やるものか。
破棄したとはいえ、アレは我の契約者なのだ。
決して。
他の竜等に、アヤツの命を渡すものか。
* * *
「……此処にもおらぬか」
焦土と化した平野を見渡しながら、竜は呟いた。
もう幾日が過ぎただろうか。
同胞達で覆われた空は昼も夜も判別出来ない。
時間の感覚すら麻痺してしまった世界で、竜は目を伏せ思い返す。
* * *
何度目かの剣を交えた刹那、神殿が崩れ元契約者の姿は土砂に隠れた。
その瞬間、思わず彼の名を叫んだことを思い出し竜は小さく笑う。
もはや命の心配をする必要などない、赤の他人だというのに。
「……どこにいるのだ」
今更ながら契約を破棄したことを後悔した。
そうれば、居場所までは把握できなくとも生死は感じられたのに。
何も分からない・感じられないから竜は、抵抗を続ける人間たちの群れを襲った。
殺戮を好む元契約者が、もしかしたらいるかもしれないと考えて。
だが、ここにも彼は居なかった。
やはり、死んでいるのかもしれないという不安が脳裏を掠める。
「……いや」
軽く頭を振り、その思いを払拭する。
幾たびの戦を潜り抜けた男が、あの程度で死ぬはずがない。
死んでもらっては困る。
ほんの少し前まで彼は竜のモノであり、又竜も彼のモノだった。
契約を破棄した今でも、その考えに変わりはない。
だから、事故等というもので命を喪う事は許さない。
彼の命を手に入れていいのは、自分だけだ。
「早く姿を見せろ……カイム」
例え、出会った先に待っているのが互いにとって破滅だけだとしても。
求める心は抑えられない。
* * *
男は只只剣を振るう。
屍を積み上げ、己の存在を知らせる為に。
* * *
黒い空。紅く染まった大地。
確実に終焉へ歩む世界の中で、カイムは抗うかのように剣を振るっていた。
尤も、カイムには抗う等の意思はなく、羽虫の如く現れる邪魔者を斬る為に剣を振るっているだけなのだが。
鬱陶しい。
舌打ちをしながらカイムは、向かってくる竜へ剣を突き立てた。
「お前じゃ――無い」
そのまま力任せに剣で引き裂けば、噴水のように勢いよく血を撒き散らしながら竜は絶命する。
「……違う」
事切れた竜には目もくれぬまま、カイムは言葉を漏らす。
こんな物では駄目だ。
物足りない。
俺が欲すものは――。
空を見上げ思い返す。
契約した赤き竜と訣別し、剣と炎を交わしていた時、突然神殿が崩れた。
咄嗟に剣に込められていた魔力を解放し、気がついたら瓦礫の中に埋もれていた。
生きている、と解った瞬間、思わず自分自身に嘲ったのを覚えている。
何も残されていない癖に、そんなに生きていたいのかと。だが、襲い来る他の竜を相手にしている間に理解した。
別に命が惜しかった訳ではなく、俺は死ねるのならあの闘いの中で死にたいのだと。
「……っ」
思い出すだけで身体が奮える。
あの高揚。
今までのどの戦よりも上等だった。
自分が求めて止まないのは只それだけ。
だから。
「早く俺を殺しに、俺に殺されにこい」
熱に浮かされたような掠れた声で、カイムは呟く。
その時、求めていた声を聞いた気がした。