いつの日か…   作:かなで☆

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第九章  【指南】

 4日の時が過ぎた…

 イタチは時折目を覚ますものの、一言二言かわすのがやっとという状態。

 熱も上がり下がりがあり、病のせいで免疫が低下しているのか回復が遅く、まだ時間が必要な様子だ。

 外傷や火傷の跡は、水蓮の医療忍術とネコ婆の塗り薬のおかげで、ずいぶん薄くなりはじめたものの、それは見た目の解決であって、ダメージはなかなか取り除けない。

 イタチを見つめながら水蓮は考える。

 

 暁を監視するために、こんな傷を負ってまでそこに身を置く…

 里のために…

 里への想いを、サスケとの未来を夢の中にえがくほど愛してるのに…

 もしすべてを明らかにして里に帰れたら…

 いや…それをイタチは望まない…

 

 【うちは】は木の葉において名誉ある一族。

 サスケにも、そしてその周りの人々にもそう思い続けてほしいのだ。

 でも、マダラに結局はすべてを明かされて、イタチの苦悩を知って、サスケは里への復讐を決める。

 

 はぁぁぁ…と水蓮は深い溜息を吐く。

 

 全部話そうか…

 いや、信じてはもらえないだろう…

 

 それにそんなことをしたらイタチの今までを全て無駄にしてしまう。

 こちらの存在ではない自分がするべきことではないのかもしれない。

 自分はいつ消えるかもわからない。

 それに、きっとイタチはそれを望まない。何より、イタチの命はもう長くはない。

 水蓮はイタチに医療忍術を使って気付いた。

 この術では、病気は治せない。

 痛みや炎症を抑え、症状を和らげることはできるが、病の根源は消せない。

 そううまくはできていないようだ。

 

 それならやはりイタチの望む最期を…

 

 水蓮は最後のイタチの笑顔を思い出す。

 「許せサスケ…これで最後だ…」

 イタチの集大成ともいえるあの瞬間。

 すべての想いを込めた言葉。

 やり遂げた悔いのない笑顔。

 イタチのすべてが集約されていた。

 その優しい笑みを思いだし、水蓮の目に涙がにじむ。

 

 イタチはそこへ向けて、自分の全てをかけて戦ってるんだ…。

 私が口を出せる問題じゃない…。

 それに、私はここに来た日決めた…

 イタチが目的を遂げるために、彼が望む終焉の日までよりそう…と。

 

 『自分が決めた道を信じなさい』

 

 不意に母の言葉が脳裏に浮かんだ。

 常に前向きで、明るく、自分の気持ちにまっすぐ突き進む。そんな母親であった。

 水蓮が悩んでいるとき、いつもそう言って励ましてしてくれた。

 「お母さん…」

 

 そうだよね…

 

 水蓮は涙を勢いよく拭った。

 

 揺れたらだめだ!

 

 「自分が決めた道を信じて進む!」

 イタチの最期まで寄りそう。

 水蓮は改めて決意を固め、そっとイタチの手に自分の手を重ねた。

 「まだだいぶかかりそうですね」

 突然背後から聞こえた鬼鮫の声に水蓮は振り返る。

 鬼鮫は回復力の高さと、イタチより症状が幾分か軽度であったこともあってかなり回復しており、今朝からおき上がって体を少しずつ動かしている。

 通常よりかなり強いその治癒力。ネコ婆たちも驚いていたほどだ。

 「うん。でも今日は熱はないよ。顔色も昨日よりはいいかな」

 そっと額に触れる。

 「そうですか」と一言答えて鬼鮫は部屋を出て行く。

 水蓮はイタチが寝入っていることを確認して、鬼鮫の後を追った。

 「何か用ですか?」

 部屋を出ると、すぐに水蓮の気配に気づいた鬼鮫が背を向けたまま言う。

 「用というか、鬼鮫にお願いが…」

 「お願いですか…」

 鬼鮫が振り向いた先で、水蓮は真剣な表情を浮かべ、ずっと考えてきたことを口にした。

 「私に修行をつけてほしいの」

 鬼鮫は虚を突かれ、目を丸くする。

 「あなたは本当に読めない人だ…」

 驚きと呆れを交えた声。

 しばしの沈黙が流れた。

 水蓮は少しも目をそらさず鬼鮫を見つめる。

 

 もう離れて待つことはしたくない…

 

 傷だらけで帰ってきた二人を見てずっと考えていたのだ。

 しかし、そのためには自分の身を守れなければただの足手まといにしかならない。

 「二人と一緒にいる限りは、色々あるでしょ。だから、自分の身は自分で守れるようになりたいの。お願い…」

 だが鬼鮫は難しい顔でため息を吐き出した。

 「確かに、あなたの身柄をどうするかをイタチさんが決めるまでは一緒に動くことになるでしょう。そのあいだ、あなたの言うように危険はつきものだ。そうそう私たちもあなたをかばう気もありませんしね。しかし、なぜ私に?私はイタチさんほどあなたを信用していない」

 「だからだよ。私が鬼鮫の知らないところでそんなことしたら、余計信用してもらえないでしょ?それに、イタチは多分聞き入れてくれない…」

 もともとが優しい性分だからか、イタチが自分に対して少し過保護気味なことに水蓮は気づいていた。

 「しかし、何者かもわからない、何かをたくらんでいるかもしれないあなたに、そういったことはできかねますね…」

 「何も企んでなんかないよ。ただ、一緒にいるからには、邪魔になりたくないの…」

 鬼鮫は少し考え込み、もう一度ため息をつく。

 「では、聞かせていただきましょうか…」

 「何を?」

 「あなたは以前、自分は死なないから我々のことが怖くないと言いましたが、どうやらそれは本当の理由ではなさそうだ…」

 「………」

 「どうも何か目的があって、我々と共にいるような感じだ。それを聞かせていただきましょうか」

 フッと鬼鮫を取り巻く空気が変わり、ピリッとした刺激が肌をさす。

 これまでの水蓮の言動を見て、水蓮がイタチの為にとの思いで行動を共にしていることに、鬼鮫は気づいていたのだ。

 ひたと水蓮を見つめ、果たして敵なのかそうでないのか、見定めようとしている。

 

 返答次第で斬られる…

 

 鮫肌に手をかけてはいないものの、水蓮は本能で察知していた。

 

 たとえ自分が死なないとしても、鬼鮫には何とでもできるだけの力があるであろう。

 首を切り落とされたりでもしたら、死なずにはいられないだろう。

 

 水蓮の背筋に、つぅっと汗が走った。

 

 鬼鮫にとって自分は『いつでもどうにでもできる』存在なのだ。

 だから今まで本気で関わってこなかった。

 普段から主導を握っているイタチが行動を起こさなかったこともあり、自分は生かされていたにすぎなかったのだと思い知らされた。

 

 「私は…」

 

 それでも水蓮はその気迫に気圧されまいと、鬼鮫をまっすぐ見つめたまま答える。

 

 ここで引くわけにはいかない…

 だけど話すわけにはいかない…

 でも、嘘はつけない…

 

 水蓮は慎重に言葉を紡ぐ。

 「私は、イタチの目的を遂げさせてあげたい…。それだけ」

 鬼鮫の肩がピクリと揺れた。

 「それは、われわれ暁の目的という事ですか…」

 「違う…」

 その言葉に、鬼鮫は目を細め水蓮をじっと見据える。

 そのままどれほど過ぎただろう…

 鬼鮫の空気がすぅっとゆるんだ。

 「なるほど。我々はどうやら同じらしい…」

 「え?」

 今度は水蓮が目を丸くする。

 「彼は確かに暁のメンバーであり、組織に従順に動く。しかし、その奥には何か大きな、自分の目的を持っている。それは私も感じている。彼ほどの力があれば、もしかしたらこの組織を壊滅させることができるかもしれない。しかしその力を持ちながらこの組織に従ずる。そうまでして成し遂げたいもの…。私はそれに…いや、それを成し遂げるための彼の生き様に興味があるんですよ。それが私が暁にいる理由の一つでもある」

 鬼鮫は目を閉じ、黙り、考え込む。

 そしてややあって水蓮を厳しい目で見た。

 「いいでしょう。どうしてあなたがイタチさんの「それ」に気付いたのかはわかりませんが、イタチさんが動けるようになるまでやることもない。ですが、見込みがないと判断した時点でこの話はなしだ。いいですね」

 「うん…あ!はい!」

 「それから、おかしな行動をしたら…」

 スッと鮫肌を水蓮に突きつけ、殺気みなぎる目で見据える。

 「分かってますね…」

 「分かってる」

 応えて水蓮は慌てて姿勢を正した。

 「よろしくお願いします!」

 鬼鮫は鮫肌を背負い直し水蓮に「それで…?」と問いかけ何やら返答を待つ。

 「え?」

 「何か、得意なことはあるんですか?」

 「あ…うん。一応空手を…」

 水蓮は小学校の頃だけではあるが、父親が空手の師範をしていたこともあり、空手の型を習っていた。

 しかし『空手』という言葉が通じず、鬼鮫が顔をしかめる。

 「あ、え~と…体術?」

 「ほぉ…」と意外そうに声をあげる。

 「でも、技の形を見せる競技みたいなもので、実践に使えるかどうか。それに、もう10年以上体を動かしてなくて…」

 「でもまぁ、基本はできている」

 「一応は…」

 「少し見せてもらいましょう」

 厳しい目付きでそう言った鬼鮫に、水蓮は緊張した面持ちで頷いた。

 

 

 同じ建物内の一室。

 何も物が置かれていなく、ちょうど水蓮が通っていた道場と同じくらいの広さ。

 ここ最近ヒナとデンカにチャクラの練り方を教わっていた場所だ。

 その中央で水蓮は緊張を抱えつつ、記憶をたどり、一つ一つ丁寧に型を繰り出す。

 

 …シュッ…タタンッ…パンッ…

 

 水蓮の腕が空を切り裂く音が静寂の中響く。

 しなやかな足の動きが地をこすり、その音と絶妙にまじりあう。

 静かな呼吸と合わせ、時に緩やかになめらかに

 

 スッ…ザザァッ…

 

 呼吸を体内にとどめた時には、速く、切れよく…力強く

 

 …ダンッ!

 

 強く地についた足に力をこめ、水蓮は構えて息をゆっくり吸い込みながら右腕をあげる。

 

 「はっ!」

 

 腕が気合と共に一気に振り下ろされ、スパッ…と空気を二つに切り裂く。

 見えるはずのないその様が、まるで見えるかのような手刀。

 

 静と動の見事な動きに、鬼鮫は見入っていた。

 まるで美しい舞を見ているようなそんな感覚に陥る。

 ややあって、すべてを終え、水蓮は大きく息を吐き出す。

 さすがにブランクがあって昔の様には動かなかったものの、一連の流れは体が覚えていた。

 それに、体をこうして動かしてみて水蓮はこちらの世界の重力が、自身の世界に比べて幾分か軽いことに気付いた。

 それもあり、思っていたよりは動けた。

 「いや、なかなかのものですね。正直そこまでできると思ってなかった」

 腕を組みながら鬼鮫は水蓮に歩み寄る。

 「まぁ、合格点ですかね…」

 「ほんと?」

 鬼鮫が頷くのを見て、水蓮は胸をなでおろす。

 「では、さっそくですが私に向かって打ち込んでみてください」

 少し距離を取り、鬼鮫は無防備に立つ。

 「とりあえずは一発だけで構いません。蹴りでも突きでも」

 水蓮はゴクリと息を飲み、構える。

 組手はしたことがあるが、水蓮は苦手であまり取り組んでこなかった。

 しかも手順の決まった「約束組手」というものしか経験がない。

 決まりのない中での打ち込みにはやや勇気がいる。

 「いきなり反撃したりしませんから」

 「う…うん…」

 すぅっと息を吸い込み「はぁっ」と気合を吐き出し、手刀で鬼鮫に打ち込む。

 

 …ガッ!

 

 当然簡単に受け止められ、後ろに押し返される。

 

 「つぅっ!」

 どこかをぶつけたわけではない。

 鬼鮫と接触した腕に激痛が走り、抱えて座り込む。

 叩き返されたわけでもない。ただ軽く押し返されただけ。

 しかし、組手では味わったことのない痛みだ。

 「打ち合いはしたことがあるようですね」

 鬼鮫は今の一撃で組手の経験を読み取ったようで、そう言いながら水蓮に近寄る。

 「だが、互いに受け合う事を前提としたものしか経験がないようだ」

 水蓮はその洞察に驚く。

 たしかに、組手…とくに約束組手は手順が決まっており、それに合わせて互いに衝撃を逃がしながら受け合える。

 少しの型と、たった一撃の手刀を受けただけで見抜く。

 

 これが忍…

 

 水蓮は改めて世界が違う事を実感する。

 「実際の戦いでは、相手はこちらの攻撃を受けて返してくる。想定外の動きで反撃してくることもある。力も相手によって違う。今のように軽く押される程度では済まない。あなたは体の動きはできているが、反撃に耐えうる体を作れていない。それでは一撃受けただけで終わってしまう」

 「体作りが必要って事?…ですか?」

 とってつけたように敬語に直す水蓮に、鬼鮫は何か違和感を感じたのか、普通に話すように言い言葉を続ける。

 「体作りなんてしていたら、何年かかるか。そこまでは付き合っていられない。あなたに教えるのはこれだ」

 そう言って鬼鮫は腕を突き出す。

 「これ?」

 じっと見つめると、その腕の周りにうっすらと光がまとわりついているのが感じられる。

 「チャクラ?」

 「そうです」

 鬼鮫は懐から小さいナイフを出して、おもむろに腕につきつける。

  

 ガキッ…

 

 と鈍い音を立てて刃が折れる。

 「見てください」

 チャクラを消したその腕には全く傷がついていない。

 「チャクラで守る?」

 つぶやいたその言葉に鬼鮫が「ほぉ」と、笑みを浮かべる。

 「勘もなかなかいいようだ。これは、いわばチャクラの『盾』です。この(すべ)を身に着けて、あなたの体術と組み合わせれば、身を守る程度にはなるでしょう。もちろん体作りも必要ですが、それは自分で鍛えてください。そこまで面倒は見れない」

 「わかった」

 「ですが、全身にこんな事をしていたらすぐにチャクラがなくなる。相手の動きを読み、攻撃を受ける場所に瞬時にチャクラを集める。洞察力、素早さ、そしてセンスも必要だ。簡単ではありませんよ。それに、あなたはあまりチャクラを使い慣れていないようだから、チャクラの『盾』を作れるようになるまで、最低1週間はかかるでしょう。それができるまでとりあえずは一人…で…」

 鬼鮫の語尾が力を失う。

 目の前で水蓮が腕にチャクラの盾を作っていたのだ。

 「これでいいのかな?」

 自分の手を見つめながらつぶやく水蓮。

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 鬼鮫はしばらく固まり、突然「ハハハ」と声をあげて笑い出した。

 「え?なに?違う?」

 水蓮はびくっと体を揺らし慌てる。

 「いえ。違いませんよ。ハハ…」

 笑い交じりに「それで構いません」と答えて息を吐き出す。

 「こんなに笑ったのは久しぶりだ。あなたは面白い人だ」

 水蓮は一瞬むっとする。

 その様子に鬼鮫は「褒めてるんですよ」と言ってまた少し笑った。

 「そうは思えないんだけど…」

 水蓮は今まで鬼鮫に言われたことを思い出す。

 

 不思議な人

 

 おかしな人

 

 読めない人

 

 面白い人

 

 …なんかまともなこと言われてないな…

 

 鬼鮫の中で自分はいったい何者なんだろうかと、水蓮はいまさらながら思った。

 「しかし驚きだ、いきなりできるとは」

 

 最近チャクラコントロールの練習していたからだろうか…

 

 「まぁ、それができるなら話は早い。まずは少しゆっくり目の組手で、感覚をつかんでください」

 そう言って鬼鮫はスッと構えた。

 「え…。でも、鬼鮫まだ…」

 動けるようになったとはいえ、傷や体のダメージは治りきっていない。

 しかし戸惑う水蓮に鬼鮫は少し笑って答える。

 「あなた程度の相手は問題ありませんよ。まぁ、多少のリハビリになるくらいだ」

 確かにそうかもしれない…

 

 鬼鮫から見れば自分はど素人だ。

 水蓮は頷いて静かに構え、息を一つ吸い込む。

 先ほどの痛みを思い出して一瞬ひるむが、痛みを恐れているようでは身につかない。

 

 『己に勝てなければ何者にも勝てない』

 

 型を教わった父親の言葉が脳裏に浮かんだ。

 思わず目の奥が熱くなったが、水蓮はそれを奥に押し込めて地を蹴った。

 

 今は前に進む!

 

 

 こうして水蓮と鬼鮫の修行が始まった。

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