いつの日か…   作:かなで☆

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第八十九章【お前はオレを…】

 久しぶりの事であった。

 水蓮がイタチの夢の中に入ったのは…。

 その夢の中で見たのは、イタチの安心した笑み。

 

 自分の手が過去のイタチに届き、そして今のイタチのその笑顔を見ることができ、水蓮は心の底から安堵してそのまましばし眠った。

 どれほど経ったのか、ふと髪に何かが触れるのを感じゆっくりと目を覚ます。

 その視線の先には自分の髪をすくい上げ、身を起こしているイタチの姿があった。

 

 「水蓮…」

 

 目覚めに気づきイタチが名を呼ぶ。

 水蓮は何も言わぬまましずかに起き上がり、ゆっくりと…確かめるようにイタチを抱きしめた。

 体が少し震えていた…

 

 「…う…」

 

 くぐもった声がこぼれ、涙がハラハラとイタチの肩に落ちてゆく。

 

 イタチ…と、その名を呼びたいのに、喉の奥が締まって言葉が出ない。

 

 代わりにギュッとイタチを抱きしめた。

 まだ小刻みに震えるその体をイタチがしっかりと抱きしめ返す。

 「もう大丈夫だ」

 言葉で返せず、水蓮は何度もうなづく。

 イタチは水蓮の背を撫でながら、いくども「大丈夫」と、そう繰り返した。

 徐々に互いの体温が互いを温め、生きていることを少しずつ感じ合う。

 「お前は大丈夫か?」

 すっかり疲れ切った水蓮のほほをイタチの指がそっと撫でた。

 「うん」

 返したうなづきに涙が頬を伝い、それをイタチが掬い取る。

 「また無理をさせたな」

 「大丈夫。ちゃんと鍛えてるから」

 イタチの声がずいぶんとしっかりとしていることに安心して、水蓮はようやく笑みをこぼした。

 イタチも柔らかい表情を返し、部屋を軽く見まわす。

 「水蓮…ここは」

 「今私の薬を取引してもらってる薬屋。ほら、前に話した…」

 イタチはその言葉に思い当たった顔をする。

 「サソリの残した店か」

 「うん」

 イタチは「そうか」と短く返してもう一度視線をめぐらせた。

 「あいつらはどうした」

 鬼鮫たちの姿も気配もないことに気づき、目を細める。

 「みんな島に…。後始末をしてくるって。でも、そろそろ帰ってくるんじゃないかな…。もう5日経つから」

 「5日…」

 そんなにも眠っていたのかという驚きのすぐ後に、その間ずっと水蓮に無理をさせ、不安にさらしたのかと申し訳なさを感じ、イタチは「すまなかった」と水蓮の手をキュッと握った。

 水蓮はその手を握り返し、ニコリと笑った。

 「私の力はあなたのためにあるって言ったでしょ。私は全然平気だから」

 「水蓮…」

 

 「死にかけてましたがね」

 

 言葉を返そうとしたイタチの声に、別の声が重なった。

 

 同時に視線を向けた水蓮とイタチの目にうつったのは鬼鮫であった。

 「鬼鮫…おかえり」

 その気配に気づかなかったことに、水蓮は自分が思った以上に疲労がたまっていたのだと気づく。

 そんな様子をくみ取り、鬼鮫は水蓮をジトリとした目で見ながら部屋に入ってきた。

 「ちゃんと食べて寝るように言ったはずですがね」

 そうしていなかったのだろうと呆れながら、今度は苦笑いを浮かべて水蓮の頭に手を乗せた。

 「でもまぁご苦労でしたね」 

 鬼鮫は次にイタチに目を向けて、息をひとつ吐く。

 「あなたもですが、あの時九尾の力が発動しなければ、彼女も死んでいた」

 その言葉に水蓮が気まずそうに「はは…」と顔をそむけ、イタチが表情を硬くして「そうか」と短くつぶやいた。

 「まぁ、なにはともあれよかったですよ」

 再び吐き出された鬼鮫のため息に、イタチが言葉を返す。

 「デイダラとトビはどうした?」

 その姿が見えぬことに水蓮も鬼鮫を見る。

 「あの二人はまた別の任務に行きましたよ。あなたに、また手合わせしようと言っていた」

 言葉を向けられて水蓮がうなづく。

 「イタチさんには『勝手に死ぬな』と言ってましたよ」

 イタチは「そうか」とまた短く答えて、小さく笑った。

 それに水蓮が続き、鬼鮫も少し笑った。

 いつもの空気を感じ、改めてイタチが生きていることをそれぞれが実感した。

 「それから」

 鬼鮫が少し表情を硬くして言う。

 「あなたはしばらく休むようにと組織から伝令がありましたよ」

 「…わかった」

 「復帰のめどは、あなたに任せるとの事です。水蓮」

 「え? 私?」

 思わず声を上げる。

 「まぁ彼の治療をしたのはあなたですからね」

 だがそれだけではないのだろうと、鬼鮫もイタチも感じていた。

 しばらく前のデイダラの治療、そして今回のイタチの事。

 献身的なその態度に、ようやく組織からの信頼を得たのだろうとそう読み考える。

 「とにかく、しっかりと休ませてください。肝心な時に動けないようでは困りますからね」

 「わかった」

 水蓮はしっかりとうなづきを返し、内心で安堵の息をついていた。

 自分が判断を下すまでイタチは任務に就かなくていいのだ。

 しばらくは無理をさせずに済む。

 それでも、何かあればやはりそう休ませてはくれないのだろうが、何とかうまくやりすごせばもしかしたら原作の時間を少しずらすようなこともできるかもしれない…。

 

 ほんの少しでも…

 

 一緒にいられる時間を作れたら…

 

 そんな事を考える水蓮の思考をイタチの言葉が遮った。

 

 「お前はどうする。鬼鮫」

 

 ドキリ…と、なぜか水蓮の鼓動が音を立てた。

 その音の奥には重い何かが含まれていた。

 

 「私はもう一度あの島に行きます。少し気になることがある」

 「そうか」

 答えたイタチの声を消すように水蓮が言葉を投げる。

 「だめだよ」

 焦りを隠して静かな声で言ったつもりだった。

 それでもやや強い口調となった言葉にイタチと鬼鮫が顔をしかめる。

 「イタチが回復してから3人で行けばいいじゃない。一人で行くことないよ。危険だよ…」

 最後のその言葉に、鬼鮫が小さく笑みを浮かべた。

 「やはりあなたも感づいていましたか」

 水蓮は無言を返した。

 イタチも何も返さないところを見ると、同じなのだろうと水蓮はグッと手を固く握った。

 

 鬼鮫の気がかりは、あの島の人口獣の動きであった。

 一見やみくもに見えたあの動き。

 それでも地を駆け走ってきた人口獣たちは、上空の鷹の攻撃の余波が消えるのをきちんと読み計っていた。

 そして何より気になったのは鷹が突然現れたことであった。

 

 あの瞬間、イタチと鬼鮫は同じ思考をめぐらせていた。

 

 誰かがあの場に口寄せしたのではないかと…

 

 そして水蓮はしっかりと感じ取っていた。

 

 かすかに何者かの気配が一瞬揺らいだのを…

 

 それらが導き出すのは、あの場に自分たち以外の何者かがいたという事。

 そしてその人物はあの人口獣たちを統率するほどの力の持ち主であるということ…。

 

 あの場ではイタチも鬼鮫も確証がなかったため深く触れはしなかったが、それを調べるために鬼鮫は『一人で行く』と言っているのだ。

 

 「あれだけの数の人口獣が普段おとなしく結界の中に身をひそめ、何事かが起こった際に一気に動く。

 どうにも怪しい…。あの島には何かいる」

 

 鬼鮫はそういって「いや…」と言葉を続けた。

 

 「誰かいる」

 

 イタチがうなづき、水蓮は何かをあきらめたように目を閉じた。

 

 「まぁそれが目的のものかどうかは別としても、調べ上げた方がいいでしょうしね」

 

 鬼鮫の中でまだ任務は終わっていない…。

 

 そして、彼は任務を遂げて戻るのだろう…。

 

 ほんの少しの沈黙が落ち、イタチが「大丈夫なのか?」と鬼鮫に問う。

 鬼鮫はニッと笑みを浮かべて返す。

 

 「どうも最近暴れ足りませんからね」

 

 そして背を向け際に言った。

 

 「一人で行かせて下さい」

 

 それにイタチが「無理はするな」と返し、鬼鮫がうなづいて姿を消した。

 

 

 その際に鬼鮫が残した自信ある表情に、水蓮は確信を重ねた。

 

 

 

 鬼鮫は…4尾を捕獲して戻る…

 

 

 

 ほんの少しだけ開けていた窓から緩い風が入り込み、水蓮の髪を重々しく揺らした。

 

 その揺らぎの隙間から見えた水蓮の浮かぬ表情に、イタチが「心配ない」と静かに言い「鬼鮫なら大丈夫だろう」と言葉を続けた。

 4尾を手中に収められることは決して喜べる事ではないが、イタチはただ鬼鮫の無事についてそう言った。

 水蓮はゆっくりとうなづき、なんとか笑みを浮かべ「そうだね」と返した。

 イタチはしばらく黙り、鬼鮫の気配が完全に離れてから再び口を開いた。

 「水蓮。明日ここを出る」

 「へ?」

 いま目が覚めたばかりだというのにそんな事を言うイタチに、水蓮は思わずとぼけた声で返した。

 「いけるか?」

 水蓮の体調を心配しての言葉だが、水蓮は逆に「大丈夫なの?」と返した。

 「私は大丈夫だけど…今目が覚めたばかりなのに」

 「問題ない。驚くほど体が軽い。九尾の力だろう」

 「そう…。でも、ここを出てどこへ…」

 その問いかけに、イタチは水蓮をじっと見て黙った。

 いつもと違う漆黒の瞳の中に何か強い光が見えて水蓮はどきりとする。

 そこに揺れる決意の色。

 水蓮の脳裏に、風に揺れる竹の葉がよぎった。

 イタチと共に見た幻の様なあの光景…。

 

 ハッと息を飲んでイタチを見つめ返す。

 その視線を受けてイタチはうなづいた。

 「封印を解く」

 「……っ」

 知らず水蓮の体が強張り、力の入ったその手にイタチが手を重ねた。

 

 剣の封印にはどれほどの時間がかかるのかわからない。

 イタチは以前そう言っていた。

 だが今、水蓮が『よし』としない限りイタチは組織から離れられる。

 いわば無期限の休暇のようなものだ。

 しかも鬼鮫も離れている。

 こんな絶好のチャンスはない。

 

 と、そこまで考えて水蓮はまたハッと息を飲んだ。

 

 「まさか…」

 

 目を見開いてイタチを見る。

 そこに何かを感じたのか、イタチはほんの少し視線を外した。

 その動きに水蓮はやはりそうなのだと言葉を続けた。

 

 「まさか、わざと…」

 

 今度こそイタチは完全に水蓮から目をそらした。

 それは水蓮の考えを完全に肯定していた。

 

 今回の任務での事がすべてイタチの策であったということを…

 

 「信じられない…」

 

 水蓮の体がわなわなと震えだし、任務でのイタチの行動が一気に蘇る。

 

 率先して調査に取り組む姿。必要以上にチャクラを使うあの動き。そして人口獣たちとの無茶な戦闘。

 

 それらはすべて、トビへの…マダラへのアピールだろうかと水蓮は考えていた。

 自分の様子を見に来るその動きに対して、『大丈夫だ』と力を見せつけているのかと思っていたのだ。

 だが実際にはそうではなく、この時間を得るための策だったのだ。

 自分が動けぬ間鬼鮫が一人組織のために動こうとするのも計算のうち…。

 すべてを読み考えていたのだ。

 

 「信じられない」

 水蓮はもう一度先ほどより強い声で言った。

 そのまま黙ってじっと自分を見つめる水蓮のその視線にイタチは耐えきれなくなり「すまない」と小さな声で言った。

 「ばか!」

 まるで小さな爆弾が爆発したように水蓮の口から言葉が返された。

 「ばか!」

 繰り返してギュッと布団の端を握りしめ、次に急に力の抜けた声で「ひどい」とこぼした。

 それとは逆に手にはどんどん力が入ってゆき、硬く握られたそのこぶしの上にポタポタと涙が落ちた。

 「水蓮…」

 「ひどい!」

 再び力の入った声でイタチの声を遮り、水蓮は一気にまくしたてた。

 「どれだけ心配したと思ってるのよ!何も言わずにこんなことするなんて何考えてるの!バカじゃないの!信じられない!どういうつもりよ!」

 「お…おい、落ち着け…」

 あまりにも興奮したその様子にイタチが水蓮に手を伸ばす。

 が、その手を水蓮が払いのけた。

 「触らないで!許さないから!絶対許さない!」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔でキッとイタチを睨み付け「許さない!」と、もう一度そう言いながら水蓮はイタチに抱き着いた。

 ギュッと力いっぱい抱きしめ、肩を大きく震わせる。

 「ホントに怖かったんだから…」

 「すまない」

 「ホントに死んじゃったらどうするつもりだったのよ…」

 改めてイタチの体温を確かめるように、水蓮はイタチの首筋に顔を摺り寄せてうずめた。

 イタチはやはり「すまない」と返し、「だが」と言葉を続けた。

 「オレは死なない」

 ピクリと水蓮の体が揺れる。

 「なんでそんなこと言えるの」

 実際には死にかけていたのだ。

 水蓮は怒りをまじえてそう返した。

 だがイタチはフッと笑って答えた。

 「お前がいるからな」

 再び水蓮の体が揺れた。

 イタチはゆっくりと体を少し離し、水蓮を見つめて言った。

 「お前はオレを死なせない」

 「イタチ…」

 「そうだろ?」

 じっと見つめられ、水蓮は涙をあふれさせながら黙り込んだ。

 

 イタチは何があっても必ず水蓮が自分を救うと信じて事に及んだのだ。

 

 すべてを…自分の命を託して。

 

 「お前はオレを死なせない」

 

 もう一度繰り返し伝えられた言葉に、想いに、水蓮は「ずるい」と小さな声で言った。

 そんな風に言われては、怒りやそのほかの全てのものをぶつけられなくなる。

 それどころか消えてしまう。

 残るのは…あふれるのは、ただただ愛おしい気持ちだけだった。

 それを確信してイタチは柔らかく笑み、額を合わせて言った。

 「許せ。水蓮」

 「………っ」

 

 ずるい…

 

 それは言葉に出なかった。

 

 水蓮の心うちを見透かしたその笑みは、優しく、温かく、そしてあまりにも幸せにあふれていた。

 それがなぜか悔しくて、それでも表情にはうれしさがにじみそうで、水蓮はそれを隠すように再びイタチに抱きついた。

 「許さない」

 ぽつりとこぼしてギュッと腕に力を入れる。

 「今度やったら絶対許さないから」

 「ああ」

 イタチはまた笑みをこぼして水蓮を抱きしめ返す。

 「もうしない。約束する」

 「約束して」

 

 

 その言葉。耳元で揺れる息。腕の力。そして互いの体温。

 

 

 その一つ一つに、ようやく心の底から安堵が湧き上がり、二人は静かに唇を合わせた。

 

 それでも水蓮の心の中には刻一刻と事態が進んでゆくことへの陰りが射したが、今はただお互いの鼓動を感じ合おうと、イタチの手をぎゅっと握りしめた。




明けましておめでとうございます!
昨年は当作品を支えていただき誠にありがとうございました。
本年も水蓮たちと共に頑張って進んでまいりますので、何卒よろしくお願いいたします
(^v^)
皆様にとって良い一年となりますように
(^○^)
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