『大人になったら』   作: 池田 

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第1話

今日、学校から宿題が出た。

作文を書いてこい、とのことらしい。

 

テーマは「将来について」

 

「はぁ……」

 

それを受けて、私はため息をついた。

理由は単純、なんて書けばいいか全く思いつかないからだ。

と言うか、書きようがない。

 

私は実は殺し屋で、将来も多分殺し屋として過ごします。

なんて馬鹿正直に書くわけにも行かない。

と言うかまず信じてもらえないだろう。

 

「ソーニャちゃん!」

 

頬杖をついて悩んでいると、鬱陶しいあの顔が視界に入ってきた。

いつも通り呑気そうに私に話しかけてくる。

 

「宿題、どうするか決めた?」

 

「いや……今悩んでいたところだ」

 

「やっぱり作文なんてそうそう書けるものじゃないよね……しかもテーマが将来について、って難しすぎるよ!」

 

「お前はもう少し将来について考えたほうが良いんじゃないのか……」

 

「考えてるよ!例えばえーと……」

 

そう言って、やすなは腕を組んで頭を捻る。

散々悩んだ後、合点が言ったように。

 

「お金もちになる!」

 

高らかに宣言した。

 

「お前に聞いた私がバカだったな」

 

「なんでー!じゃあソーニャちゃんはちゃんと考えてるの?」

 

「ちゃんと考えてるって言うか……別に今の仕事続けるだけだし」

 

「仕事?あっ……そうだった……!」

 

「お前……私が殺し屋してるの度々忘れてないか?」

 

「ダメだよソーニャちゃん!今すぐ別の未来を考えなければ!」

 

しまった、また余計なことを……。

忘れているならそれでよかったのに。

 

「うーん……将来が心配だよ……」

 

「自分に言うべき台詞だろ、それは」

 

「ソーニャちゃんだって!殺し屋なんかやってたらいつかバチが当たるんだからね!」

 

「ほーう、言うじゃないか。例えば何だ?」

 

「え……えっと……その、痛い目にあったり……?」

 

「他は?」

 

「えーと、えーと……逮捕!逮捕されるよ!」

 

「その辺は組織が手をまわすから大丈夫だろうな」

 

「うぅ!くそう!汚いぞ組織め!」

 

「アホらしい……もう帰る、人の前に自分の心配しろ」

 

「ま、待ってよソーニャちゃんってば!」

 

教室から出ようとする私に、やすなが追いすがってくる。

あぁもう、本当に鬱陶しい。

 

「本当に今のままじゃダメだってば!ねぇ!」

 

うるさい。

 

お前に私の何がわかる。

 

「本当にひどい目にあっちゃうよ!怪我とかもしちゃうかもしれないんだよ!」

 

そんなの当たり前のリスクだろ。

 

何言ってるんだお前は。

 

「それに……それにもしかしたら……」

 

やすなの声が、震えだす。

 

「死んじゃう……かも、しれないんだよ……?」

 

「……そんなの、承知の上に決まってるだろ」

 

「そんな……」

 

「話はそれで終わりか、もう行くぞ」

 

これだけ言っておけば、やすなもしばらくおとなしくなるだろう。

 

もう、その辺はほっといてくれ。元々お前が悩むような話じゃない。

 

「やだ!」

 

やすなが叫んだ。

 

夕暮れの廊下に、声が反響する。

 

「そんなのやだ……!やだよぉ……!」

 

やすなの声が、息遣いが。

一気に潤んだものに変わった。

 

「ソーニャちゃん……死んじゃやだぁ……!」

 

あぁもう、なんでこいつは……。

 

「……このバカ!」

 

「ソーニャちゃん……?」

 

「お前、私がそんな簡単に死ぬと思うのか?」

 

「そういうことじゃないよ……」

 

「……安心しろ、死ぬときはお前が気にしないような所で死ぬからな」

 

「……ソーニャちゃんっ!」

 

私としたことが、不意を突かれた。

やすなが私の懐に一気に入り込んでくる。

そして次の瞬間、私の体はやすなの体温で包まれた。

 

「お、おい……!まだ人が居るんだぞ!何してる!」

 

「ソーニャちゃん……ソーニャちゃあん……!」

 

やすなは、私に抱きついたまま離れようとしない。

だけど、不思議な事に不快感は全く無かった。

むしろなんだか……。

 

「……ったく、本当に仕方ないなお前は」

 

しょうがないので、私はしばらくやすなの好きにさせることにした。

 

 

帰り道。

夕暮れの道路に、長い影が二つ。

そして、ぐずるやすなの声。

 

「ぐす……ソーニャ、ちゃん。ひっく」

 

「いつまでそうしてるんだ、お前」

 

「だってぇ……」

 

「……ほら」

 

流石にもう見ていられないので、私はやすなにハンカチを差し出した。

やすなは少しびっくりしたような顔をする。

 

「ほら、使え」

 

「……えへへ、ありがとうソーニャちゃん」

 

やっと、やすなが笑った。

 

 

 

「そう言えば、すっかり忘れてたけど……宿題どうしよう、ソーニャちゃん」

 

すっかりいつもの調子を取り戻したやすなが、先ほどと同じ質問をぶつけてきた。

 

「……適当に、結婚して幸せになるとか書いておくつもりだ」

 

「えー、ソーニャちゃんが結婚したら逆DVとかしそう……」

 

「誰がするか!」

 

「あいたぁ!ほら!そいういうの!」

 

やすなの腕を、軽く捻り上げる。

いつもの悲鳴が、響き渡った。

 

「お前こそ……どうするつもりなんだ」

 

「私はねぇ……大人になってもソーニャちゃんと一緒にいたいなーなんて」

 

「……勝手にしろ!」

 

「あれ?照れた?もしかして照れてるのソーニャちゃ~ん?」

 

「うるさい!」

 

私は歩く速度を上げる。

後をやすなが追いすがる。

 

大人になっても一緒に、なんて。

そんな風に言われたら、少しだけ本気にしそうになった自分が恥ずかしい。

 

「……大人になったら、か」

 

自分の将来なんて、ずっと考えたことが無かったけれど。

 

まぁ、それも。

 

「……悪くは無いかもな」

 

いつまでふたりで、いるのかな。

 

おとなになるまで、いいのかな。

 

更に赤くなった夕日が、私達の背中を優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり。

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