「我は寒さは感じておらぬぞ?」
――何?
唐突に降ってきた言葉にカイムはいぶかしげに竜を見上げた。
* * *
竜の言葉の意図が掴めない。
寒く無いとはどういう意味なのだろうか。
別に自分は竜を寒さから守っているという行為をしている覚えは無い。
只、竜の首筋に手を当てているだけだ。
一般的に言えば“撫でる”という言葉に相当する行為の何処が『寒く無い』と言わせるのか。
「お主の行動は“暖める”というものだろう?」
暖める? 撫でる行為がか?
益々分けが解らなくなる。
が、竜の身体を眺めて理解した。
竜には腕が無い。
だから“撫でる”行為が竜の知識の中に存続せず、近い行為が“暖める”なのだろう。
――別に暖めていた訳では無い。俺がお前にやっていたのは“撫でる”だ。
「撫でる?」
――ああ、俺が今行っている掌で擦る行為の事だ。
そう言いながらゆっくりを腕を上下して、カイムは竜の首を撫で上げる。
竜はふむ、小さく声を上げされるがままになっていたが。
「では、その“撫でる”という行為はどの様な時に行うのだ」
今度は興味深そうな顔で訊ねてきた。
質問の内容に、カイムは思わず顔を顰めるが、竜は気にした様子もなく続ける。
「意味があるからその行為を行うのだろう?」
確かに竜の言うとおりかもしれない。
が、撫でるなど今まで無意識の内にやっていた行為だ。少なくとも今のカイムに何か理由や決意があって撫ぜた、という記憶は無い。無意識下の行動をどう説明すればいいのか。
適当な答えでは竜は納得しないだろうし、思念で会話している為、いい加減な事を言ったところで竜には直ぐに気づかれてしまう。
――そうだな。
しばらく思案を巡らせた後、カイムは
――落ち着く為じゃないか?
と返答を出した。
「それはお主がか? それとも我がか?」
――両方だろう? 動物なんかがいい例だ。アイツ等は撫でれば大人しくなるし、こちらも心を静められる。
「成程、ではお主は今落ち着いているのか」
――おそらくな。
少なくとも今は殺戮の衝動や、血を見たいという欲求が無い。それが、本当に竜を撫でているからかは分からないが、とりあえずカイムはそう返しておくことにした。
――そういうお前はどうなんだ? 俺が撫でて落ち着くのか?
「たわけ。お主と違って我は常時冷静だ。しかし……そうさな」
カイムの言葉に竜は一瞬、瞳を細めると。
「心地よい、とは思う」
今までよりずっと柔らかい言葉で返してきた。
――心地よい、か?
「他人の温度というものはそう悪いものではない。何時までされても飽きはこなさそうだ」
竜はそう言った後、愉快そうに笑いながら続ける。
「やはりこの行為は我にとっては“撫でる”よりも“暖め”と言った方がしっくりくる。身体だけではなく、心も満たされた気持ちにさせてくれるからな」
竜の答えにカイムは、そうかと頷いた。
訂正する気は起きなかった。
カイムの言う“撫でる”と竜の感じる“暖め”。
言葉は違っても、互いに感じている意味は同じなのだろうから。