猫とネズミと魔法少女   作:ふぁっと

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第03話 「機械龍」

 

 

希望

 

 

 

絶ち切りしモノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「やっと、諦めた、ようにゃ」

 

 中々しつこく追ってきてたが、右に左にと走って逃げてたら追うのを諦めたようである。

 

「………ふぅ、もっとちゃんとした装備を揃えてくるんだったわ」

「おいらはヤツラが金をドロップしてくれたら良いんだけどにゃ~」

 

 魔剣一本だけになったアドニスがしみじみと呟く。例え、“旧時代”の遺物だと言ってアレラの破片を持っていったところで、買い取ってはくれないだろう。ある程度の形は残してしかるべき場所に行かなければ金にはならない。

 

「普通の魔物もここだと出るかどうかは怪しいわねぇ」

 

 となると結果として、例え敵が何かドロップしたとしてもそれが金に変換できるかは分からない。

 

「にゃあ、ミリィ」

「なに?」

「さっきの奴はどういった奴か分かるかにゃ?」

「見たとこない形だからねぇ、一旦村に帰って資料を見ないと分からないわねぇ」

 

 それでもタイプとしては情報収集をメインとした隠密兵器だろう。魔術を無効化するシールドの展開が遅いのも一つ。攻撃用の武器が少ないのだ。戦闘特化という訳ではないのは一目瞭然。

 

「にゃんのため?」

「さぁ?」

 

 結論を出すにはまだ情報が足りなさ過ぎる。

 

「とりあえず、奥に行ってみましょうか」

「だにゃ。また襲われてもしょうがないしにゃ」

 

 ぐねぐねと曲がって走ったため、また確認などもしてないため、今目の前にある道が奥へと繋がってるのか、それともまだ見ぬ出口に繋がってるのかが分からない。

 

「奥ってどっちにゃ?」

「……………………」

 

 もちろん、ミリィにも分からない。

 

「じゃ、ここはおいらの秘密能力を見せる時かにゃ」

 

 すちゃっとアドニスが魔剣を取り出す。とすっと地面に立てる。ぱっと手を離すと、魔剣が倒れた。

 

「…………………」

「…………………」

 

 壁の方に。

 

「つまり、奥はこっちにゃ!」

「じゃあ、壁を壊しなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、同じ背景ばっかで前に進んでるのか後ろに進んでるのかわからないわね」

「だにゃ」

 

 道は真っ直ぐ。横に曲がる時は90度、かくんと曲がる。綺麗に整頓されているのだ。

 

「また十字路だわ」

「一応、マッピングしてるけどにゃ~、途中からだからあまりあてにならないにゃ」

「えっと、右に進むと戻る可能性もあるのね」

「直進か、左か。おいらは左」

「じゃ、あたしは直進ね」

 

 ミリィが出したのは一つのコイン。コイントスをして、当てた方の道に進むという感嘆な賭け事だ。

 

「いくわよ――――はい!」

 

 コインを上に弾き、それを分からないようにすぐに手で隠して腕に押し付ける。さしものアドニスも見えなかったようで、唸りをあげて迷っている。

 

「むむむ…………表にゃ!」

「じゃあ、あたしは裏ね」

 

 ゆっくりと腕から手をどける。そこに置かれたコインは―――表だった。

 

「っしゃ! じゃあ、こっちにゃ」

「むぅ………まぁ仕方ないわね」

 

 大喜びするアドニスに渋顔のミリィが後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―???―

 

 アドニスたちの言う敵―――MDF搭載型情報収集機、通称“MF-J”は、音を消し、周囲から姿を消すステルス装置を起動しながら飛行していた。目指す場所は遺跡の奥―――中枢システムの置かれている場所。

 彼らの目的はアドニスたちが言うように情報を集めるのが仕事。集めた情報を中枢システムに送り、それを彼が判断して整理し、他の機械兵器たちに指令を送る。

 

『敵――――認』

『情―――検―――』

 

 壊れたスピーカーから漏れる音は人には少々物足りなく、理解出来ない言葉。しかし、それは人に伝えるために作られた装置であり、人がいなくなった今―――必要無いとも言える部分だった。

 MF-Jは中枢システムと自身を繋ぐと、情報の共有化を計る。

 

『………………………』

 

 中枢システムのパネル画面に映し出される映像。様々な場面のアドニスやミリィたちの戦闘映像が早送りで流される。

 彼はそれを静かに眺めながら、溢れる情報を整理していく。

 

『――戒―――ル―――――3』

 

 そして、彼からの命令が下った。

 

『――――――――了解』

 

 長き眠りについていた者たちが、起き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「道はまだまだ続いてるにゃ」

「そうね」

 

 アドニスの指す方角に進むことしばし、だがこれより先の道に明かりは無く―――奥は闇だけである。

 

「光符はあるかにゃ?」

「まだあるにはあるけど………帰りのことも考えると、少し遠慮したいわね」

 

 ここまでに使った光符。そしてまだ見えない終わりへと続く先のことを考えると、ここでの使用は避けたいところである。

 が、

 

「どうするにゃ?」

「どうしましょうか」

 

 道があったら先に進む。それはアドニスもミリィも同じ考えだ。しかし………とミリィは悩む。

 

 

 

「≪光符、発動≫」

 

 結局、進むことにした。

 

「アドニス。まだ数はあるけど、出来るだけ消費は抑えたいから少し急ぐわよ」

「あいあいなのにゃ」

 

 こういった遺跡には侵入者を防ぐための罠が仕掛けられている場合がある。それに気を付けながら慎重に進みたいところだが、光符の消費を考えると全力ダッシュをしたいところだ。

 とりあえず、周囲に注意しながら急いで行くという、何とも中途半端なことをする羽目になったが仕方が無い。

 

「にしても、遺跡ってのはみんなこんな感じなのかにゃ?」

「ん? あんたって遺跡に入ったことないの?」

「基本、そっちの仕事にゃ。おいらはここが初めての遺跡探索にゃ」

 

 遺跡探求者も冒険者も出来ることは同じである。主にやることが違ってくるだけであり、仕事の差別などはされていない。今のアドニスのように遺跡に潜ることもあれば、ミリィも冒険者の真似事をしても誰も咎めない。

 

「まぁ、全部が全部って訳ではないけどね………基本はこんな感じよ」

 

 二人が歩いているのは鉄とも木とも思えない不可思議な素材で作られた通路。大抵の遺跡はこの素材で作られている。幾つモノ素材を複雑に混ぜ絡ませて作られている―――とまで解明出来たはいいが、素材の復元には未だ至っていない。

 

「そもそも、遺跡って何で作られたのかにゃ?」

「諸説は色々あるわよ。魔王を打ち倒すための場所だったとか。人間たちの主要都市の一部だったとか。何かを行うための儀式の場所だったとか、ね」

 

 遺跡からは多くの遺産が今までに見つかってきている。武器―――魔剣が見つかることもある。生活品―――“旧時代”の人たちが暮らしに必要としていた道具が見つかることもある。比較的に見つかるのが魔剣を始めとした戦争のための兵器や武器であることから、戦争に使われた基地のようなモノではないかと言われている。

 “旧時代”では国が百を超えて存在していたという。今は数えても三十あるかないかである。今の時代でさえ、人と人、国と国の争いが絶えない。それが百以上もあるとすれば、国同士の争いでさえ絶えることはなかったのではなかろうか。そこで登場したのが基地―――今で言うところの遺跡である。

 というのが、未だ論争の激しい遺跡についての解答である。

 

「ま、どっちにしろ。まだ何も分かってないってことにゃね」

「そもそも、情報が少ないからね。これから先も分かるかどうか………ま、あたしは遺跡に潜れるだけでも十分楽しいからどうでもいいけどね」

 

歴史に興味が無いと言えば嘘になる。“旧時代”“魔剣”“遺跡”、気になる単語ばかりである。

そして何より気になるのが、今の時代の歴史である。今の時代、歴史は三百年前からしか存在していないのだ。それより以前の記録がどの文献にも載っていない。

更に“旧時代”の歴史が終わったとされるのが、今より四百年前ではないかと言われている。それを仮とするならば、その間の百年には何があったのか。

遺跡探求者のもう一つの目的―――それが失われた百年の謎を追うことである。

 

「どうしたにゃ?」

「ん? ちょっと考え事………あら?」

「んー? 落書きかにゃ?」

「古代語ね」

 

 光符で照らし出された壁、その下の方に文字のような物が刻まれていた。“旧時代”と今では文字も変わっていて、大まかに古代語と現代語という風に区別されている。

 

「この独特の形………やっぱり【日本語】ね」

「分かるのかにゃ?」

「さすがに無理ね。これはちょっと形が崩れすぎてるわ。解読用の辞書と睨みながら時間をかけないと。それに、ほとんど擦れて見えないわ」

 

 興味深いと呟くとミリィはノートを取り出して、壁に書かれた古代語を見える部分だけ書き写し始めた。こうゆうところに目が行くか行かないかが、冒険者と遺跡探求者の違いなのかもしれない。

 

「でも、なんでこんな壁にあったのかにゃ?」

「さぁ………とりあえず、奥に行ってみましょ」

 

 普通ならば、情報記録装置や本などの媒体にあるものだ。それが壁の下―――それも書き殴ったかのように乱雑にあったのは不思議すぎる。

 とはいえ、ここで考えていても答えは出てこない。二人は、更に奥へと進むことにした。

 

 

 

 そうして進んでいくと、しばらく一本道だった通路の横に幾つもの部屋が現れる。廃墟となって時間がかなり経ったのだろう。荒れに荒れていた。

 最初は何か無いものかと物色していたアドニスたちだが、それも五つを超えるとなると素通りするようになってきた。

 部屋の広さこそ小さいものだが、乱雑に荒れているため物色に時間がかかってしまうため。またこれまでに物色した部屋にはこれといった物が無かったためだ。

 

「お宝でも見つかればテンションが上がってくるんだがにゃ~」

「確かに………。ここまで何も出てこないとなると、気力が持たないわね」

 

 未踏の遺跡である。もしかしたらアドニスみたいに偶然辿り着いた者がいるかもしれないが、その可能性は低いだろう。ここの遺跡は噂にもなっていないのだから―――

 

「ん? そういえば、あんた………ここに来た目的って考古学者からの依頼だったわよね?」

「そうにゃ」

「ここって地上にも現れるのかしら?」

 

 全貌が見えてこないため、まだ結論を付けるには早すぎる。が、ミリィは地上と地下とを繰り返し移動するような遺跡には見えなかった。

 

「にゃ? 例の考古学者のことかにゃ?」

「えぇ。よくよく考えてみると、おかしいわ」

 

 考古学者は倒れる寸前に見たという。ならば、その時は地上に出ていたのだろうか。それよりも、その考古学者事態が明らかになっていないのがおかしい。

 

「あたしは急いでたから碌に確認してないけど………」

「おいらもにゃ。考古学者については秘匿扱いにゃ」

 

 これが暗殺依頼などの裏の仕事ならまだ分かるが、考古学者が自分を秘匿にするなど有り得るのだろうか。普通ならば、自分が一番最初に見つけたということで名を売るために必ず出す。調査に出かける遺跡探求者などは基本的に二番目であるから。

 

「なんだか怪しくなってきたわね………」

 

 怪しいことは怪しいが、分からない部分が多すぎるため一度保留とした。全てが終われば明らかになるだろう、と信じて。

 不安を胸に進んでいくと、再び道が別れていた。

 

「うにゃ?」

「あら?」

 

 右と左。再びのT字路である。

 ふっとアドニスとミリィの視線が交わり、その一瞬後に、

 

「こっちにゃ」

「こっちね」

 

 それぞれ別の道を指差して、また睨みあった。

 

「………………………」

「………………………」

「ねぇ、アドニス。さっきはあんたに従ったんだから、今度はあたしに従いなさい」

「分かってないにゃ。おいらに従ったからこそ、こうして奥まで来ることが出来たにゃ。ここもおいらの意見を尊重するのが普通ではないのかにゃ?」

「………………………」

「………………………」

「じゃあ、やっぱりこれになるのね」

「だにゃ」

 

 そういってミリィが取り出したのは一枚のコイン。再びのコイントスである。

 

 

『―――――コッチ――――』

 

 

「「――っ!?」」

 

 上へと弾いたコイン―――受け取られることなく、静かに地面へと落ちた。アドニスとミリィの両者は共にナニカが聞こえた通路の奥へと視線を固定している。

 

「………アドニス」

「うにゃ。おいらにも聞こえたにゃ」

「………いくわよ」

「おうにゃ」

 

 二人は警戒を更に強めながら、選ばれた道を進むことにした。アドニスは剣を。ミリィはいつでも魔術が放てるようにと片手は常に空を握っていた。

 

「罠だと思う?」

「うにゃ~………なんとも言えんにゃ」

 

 相手の目的や狙い、出方などが少しでも分かれば判断できるだろうが、その一切が分からない謎の敵。判断するだけの情報がまだ出揃っていない。

 

「……………」

「……………」

 

 少し進むと、こじんまりとした部屋の入り口が見えてきた。ミリィとアドニスは一度向き直り、頷く。

 

「≪光符、停止≫」

 

 唯一の光源だった光符がその役目を一時止まり、周囲は暗闇が広がる。目が慣れるにはしばらく時間が必要だろうとミリィはその場に立ち止まる。その横を後ろから付いてきていたアドニスが追い抜く。猫であるため、夜目は利くのだ。

 気配だけで進むアドニスに何も言わず、ただミリィは己の目が闇に慣れるのを待った。

 

 

 

 

 先行するアドニス。まず、部屋に入る前に、先に続く通路を調べる。見える範囲での敵影・気配などは無し。しばらく待ってみるが、無音の世界が広がるだけである。続いて、部屋の中を見て―――

 

―――誰もいない?

 

 予想していた影は何も無かった。これまで見てきた部屋と同じように乱雑に荒れた部屋だけだった。魔物などの気配も無し。

 拍子抜けしたアドニスは、やや警戒を緩めて部屋の中へと入る。罠などの類も無かった。

 

―――おいらたちの気のせいだったのかにゃ?

 

 音を立てて歩いてみせても、やはり出てくる影は無かった。アドニスだけならば幻聴とも判断できるが、ミリィも聞いたとなると幻聴では無いだろう。

 

「―――アドニス?」

「うにゃ。何も無い………みたいだにゃ」

「そう―――≪光符、発動≫」

 

 再び光源が現れ、周囲を照らしだす。せっかく闇に鳴れた目だが、再びの光に軽く眩む。照らし出され、改めて見てもおかしな場所は何も無い部屋だった。

 

「声―――てか、何かの音が聞こえたわよね?」

「聞こえたってことは早々遠いところでは無いはずにゃ。だから、ここかと思ったがにゃ~………」

 

 残念ながらも、ここには音を発するようなモノは無い。ならば、何の音が聞こえたのか?死者の怨念だとでも言うのだろうか。

 

(うぅ、考えるのやめておこ)

 

「どうしたにゃ?」

「な、なんでもないわ………」

 

 ふと地面に視線を落とした際に気になる文字列がミリィの目に入った。すらすらと読むことの出来た単語、その意味―――

 ミリィは屈むと、静かにソレが書かれた紙を拾い上げた。

 

「“機械”……“竜”……………【機械龍の研究】!?」

「古代語読んで一人納得しないで欲しいにゃ。おいらにも分かるようにお願いするにゃ」

 

 ミリィの手元を覗こうにも、そこに書かれている文字は古代語。アドニスでは読めない文字なのである。

 

「あ、あぁ…………さすがのあんたでも名前くらいは聞いたことあるでしょ?【機械龍】の名前くらいは」

「ふひひ………」

「ん?」

「ないにゃ」

 

 がくっとミリィの頭が下に落ちた。

 

 

 “旧時代”の世界には【竜】と呼ばれる種族の魔物がいる。この竜たちはその昔、魔王が異世界より召喚してきた異世界の魔物と言われている。その力は強く、賢く、到底人のレベルでは太刀打ちできない敵だった。

 そこで、人が考えたのが模倣である。目には目を、歯には歯を。竜には竜である。そうして造りあげられたのが、竜を模した兵器―――【機械龍】である。

 しかし、人の技術力を持ってしても竜本来の力のコピーには至らなかった。所詮は二番煎じ。正面から戦えば勝ち目は無かった。だが、そこで諦める人間では無い。

 一体で無理ならば二体で。機械龍だけで無理ならば人間も後方より援護して、戦った。どれほど個が優れていようとも、数の暴力には敵わないものである。また、機械龍は他の生物とは違い、すぐに成長―――もといパワーアップが望めた。そのため、最初は劣っていたにも関わらず、あっという間に竜を追い越す性能を身に付けたのだ。

 だが、ここまで分かるほど後世の時代に伝わっているというのに、その機械龍自体が見つかることは無かった。戦争で壊れたのか、違うのか。また、どのような形で、どのような性能を持ち、どれほどの力を発揮したのか。

 全部ではないにしろ、製作過程や研究結果などは見つかっているので、その存在は確かだと言われている。なのだが、肝心の本体が未だ見つからない。

 

「あの竜でさえ、七夜で世界を滅ぼすと言うのよ。それを超える力を持つ機械龍………まさか、こんなところで情報が得られるとはね」

 

 ギルドは遺跡の管理なども行っている。危険と判断すれば封鎖し、必要あらば爆破して消去もする………がしかし、過去の遺産である遺跡。それを爆破するのは少々難しかったりする。

 そして、遺跡の他にも魔剣や兵器などの管理も行っている。そのリストの中で上位に余裕で君臨するのが、先にも言った【機械龍】である。

 

「とにかく! アドニス! これと似たような文字が書かれていたら拾って集めて!」

「お、おうにゃ!」

 

 アドニスは文字は読めないが、文字の形を見て覚え、それが少しでも似てると思ったら集めておこうと考えた。幸いにも、散らばっている紙は多くはない。

 

「というか、これって“旧時代”の紙なのにゃ? よく今でも読めるにゃね」

「正確には紙じゃないらしいけどねー」

「違うのかにゃ?」

「“データプレート”って言って、長期間の保存用の板らしいわよ? 今の時代の紙に似てるから紙って読んでるだけで、実際はすごい技術の塊よ」

「にゃるほど………もしかして、金になるかにゃ?」

「んー、結構見つかってるから………そこまで期待しない方がいいと思うわよ」

 

 比較的安易に見つかるために、“旧時代”の紙はそこまでの価値はなかったりする。が、そこに保存された情報はモノによっては紙以上の価値があったりする。

 

「まぁいいにゃ。集めるとするかにゃ。これは、違うかにゃ?」

「こっちは………う~ん、前衛的にゃ」

「ふむ、読めないにゃ」

 

 ぶつくさ言いながらもガサガサと紙を拾っては集め、必要ないと思ったものは投げ捨てている。多くの紙を広い、脳裏でミリィが言ってた文字と照らしあわすうちに、どれが基準となる文字が分からなくなり、後半は適当に集めているだけだったが。

 

「お?」

 

 紙を取り除いていくと、何やら青く輝く宝石が見つかった。手にとって見ると、宝石の中には輝く元となる液体のようなモノが入っていた。ただの宝石では無いことはさすがのアドニスでも分かり、そのまま持ち帰ることにした。

 

 その時だった。

 

 大きな音と共に、遺跡全体が震えるように鳴動し始めた。音という音が鳴り響き、止まっていた周囲の時間が突然動き始めたようである。

 

「なに!? きゃっ!!」

 

 音が鳴り止んだと思えば、突然体全体を地面に押し付けられた二人。周囲には誰もいない。しかし、体は上に鉛を乗せられたかのように動かない。

 

「か、かにゃ………」

「これ、は……魔術? いえ、もしかして、遺跡が上がってるの!?」

 

 来るのが突然なら終わるのも突然。二人の体は少しして解放された。その反動で周囲が再び散らばるが、二人の知ったことでは無い。

 

「なんだかマズい空気が流れてないかにゃ?」

「マズいもマズいわね。何だか分からないけど、一度脱出しましょ」

 

 無音だった世界に音が生まれたのだ。遺跡の機能が動き出した―――即ち、侵入者を排除しようと動き出しているのだろう。

 アドニスとミリィはそれぞれ集めた資料を仕舞うと、一目散に来た道を戻った。

 

「帰り道は分かってるのかにゃ!?」

「分からないわ! けど、あたしの予想が当たってれば―――!」

 

 走る二人の前に割り込む影。

 

「にゃにゃ!?」

「この急いでる時に!」

 

 見たことの無い兵器であった。だが、何をしようとしているのかは考えるまでも無い。邪魔だと言わんばかりに≪フレイム≫を放つ。

 

「くっ! こいつらも!!」

 

 この兵器たちも、魔術を無効化するシールドのようなモノを備えている敵だった。そして、そのシールドを展開している間は動きが遅くなることも実践で分かっていることだ。

 

「なら、≪遍く業火! 敵を葬る飛礫と化せ!≫」

 

 前方の兵器たちに向けて飛ぶ無数の炎弾。それを縫うように動く小さな影―――アドニスである。

 

「おいらも忘れてもらっちゃ困るにゃ!」

 

 兵器たちは≪フレア・ガトリング≫を感知するやすぐにシールドを展開した。その隙を狙うアドニスが、魔剣を強く握り、振るう。

 

「うにゃ!?」

「嘘っ!?」

 

 動きが遅くなると思っていた兵器たちだが、シールドを展開しながらも動きは遅くならなかった。アドニスの魔剣に余裕で反応していた、

 

「別れ道にゃ!? どっちにゃ!?」

「地上に出たなら空気の流れがあるはずよ! アドニス、分からない!?」

「にゃ、にゃ、にゃ、こっちにゃ!」

「その言葉、信じるわよ!」

 

 ミリィも魔剣を握り、進む道を邪魔する者だけを片付ける。無駄のようだが、一瞬でも反応を遅らせることが出来るならば、とミリィは魔術を連続で放つのを止めないでいる。また、アドニスも魔剣を振るい、倒すことは出来なくても弾き飛ばすことが出来れば良い、と力任せの一撃を続けた。

 やがて二人は懐かしの砂漠へと戻ってきていた。

 

「巨木………は、無い!地上の砂漠だわ!」

「うをっ! でっかいにゃ!」

 振り向いて自分たちが出てきた入り口を見る。その先には見上げるのも疲れそうなほどの遺跡が鎮座していた。見上げているだけでは分からないが、小さな村や町くらいならば収まりそうなほどの大きさがある。

 

 

 

『ルオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

 

 入り口より奥、深淵より地底から響く声。外にいるアドニスたちにまで届いた声。アドニスは驚き、振り向くだけだったが―――隣のミリィは顔を青くして、小さく呟いていた。

 

 ありえない、と。

 

 

 


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