荒れ果てた大地に竜が一匹佇んでいた。
此処は何処なのか。
何故、自分はこの場にいるのか。
その事に関して、竜の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。
覚えているのは、契約者の名前だけ。
「カイ……」
その名を口にしようとした途端、濁流の様に竜の中に何かが流れ込んできた。
「……そうだったな。奴はとっくの昔に寿命が来たのだったな」
次々と甦る記憶の数々。
唯一の肉親すら奪われた契約者は、怒り・絶望を全て剣に注ぎ振るう。
結果その力は教会の司教はおろか創造神すらも打ち倒し、世界を神の呪縛から解き放った。
世界は救われ、待ち望んでいた平和を与えた契約者と竜は英雄として扱われた。
悪くない時間だった……と思う。
だと言うのに。
これ程までに虚しさを感じるのはどうしてか。
「そうか」
竜は理解する。
契約者が傍にいないからだと。
「奴の寿命の長さなど承知していた筈だったがな」
頭で理解していようと心が納得していなければ意味が無い。
塞がる術を持たない穴はどんどん広がって、竜の全てを飲み込んでいく。
「お主を喪ったのに……何故我はこうして生きているのだろうな」
* * *
――こんな時間に眠るなんて珍しいこともあるものだ。
突然響いてきた声に誘われるように、竜は閉じていた目蓋を押し上げた。
すると、毛布を片手に物珍しそうに此方を眺めているカイムの姿が。
「……」
竜の頭は混乱したが、間もなく己が眠っていた事に気が付いた。
『夢か』
解った瞬間、思わず安堵の溜め息が出た。どうやら自分でも気付かぬ程、緊張していたらしい。
カイムはそんな竜の様子を不思議そうな目で見た後、何時もの様に後脚へ身体を預け毛布を引き寄せる。
触れてくる体温に心地よさを感じながら、竜はカイムへ視線を向けた。
そして考える。
もし。
もし、夢の様な未来が訪れたら。
「……カイム」
――何だ?
「今のお主の調子では、長生きは出来そうにないな」
竜の口調は未来を言っている、というよりはまるでそれを望んでいるようであった。
――何を今更。俺だって天寿を全う出来るとは思っていないし、するつもりもないさ。
カイムは竜の言葉を鼻で笑い。
――俺は、死ぬのなら戦いの中で死にたい。
そう呟いた。
――戦って、戦って、大地をこれ以上ない程紅く染めて。
――剣も振るえなくなるまで戦い抜いて、己と倒した相手にまみれながら、最後を
最後は言葉にならずに、カイムの喉を震わせた。
その姿に竜は苦笑を溢しながらも、すっかり何時もの調子を取り戻していた。
「フン、相変わらずの奴よの。まあ、戦場を理想の死に場所とするのは勝手だが明日・明後日で実行するなどという無様は晒してくれるなよ?」
――当たり前だ。まだまだ殺し足りない。満足出来るまで死ぬつもりはないさ。
不敵な笑みを浮かべながら竜の言葉に答えると、カイムは身体を丸めて眠りの姿勢を取った。
その姿を見届けてから、竜も目蓋を閉じる。
眠りにつく直前、竜は思う。
例え先がなくとも。
夢の様に生きるよりは、契約者と共に果てる方が今の自分には幸福である、と。