完全に趣味です。
誤字脱字のご指摘よろです。
更新ペースは不定期。できれば最後まで頑張りたいと思います。
あ、これ、死んだな。
すぐに直感した。頭が基本バカな俺でも一瞬先の未来が分かってしまうほどの濃厚な死が、俺の眼前に迫っていた。
目の前には、不自然な態勢で地面すれすれを舞う女性の姿。
そして真横には、ものすごいスピードで俺をひき殺そうとしているトラックの姿。
俺はやけにゆっくりと流れていく時間の中で、その二つを視認して、そして思わずほっとした。
トラックの射程圏内に、俺が突き飛ばした女性は入っていないのだ。それはつまり、ちゃんと助けれたってことで、俺はそのことに、一瞬だけ達成感を覚えた。
そして、次の瞬間。
俺、朝比奈空太は、俺の体がひしゃげる音を確かにこの耳で聞いたのだった。
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「そして、目を覚ますと路地裏に倒れていたのだった…って、なんじゃそりゃ」
気を失う直前の記憶を反芻し終わって、俺は思わずつぶやいた。つぶやかざるを得なかった。目をぱちくりと呆然とした様子であたりを見渡して、そして俺はのろのろと立ち上がった。
「…ここ、どこだよ」
いや、さっき言った通り、ここはどこかの路地裏なのだろう。
苔むしたレンガの地面。石で作られた建物が、俺の左右から迫ってきて、嫌な圧迫感と冷たい感じを伴って空を長方形に切り取っていた。
俺、女の人をトラックから守って轢かれたと思ったら、路地裏に捨てられてた件。
「…どういうことだよ」
つまり、実は俺は全然トラックに引かれてなくてそのまま気絶して、しかもあの女性も普通にトラックを避けれるくらいの余裕はあったっぽくて、勘違いしたこの不細工男だっせえ路地裏に捨てとこう、みたいな感じだったわけか。
「…ははは、だからって路地裏にぽいはないだろ…」
なんか、恥ずかしいやら悲しいやらでもうどうすればいいのか。あれ、おかしいな。目から海水が…。
「まあいいや。うん、引かれなかっただけでも御の字ってことにしと…こ…」
そして俺は気が付いた。
今更気が付いた。どうして一番初めから気が付かなかったのか、俺にはまったくわからない。
いや、だけど、そうそう信じられることではないだろう。これは、流石に。
「…あれ、俺、こんなに背小っちゃかったっけ」
俺から見た、まったく見たことのない路地裏の広がる世界は、これ以上にないほど広くて、大きくなっていた。
つまり、つまり何だ。あれだ、体は子供、頭脳は大人。その名も…。
「いやいやいや。無い無い無い。ありえねえから。トラックから女性助けようとしたら路地裏にぽいされてしかも子供に逆戻りとかどんな等価交換だよ」
ははは、と俺は、とにかく自然に、あたりさわりなく股間に手をやった。子供と大人の男の一番の違いって言ったら、そりゃここだろう。うん。まあ、どうせ変わってなんかないだろうけどね?一応ってこともあるのかもしれない可能性が山のごとし、みたいな…。
すかっ、すかっ…。
「って、あれ!?無い!?ナンデ!?ナンデ!?」
あれ、おかしいぞ!?いくら子供になったからって、マイサンが完全になくなるなんてことあるのか!?子供のころの俺ってそんなに小さかったっけ!?
いやいやいや、これは小さいとかそういうレベルじゃない!そう、このつるつる加減。そしてこの割れ目!これは、これはまさしく!
女の子の…!
「…ははは。ははははは…え?」
女…の子…だと…?
「…マジかよ…マジかよ…」
俺はくらくらする頭を何とか壁に手をついて支えて、そして自分の顔に手を這わせた。
モチモチとした肌触り。ぷにぷにとした唇。そして瞼。極めつけは、さらりと流れた何かの束だった。
「…金…髪…?」
さらりと落ちたそれは、美しい金色をした、やわらかな髪の毛だった。それが、セミロングほどまで伸びていた。
そして、俺はやっと理解した。
俺は、どうやら完全にロリになってしまったようだ。
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「…で、ここはどこだよ」
しばらくしてぼおっとしてやっと落ち着いた俺は、もう一度あたりを見渡した。
路地裏。うん、路地裏だ。だけど、床とか壁とかの材質が都会のそれとはかけ離れすぎてるし、雰囲気がすでに日本っぽくないんだよな。
どちらかっていうとヨーロッパの写真集でよく見るような感じの路地裏だ。
「…とりあえず表に出よう」
てちてちと歩き出す。ついさっき気が付いたことだが、俺の服がいつの間にか引かれる直前まで着ていたジャージから汚い薄汚れた布にチェンジされていた。どういうことなの。
当然足は裸足だ。現代日本人としては裸足で外を出歩くのにかなりの違和感。
「お、出口」
ざわざわと人の声も聞こえる。俺は小走りでそこまで走って、そしてその先をのぞき込んでーーーー
「…って、何じゃこりゃああああ!?」
ーーーー目を見開いて叫んでいた。
ゲームでよく見るような無骨な大剣を背に歩く大柄の鎧集団。やけに露出の多い女性たちの頭やしっぽからは、動物の耳が当たり前のように生えて動いていた。背の小さな、明らかに低年齢の少年が大の男たちと酒を飲み交わして騒いでいる。
そして、何よりもまず目を引いたのが、あれだ。
巨大な塔。雲を容易に貫き、天まで届かんとするほどの塔がそびえたっていた。
「す、すげー」
まさにファンタジー。俺はそんな光景を目の当たりにして、思わずそうつぶやいた。
すると真横から影が動く気配が。そちらの方向を見上げると、屋台から大きなおじさんが迷惑そうな顔で「こら!」としゃべりかけてきた。
「お前、うちの真横で叫ぶんじゃねえよ!ガキはとっととママのところに戻ってな!」
「なあなあ。おっちゃん。あれって何なの?あのでっかいの」
「聞けよ人の話!」
とか言いつつ俺の指さした方向を見てくれるおっちゃんすこ。
「ああ?なんだお前、まさかあれを知らねえとかいうんじゃねえだろうな」
「おう。まったく知らん!」
「胸を張って言うなよ!子供のくせに妙なやつだな!」
「ほらほら、早く教えてプリーズ」
おっさんは呆れたような顔をしながらも、俺の質問に答えてくれた。
あの塔の名前はバベル。この街の名前は迷宮都市オラリオ。ダンジョンと呼ばれる魔物たちの巣窟を中心に繁栄した街であり、あのバベルはそのダンジョンの蓋の役割を持つのだとか。
さらにさらに、道を歩くもののふ達は冒険者。神様ってやつのファミリアってのに加わって体を強化して、ダンジョンに挑み金を稼ぐらしい。
「思った以上にファンタジー過ぎて泣きそうだ…」
「おいおい、軒先で泣かれちゃいい迷惑だ。ち…、これやるからとっとと機嫌直せ」
涙目になった俺を見て、おっちゃんがリンゴみたいな果物を一つ恵んでくれた。なんだこのイケメン。
「ほら、早くママのところに戻りな。もう日も沈むぜ」
「おう…おっちゃん、いい奴だな。はげてても気にすんな!十分イケメンだぜ!」
「うっせえな!気にしてることずばっというな!」
俺はおっちゃんにガッツポーズで挨拶して歩き出す。あまり長居しても迷惑だしな。じゃあなイケメンおやじ。
「気ぃ付けて帰れよー!」
最後の最後までイケメンなおっちゃんなのであった。