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「この鞄に、金を入れろ!」
「両手を机の上に出せ!警報ボタンを押すな!お前らも動くな!!」
「早く金を入れろ!!あるだけ全部だ!!早くしろ!!」
「ボタンを押すなと言ったろうがぁ!!」
「おい、お前!こっちに来て金を詰めろ!!」
「早く来い!!」
「早くしねえともう一人撃つぞ!!撃つぞぉオオ!!!」
ーーーなきゃ。
「あぁぁ!?」
ーわたしが、お母さんを、守らなくては。
「あぁ…ああぁぁ!!」
わたしが
「があああああっ!!」
私が
「あ……ぁ……っ」
ワタシが
「助けて……誰か……たすけて…たすけて……誰か………」
誰か…教えて…。私、どうすれば、いいの……?
「リンク・スタート」
ーー誰も、助けてなんかくれない!!
《彼》は苛立たしく舌打ちをした。
想定とまるで違う。
愚かなネットゲーマーたちは未だ《彼》の与える真の恐怖に気が付かず、冗談めかしたやり取りに終始している。
計算外だった、都内に限っても1日に相当数の変死事件があり、明らかな犯罪性が見られないものはニュースにならない。
《死銃》
あの荒野に降臨した最初で最期の絶対強者、運営すら凌駕する、本物の死神。
強烈な誘惑や昂る思いを《彼》は深く息を吐き、その気持ちを落ち着かせる。
ーーまあ、いい。
もう直ぐ、第三回の《バレット・オブ・バレッツ》、その本大会において更に2人、可能なら三人の命が《死銃》の手によって消滅する。
BoBの注目度は絶大だ。
《MMOストリーム》が放送するリアルタイム中継番組は、GGOだけでなく他のVRMMOのプレイヤーも大勢視聴する。
その大舞台、そこで名実ともに最強として君臨すれば、あの銃で、撃たれた者がまたしてもネットから姿を消せば、もう《死銃》の力を疑う愚か者はいないだろう。
かくて《死銃》は伝説となる。
絶対的な力ーー伝説の魔王ーー最強ーー最強ーー最強ーーー
《彼》はいつしか、右手のマウスを握り潰さんばかりに力を込めていた事に気が付き、息を荒げながら肩の力を抜いた。
ひとつのローカルHTMLファイル
縦に7枚の顔写真。
《彼》はゆっくりとファイルをスクロールし、一番下に配置されている写真を中央に表示させた。
七人中、唯一の女性プレイヤー。
淡いブルーのショートヘア、顔の両脇で結わえた房が細く流れ、頬のラインを半ば隠している。
深く巻いたサンドイエローのマフラーのせいで口元が見えないのが残念だが、どこか猫を思わせる深い藍色の瞳だけでも充分に魅力的に輝いて此方を惹きつけてくる。
右側に表示された名前は《シノン》。
メインアームは対物狙撃ライフルの《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》。
朝田詩乃、彼女のGGO内アバター。
グロッケンのマーケット街で買い物をしている姿、公園のベンチで屋台売りのホットドッグを齧っている姿、そして戦場で巨大やライフルを背に疾走する姿。
そのどれもが、所有欲を、掻き立てずには居られないコケティッシュな魅力に満ちていた。
彼女が笑顔を見せる事は殆どなく、瞳には常にある種の憂いが満ちているのだが、其れがまた《彼》を惹きつける大きな要因。
このシノンという少女を《死銃》のターゲットとする事に、《彼》は迷いを抱いていた。
もし彼女が、ゲームの中だけに留まらず、現実でも身も心も《彼》のものとなってくれるならーー
だがシノンは、GGOでは冷酷な狙撃手、冥界の女神として知らぬ者の居ない有名プレイヤーだ。《死銃》伝説に捧げられる花として、彼女ほど相応しい存在は居ないだろう。
《彼》は右手を伸ばし、指先でそっとシノンの写真を撫でた。
つるりとした光沢パネルの感触の中に、確かに生身の少女の柔らかさと温かさを感じながら。
「な…なんだこりゃ!?」
頭頂部から肩甲骨辺りまで流れている黒髪。顔は手と同じく透き通るような白、唇は鮮やかな紅。
やたらと大きく無闇に光っている長い睫毛に縁取られた黒の瞳。
《黒の剣士》デスゲームを終わらせた英雄がGGOに降り立つ。
第三回《バレット・オブ・バレッツ》、最強プレイヤー決定戦、そこに役者が揃うまで後数日。
オリ主「僕が出てない…」
六(以下略)「……´д` ;」