてくれているのだ。

 

 「とても好きなんだな。その彼の事が」

 サクラはこれでもかと顔を染めて、強くうなづいた。

 「はい」

 「そうか」

 イタチはあまりにもうれしく、そしてありがたい気持ちが溢れすぎて、それを隠すために顔をそむけた。

 「あっちを歩こう」

 出店の裏手を指さし、道を作りながらサクラを導く。

 メインの通りに比べて人が少なく、イタチとサクラは並んで歩きながら人ごみの中に視線を流す。

 「目が、少し似てるんです」

 サクラがひしめき合う人の中に目を向けたままつぶやいた。

 「彼に、なんとなく」

 イタチは無言を返し、同じく人の波を見つめながら歩く。

 

 特に何も意識せず変化したつもりだったが、それゆえにどこかでサスケを思い浮かべてしまったのかもしれない。

 そんなことを思う。

 「君は、その彼に想いを伝えたのか?」

 つい気になって尋ねる。 

 サクラは少し気まずそうに笑って答えた。

 「はい。まぁでも、見事な玉砕でしたけど。うざいって言われちゃいました」

 「ひどいな…」

 思わず本音がこぼれる。

 記憶をたどれば、サスケは自分を追ってくるサクラの事を「うざいんだよ。あいつ」と言っていた事はある。

 でもそれはただの照れ隠しで、いつもそう言うたびに頬を赤く染めていた。

 幼いながらに好意を抱いていた事は間違いない。

 そんなサクラに直接「うざい」と言っていたとは我が弟ながら申し訳なくなる。

 しかし、裏を返せばそれはきっと…

 「でもそれはきっと君だからなんだろうな」

 「え?」

 「君相手だから言えたんだ」

 その言葉にサクラは肩を大きく落とす。

 「そうですよね。本当にうざかったんでしょうね」

 ハハ…と力なく笑うサクラにイタチは慌てて言葉をかける。

 「いや、違う。そういう意味じゃない。君を信頼しているからだ」

 「いいんです。慰めていただかなくても。大丈夫です」

 すっかり気落ちさせてしまったなと、イタチは少し慌ててサクラの正面に立ちその歩みを止めた。

 「違うよ。本当にそう思っている相手にはそんなことはなかなか言えない。まして自分を想ってくれている人にならなおさらだ」

 「そうでしょうか。一度じゃないですよ」

 不安げな瞳がイタチを捉える。

 「なら余計だな。彼が君にそう言えるのは、君を信じているからだ。何度そう言っても自分を好いていてくれる。君ならきっと自分を受け止めてくれると、そう信じているんだ。究極の甘えとうぬぼれの現れだな。その言葉は」

 誰よりもそばでサスケを見てきたイタチにはわかる。

 サスケのその気持ちが。

 もしかしたらそれは無意識かもしれない。

 だがそうであることに確信があった。兄として。

 「間違いないよ」

 「そうだとうれしいんですけど」

 「そうだよ。もっと自信を持つといい。君はとてもかわいらしい人だ」

 「え?」

 はじかれたようにあげられた顔が一気に赤く染まる。

 イタチは柔らかく笑みを返してうなづいた。

 更に染まった顔は湯気が出そうなほど赤くなってゆく。

 

 里を抜けたサスケをいまだに心から想ってくれている人がいる。

 

 イタチは心底嬉しかった。と同時に、胸が痛んだ。

 里抜けの原因を作ったのは結果的には自分であり、それが二人の間を裂いたのだ。

 どれほどこの少女に辛い思いをさせただろうか。 

 「すまない」

 本当に小さな声ではあったが、思わずこぼれたその言葉をサクラはしっかりととらえ、顔を染めたまま首をかしげた。

 聞きとられていた事にイタチは少し慌てて言葉を続ける。

 「いや、その彼の事を知っているわけでもないのに、勝手な事を言ってしまった。申し訳ない」

 しかしサクラは笑顔で首を横にふった。

 「いえ。私こそ、初めて会った方にこんな話。すみません。なんだかハルトさん話やすくて。それに、うれしかったです。そんな風に言っていただけると、元気出てきました」

 グッと両手を胸の前で強く握る。

 「彼は今、一人でとても暗い場所にいるんです。きっとすごく苦しんでいる」

 瞳が強く色づいてゆく。

 「助けたい。そのために修行して、強くなった。あの人に比べたらまだまだかもしれないけど、それでも守られていただけの自分とは違う。絶対に助けだしてみせる」

 握りしめた手が少し緩み、視線がイタチに戻される。

 「でも、ちょっと気持ちが沈んでたんです。どんなに強くそう思っていても、時々落ち込んでしまって。だけど、すっごく元気が出ました。ありがとうございます」

 「いや。それならよかった」

 サクラは「はい」と元気に返して再び歩き出した。

 その背に、イタチはまた思わず言葉を投げた。

 「どうして」

 「え?」

 振り返るサクラに、イタチは続ける。

 「どうして君はそこまで彼を好きでいられるんだ?強くいられるんだ?」

 サクラは少しも考えずに笑顔で答えた。

 「信じているんです。自分を」

 「自分を…」

 「はい。彼を支えられるのは私しかいない。たとえ求められなくても、そばにいられるのは私しかいないって、勝手にそう信じているんです。気持ちが弱くなったり、不安にあったりすることもあります。でも、そんなときはそれより大きな気持ちで、今までよりもっと大きな気持ちで全部吹き消すんです。あの人の事が誰よりも好きだから」

 

 その言葉に。笑顔に。強さに。

 

 イタチはつい先ほどまで自分がくだらない感情に振り回されていたことが恥ずかしくなった。

 そして目の前にいるサクラに尊敬を念を抱いた。

 サスケより、自分より、彼女は強い。

 

 目の前で恥ずかしそうに、それでもサスケへの気持ち溢れる笑顔を浮かべるサクラに、ふと水蓮の姿が重なった。

 

 女性とは強いな…

 

 ここ数日の辛そうな水蓮の顔が浮かび、次に明るく強い笑顔が思い出される。

 

 そして自分に何が足りなかったのかに気付いた。

 

 

 信じる事

 

 

 何とかしてやらねばと、そればかりを考えていた。

 今まで人の死とは無縁であった世界で暮らしてきた水蓮を、その沈みから救い出すことばかりを考えていた。

 まるで割れ物を扱うように気を配り、道を探してやろうとしていた。

 だがそれは違ったのかもしれない。それはほんの少しでよかったのかもしれない。

 なぜなら、水蓮がそれを求めてはいないからだ。

 いつの時もそうであった。辛くても、寂しくても、水蓮は自分で道を探し、切り開き、答えを見つけてきた。

 そんな水蓮が最も自分に求めていたのは…

 

 

 信じる事

 

 

 それだったのだ。

 

 イタチはもう一度水蓮の笑顔を思い出し、うなづいた。

 

 あいつはそんなに弱くはない。

 

 信じる心が足りなかった自分こそが弱かったのだ。

 

 

 そう気づかせてくれたサクラに、イタチは笑みを浮かべた。

 「強い人だな」

 サクラは嬉しそうに「ありがとうございます」と答えて「ふふ」と笑った。

 「やっぱり似てる」

 イタチの瞳を見て、うんうんと確認するようにうなづく。

 「時々そうやって優しい目をする人なんですよ。だから、嫌いになれない。うざいって言われても」

 そう言ってわざと怒った風に見せて腕を組む。

 「ずるい人なんですよ」

 「そうか」

 

 ナルトだけではなかった。

 

 イタチはサクラを見つめながら思う。

 

 サスケを想い、信じ、救おうとしてくれている人物がここにもいた。

 

 それが嬉しかった。

 この二人がいてくれるなら、サスケはきっと大丈夫だろう。

 

 イタチはそう確信した。

 「その人が、早く戻ってくるといいな」

 「はい」

 力強く答えたサクラの声に、イタチの心は今までにも増して強く固まった。

 彼らにサスケを任せよう…と。

 その想いで見つめるイタチに、サクラが「あ」と声を上げる。

 「これ、よかったらもらってください」

 差し出された手の中には小さな貝の形をした小物があった。

 和柄の布で作られており、吊り下げて使うのか紐がつけられている。

 「これは?」

 紐を持ってつまみ上げる。

 「ハマグリの吊り下げ人形です。他にもいろんな種類があって、今日はその吊り下げ人形をおわんに入れて川に流す祭りなんです。それぞれの小物には意味があって、自分の願いに合ったものを選んで流す。そして、最期に願いが天に届くように火に焚くんです」

 イタチは少しその小物を揺らして見つめ、サクラに返す。

 「これは君のだろう」

 「いいんです。かわいいなと思って買ったんですけど、連れを見つけたらすぐに帰らないといけなくなってしまって。だから、もしよかったらどうぞ」

 「そうか」

 むげに気持ちを断ることもないだろうと受け取る。

 「ハルトさんが探している人って、恋人ですか?」

 「え?」

 突然の質問。しかも今までに聞かれたことのないその内容に、思わず戸惑う。

 「さっき、その人の特徴話している時の目が、すごく優しかったから」

 「そう…だろうか…」

 全く意識していなかったことに、恥ずかしくなる。

 「やっぱりそうなんですね」

 誰かにそんな事を聞かれたことも言われたこともなく、改めてその言葉を当てはめられると妙に落ち着かない。

 だがほかに表す言葉も見当たらず、イタチは「ああ」と目をそらしながら答えた。

 サクラはその様子に柔らかく微笑んだ。

 「じゃぁ、ちょうどよかったです。そのハマグリの小物」

 イタチの手の中を指さす。

 「二夫にまみえず。っていう意味らしいんです。生涯ただ一人の夫に身をささげるという誓い。男性の場合は相手にそれを望むってことらしいですよ」

 「二夫にまみえず…」

 手の中の小物をじっと見つめる。

 死にゆく自分がそれを求めることは許されるのか…。

 

 未だにすべてがぬぐえぬそんな思いにふと考える。

 

 受け取ったものの、流さぬ方が良いか…

 

 だが、もし許されるなら…

 

 イタチはきゅっと一度握りしめてからそれをポケットにしまった。

 「ありがとう」

 サクラは「はい」と柔らかく返し、歩き出した。

 「それにしても、一体どこに行ったんだろ」

 「そうだな」

 イタチもそれに続き足を進ませる。

 「いっつも勝手な事ばかりで本当に困ったやつなんですよ」

 「そうか」

 「いつまでたっても子供っていうか、世話が焼けます」

 「大変だな」

 コロコロと表情を変えながら楽しそうに話すサクラに、イタチは一つ一つ短いながらも言葉を返してゆく。

 

 

 そんな二人の姿が祭りの光に照らされて、その影を大地に並べた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。