どうして兄妹で愛し合ってはいけないのかしら?
男と女で。
他の誰よりも傍にいる時間が多くて。
その分誰よりも解り合える。
ほら、こんなに恋をする条件がそろっているんですもの。
私が兄さんを好きになってしまうのは、別に不思議でもなんでもないわ。
* * *
「……兄さん?」
扉を軽く叩いて、兄さんを呼ぶと。
「……フリアエ?どうしたんだ?」
少ししてから扉が開いて、兄さんが顔を覗かせた。
「さっき先生から歴史を教わったんだけれどよく解らなくて……教えて欲しいんです」
用意していた台詞と教科書を見せて言えば。
「そうか。じゃあ、ほら」
兄さんは扉を更に開いて、部屋へ入れてくれた。
「ああ、ここか。これは……」
私から教科書を受け取り頁の内容を確認すると、兄さんは淀みのない口調で説明を始めた。
その声に耳を傾けながら、私はうっとりと瞳を閉じる。
兄さんの声を聴いていると、イウヴァルトの歌を思い出す。
抱く気持ちがよく似ているから。
でもこの二つは決定的に違う。だってイウヴァルトの歌は『嫌な事があった時』や『辛い時』に聴きたくなるけれど。
兄さんの声は『嬉しい時』にこそもっと聴きたくなる。
「フリアエ、理解出来たか?」
説明を終えた兄さんが私を見つめて訊ねてくる。
頷いて。
「はい。つまり――」
と説明をすれば。
「ああ、その通りだ。何だしっかり理解できているじゃないか」
兄さんはそう言って笑う。
正直に告白してしまえば、解らない箇所なんて無い。
只、兄さんの声を聴きたくて解らない振りをしているだけ。
それに気付かれないよう。
「フフ、兄さんがとても解りやすく教えてくれましたから。ありがとうございます」
感謝の言葉を述べた後、お礼と称して兄さんの頬に触れるだけの口付けをする。
「フリアエ」
「だって」
戸惑いながら軽く睨み付けてくる兄さんに私は拗ねたように頬を膨らます。
仕方ないじゃない。
私は兄さんが大好きなんだから。
これくらいしても許されるわ。
「……」
兄さんは困ったようにため息を吐くと、机に置かれた時計に眼を向ける。
「もうこんな時間か」
驚いたように眼を見開く兄さんに。
「稽古の時間ですか?」
訊ねれば兄さんは小さく頷きながら立ち上がると。
「ああ、急がないと張り切っているイウヴァルトにまた文句を言われる」
脇に置かれた剣を手にして扉の方へと歩き出した。
「気をつけて下さいね」
「嗚呼」
兄さんは背を向けたまま返事をするとそのまま扉を開けて出ていった。
「……」
一人残された部屋で私は兄さんを想う。
ねぇ、兄さん。
私こんなに兄さんの事が好きなのよ?
だから兄さんも。
早く私を好きになって。