「私って誰なんだろう。まあ名前が無いのは少し不便だとは思うけど、まあ気にせずに頑張って行こうと思ってる」
「あの、泣いてて説得力がないと思うんですけど…」
「泣いてなんかない。これは汗だ」
「え、えーっと…元気出してください」
膝抱えながら座って目から水分を出しても、それは泣いているとは限らないよ、ユーリ。
ちなみに、私達は紫色の何もない、精神空間のような場所で向かい合って会話をしている。正面から彼女の姿を見るのは初めてだが、ふわふわした印象がある。私?野郎の外見なんかどうでもいいだろう?12,3歳くらいの女の子みたいな姿らしいです(ユーリ談)。何故だ、私は男のはずだ。
「…で、これからどうする?」
「まずはマテリアルと騎士達を探しに行こうと思います。私が抜けた影響が出ているかもしれません」
「そのマテリアルとか騎士ってのが何か分からないが、どうやって探す?」
「え、えーっと…その……が、頑張って探します…」
「つまりは当ても無しに探すのか。…ねえ、ユーリ…というよりは、私達ってシステム何だろう?本来の物との繋がりとか、そういうのないのか?」
「それは先程試してみました。ですが、何故か途切れてしまっていて、紫天の書も、夜天の書も何処にあるのか分からないんです」
…それも私の影響だろうな。何故こう厄介なことばかり起きるのか…
「じゃあ、人が集まる場所に言ったらどうだ?誰かに聞けば何か分かると思うけど」
「え?…む、無理ですよ…」
「どうして?もう暴走することはないんだから、堂々と聞きにいけばいいじゃないか」
「だ、だって…人前に出るの、恥ずかしいんです…」
と、ユーリは顔を赤らめ、顔を俯かせて右手を軽く握って口元に持っていき、もじもじしていた。なにこの小動物、撫でたい。恥じらう典型的なポーズなのにすっごい萌えるんだけど。
「……あ、それなら私が表に出ようか?それならあまり気にならないだろう?」
「え…いいんですか?」
「いいよ。元はと言えば私が原因だし。じゃあ、表に出るよ」
「はい。お願いしますね…あ、そういえば」
「なんだ?」
「さすがに覚えてなくても、やっぱり名前がないと不便だと思うんです」
「……確かにそうかも。じゃ、ユーリが考えて」
「え!?わ、私ですか?え、えと、じゃあ…アークで」
「アークか…それじゃ、私はこれからアークね。よろしく、ユーリ」
「は、はい。それじゃ、その…行ってらっしゃい」
だから、そうやって顔を赤くしながら萌える台詞を言わないでくれ。
「う、うん。行ってくる」
そう言って会話を終わらせて、表の世界に出た。
さすがにあの服装だと恥ずかしかったので、上着の部分を腰あたりまで伸ばした。人見知りなのに何故お腹を出しているデザインなのか…謎だ。
暫く移動し続け、現地の人々に会うことが出来たので、本型のデバイスを見かけたか、または持っている人物を知っているかと質問してみたが、誰も知らないらしく、情報が集まらなかった。
「なかなか情報集まらないな…」
《そうですね…この世界にはないのでしょうか》
「魔法が普通に知れ渡っている世界だから、何か珍しいのが出てくれば話題になるだろうから、たぶんそうだろう」
《どうします?別の世界に行きますか?》
「いや、もう暫くこの世界にいよう。日が暮れてきたから今日は寝て、明日出発したい」
《分かりました》
そして、宿泊施設に泊まる。……泊まったのはいいのだが、気付かなかった問題が浮上してきた。
《お風呂、どうしましょう……》
「……タオル巻いて、出来るだけ下を見たり、鏡の前に立たないようにしてくれ」
《で、でも体を洗うときは、どうしても下を見るか、鏡を見ないと…》
「なら、一旦"こっち"に来て魔法でもなんでも使って私を気絶させれば《そんなこと出来ませんよ!》…なら、どうするの?」
《…あの、思いついたんですけど…》
ユーリが思いついた方法とは、自分に目隠しをして洗うというものだった。勿論、目隠しをしているし、目も瞑っているから見てはいないのだが…
(…もし過去に戻れるのなら、数分前の私を殴りたい……)
視界が真っ暗で使えない分、他の感覚に意識を集中してしまう。表に出ていなくても感覚は共有してしまうらしく、そちらに意識が向いて…
(っ何を考えてるんだ私!無心になるんだ、そう無心に!)
………無理。耐えられない。
《あ、あれ?アーク、シャワーって何処にありましたっけ?》
「え?上の辺りじゃないの?」
《分かりました》
-この時、嫌な予感がした。そういえば、今ユーリはどんな状態だ?
「ユーリ、ゆっくり立ち上がって…」
《ひゃあ!!》
急に体が倒れる感覚がした。
「痛っ!」
《あうっ!》
鼻の辺りが痛い。どうやら滑って前から倒れてしまったようだ。
《痛…》
「ユーリ、大丈夫?」
《はい、大丈夫で…》
……どうやら、先ほどの衝撃で目隠しが外れていた。おまけにお互い目を瞑ることも忘れており、目の前には鏡が…
《~~~っ!》
「ま、待てユーリ!大丈夫、泡で大事なとこは見えてないし、そもそも私は何もしてない!」
そう説得しようとしたが、急に目の前にユーリが現れた(精神世界に来ていた)。そして、右手で私の胸を突き刺して魔力を吸い出して…
「…ゑ?待って!話せば分かる!だから落ち着いて…」
「-エンシェント・マトリクス-」
そして、真っ黒な槍がこちらに飛来し、私の体を貫いた。
「-はっ!」
気が付くと、宿の部屋にいた。視界が紫っぽいから、ユーリは起きて動いているようだ。
「おはよう、ユーリ」
《え!?お、おはようございます……》
…驚かれた…が、少し気になることが…
「ねえ、転んだ辺りから覚えてないけど…あれからなにかあった?」
《え?あのこと、覚えてないんですか?》
「うん、そうだけど…何か、重要な事でもあったの?」
《い、いえ!全然!大したことなんてありませんでしたよ!?》
どう聞いても大したことがあったって言ってる反応だけど…まあ、個人的な事があったのだろう。気にしないでおこう。
《そ、それより!今日は別の世界に行くんですよね?》
「ん、ああ。どうする?また変わろうか?」
《…お願いします》
「了解。…さて、どこに行こうか…」
取り敢えず、一旦外に出よう。
「ちょいと、そこのお嬢さんや」
「…なんですか?」
声の方向に振り向くと、ローブを来て顔を隠したお婆さん(声で判断)がいた。物凄く怪しいんですけど。
「1つ、これを貰ってくれないかね?」
「なんですか、これ?」
《石、でしょうか?でも凄い多く魔力内蔵してます…》
「その石、何やら願いを叶えるとか言われている物でね。でもなんにも起こらないし、良かったら貰ってくれないかね?」
…物凄く怪しかったので、念話でユーリと相談する。
《どうする?》
《どうしましょう…これがどういった物なのか、詳しくは分からないですし》
《だよね…》「すまない、お婆さん。これは受け取れな…」
そう言いながら顔を上げると、もうそこにはお婆さんは居なかった。
「…え?」
《あれ?お婆さん、どこに行ったんでしょうか?》
「も、もしかして、幽霊とかじゃ…」
《怖いこと言わないでください!》
でも、急に居なくなったから…やっぱり
《やめてくださいよ…》
「分かった。さて、この石…どうしようか」
お婆さんから貰った(押し付けられた)石を日に翳してみる。魔力がある事以外、なんの変哲もない石なんだけど…
「…ん?これ、光ってない?」
《え?よ、よく分からないですけど、たぶん危ないです!》
「えっ」
なにそれ、と言う前に光がどんどん大きくなり、ついに体が包まれた。
「うああああ!目、目が!」
《何も見えないです!》
強い光って目にダイレクトに影響与えてくるのか、勉強になった。痛い。
痛くて何も見えないが、浮遊感がある。…飛んでる?
「うわっ!?」
「痛っ!」
《あうっ!》
なんか硬いものに顔ぶつけた…痛い…
「えーっと、大丈夫?」
声をかけられ、顔を上げる。目が痛くてよく見えないが、声的に小さい女の子っぽい。
「…君は?」
「あ、私?私アリシア!」
《人に名前を尋ねるときは自分から名乗るべきって言ってませんでした?》
あれーわたしそんなこといってたかー?
第二話にしてエンシェント・マトリクス(戦闘で使ったとは言ってない)。話に出てきたお婆さんは今後の出番はありません。