日向の悪鬼   作:あっぷる

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十二話 音の忍

「どんな方たちかと思ったら、なるほど。私よりも齢の低い子どもたちじゃない」

 

 なよは不敵に微笑み、五十メートル先の木の上にいた音の四人を見上げた。

 その手には山菜採りに使われていた古びた鎌が握られており、べっとりと脂ぎった赤黒い血で染まっていた。

 

 その時、ようやく彼ら四人は標的であった日向なよがただの娘ではなかったことに気づく。

 なよが暗部とどうつながりがあるかまではわからないが、彼女は間違いなく異端な者である、と。でなければ多由也が口寄せした怒鬼たちをまるで羽虫のように斬り殺すことなどできはしないのだから。

 

「鬼童丸、多由也! お前たちは援護に回れ。俺と次郎坊で奴の相手をする」

 

 左近は咄嗟にメンバーに指示を出した。

 相手の実力がどれだけのものかは計り知れない。だがあの怒鬼たちを単体で撃破するなど、彼ら四人の実力でも難しい。

 もちろん彼ら一人一人は大蛇丸直々に選抜された実力者だ。あの体長三メートルの体格を誇る怒鬼相手でも優位に戦局を運ぶことはできるだろう。しかしそれでもあんな短い間にバラバラにすることなどできはしない。

 つまり彼女は少なくとも彼ら単体よりも殺戮能力が上であり、全員で戦わなければならない相手ということに他ならなかった。

 

「次郎坊、行くぞ!」

 

 左近と次郎坊は一直線になよへ向けて突進を仕掛ける。彼らの体にはすでに大蛇丸から授けられた呪印がくっきりと浮かび上がっていた。

 

「ふふ、不思議な模様ですね。けどそれ、長く使っていると心身ともに壊れてしまうのではないですか?」

 

「わかったような口利いてんじゃねえぞ、この糞女がっ! 次郎坊!」

 

「わかってる」

 

 次郎坊はなよ目掛けて腕を大きく振りかぶり、そして殴りつけた。次郎坊はこの四人のなかで随一の怪力を誇る。重さ一トンの岩をも持ち上げることができるほどだ。それに彼は呪印を”状態一”まで解放しており、通常時の倍以上の力を出すことができる。そんな彼の一撃がまともに当たれば当然華奢な体であるなよが無事で済むはずがない。

 

「なかなかのお力ですね」

 

 しかしなよはそんな彼の攻撃をわずかに横へずれることで回避した。破壊対象を失ったその拳は地面を貫き、地割れを引き起こした。

 

「後ろががら空きだ、糞野郎」

 

 次郎坊が仕掛けている間に背後を取った左近はクナイを握りなよに斬りかかった。長年チームを組んでいる二人の連携。足場が崩れ、さらには死角からの攻撃を捌ききる人間など過去にはいなかった。

 だがなよは左近による死角をついた攻撃を振り返ることもせず、危うげなく避けた。

 

 しかし左近の攻撃はそれだけでは終わらない。

 彼の肘から新たに腕が生え、なよに掴みかかったのだ。

 体から新たな部位が生えるなど常人ならばありえないことではあるが、左近の血継限界・双魔の攻はそれを可能にする。彼の体は双子の兄である右近と体を共有されており、その体から右近の手足、頭を現すことができるのである。

 

「面白い体質ですね」

 

 だがその異形染みた不意打ちですら、なよは体をわずかにそらしただけで躱してしまった。

 

「こいつ……、俺たちの動きが見えてるのか!?」

 

 そして鬼童丸、多由也によって遠方から投擲された数多の手裏剣も、なよは右手に持っていた鎌で一つ残らず弾き、再び殴りかかろうとしてきた次郎坊を蹴り飛ばした。

 

「あら……、思ったより硬いんですね」

 

 なよはその蹴り飛ばした先を見つめる。

 そこには全身の筋肉が膨張し、血が体中で沸騰しているかのように肌を赤くさせた次郎坊の姿があった。

 

「オラッ! 糞女! かかってこいや!!」

 

 次郎坊はぶちぎれて怒声をなよに投げかけた。

 次郎坊はなよに蹴り飛ばされる直前、呪印を”状態二”にまで解放させていた。それにより、長時間使用によるリスクはさらに伴うが”状態一”に比べ十倍以上のチャクラを得たのである。

 そのため殺人的なチャクラを纏わせたなよの強烈な蹴りにも無傷とまではいかないが十分に耐えることができたのである。

 

「そうですか。ではおかまいなく」

 

 次郎坊の挑発になよはその場から消えたかと錯覚するようなスピードで駆け出した。

 それは先ほどまでの動きとは段違いの速さ。彼女の父ヒザシや伯父ヒアシ、暗部の手練れといった強者たちの動きを見取ってきたからこその体捌きであった。

 その速さには知覚すらも格段に向上した次郎坊も完全に捉えることができなかった。

 

 しかしなよが次郎坊へ迫る直前、戦場に奇妙なほどに惹きつけられる音色が響いた。

 途端、なよは動きが止まり糸が弛んだマリオネットのように膝をついた。

 

「けっ、脳筋どもが。最初からこうしておけばよかったんじゃねえか」

 

 木々がこすれる音とともに、魔笛を持った多由也と、忍術”蜘蛛粘金”で生成した大弓を携えた鬼童丸が次郎坊の前に降り立った。

 彼らもすでに次郎坊と同じく呪印を”状態二”にまで解放させていた。

 

「カブトさんの情報ではこいつは忍ではないらしい。忍ではないやつでも確かに桁外れに強い者はいる。大蛇丸様が連れてくる実験体の中にもそういうやつはいた。だがそういったやつは漏れなくこうした搦め手には弱い。何せ忍としての訓練なんてされていないんだからな」

 

 そう言って多由也は膝をついているなよを見下ろした。

 彼女が使った術は”魔笛・夢幻音鎖”。聴覚により相手の動きを封じる幻術であり、彼女が使う術のなかでも強力な術であった。

 

「さっきはよくも私の下僕たちを殺してくれたな。大蛇丸様からの命令でなるべく殺すなと言われているが手足の二三本落としていっても問題ないよな? つってももう私の幻術で何も聞こえてないか」

 

「おい多由也。気をつけろよ。こいつ化け物染みた強さだ。幻術にかかっているとはいえ、何かしでかすかもしれん」

 

「わかってるよ、デブ」

 

 多由也の幻術が強力であることは仲間である彼らが一番よく知っている。だが目の前の女は並みの使い手ではない。”状態二”になった彼らでさえ、まともに殺りあえばただでは済まないことは明白であったのだから。

 

「しかし暗部がこの女と関わりがあるのだとしたら、よっぽど木の葉はこの女を隠したがっているらしい。予想外に大きな手柄を挙げられたな」

 

 左近はなよを見ながらそうつぶやいた。

 先ほどは君麻呂に手柄を渡してしまったが、特異な力をもつこの女を捕らえた方が功績としてはだいぶ大きい。なよが大蛇丸にどのような扱いを受けるかなど知らないが、自身たちにとって大きな誉れになることは間違いないだろう。

 

 しかし瞬間、左近は背筋にぞくりとした寒さを感じた。

 自身の主大蛇丸が放つようなおぞましい悪意の奔流。それが口角を不気味に歪ませている目の前の女から漏れ出ていたのだ。

 

「多由也! その女からすぐに離れろ!!」

 

 左近は即座に叫んだ。そして左近とほぼ同時になよの異変に気付いた次郎坊はすぐに術を放つ。

 

「土遁結界・土牢堂無!!」

 

 瞬く間に高さ三メートル、厚さ五十センチもの頑強な土壁がドーム状になってなよを閉じ込めた。この土壁はただの壁ではなく、術者によって制御された堅牢なる結界。そう簡単に突破できるものではなかった。

 

 だが次の瞬間、出来上がった土のドームはまるでバターを切ったかのように裂け、その裂け目からチャクラを纏った鎌を持ってなよが飛び出した。

 そして一番近くにいた多由也の首裏に手刀を落とし、一瞬にして多由也の意識を刈り取った。

 

「多由也!」

 

 己の結界術を破られたばかりか多由也を戦闘不能へ追いやったなよに憤り、次郎坊は彼女に向けて全力で拳を振り下した。

 ”状態二”となった次郎坊はパワーはもちろん。スピードも格段に上昇している。普段はさほど速くない彼であるが、この状態になれば上忍クラスのスピードにもなろう。

 だがなよはそんなことなど意にも介さず、軽やかにその拳を躱した。そして彼の襟を掴み軽々と持ち上げ、鬼童丸が密かに放った大矢の盾とした。

 

「ゲフ……、この女……!」

 

 鬼童丸の放った大矢は次郎坊の腹を貫き、そこからはとめどなく血が溢れ出た。そしてなよは次郎坊に止めを刺すわけでもなく、その重い躰を数メートル離れた木に放り投げた。それはなよのようなか細い少女には到底出せる力ではなかった。

 

「どうしてだ! どうして多由也の幻術が効かねえ!? それにどうなってんだその馬鹿力は!?」

 

 瞬く間に二人の仲間を倒された左近が声を荒らげた。

 それに対してなよはにべもなく答えた。

 

「日向の人間にこの程度の幻術は効きませんよ。それにあの太った子の怪力を何回も見ていればそりゃあ種くらい見抜けてしまうものです。私は目だけはいいので」

 

 恐れを抱き冷や汗を流す左近と鬼童丸へ、なよはにじり寄る。

 

「さて、あなた方はこれで半分になったわけですがどうしますか? あなた方程度何人で来ようとも捻り潰すことなど造作もないのですが、用件くらいはお聞きしたいものですね」

 

 思わず後ずさりしてしまいたくなる状況。

 しかし彼らはここで逃げてしまうほど臆病ではない。でなければ彼らはここまで生きてはこれなかったのだから。だが同時にこの形勢をどう乗り切れるかを考えられるほどに冷静ではいられなかった。

 

「舐めんじゃねえ! 糞女が!」

 

 それ故に彼らが選ぶは徹底抗戦。

 左近は体を共有する右近と分裂し、双子ならではの連携でなよを攻めた。

 鬼童丸は六本ある腕にそれぞれ”蜘蛛粘金”で生成した小刀を持ち、人の枠を超越した手数でなよに応戦した。

 

 だがそれでも足りなかった。

 左近と右近が得意とする連携はあらゆる動きが予知されているかのように躱され、鬼童丸の多数の腕による攻撃はすべていなされた。

 

「変わった術を使っていたので体術も期待していたのですが、こちらはいたって平凡だわ。お父様やヒアシ様に比べたら大したことありませんね」

 

 一閃。

 なよが彼らの包囲網を抜けた途端、右近の腹が抉れ、鬼童丸の腕が二本吹き飛んだ。すれ違いざまになよが手に持つ鎌で二人を斬り刻んだのである。

 

「残りはあなただけですね。私を襲った理由、否が応でも聞かせてもらいますよ」

 

 そしてなよは最後に残った左近の首根っこを片手で持ち上げた。

 左近は必死でもがくが、一回りも体格の小さいなよの拘束から逃れることができなかった。むしろ徐々に彼女の手に力が入り首が締まってきていた。

 なよは悪戯をした子どもを諭すかのように優しく笑みを浮かべた。

 

「あなたの分裂体も含めて五人もいますからね。一人くらい壊してしまっても問題ないでしょう。さて、あなたはお話の分かる子ですか?」

 

 

 

 しかし首を締めあげられ左近が今にも意識を落とされそうになっていたその時、首を絞めていたなよの左手に突然暗部の仮面が投げつけられた。

 なよの体に傷をつけるほどの投擲物ではなかったものの、左近の拘束を緩めるには十分であり、左近はなよの腕から解放された。

 

 そして仮面が投擲された方向から人影が猛烈なスピードでなよへ迫り、その手に持っていた白い刃をなよに振り下ろした。

 なよは寸前でその刃を手に持つ鎌で受け、後退を余儀なくされた。

 

「あら……」

 

 そしてなよは手元を見て素っ頓狂な声を上げる。

 チャクラを纏い切れ味を強化されてあったはずの鎌は鋭い金属音とともに弾かれたのである。人体や土遁でできた土壁でさえ切裂くことができた鎌が彼の持つ武器を破壊できなかったのだ。

 

「君麻呂……」

 

 左近は朦朧とする意識のなか、己を助け出した者を見上げる。

 皮肉にも彼は左近が恨み、憎み、己の主に次いで恐怖を抱く者であった。

 

「お前……、あの暗部どもはどうした」

 

「当然、皆殺しにした。思ったよりも時間がかかってしまったけどね」

 

「ちっ、嫌味な野郎だ……」

 

「それよりこの状況はどういうことだ? 音の五人衆たる君たちが、彼女を捕らえることはおろか全滅ではないか。大蛇丸様の顔に泥を塗るつもりか?」

 

 君麻呂は周囲を見渡す。

 左近を含め、なよに挑んだ者は深い傷を負っているか意識を奪われていた。殺さずに戦闘不能にされているということは紛れもなく手加減されていたことに他ならない。

 

「油断するなよ……。あの女は化け物だ。だが俺とお前が協力すれば……」

 

「思い上がるなよ、左近。僕は暗部との戦いの時も言ったはずだ。足手まといだから邪魔するなと。お前はもう彼女に負けている。その震えた腕じゃろくにクナイも持てないだろう。君はおとなしく仲間を回収して手当をしていろ」

 

 君麻呂は左近にそう言い放ち、一歩前に出た。

 

「待たせた。どうやら僕の仲間が世話になったみたいだね」

 

「いえいえ、世話になったなんてとんでもない。ところであなたの持っているその武器。ずいぶんと丈夫なんですね。何という武器なんですか」

 

「戦えば言わずとも分かるさ」

 

 君麻呂は木の葉の暗部たちを殺し、なよは彼の仲間四人を倒した。互いに凡人の域を遥かに超越した化生の身。

 

 唐風が吹き、木々から木の葉が舞う戦場。二人は示し合わせたかのように互いに迫り、己が手に持つ得物をぶつけ合わせた。




次回、日向のやべえ奴 vs 音のやべえ奴
ちなみにこの君麻呂は病にかかってないベリーハードモードなので原作よりだいぶ強いです。
というか君麻呂は終盤で各里の歴代レジェンドとともに穢土転され、九尾チャクラモードナルト(分身)と鉄の国の軍勢を前にして穢土転が切れるまで封印されずに戦い続けるくらい強いです。
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