猫とネズミと魔法少女   作:ふぁっと

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第02話 動き続ける「過去」

 

幾億の時を超え

 

 

今再び

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “魔王”―――今や御伽噺にしか語られることの無い魔物たちを統括していた存在。魔物たちの王。人類の敵。

 “旧時代”に存在していたとされるが、どこで何をしていたかなどはあまり詳しく残っていない。どこで猛威を振るい、どこで被害を出したのか。また、誰に倒されたのかも………。

 勇者や英雄たる人物が人の世のために、自ら魔王討伐に出かけたや、魔王は別世界を支配しに行った、など多くの噂が流れているが………真相は既に闇の中となっている。

 

 一つ言えるのは、今では姿を消したが過去には確実に存在していたということだ。

 

 

 

「………………忌々しい“神”め」

 

 今宵は新月。夜闇の中、月明かりさえも無い場所。無骨な岩に腰掛け、彼は本を閉じた。ランプの明かりを消せば、周囲に明かりは無くなり完全な闇が姿を現す。人も植物も無く、魔物さえもいない静かな空間―――静かに風だけが通り過ぎる。

 

「いずれ、また出てくるだろう…………」

 

 そう呟いた言葉には色々な感情が混ざっていた。怒り、哀しみ、憧憬に苦しみ………。彼はすぐにそれらを収めると、闇の中で身支度を整える。男にとって闇は常に周りにあるモノ。今更、闇の中で見えなくなることなどありはしなかった。

 

「それで、あなた一人で戦うつもり?」

 

 その背に言葉が投げつけられるまで、彼は背後の存在に気付かなかった。即座に振り返り、武器を構え―――

 

「………お前か。何の用だ?」

「ふふ、よく分かったわね」

 

 背後にいた存在がよく知った人物であったことに、構えた武器を下ろした。

 

「……………」

「ん、何よ、黙っちゃって。別にあいつの言う通りに進めることはないでしょ?」

「だが……」

「ふふん、それにあの“場所”にいるのは何を隠そう私の子なのよ」

「子? お前に? ………いや、そうか。なるほど」

 

 月の光さえ届かぬ闇の中、両者は何かを話すと、背後の存在は現れた時のように消えた。

 

「………………時は廻り、再び戻ってきたか」

 

 ばさりっとマントを翻し、男もまた歩みを始める。そこには最初から何も無かったかのように風が吹いている、だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…………」

 

 ミリィが気が付くと、周囲は既に夜になっていた。熱の地獄だった砂漠は温度を急激に下げ、深夜になれば氷点下までいくだろう。

 体感温度からして、夜はまだそこまで更けてはいない。

 

「さむっ!というか………よく、あたし魔物に襲われなかったわね」

 

 いつもある自分を囲う結界も無し。加えて、魔物が蔓延る場所で堂々と寝ていた。この事実が今ある奇跡をミリィに教える。

 

「さて、探索を再開しましょうか」

 

 十分な厚着をし、ミリィは休んでいた岩場から歩きだす。普段ならば、夜の砂漠など歩きはしないのだが、昼間休んでいたおかげか体力が有り余っていた。

 

 

ズズッ

 

 

 砂漠を歩いたことで気付かれたのか、独特の殺気がミリィへと降り注いだ。

 

「………しつこいわね」

 

 隆起する砂―――サンドゴーレムである。盛り上がる砂が人の上半身の姿を取る前に、ミリィは無詠唱で≪フレイム≫を放つ。

 敵の数は十。

 

―――さて、どうしようかしら?

 

 単発の≪フレイム≫で順番に片付けていくか、それとも広範囲攻撃に切り替えて一網打尽とするか。

 

「いっきにいきましょ!」

 

 今は数は十。しかし、ここは砂漠。いつどこでサンドゴーレムが増えて出てくるか分からない。更に言えば、砂漠は人が過ごすには少々酷なものがある。勢いに任せて依頼を受けてしまったが、ミリィはさっさと帰りたい一心だった。

 

「〔略式詠唱〕≪闇より深く在りし虚無の力。ここに産まれよ」」

 

 幸いにもサンドゴーレムたちの包囲網は小さかった。対象がミリィ一人というのも大きかったが、これが彼らにとっての誤算となった。

 ミリィは砂地から少し浮くように跳び、そこから空気の層を蹴るように一息に上空まで跳び上がった。回転するように体を傾けて、詠唱を略して放つ。そうして生まれたのは一つの闇―――≪グラビトン・ボム≫である。

 ミリィの手から放れたソレはサンドゴーレムたちの中心に落ちると、瞬間的に膨れ上がり、サンドゴーレムたちを吸収した。強烈な重力が辺り一帯をところ構わずに集めて押し潰していくのだ。

 ≪グラビトン・ボム≫はやがて役目を終えたのか、始めとは打って変わって、緩やかに収束し、消えた。

 先ほどミリィが使ったのは詠唱を略して唱える方法だ。上位の術者が扱うことのできる高等技術である。

 本来ならば護衛する者と魔術を唱える者がいるのが通例だが、魔術師一人で旅する場合は、全て一人で対処しなければならないからだ。

 また、何気ないように詠唱を唱えながら動き回るミリィだが、実はこれはかなりの異常なのである。魔術師というのは、詠唱中は基本的に動くことはおろか身の防御すら出来ない。中には剣を振りながら詠唱を唱える実力者もいるが、それはかなりの少数である。更に、詠唱を略すという高等技術に加えて跳ね回るミリィのような者は皆無と言っても良いほどに少ない。

 

「っと。次が来ないうちに、さっさと移動しますか」

 

 まるでクレーターのようになった砂の上に、ミリィが着地する。

 

 だが、

 

 

―――ズルッ

 

 

「………はい?」

 

 着地。そして歩き出そうとした瞬間、ミリィの足が突然沈んだのだ。一気に膝上まで沈んだら、抜け出そうとする前にふとももまで更に沈んだ。もはや、足は完全に埋まった。

 敵ではない。流砂である。何が原因かは分からないが、突如として流砂が生まれたのは確かである。

 

「ちょっ!? っと!!」

 

 周囲に何か掴む物があれば、仲間が誰かいれば、もう少しだけ時間があれば………だが、虚しくも時は非情。

 周囲は砂ばかり、今のミリィは一人であり、冷静になるだけの時間も与えられずにミリィは砂の下へと消えていった。

 

「なめんじゃないわよぉ!」

 

 が、そこは通常とは違う魔術師のミリィ。即座に自分の足下に≪フレイム≫を爆発させ、続いて自分の上空に先ほどの≪グラビトン・ボム≫を展開。

 ≪フレイム≫の爆発の威力で浮き上がり、上空の≪グラビトン・ボム≫の引力の力で流砂から逃れようというのだ。≪フレイム≫の爆発もそうだが、下手をすればサンドゴーレムたちのように押し潰されてしまうので、タイミング良く術を消さなければならない。

 詠唱途中の場合は詠唱破棄という形になるが、一度展開された術となるとその破棄は難しい。が、方法が無い訳ではない。

 いくつかある中で、最も簡単で最も分かり易い方法を取った。

 すなわち―――

 

「ふっとびなさい!!」

 

 更なる強力な術による破壊である。

 自分で展開した術を自分で破壊する。このようなことを考える魔術師はそうそういないだろうし、実行する者はおろか考える者さえいない、はずだ。

 

「もういっちょ!」

 

 ≪グラビトン・ボム≫はこれで消せたとしても、ミリィは未だに流砂の真上。横に跳ぶためにも足場はなく、再び≪フレイム≫の爆発という力で飛んだ。

 

「≪療符、発動≫」

 

 無事とは言いがたいが、流砂から逃れることができたミリィは、荷物から一枚の符を取り出すと自分の足に貼り付け、起動の言葉を紡ぐ。

 これは【符】と呼ばれる代物で、魔力を持つ特殊な紙に魔術を組み込んだ物である。起動の言葉を紡ぐだけで発動することから、“簡易魔術”とも呼ばれることがある。

 魔術よりもやや威力は落ちてしまうものの、自らの魔力を必要とせずに、更に紙であるため軽くて一度に多く持てることから冒険者や旅人には重宝されている。

 

「はぁ………もうちょっと手加減すれば良かったかしらねぇ」

 

 一枚の療符を使ったが、傷は完治とはいかなかった。

 ミリィの場合、破壊に使われる攻撃魔術ならば下級はもちろん、上級まで使える。しかし、傷の治療などに使われる補助魔術の一切が苦手なのだ。

 過去に努力を重ねに重ねてきたが、才能が攻撃に特化してるのか、努力が実ることはなかった。

 もう一枚、療符を取り出して発動。それでも完治はできなかったが、なんとか歩くには問題ないレベルまで癒すことは出来た。

 

「っつ……まぁ自業自得よね。さて、確認しますか」

 

 ミリィは立ち上がると、先ほどの流砂の一歩手前まで歩く。先ほどの流砂は自然のものではないと確信していた。自然の流砂ならば、落ちる速度は緩やかに、そして暴れなければそこまで激しく沈むことは無い。

 だが、先ほどの流砂では一気に沈み込み、暴れることもしないのに体はどんどんと沈んでいった。そこから考えられることは一つ。

 

「やっぱりね………」

 

 地下洞である。

 恐らく、≪グラビトン・ボム≫の一撃で洞窟の天井に穴が空いたのだろう。そこに砂漠の砂が流れ落ちていった。幸いというのか、さほど高さは無い。上から落ちた砂が山となっているのが上から見える程だ。

 

「砂漠の地下の洞窟………遺跡に繋がってるといいわね」

 

 ミリィは飛び降り、砂の山をクッションとして無事に下に降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―紅蓮砂漠・地下洞―

 

「変な洞窟ね………」

 

 辺りに砂が落ちてるのは問題ない。ただ、周囲を囲むような植物が問題である。陽の光射さぬ地下で植物がここまで育つのだろうか。

 更に不思議なのは床や壁である。ボロボロで薄汚れてしまっているが、岩とも思えない………不可思議な物だった。

 周囲を気にしながら足を進めていくと、

 

「これは………」

 

 道の横に捨てられたナニカがあった。

 

「よく分からないけど、この形………どう見ても“旧時代”の代物よね」

 

 朽ち果てたボロボロの体に割れた赤い瞳。引き千切られた腕などの損傷具合から、壊れたのはかなり前であるのが分かる。

 手、と思われる部分はある。しかし、足となる部分が見当たらなかった。壊れた際に失ったか、それか元々なかったか。

 

「………持ち帰りたいわね」

 

 壊れているとはいえ、ここまで形が残った“旧時代”の物は無い。持ち帰って、然るところに提出すれば恩賞も出るかもしれない。その前に自分で調べても良い。

 しかし、持ち帰るには帰る道も分からないし、少女のミリィでは運ぶには少々重すぎる物であった。

 

「むぅ」

 

 悔しいことであるが、補助系の一切が苦手なミリィでは魔術でなんとかという訳にはいかない。出来るだけ壊すことせずに運ぶとなれば、ミリィでは腕力のみで運ぶしかない。攻撃魔術でバウンドさせながら運ぶなどすれば、数回で粉微塵である。

 今は諦めるしかなかった。

 

 

「………ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 その時だった。

 異音が響き渡った。

 

「なんの音かしら?」

「………ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」

 

 それは音―――というよりは、声。人の声―――のようなものであった。

 

「にゃああああああああああああああっ!!? だぁぁぁうれかぁぁぁああああ!!」

 

 奥から現れたのは、今目の前で朽ち果てている“旧時代”の代物と同じ形をした物だった。赤い眼があり、横から突き出した長い腕。そして足は無く、宙を浮遊していた。

 そして何故か捕まっている猫………と思われる何か。

 

「あれ? ん?」

 

 猫に見えるが、言葉を発していた以上、亜人の類だろうか。と思案する暇もなく、敵はミリィをみつけ、敵と判断したようである。

 

「――つ、今はそれどころじゃないわね!」

 

 得意の炎系の魔術を出しそうになって、思い留まる。今いる場所は地下なのだ。空気は通っているようだが、油断は出来ない。もしかしたら、どこかに穴が―――先ほどのように大きな穴が空いている可能性もあるが、基本的に地下の空気は有限なのだ。

 魔術と言えど、炎ならば空気を消費してしまう。それだけはマズい。

 ならば、と腰に携えた剣を引き抜き、応戦の体勢を取る。

 

ブォンッ!

 

「へ?」

 

 ミリィに対し、敵が取った行動はある意味、理に通った方法だったかもしれない。

 手に掴んでいた猫(?)を放り投げたのである。

 

「ぶにゃあああああああああああああああっ!!?」

「きゃっ!?」

 

 咄嗟に防御の姿勢で剣を前に突き出す。結果、剣に伝わる衝撃と不可思議な悲鳴が全てを語った。

 

「ぱぐらっ!?」

「あ」

 

 ちょうど打ち返す形になり、飛び込んできた猫(?)が再び敵に向かって飛来していくことになった。幸いにも、剣の腹で殴られたため、斬られてはいなかった。

 

「しめたっ!」

 

 敵の赤い眼に覆いかぶさる形になり、敵の動きが明らかに鈍くなったのを好機と判断し、ミリィは剣をそのままに術の詠唱に入った。

 

「≪収束する意識、纏いて瓦解せよ!≫」

 

 ミリィの空いた手から紫電が生まれ、矢の形を成して敵へと飛ぶ。“旧時代”の代物は、総じて雷系に弱いというのが今の常識である。中には雷に対して強い物もあるが。

 今まで見てきた“旧時代”の代物とは違う物………だが、明らかにデザインからして“旧時代”に生まれた代物であることがミリィには分かっていた。

 

―――とりあえず、これで様子見ね。って、あ。

 

 まずは、下級の魔術で様子見。これで倒れるならばそれで問題無し。もし、これで倒れないようならば、更に上で………と考えに至ったところで、気付いた。

 いまだに猫(?)が敵に張り付いていることに。

 

「ちょ――――」

 

 雷系の魔術に総じて言えるのは、攻撃速度の速さである。ミリィが何かを言う前に、彼女の手を離れた紫電―――≪ショック・ブレイク≫は、敵へと見事に到達していた。

 

「ぶにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃっ!!!?」

 

 奇怪な悲鳴と共に焼き焦げる猫一匹―――そして、同じく焼き焦げて地面に落下する謎の敵。

 

「ま、まぁ………さすがに死んでは……いない、わよね?」

 

 この世の全ての生物は、魔術などに対する抵抗値―――【魔術抵抗】を持っている。これは、自分に向けられた攻撃魔術などに対して威力を減少させる力だ。

 これにより下級程度の力ならば、ぶつかったとしても早々死ぬことは無い。が、油断していれば、たやすく命を奪うモノでもある。

 先ほどの場合、ミリィに剣で殴られ、背中に不意打ちに近い形での魔術の一撃である。

 

「…………………」

「ぶはっ!? なんにゃ!? ここはだれで!? わたしはどこにゃ!?」

「あ、生きてた………」

 

 こちらの懸念など何とのはや。猫(?)は無事に生きていた。

 

「………んぉ? 何か記憶が曖昧にゃ………」

 

 どうやら先ほどのことは忘れているようだ。ここぞとばかりにミリィは近付き、現状を説明した。

 猫―――アドニスは、“旧時代”の兵器と思われる敵に捕まっていたところを、地上から降りてきたミリィが偶然見つけて助けた、ということを。

 アドニスの疑問はもっぱら“敵の攻撃”として片付けてしまい、何とか事無きを得た。

 

 

 

 

「にしてもねぇ………」

「なんにゃ? まだ疑ってるのかにゃ?」

 

 このアドニス―――自らを猫というのだ。猫の亜人ではなく、猫である、と。

 この世のどこに二足歩行して歩く猫がいるのだろうか。ましては人語を解する猫などありえ―――

 

「目の前にいるにゃ」

「あたしの常識を返しなさいよ………」

 

 崩されていく常識に何とか足を踏ん張り、眩暈を気合で吹き飛ばしたのがつい先ほどのこと。

 

「にゃ? どっからどうみても猫にゃ」

「どっからどうみても猫じゃないわ」

「にゃ! 見るにゃ! この耳! 髭! そして尻尾を!! これを見て猫じゃないとはこれいかに!」

「だまらっしゃい! どこの世界に猫が二足歩行で人語をしゃべるのよ! あんた、猫の亜人でしょ? じゃなかったら化け猫よ!」

「だから、おまいの目の前にいるにゃ!」

「あーもぅ! 何なのよ、この不可思議生命体は!」

 

 猫の亜人ならばまだ納得できる領域だ。他の亜人に失礼になるが。

 兎にも角にも、目の前のアドニスと名乗る猫(仮)が、猫であることにミリィは憤りを感じた。

 

「まぁいいわ………猫(仮)で納得するわ」

「なんだか失礼な奴にゃ………ところで、ここはどこにゃ?」

「あたしも分からないわよ」

 

 二人はとりあえず、お互いの経緯を話した。何故ここにいるのか、どうゆう目的があったのか、など。こんなところにいるのだ。お互いに普通の旅人ではないことは理解していた。

 

 

 

 

「じゃあ、あんたが先行してた冒険者って訳なのね」

「まぁそうなるにゃ。そうゆうおまいは遺跡探求者とはにゃね………よくまぁ、ここに来たもんにゃ」

「まぁ、ね」

 

遺跡探求者と大きく分類されているが、中に入れば更に分かれている。情報を収集する者、遺跡の中に入り調査する者、発掘された物を研究する者。

この遺跡の場合、未だ確証は持たれていないため、まずは情報を収集するチームが動き、確証性を得てから遺跡の中に入るチームが動く。ミリィは遺跡の中へと入るチームに分類されるため、本来ならまだここにはいないはずだ。

 しかし、必ずこれを守る、ということは無い。必要に応じては情報収集チームが中に入ることもあれば、研究チームが情報を収集に走ることもある。

 

「で、先に入ったそっちからして、ここはどういったところなの?」

「ん~、よく分からんところにゃ」

 

 アドニスとて入ろうとして入った訳では無く、気付いたら地下に落ちていたのだ。そして、あっという間に謎の敵に襲われて今へと至る。先に入ったからといっても、そこまでの違いはないのだ。ミリィが望むような情報は無かった。

 

「謎の敵って、さっきの? そういれば、あれらは何処から来たか分かる?」

「ま、おおよそだけどにゃ。おいらの荷物も持ってかれてなければそこにあるはずにゃ」

「じゃ、案内して」

「おkにゃ」

 

 謎の敵に捕まった際に落としてしまった大剣。それを取り戻すのがアドニスの目的である。遺跡探求者が来た以上、冒険者のアドニスはいてもいなくても良いと言えば良い。

 カードに傷が付いてしまうが、まぁ然したる問題ではない。元より、アドニスはそういったことを気にしないタイプなのだから。

 

「ここまで来たら何とやら。付き合いなさいよ」

「面倒にゃ」

「―――なら、あんたの案内が終了したと同時に撃ち殺すしかないようね」

「こわっ!? しかも何故殺すにゃ!?」

 

 黒い笑みを浮かべるミリィに結局折れるしか道が残されていないアドニスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩き続けることしばし。一向に終わりは見えてこない。だが、壁や床が明らかに変化してきたのは分かった。いつの間にやら遺跡内に入っていたのだろう。

 そのおかげか、洞窟内を照らす光源がどこからか漏れて、歩く二人を照らしていた。

 

「………微妙な暗さね。あんた、光符持ってないの?」

 

 光符とは、光系の魔術を封じ込めた符のことであり、一定時間周囲を照らすことの出来る光源を作る。こういった洞窟内の探索にはよく使用される。

 

「さっきも言ったにゃ。荷物は全部、向こうに落としてきたにゃ」

「使えない猫ね…………」

「第一、おいらの目ならこれくらいの闇、問題ないにゃ」

 

 変なところで猫なアドニスだった。

 

「こんなことならもっと買ってくれば良かったわ」

 

 炎系の魔術の中でも下級に位置する≪フレイム≫。その気になれば、ミリィは撃つことせずに手の上に展開し続けるという無茶なことも可能である。後を考えなければ、だが。

 先ほども襲ってきた“旧時代”の敵相手に戦うには雷系の魔術が有効だ。剣などの武器でも戦えないことはないが、場所が場所なだけに長期戦は避けたいのである。肝心なところで、魔力が足りませんでした、では笑えない。

 

「にゃ?」

「どうしたのよ?」

「何か………音が聞こえないかにゃ?」

「音?」

 

 耳を澄ます。しばらく息さえ潜めて音を探る。が、ミリィの耳には何も届かない。

 

「何も聞こえ――――」

「聞こえたかにゃ?」

「えぇ、ナニカの足音が―――あんた、耳良いのね」

 

 未発見の遺跡で、更に依頼が出されたのが数日前………だが、迷い込んだ旅人がいないとは限らない。

 敵か味方か分からないが、ナニカが近づいてきているのは確か。二人はお互いに剣を抜き――――

 

「すまんにゃ。おいら、武器が何も無いにゃ」

「ほんっとに! 使えない猫ね!」

 

 かといってミリィがアドニスに剣を貸すことは出来なかった。ミリィの持つ剣がただの剣ならば、それも可能だったが―――これはただの剣ではないのである。

 

「あんた、武器無しでも戦える?」

「可能にゃ。猫の力を見せてやるにゃ~よ」

「………出来れば止めて欲しかったわね。これから他の猫が見れそうにないわ」

 

 ミリィは前方を。アドニスは後方を。狭い空洞内を響いて聞こえてくるため、どこから接近しているのかが分からない二人。恐らく前方だろうが、宙を浮遊する敵もここにはいるのだ。互いに背を合わせていつでも飛びかかれるようにと警戒する。

 

 そして、ナニカが現れた。

 

 

『――――ガガッ、シン――シャ、――ジョ』

 

 

「「横っ!?」」

 

 二人の横の壁を突き破り、ナニカが現れた。おかげで、ミリィとアドニスは二つに分断されてしまった。

 

「あれは!【機械兵士(ソルジャー)】!?」

「何にゃ!? それ!」

 

 “旧時代”において戦争の道具してポピュラーだった殺戮機械―――【機械兵士(ソルジャー)】。人などの生物とは違い、壊れても修理すれば何度でも復帰し、また情なども無いため、完膚なきまでに殺戮を遂行出来る。

 戦争の前半では人の手による修復が行われていたが、後半になるにつれて人の数は少なくなっていった。そのため、【機械兵士(ソルジャー)】自身に自己修復機能を付け、己の意思で修復するようにさせたのだ。壊れた【機械兵士(ソルジャー)】やその他のモノから奪い取ることで―――

 

「【機械兵士(ソルジャー)】よ! 本物よね!? それが動いているなんて―――!」

「ちょっ! ミリィ!?」

 

 だとすれば、アドニスたちがいるこの遺跡は“旧時代”で武器庫やそれに近い何かでは無かったのだろうか。もしくは、何かの重要な場所―――

 

「いいわ! いいわ!! 面白くなってきたわ!!」

「んなこと言ってる場合かにゃ! 数が多いにゃ!!」

 

 アドニスの言う通り、現れた【機械兵士(ソルジャー)】はミリィ側からに二。中央に三。アドニス側からは三体やってきた。合わせて数は八。やってやれない数では無いが、【機械兵士(ソルジャー)】自体がどれくらいの戦闘力を持っているかが分からない。

 

「なら、試し撃ちね! ≪炎よ!弾丸となれ!≫」

 

 さっそく、ミリィが≪フレイム≫を【機械兵士(ソルジャー)】に向けて撃つ。牽制の一撃だ。これでどれくらいのダメージを受けるか―――

 

『―――炎――シー、ド』

 

 しかし、ミリィの≪フレイム≫は【機械兵士(ソルジャー)】に当たる前に、シールドのようなモノに防がれてしまった。

 魔術でも法術でも無い。一瞬だけ顕現した力によって完全にかき消されてしまったのだ。

 

「「はっ?」」

 

 呆然とする二人。無情にも、【機械兵士(ソルジャー)】たちはその間も接近してきている。

 

「なんにゃー!! やるならもっとビシッとやるにゃ!!」

「うるっさい! 役立たずの猫は黙ってなさい!」

 

―――今の力はいったい何? 魔術では無いようだし………。

 

 魔術師である以上、魔力の流れには敏感だ。だが、今の力には魔力の流れが感じられなかった。法術かもしれないが、どうも法術でも無いようである。

 そもそも、魔術にも法術にも“生命エネルギー(オド)”が必要である。完全機械の【機械兵士(ソルジャー)】にそれらがあるかと言われると、否………だが、仮にも“旧時代”の遺産。完全には調べ尽くされていない。

 

―――それにさっきの。防がれたというより、無力化された感じね。

 

「アドニス! ここは逃げるわよ!」

「逃げるにも前も後ろも真ん中も塞がれてるにゃ!」

 

 【機械兵士(ソルジャー)】たちに武器らしい武器はなく、ボロボロとなった四肢があるだけだ。しかし、鈍重に見えるその腕が勢い良く振り下ろされれば、人間など簡単に潰されるだろう。

 

「あたしの方が数が少ないわ! ここを切り抜けるわよ!」

「了解にゃ!」

 

 ミリィ側―――二人の進行方向からやってきた数は二体。アドニスは持ち前の俊敏さを活かし、【機械兵士(ソルジャー)】の脇を掻い潜ってミリィの横に並ぶ。

 

「【機械兵士(ソルジャー)】は動きが遅いわ。その分、一撃が重いから受け止めるのは得策ではないわ」

「それは見た目で分かるにゃ」

「あたしが動きを止める。あんたはその際に攻撃よ―――〔略式詠唱〕≪焔の壁よ!迫る爪牙から護る壁と為せ!≫」

「あちちっ! わかったにゃ!」

 

 後ろの【機械兵士(ソルジャー)】たちに≪フレイム・ウォール≫をお見舞いする。しかし、やはりというかシールドが顕現するとたちまち姿を消してしまった。

 

「狙うなら、心臓。首。無理なら足よ。動きを止めるだけでも問題ないわ」

「おkにゃ」

「しくじるんじゃないわよ!―――〔復元詠唱〕≪フレイム・ウォール≫」

 

 略式詠唱と共に高等技術に数えられる技術―――前に使った魔術の詠唱を完全省略して行う方法だ。

 再度、ミリィの後ろに炎の壁が出現する。それを確認する前にアドニスは飛び出した。

 

「さすが、猫なだけあって早いわね!―――≪ショック・ブレイク≫」

 

 アドニスよりも早い魔術ともなれば、もう雷系しかなかった。最も手早く唱えられるもので下級に分類される術をミリィは即座に選択して放った。

 

『ガガ―――、リ、-ルド』

「うにゃああああ、るおおおおっ!?」

 

 アドニスを超えて到達した≪ショック・ブレイク≫は、【機械兵士(ソルジャー)】のシールドの前にいとも簡単に消えた。アドニスはそのシールドを破壊するつもりで爪を立てたのだろうが、シールドには触れることが出来ずにその場で一回転して転がり落ちてしまった。

 

「―――っ! アドニス!」

「にゃっ!」

 

 踏み潰される刹那、アドニスは横に転がり事無きを得た。

 

「もう一度、≪ショック・ブレイク≫」

 

 生まれた紫電―――数瞬後には【機械兵士(ソルジャー)】はシールドを展開していた。

 

―――どこかで魔力を感知しているのかしらね?

 

 分かったことは、あのシールドには属性に関係なく魔術の一切が効かないこと。まだ下級と中級のレベルしか試していないので、全てとは言い難いが………上級でも効果はさほど無いだろう。

 次に、物理的には触れられない。つまり、あのシールドは魔術しか防がないということだ。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ミリィは腰から剣を引き抜くと、構えながら走り出した。その際、片手で符を取り出して、先に【機械兵士(ソルジャー)】へと投げ飛ばした。

 

『マテ――、――ド』

 

―――かかった!

 

 シールドを展開した【機械兵士(ソルジャー)】に真っ直ぐと突き進む。突き出した剣は何の障害も受けることなく、【機械兵士(ソルジャー)】へと吸い込まれた。

 

「ほら! シールド張ってなさい!」

 

 剣を突き刺した【機械兵士(ソルジャー)】を横へ突き飛ばし、空いた手でもう一枚の符を隣の【機械兵士(ソルジャー)】へと投げつける。先の一件で分かったことだが、【機械兵士(ソルジャー)】は魔力に反応してシールドを張るようである。つまり、魔力を帯びた紙である“符”を投げつければ、勝手にシールドして止まってくれるのだ。

 

「アドニス!」

「おうにゃ!」

 

 鈍重な【機械兵士(ソルジャー)】である。攻撃範囲から離れてしまえば、逃げ切るのは簡単だ。

 

 

 

『――――ガガッ、――ニュウ――警――2』

『――――――了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ! はぁ! はぁ!」

 

 アドニスとミリィは全力で走った。洞窟内を右へ左へ上へ下へ。当然ながら、帰り道などもう分かりはしない。

 

「はぁ、ここがどんなとこか………おおいに興味が沸くわね」

「頑張ってにゃ。おいらは、さっさと剣を見つけたらとんずらを―――」

 

 黒い笑みを浮かべてアドニスのどたまを握り締めるミリィ。そのまま自分と同じ視線の高さまで持ち上げた。

 

「―――ふふふ、アドニスったら冗談がうまいのね」

「はい、誠心誠意手伝わせてもらいますにゃ!」

 

 最早、上下関係は明らかだった。

 

 

 

「そういや、ミリィはあいつのこと良く知ってたみたいにゃね?」

「知ってたって程じゃないわよ?文献とかで見ただけだもの。実物みたのは今日が初めてよ」

「おいら、歴史にはあんま詳しくにゃいけど………“旧世界”だっけかにゃ?」

「“旧時代”よ………まぁ、“旧世界”でもあながち間違いではないけど」

 

 “旧時代”に関する文献はかなり少ない。原因として考えられるのが、“旧時代”の最後に行われた大戦―――【神々の黄昏(ラグナロク)】と呼ばれる最終戦争である。ここまで損傷の激しい情報は、最終戦争で燃え尽きてしまったためではないか、と。

 見つかる文献からは単語は見つかっても、その意味を残している物は少ない。

 例えば“戦車”と呼ばれる兵器。兵器であることは分かっているが、どういった形でどうゆうものかは不明である。同時に“自動車”、これは兵器かすら分からない。同じ“車”が付く以上、似たような兵器ではないかと言われているが、真相は分かっていない。

 

「で、【機械兵士(ソルジャー)】ってのはその最終戦争で使われたポピュラーな兵器の一つよ」

「ふぅん。おいら、歴史には詳しくないからにゃ~」

 

 【機械兵士(ソルジャー)】に関しては、戦争後半に多く活躍していたためか、比較的多く文献には残っていた。製造方法こそ不明だが、その強力さは伝えられている。

 

 曰く、一騎当千の力を持つ。

 曰く、死を怖れぬ不死身の兵士。

 曰く、破壊の権化。

 

「一騎当千ね………そんな強い奴だったかにゃ?」

「長い間ほっとかれたみたいだからね………動きも鈍かったし、それの所為じゃないかしら?」

「そんなもんかにゃ」

 

 話しているうちに大広間へと二人は到達した。頭上からは時折砂漠の砂が落ちてきて、ところどころに砂山を築きあげている。

 さして広くはないが、砂が辺りを覆い隠してしまっているのでここを探すとなると困難である。

 

「で、あんたが落ちてきたのってどこらへん? さっさと武器を回収しましょ」

「探してはいるんだがにゃ…………埋もれたのかにゃ?」

「まじ? ここを掘るのは勘弁よ」

 

 ざくざくと砂を踏みながら、アドニスは歩く。その後ろを付いていくようにミリィが歩く。右や左と視線を動かすが、剣など見つからない。

 しかも下だけに気を取られると、頭上から落ちてくる砂に気付けない。たえず、頭上も気にしながら部屋の中を捜索していた。

 

「どうする? ここらへん一帯吹き飛ばしてみ―――?」

「にゃ? ミリィ………おまいの剣、何か光ってるにゃ」

 

 アドニスの指摘通り、ミリィの剣が淡く光を発していた。

 

「な、何かしら? 魔剣が反応してる?」

「魔剣? おまいの、魔剣なのかにゃ?」

 

 そうよ―――とミリィが腰から魔剣を引き抜く。垂直に持ち、柄を軽く握る。と、不可思議な力に引っ張られるようにミリィの魔剣が傾いた。

 アドニスも何か言いたげだったが、手がかりが無い以上、ミリィの魔剣の力に任せようとした。

 

「―――――ここね」

 

 そして、ある地点で魔剣が引っ張る力を下に変えた。つまり、この下に何かがあるのだろう。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

「できればおいらの剣が出て欲しいところにゃね」

「じゃ、後はよろしく」

「………まぁ分かってたことにゃ。魔術でぶっ飛ばされなかっただけマシかにゃ?」

 

 ミリィは魔剣を再び鞘に仕舞い、少し離れた位置からアドニスを見守る。アドニスは両手の爪を立て、勢い良く砂山を掘り始めた。まるで土竜である。

 周囲を気にせずに掘るため、砂塵が辺りを覆いつくす。

 

「―――ったく。あのバカ猫は」

 

 防塵マントを顔まで深く覆うように被り、更に離れた位置に居座る。

 

「あったにゃ!」

 

 しばらくして、アドニスの声が響いた。どうやら目的の武器が見つかったようである。砂塵の中から飛び出してきたアドニスが持っていたのは一本の大剣。ミリィの持つ漆黒の長剣とどことなく似ている灰色の大剣。こちらは長剣と比べて、一切の装飾が無く、機能性を重視されたと見られる。

 

「それがあんたの剣?」

「そうにゃ」

「ふぅん………」

 

 微弱ながらアドニスの剣から魔力が溢れ流れているのを感じたミリィ。軽い気持ちで触れようとしたが―――

 

「―――――っ!」

 

 すぐに手を引っ込めた。

 アドニスの剣もまた、魔剣であったのだ。

 魔剣を扱うには、魔剣に認められないとならない。おいそれと使うことは出来ないのだ。認められる方法も魔剣によって多種多様である。

 そして、認められた使用者以外が魔剣に触ると、魔剣はその者を喰らい尽くすという―――いわゆる、拒絶反応を起こす。

 もし、あの剣に直接触れていたらどうなっていたことか………。

 

「………でも、何であたしの魔剣が反応したのかしら?」

 

 魔剣が他の魔剣に反応するなど聞いたことが無いし、これまでにもミリィは幾つかの魔剣と合ってきた。そのどれもで、今のように反応したことなど無かった。

 

「どうしたにゃ?」

「その剣―――魔剣よ」

「にゃ? この剣がかにゃ?」

「そうよ――――って、今まで気付いてなかったの?」

「これっぽっちも」

「……………………………なんであんたみたいのが魔剣持ってるのかしらね」

 

 鈍感なだけで魔剣からの拒絶反応に気付いていない、とも考えたが………その場合、アドニスがまだこの世に現存している以上それは無いだろう。

 ということは、少なくとも魔剣に認められているということだ。

 

「じゃあ、能力も何も?」

「分からないにゃね~」

「…………………………」

「ミリィ様。無言で睨みつけられるのはすっごく怖いにゃ」

 

 ミリィの魔剣に反応したことや色々と気になる点はあるものの、まずはここからの脱出が先である。

 

「じゃ、行くかにゃ」

「他の荷物はいいの?」

「にゃ~、出来れば掘り出したいが………さすがにここを掘るのは気が滅入るにゃ」

 

 アドニスが一番に欲しがっていたのは、この大剣―――魔剣である。出来れば、他の荷物―――食料や金などを掘り出したい。掘り出したいが、どれだけ掘れば出てくるのだろうか。また、どこを掘ればいいのだろうか。

 魔剣がここにあったからといって、近くにあるとは限らないのだ。

 そう考えると、掘る気も失せてくる。

 

「ま、あんたが良いならいいけどね。で、あたしは少し先に行きたいけど………道分かる?」

「分かると思うかにゃ?」

「でしょうね」

 

 なので、二人は適当に歩くことにした。入り口も出口も分からない中、奥に進んでいるのか外に進んでいるのか分からないが、立ち止まっていては外に出られないからだ。

 

「そういや、ミリィ」

「なに?」

「この明かりって何だか分かるかにゃ?」

「これだけじゃ分からないけど、多分“旧時代”の遺跡の中だから………“電灯”じゃないかしらね?」

「でん……とう?」

「そうね………“旧時代”の松明ってところかしら?」

「なるほどにゃ」

 

 “旧時代”では当たり前で、今では失われた技術。それらを再び世に出そうと、日夜研究者たちは努力をしているが………その夢が叶うのはいつになることやら。

 この“電灯”もまたその一つである。文献によれば、日夜常に光を放ち、周囲を照らしていたと言われている。

 

「でも、これが仮に“電灯”だとしたら、“電力”が流れてるってことよね………」

「また新しい単語にゃ………」

「あんたね………一応、冒険者なら、これくらい知っておきなさいよ」

「歴史は苦手分野にゃ」

 

 魔術を行使するのに魔力が必要なように、電灯を動かすには電力と呼ばれる力が必要不可欠だった。

 今漏れてる明かりが電灯の明かりだったと仮定するならば、この遺跡にはまだ電力が作られ流れ続けていることになる。

 

「これは………もう、大発見よね? ふふ、ふふふ………うふふふふふ!!」

「おぉ、ミリィが黒い……黒いにゃ」

 

 アドニスがミリィから立ち上る黒いオーラに引いている時、風を切る音が二人の耳に届いた。

 

 

「「―――っ!」」

 

 

 アドニスは横に、ミリィは後ろに跳び退く。その数瞬後に二人がいた場所には何かが突き刺さっていた。

 

「にゃ! またあの飛ぶ奴にゃ!」

「いっぱいきたわね……」

 

 “旧時代”の浮遊する敵兵器だ。

 

「ここは開けた場所だから、向こうまで逃げるわよ!」

 

 ちょうど目の前に狭い洞窟が口を開いている。

 

「あいあいにゃー!」

 

 侵入者を捕まえて排出するように動いていたということは、機械兵士(ソルジャー)とは違って攻撃能力はないのかと思っていた。が、

 

「アレ、目からレーザー出してくるにゃよ」

「十分、攻撃能力はあるってことね」

 

 アレには雷系が効くのは先刻の件で承知している。狭い空間内に誘き寄せれば、十分に対処は可能だろう。

 

「1、2、3で反転して、応戦するわよ!」

「どっちが数持つにゃ!?」

 

 まず迫ってきたのは三、その後ろに二、四と続いている。

 

「あたしが先に真ん中を潰すわ!」

「あいにゃ!」

 

「「1!」」

「「2!」」

 

 で、足を前に突き出してブレーキ。そして、

 

「「3!!」」

 

 反転。

 すかさずアドニスが飛び出す。

 

「≪収束する意識、纏いて瓦解せよ≫」

 

 真ん中の敵に向けてまずは先制。雷の一撃が敵を貫いた。

 

「まずは一体!」

「にゃらああああああああああ!」

 

 

―――ガィンッ!

 

 

「いぃぃぃっ!?」

 

 アドニスの剣が弾かれる。どうやら、相当以上に硬いようだ。

 

「にゃあああ! そういえば、前のときも弾かれてたにゃああ!」

「バカ猫! そうゆうのは先に言いなさい!」

 

 遅れて突撃したミリィはその光景を見てから、攻撃目標を胴体から赤い目に変更した。

 

―――ビキッ

 

 弾かれはしなかったが、貫きもしなかった。皹は入ったがそれだけだ。だが、それとは別に後続の敵が迫ってきていた。

 

「アドニス!」

「うにゃああああっ!!」

 

 二体の敵をそのままアドニスに任せ、ミリィはすり抜けて次の列の敵に向かう。

 

「≪遍く業火!敵を屠る飛礫と化せ!≫」

 

 ミリィが前に突き出した手に、拳大の炎の塊が生まれる。そして、詠唱の終了と共に炎の塊から連射銃のように炎の弾丸が発射される。

 炎系下級魔術≪フレア・ガトリング≫―――ミリィが一対多の戦闘で好んで使う魔術である。

 しかし―――

 

「くっ!」

 

 最前列の二体は防御が間に合わなかったのか、ミリィの魔術は届いた。が、それより奥にいた敵には届かなかった。【機械兵士(ソルジャー)】が防いでみせた謎の力で無効化してみせたのだ。

 

「あの無効化するフィールドを展開するには時間がかかるようね」

「ミリィ!」

「っと!」

 

 アドニスの声にミリィはその場にしゃがむ。頭上を無骨な腕が通り過ぎた。

 

「あんたはもう黙ってなさい!」

 

 詠唱を省略してショック・ブレイクを放つ。これで、最初の三体、次の列の二体が片付いた。残りは四体。

 

「ふぅ、あと四体か………」

「どうするにゃ?」

「全力で走れば拮抗ってところかしら。どこまでも追ってくるタイプだったら厄介ね」

「逃げるかにゃ?」

「そうしましょうか!」

 

 瞬時に反転して、ダッシュで駆ける。レーザー攻撃もなく、二人は追跡者が諦めるまで駆けた。

 

 

 

 

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