望んでいた邂合を果たした竜と男。
歓喜の叫びと共に互いの力が激突する。
闘いの結末は――。
* * *
「お前の……勝ち、か」
がくりと両膝を地につけたがら、男――カイムは竜を見上げた。
煤と軽い火傷が窺える身体に決定打となったのは抑えた腹部だった。押し付けた掌から朱い色が零れ出し、大地へと吸い込まれてゆく。
「いや、相討ちと言うやつだろう。今のは効いた。我ももう動けぬ」
カイムの言葉を竜は笑いながら否定した。
竜もカイムと同様、腹部に傷を負っていた。
溢れる血は白い腹部を赤く濡らしている。
「同じ位置の傷で死ぬのか。契約は破棄したんじゃなかったのか?」
「そういうこともあるのだろう。全く、運命とは不可思議なものよ」
皮肉るように口元を歪めるカイムに竜は淡々とした口調で返した。
僅かな沈黙。
再び竜は口を開く。
「カイム」
不意に名を呼ばれ、カイムは不思議そうに竜を見つめた。
「我はお主には悠久と感じられる時間を生きてきた。だから此処で果てる事に悔いはない。だが、お主は」
「お主はこの結末で満足か?」
「……なんだ」
そんなことか、とカイムは拍子抜けした。
人並みの幸福など、あの時から求めていない。
思う存分殺戮を楽しみ、そして最後に望んでいた願いは叶えられた。
これ以上何を求めればいいのか逆に訊ねたいくらいだ。
無い、と答えようとした時、ふとある事実に気が付いた。
どうせ最後だ、丁度いいとカイムは口を開く。
「……名前」
「名前?」
「今気が付いたが俺はお前の名を聞いていない。心残りかは解らないが気にかかる事と言えばそれくらいだ。自分を殺す相手の名前ぐらい知っておきたい」
それぐらいなら、構わないだろう?
最後の言葉は声にならず掠れた空気となって口から漏れる。
が、伝えたかった言葉はほぼ口に出来たのでカイムにとって問題は無かった。
一方竜は。
「ふむ……そうさな」
カイムの姿を眺めて、考え込むような仕草をした。
そのまま素直に口にするかと思ったが。
「残念だが了承出来ぬ願いだな」
意外にも返ってきたのは否定の言葉。
何故、と視線だけで問いかければ竜は瞳を細めて言う。
「名前を教えた以上は、呼ばれなくては意味が無い。今のお主には無理そうだからな」
「全てお見通しか」
そう呟いたつもりだったが、喉から出たのは風が鳴るような音だけだった。
「悪いな。応える事が出来ずに」
――気にするな
申し訳無さそうな竜の声にカイムは緩く首を振った。
段々と視界が霞んでくる。
血を流し過ぎたのか意識も虚ろだ。
こんな状態では覚えていられるかも解らない。
元よりふと思い付いただけなのだから。
だが、竜は変わらずバツが悪そうな様子だ。
――それほど気に病むのなら素直に言ってしまえばいいものを。
そうは思うがもはや言葉は紡げない。
それに竜にも誇りはあるのだろう。
だから、少しでも罪悪感を減らしてやろうとカイムは竜の身体へと身を寄せた。
「カイム……」
柔らかな声で名前を呼ばれるのが心地よくて、カイムは目蓋を閉じる。
死の気配は確実に近づいていたが。
心はとても満ち足りていた。