いつの日か…   作:かなで☆

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第七十九章【強さを求めて】

 祭りの夜から一夜が明け、水蓮は一人アジトの外で空を見つめていた。

 まだ時間は早く、東の空がほんの少し明るくなったばかり。

 吐く息は白く、崖の淵に揺れる小さな葉には細かい霜が立ち、それが細く差し込みだした日の光を受けてきらりと輝いた。

 

 「強くなりたい」

 

 ぽつりと言葉が空気に流れる。

 

 これから先に待ち受ける様々な事を受け止め、乗り越えていけるよう

 

 目をそらさぬよう…

 

 「強くなりたい」

 

 脳裏にはナルトの笑顔が浮かんでいた。

 何ものにも負けない。全てを乗り越えてゆける強さをたたえた笑顔。

 自分もナルトのように強くなりたい…。

 水蓮はその想いをめぐらせていた。

 そして、強い光を放ちながら登り始めた太陽に、決意を固めた。

 

 

 

 朝の位置へと登った太陽を背に水蓮が洞窟の中に戻ると、イタチも鬼鮫も目を覚ましていた。

 「早いですね」

 「眠れなかったのか?」

 優しく声をかけてくる二人を見つめ、水蓮は静かに言葉を発する。

 「二人に話があるの」

 真剣な声と表情に、イタチと鬼鮫が一瞬顔を見合わせる。

 「どうした?」

 イタチが問いかけ、鬼鮫は黙って水蓮の言葉を待つ。

 

 ひゅぅと、外から流れ込んできた冷たい風が水蓮の髪をなびかせた。

 

 そのなびきがおさまると同時に、水蓮が口を開いた。

 

 「しばらくデイダラのところに行かせてほしいの」

 

 「なっ…!」

 思わずイタチが声を上げる。

 しかし鬼鮫はやはり沈黙を返す。

 「何のためにだ」

 イタチの口調は珍しく厳しい。

 それでも水蓮はひるまず言葉を続ける。

 「デイダラのところで少し修行したいの。体術と、それから影分身の見分けも」

 「それはここでもできる。鬼鮫とオレで十分だろう」

 「そうなんだけど。でも、ここじゃだめなの」

 「なにがだめなんだ」

 水蓮に歩み寄り、イタチは鋭い目で水蓮を見つめる。

 「なぜデイダラのところへ行く必要がある」

 「それは…」

 あまり自分には見せない厳しい視線に、水蓮は思わず言葉に詰まる。

 それでも、目をそらさずに返す。

 「ここにいると、甘えてしまうから」

 今度はイタチが言葉を詰まらせた。

 「二人と一緒だと、どんなに修行に力を入れても、どこかで甘えてしまう。これくらいで大丈夫だろう。許してくれるだろうって。無意識に甘えてしまう。二人もそうでしょ?」

 イタチも鬼鮫も答えない。

 それは肯定を意味していた。

 

 もとより水蓮を前線に出す気のない二人にとって、本腰を入れて水蓮を鍛えるつもりはない。

 それゆえどこかで力を加減し、無理をさせてまで何かを教えるまでには至っていなかった。

 

 「だが、それなら鬼鮫にもう少し厳しく教わればいい」

 「違うの。そうじゃなくて、デイダラに少し教わりたいの」

 引く気のない水蓮の言葉に、イタチの表情がさらに厳しくなる。

 しかしそれでも水蓮の気持ちは固まっていた。

 

 先日デイダラと手合わせしたときの感覚は、鬼鮫では得られない。

 ましてイタチでは互いに力を出し切れない。

 

 「なら…」

 イタチが小さく息を吐く。

 「デイダラにここに来てもらえばいい」

 しかしその言葉に水蓮は複雑な顔をする。

 「ちがう、ちがうの。なんていうか、それじゃぁダメなの」

 「何がダメなんだ」

 「何が…」

 そう聞かれるとどう答えてよいのかが分からず水蓮は口を閉ざす。

 自身でもはっきりとは言葉にできない。

 それでも、今ここを離れて修行をしたいとそう感じている。

 だがどう言えばいいのかわからず、水蓮は考えた末小さな声で「少しここを離れたいの」と返した。

 その言葉にイタチが戸惑いを見せる。

 今までずっと自分から離れまいとしてきた水蓮がそんな事を言うとは思いもよらず、何も返せぬまま沈黙が流れた。

 

 

 「行ってくるといい」

 

 静まり返ったアジトの中、鬼鮫の声が静かに響いた。

 背後から聞こえたその声に、イタチは視線だけをそちらに向ける。

 そんなイタチの隣にゆっくりと鬼鮫が歩み来て「行ってくるといい」ともう一度言った。

 「だめだ」

 イタチがすぐに言葉をかぶせる。

 「デイダラもそう暇なわけではない。あいつにはあいつのやることがあるだろう」

 「おいらは別に構わないぜ」

 突然飛んできたその声に水蓮たちが視線を向ける。

 いつの間にそこにいたのか、アジトの入り口にデイダラが立っていた。

 「トビもしばらく戻らねぇみたいだし。オイラは問題ねぇぜ。うん」

 水蓮の隣に歩み寄り、にっと笑みを向ける。

 しかしイタチがまた「だめだ」と瞳を厳しく色づけた。

 「お前がデイダラのところへ行けば、実質ツーマンセルになる。任務を振られるかもしれない」

 さすがにそれは考えていなかった水蓮が小さく息を飲んでうつむく。

 が、デイダラが軽い口調で言葉を返した。

 「何言ってんだよ、んな事あるわけねぇだろ?医療忍者とツーマンセルで任務なんてねぇだろ、ふつう。あっても簡単な調査くらいだろ。うん」

 確かに、鬼鮫と二人で任務に就いた時もそう危険な物はなかった。

 それを思い出し、水蓮は再びイタチを見つめる。

 イタチはその視線にため息をつく。

 「それでも、可能性は皆無ではない」

 「いや、おいらがさせねぇ」

 言葉を返せない水蓮に代わってデイダラがきっぱりと言い放った。

 「あーねは貴重な医療忍者だからな。危険な任務になんていかせねぇ。組織が言ってきてもおいらが断る」

 「デイダラ…」

 自分を守ろうとする意思を見せるデイダラに、水蓮がほっとした表情で笑みを向ける。

 デイダラはその笑みにニカッと笑って返した。

 「あーね。強くなりてぇんだろ?」

 「え?う、うん」

 核心をついた言葉に戸惑いながらもうなづく。

 「この間手合わせした時にガンガン伝わってきたからな」

 自分自身も明確になっていなかったそれを感じ取っていたデイダラに水蓮は驚き、やはり彼も一流の忍なのだと実感する。

 とともに、やはりデイダラに教わりたいとの気持ちを大きくした。

 「お願いイタチ。少しの間でいいの」

 「しかし…」

 言いよどむイタチの隣で鬼鮫が小さく笑った。

 「言い出したら聞きませんよ。それはあなたもよく知っているでしょう。イタチさん」

 「鬼鮫…」

 鬼鮫はイタチの視線を受け流し、水蓮に目を向ける。

 「行ってくるといい。ただし3日間だけだ。彼の事もある」

 ちらりとイタチに視線を落とす。

 それはイタチの体調を気にかけての言葉。

 水蓮は「わかった」とうなづきもう一度イタチに「お願い」と強く言った。

 イタチは黙して水蓮を見つめる。

 

 水蓮を信じるとは決めたものの、一人でデイダラのもとへ行かせるのはあまりにも危険が大きい。

 トビもいつ戻るかわからない。

 何かあった時にデイダラが本当に水蓮を守り抜く姿勢を見せるかどうかも分からない。

 それでも、自分がついて行くことも拒むだろう。

 かといって、引きそうにもない。

 鬼鮫の言うように、言い出したら聞かないのだ。水蓮は。

 それに、今水蓮が感じているものが分からないわけではなかった。

 強さを、そして強くなれる場所を求める。

 それは肉体的な事だけではなく、それを鍛えることで精神的な鍛練にもなる。

 水蓮は今それを欲しているのだろう。

 その気持ちは自分自身も感じたことのある物だ。

 もちろん鬼鮫もデイダラも同じだろう。

 それゆえ水蓮の背を押そうとしているのだ。

 そしてそれは、間違ってはいないのだろう。

 

 

 イタチは考えをめぐらせ、大きく息を吐き出した。

 「3日だけだ。それまでにもしトビが戻ったらすぐに帰ってこい。いいな」

 苦渋の表情でそう言ったイタチに水蓮は強い瞳で大きくうなづいた。

 「ありがとう。イタチ」

 「だが、あまり無茶はするなよ」

 まだやや不服ではあるが、それでも優しい笑顔を向けて水蓮の頭にポンッと手を置く。

 そしてデイダラをジトリとにらむ。

 「危険な事はさせるな」

 「しつけぇな、うん。心配しすぎだろ」

 顔を引きつらせるデイダラの横で水蓮が笑った。

 「大丈夫だって。イタチこそ、私がいない間にあまり無理しないでね」 

 「ああ」

 「ちゃんと見張っておきますよ」

 ククと笑った鬼鮫にイタチが不満げな顔を向ける。

 「で、あーねすぐに来るか?」

 「うん。その方が早く戻れるしね。すぐ用意する」

 突然の出立にイタチは少し戸惑ったようであったが、確かにすぐに行って早く戻る方がいいだろうと、視線を合わせてきた水蓮にうなづいた。

 

 

 それから10分も経たぬうちに準備を終わらせ、水蓮はデイダラの鳥の背に飛び乗った。

 そのそばにはイタチのカラスが寄り添う。

 「なにかあれば連絡を入れろ」

 「わかった。じゃぁ、行ってきます」 

 ずいぶんとすっきりした顔で笑む水蓮に、イタチは複雑ながら「気を付けてな」と言葉をかけ、その隣で鬼鮫が「行ってらっしゃい」と軽く手を上げた。

 

 

 ふわりと羽ばたく白い鳥。

 青い空の中にその姿が消えてゆく。

 じっとそれを見つめるイタチに鬼鮫が小さく笑った。

 「案外あの祭りも迷心ではなかったようですね」

 「なんだそれは」

 少しきょとんとしたような表情のイタチに鬼鮫は「いえ別に」とまた少し笑ってアジトの中へと戻って行った。

 イタチは再び空へと視線を戻しつぶやいた。

 

 「強くなりたい、か」

 

 冬の冷たい空気の中に、イタチの言葉が白く模様を付けた。

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