今日、学校から宿題が出た。
作文を書いてこい、とのことらしい。
テーマは「将来について」
「はぁ……」
それを受けて、私はため息をついた。
理由は単純、なんて書けばいいか全く思いつかないからだ。
と言うか、書きようがない。
私は実は殺し屋で、将来も多分殺し屋として過ごします。
なんて馬鹿正直に書くわけにも行かない。
と言うかまず信じてもらえないだろう。
「ソーニャちゃん!」
頬杖をついて悩んでいると、鬱陶しいあの顔が視界に入ってきた。
いつも通り呑気そうに私に話しかけてくる。
「宿題、どうするか決めた?」
「いや……今悩んでいたところだ」
「やっぱり作文なんてそうそう書けるものじゃないよね……しかもテーマが将来について、って難しすぎるよ!」
「お前はもう少し将来について考えたほうが良いんじゃないのか……」
「考えてるよ!例えばえーと……」
そう言って、やすなは腕を組んで頭を捻る。
散々悩んだ後、合点が言ったように。
「お金もちになる!」
高らかに宣言した。
「お前に聞いた私がバカだったな」
「なんでー!じゃあソーニャちゃんはちゃんと考えてるの?」
「ちゃんと考えてるって言うか……別に今の仕事続けるだけだし」
「仕事?あっ……そうだった……!」
「お前……私が殺し屋してるの度々忘れてないか?」
「ダメだよソーニャちゃん!今すぐ別の未来を考えなければ!」
しまった、また余計なことを……。
忘れているならそれでよかったのに。
「うーん……将来が心配だよ……」
「自分に言うべき台詞だろ、それは」
「ソーニャちゃんだって!殺し屋なんかやってたらいつかバチが当たるんだからね!」
「ほーう、言うじゃないか。例えば何だ?」
「え……えっと……その、痛い目にあったり……?」
「他は?」
「えーと、えーと……逮捕!逮捕されるよ!」
「その辺は組織が手をまわすから大丈夫だろうな」
「うぅ!くそう!汚いぞ組織め!」
「アホらしい……もう帰る、人の前に自分の心配しろ」
「ま、待ってよソーニャちゃんってば!」
教室から出ようとする私に、やすなが追いすがってくる。
あぁもう、本当に鬱陶しい。
「本当に今のままじゃダメだってば!ねぇ!」
うるさい。
お前に私の何がわかる。
「本当にひどい目にあっちゃうよ!怪我とかもしちゃうかもしれないんだよ!」
そんなの当たり前のリスクだろ。
何言ってるんだお前は。
「それに……それにもしかしたら……」
やすなの声が、震えだす。
「死んじゃう……かも、しれないんだよ……?」
「……そんなの、承知の上に決まってるだろ」
「そんな……」
「話はそれで終わりか、もう行くぞ」
これだけ言っておけば、やすなもしばらくおとなしくなるだろう。
もう、その辺はほっといてくれ。元々お前が悩むような話じゃない。
「やだ!」
やすなが叫んだ。
夕暮れの廊下に、声が反響する。
「そんなのやだ……!やだよぉ……!」
やすなの声が、息遣いが。
一気に潤んだものに変わった。
「ソーニャちゃん……死んじゃやだぁ……!」
あぁもう、なんでこいつは……。
「……このバカ!」
「ソーニャちゃん……?」
「お前、私がそんな簡単に死ぬと思うのか?」
「そういうことじゃないよ……」
「……安心しろ、死ぬときはお前が気にしないような所で死ぬからな」
「……ソーニャちゃんっ!」
私としたことが、不意を突かれた。
やすなが私の懐に一気に入り込んでくる。
そして次の瞬間、私の体はやすなの体温で包まれた。
「お、おい……!まだ人が居るんだぞ!何してる!」
「ソーニャちゃん……ソーニャちゃあん……!」
やすなは、私に抱きついたまま離れようとしない。
だけど、不思議な事に不快感は全く無かった。
むしろなんだか……。
「……ったく、本当に仕方ないなお前は」
しょうがないので、私はしばらくやすなの好きにさせることにした。
帰り道。
夕暮れの道路に、長い影が二つ。
そして、ぐずるやすなの声。
「ぐす……ソーニャ、ちゃん。ひっく」
「いつまでそうしてるんだ、お前」
「だってぇ……」
「……ほら」
流石にもう見ていられないので、私はやすなにハンカチを差し出した。
やすなは少しびっくりしたような顔をする。
「ほら、使え」
「……えへへ、ありがとうソーニャちゃん」
やっと、やすなが笑った。
「そう言えば、すっかり忘れてたけど……宿題どうしよう、ソーニャちゃん」
すっかりいつもの調子を取り戻したやすなが、先ほどと同じ質問をぶつけてきた。
「……適当に、結婚して幸せになるとか書いておくつもりだ」
「えー、ソーニャちゃんが結婚したら逆DVとかしそう……」
「誰がするか!」
「あいたぁ!ほら!そいういうの!」
やすなの腕を、軽く捻り上げる。
いつもの悲鳴が、響き渡った。
「お前こそ……どうするつもりなんだ」
「私はねぇ……大人になってもソーニャちゃんと一緒にいたいなーなんて」
「……勝手にしろ!」
「あれ?照れた?もしかして照れてるのソーニャちゃ~ん?」
「うるさい!」
私は歩く速度を上げる。
後をやすなが追いすがる。
大人になっても一緒に、なんて。
そんな風に言われたら、少しだけ本気にしそうになった自分が恥ずかしい。
「……大人になったら、か」
自分の将来なんて、ずっと考えたことが無かったけれど。
まぁ、それも。
「……悪くは無いかもな」
いつまでふたりで、いるのかな。
おとなになるまで、いいのかな。
更に赤くなった夕日が、私達の背中を優しく照らしていた。
おわり。