日向の悪鬼   作:あっぷる

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八話 うちは一族

うちはイタチたちが追っていた抜け忍はなよによって殺された。

だがイタチは仲間たちと里には彼女の付き人ハナと相討ったと報告した。

別にイタチはなよが自身が殺したと自供していることを疑っているわけではない。むしろイタチはなよがやったのは確実であると踏んでいる。

 

しかしわずか10歳ばかりのただの少女が屈強な忍三人を殺せるなど通常ありえない。数多の死線を乗り越えてきた上忍でさえ五分五分と言ったところか。

つまり日向なよという少女は異常性を孕んでいると言っていいだろう。

 

果たしてそんな少女を里は放っておくだろうか。いや、放っておくはずがない。

休戦期とは言え、どの里も今は貪欲に戦力を求めている。里にとって彼女の存在は貴重なのである。

しかし同時にイタチは確信している。

彼女は決して里ではコントロールできないことを。あれはそういった生易しい存在などではない。

おそらく日向のなかでも彼女の異常性に気が付いた人物はいるであろう。その人物もそれを理解したが故に里から離れたこの地に彼女を流したにちがいなかった。

 

だが里から離されたからといって彼女が暴発しないという保証はない。

大切な付き人が殺されたとはいえ、あの有り様なのだ。いつ彼女が暴走してもおかしくはないのである。

 

だが幸いというべきか。

イタチはこの件よりしばらくの間この地域を管轄することになった。ちょうど前任者が別の任に就き、この地を調査してきたイタチの実績を買われ彼がその代わりになったのだ。

 

それからイタチは任務の合間を見つけてはなよに会いに行くようになった。

イタチにとってなよは何をしでかすか分からない危険人物である。突然彼の写輪眼に手を伸ばすほどなのだから。

 

しかしそれと同時に彼女は放っておくことのできない少女でもあった。

なよに触れるにつれて彼女は花を愛でる優しい少女であり、また自身と同じく弟を溺愛する者であることを知った。

最初は監視対象であったものが、お互い世間話をする知人のような関係になっていった。

なよの正の側面を知っていくにつれ、イタチは少女が歪まず正しい道を歩める可能性を信じてみたくなった。

 

だがもちろん甘いばかりではない。

万が一木の葉に害なす存在だと知れば、迷わず彼女と一戦交える覚悟はしていた。とはいえこれはイタチとて本望ではないのだが。

 

 

 

しかしこうしたイタチとなよの関わりは1年と少しばかりで終わりを告げる。

というのもうちはイタチが突如暗部部隊に転籍になったのだ。

 

通常十二歳ばかりの少年が暗部入りすることはない。たとえ実力があったとしても暗部の任務はまだ自我が形成しきれていない子どもにとっては人格を破壊してしまう恐れがあるからだ。

 

しかしイタチの場合は特殊だった。

彼はうちはの人間でありながら、里のことを第一に考えられる忍だった。

現在うちはと木の葉隠れの里との間では深い確執がある。それは木の葉隠れ創世記より存在する深い溝。

九尾事件以来、さらに大きくなっていく確執はいつクーデターを起こしても不思議ではなかった。

 

そのため木の葉は里を優先し、かつうちはとのパイプ役になれる人材としてイタチを機密部隊である暗部に登用したのである。

 

しかし彼を暗部入りさせたところで両者の関係が改善することはなかった。

木の葉とうちははますます反目しあっていった。

それは取り返しのつかないところまで終わることはなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木の葉隠れの忍うちはシスイは湯の国からの任務の帰り、謀られていたかの如く襲撃を受けていた。

 

「悪いがシスイ、お前にはここで死んでもらう」

 

相手は木の葉の重鎮志村ダンゾウとその部下の暗部4人であった。

シスイは里とうちはが和平する道を模索していた。彼はうちははもちろんのこと里のことをも愛する心優しき青年だった。

そのため彼はうちは一族迫害を主張する里の強硬派を抑え、クーデターを検討しているうちは一族の説得を熱心に行ってきたのである。

 

しかしその行為はダンゾウにとって芳しいものではなかった。

里とうちはが割れるのはすでに回避できない段階になっている。

確かに話し合いで解決できるものならそれほど素晴らしいものはない。だがもうすでにその段階はとうに過ぎ去っていた。

ダンゾウにとってシスイの行為はただ無駄に問題を先送りにしているにすぎない。そんな中途半端な態度が続けば無意味に時間をうちはに与え、力を蓄える機会を与えることになる。

今一番しなくてはいけないのは速やかにうちはを無力化させ里の危機を最小限に留めることなのだから。

 

そのためダンゾウは和平派のシスイを暗殺することを決意した。

シスイが他国への単独任務の帰りを狙って犯行を行ったのだ。もちろんその他国への単独任務はダンゾウが手を回してシスイが受けるよう誘導させたもの。

 

「ダンゾウ様! あなたは間違っている! あなたのやり方では禍根が残りいずれ里に大きな災いをもたらす!」

 

「間違っているのはお前だ。どんなやり方にせよ禍根は残るものだ。痛みを伴わない政治など存在せん。上っ面の理想で物事を語るでない」

 

逃げるシスイに追手の暗部たちは数多の手裏剣を放つ。

“瞬身のシスイ”と異名を持つ彼だが、他国へ遠征した任務の帰りでは当然疲労が溜まっている。まともな直撃こそなかったものの、いくつもの切り傷が彼の体に刻まれた。

 

シスイは疾走しながらこの状況を打破する策を考える。

このまま逃げ続けてもジリ貧であろう。

シスイは己のスピードに自信はあるものの、今のコンディションが万全というわけではない。

また追手はこうした追跡戦になることは想定済みのはずだ。

実際に追手に隙などなく、飛んでくる忍具や術は実に巧妙だった。

 

このまま逃げていても体力の差で軍配が向こうにあるのは明白だ。

多人数を相手にするには愚策でしかないが迎え撃つよりほか方法は残されていない。

 

シスイは木々が生い茂る森林を抜け、戦いやすい広く開けた場所へと移った。

そこには季節外れの月見草が幻想的に咲き乱れ、花々は夜天の半月からの光で妖しく輝いていた。それはあたかもシスイの死にざまを彩るかのようであった。

 

「とうとう観念したか」

 

シスイが振り返るとすでにダンゾウたちは戦列を整え、構えていた。

 

「いや、俺は生き残って里に戻るさ」

 

「そうか、それは困ったことだ」

 

ダンゾウは手を振りかざし部下に合図をする。

すると一斉に部下はチャクラを練り込んだ。

 

「風遁・真空大連波っ!!」

 

途端、猛烈なかまいたちの束がシスイへ殺到した。

上忍クラス4人の忍によって繰り出すこの忍術は軍隊さえも容易に壊滅させるだけの威力を持っている。術範囲も恐ろしいほど広く、一度この術にとらわれたら最後生き残ることなど絶望的である。

 

「やったか?」

 

暗部の一人が声を出す。

術の余波で草花は根元から抉れ、すさまじい砂埃を起こした。

 

「いや、まだだ」

 

ダンゾウは目の前を睨みつける。

そこには四メートルはあろうか、巨大な人骨がシスイの周りを覆っていた。

 

「ほう、須佐能乎とは……。やはり万華鏡写輪眼を開眼しておったか。これだからうちはは信用ならん」

 

ダンゾウはその異形とも言える術を知っている。

かつてうちはの名を全世界へ轟かせたうちはマダラが用いていた術であり、彼が無敵と言われた所以だ。

この膨大なチャクラで巨人を形どる須佐能乎はあらゆる物理攻撃を防ぎ、攻撃に回れば山を砕き海を割くとも言われている。

それほどまでに凶悪な術なのだ。

 

「しかしマダラと比べるとずいぶんと弱々しいものよ」

 

だがダンゾウはこの術を熟知している。

かつてもっとも恐れた男の術だからこそ、その弱点を調べ尽くしていた。

 

ダンゾウはシスイに向かって三本のクナイを放つ。

シスイは須佐能乎を操り、その巨人の手で簡単にクナイを払いのけた。莫大なチャクラが込められ具現化した須佐能乎ではクナイ程度ではかすり傷すらつかない。

 

しかしその瞬間、クナイにくくりつけられていた煙玉が破裂した。

シスイの周りには瞬く間に紫色の煙が立ち込める。

 

「これは……毒かっ!!」

 

シスイは急いで須佐能乎の巨大な手で毒煙を払いのけ、その場から後退する。

須佐能乎はほとんどの攻撃を防ぐ盾ではあるが万能ではない。物理的な攻撃やチャクラは通さずとも空気は通すため、毒霧には弱い性質を持っていた。

 

毒霧から脱出したシスイではあったが、突然の毒攻撃に少しばかり毒を吸ってしまう。

(おおやけ)に須佐能乎を習得していると話していないのに、こんなに早く対策を練られるなどシスイは思っていなかった。そこまでにダンゾウという男は抜け目がないのである。

だがたかが毒を少し吸った程度。多少の毒ならシスイほどの忍ならば問題ない。

シスイはさらにチャクラを練り、須佐能乎にチャクラを注いでいく。

 

しかしその時だった。

突然シスイの視界がかすれ始めた。

 

「愚か者め。この毒は雨隠れの黒山椒魚からとれたものだ」

 

黒山椒魚の体液は一滴で何人もの人間を殺せるほどに強力な毒。本来ならば入手は困難な貴重なものではあるが、ダンゾウはかねてより雨隠れの里の里長半蔵と懇意であった。

 

ダンゾウはこの隙を見逃さず、すぐに距離を詰めてシスイの腹部にクナイを突き刺した。毒を喰らってチャクラが乱れた今、シスイの須佐能乎はほとんど機能していなかった。

そしてダンゾウはシスイの右目に手を突っ込み、その写輪眼を奪い取った。

 

「ぐっ!」

 

シスイはすぐさま後ろに下がる。

しかしもはや彼は死に体だ。任務で疲労が蓄積しているところを襲われ、毒をくらい、腹部を刺され、挙句の果てには右目を奪われた。

 

「シスイよ。残念だがここまでだ。ワシはお前のような男は嫌いではないが、木の葉のためだ。死んでくれ」

 

ダンゾウはそう告げてシスイへと歩み寄る。

シスイはもう動くことすら困難であった。

 

しかし、その時であった。

 

「あら、なんでしょうか」

 

突然鈴の音のような少女の澄んだ声が戦場に響いた。

その場にいる誰しもが声のする方向へ振り向く。

するとそこには黒い髪をした色白の少女が立っていた。少女の腕はか細く、間違ってもこのような戦場に似つかわしいとは思えない人物だった。

おそらくこの土地に住まう村の少女が迷い込んでしまったのだろう。

 

しかし可哀そうなことに、少女はうちはシスイ襲撃の現場に居合わせてしまった。

ダンゾウは部下の一人に目配せをする。暗殺は目撃者を出してはならないもの。当然のごとく少女は消される道理となった。

 

部下の一人は確実に少女を消すため、腰に携えていた小刀を持って少女へ駆け出した。

少女は訳も分からないようで、逃げることも声をあげることもせずその場で立ち尽くしていた。

 

「やめろ!」

 

シスイは声を張り上げる。

自身とは関係ない少女が犠牲になることが我慢ならなかったのだろう。しかし悲しいことに満身創痍の彼ではその場を動くことすらできなかった。

 

そして暗部の男は少女の前に迫るや、容赦なく少女の首元めがけて小刀を振り下げた。

誰もが少女が死んだと思ったであろう。暗部の人間に容赦という文字はないのだから。

 

だが少女の首筋に刃があてがわれることはなかった。

刃が迫るや否や、少女は暗部の男の腕を掴み、男が突進してきた勢いそのままに自身の足元へ投げ落とした。

 

それは流れるような動きだった。

決して素人ができるような動きではない。幾年も鍛錬した柔体術のスペシャリストでようやくできる動きだ。

 

倒された男はなぜ自身が仰向けになっているのか全く理解できなかっただろう。そしてその後も理解することはなかった。

 

少女は倒れた男の喉を容赦なく踏み抜いた。

少女のものとは思えない重い一撃は男を絶命させるには十分で、動脈から逃げ場を失った鮮血は辺りの白い月見草を赤く染め上げたのだった。

 

 

 

 




基本的にこの作品のダンゾウさんは有能です。

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