支部長の部屋に呼び出された伊佐は、迅と共にノックをして入った。
「失礼します」
「伊佐を連れて来ました」
中には眼鏡をかけてタバコを吸っている男がいた。
「おっ、来たな。俺は林藤匠。ここの支部長だ」
「ご挨拶遅れて申し訳有りません。伊佐賢介といいます。分からないことが多々あるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
「おお……聞いてた通り礼儀正しいな」
「こちらでお世話になるわけですから、当然です」
「まぁそう固くなるな。小南には随分と毒舌らしいじゃないか」
「別に小南さんだからではありませんよ。バカだと思っててもバカにするつもりはありません。騙されやすいからって上手くパシらせようとも思ってません。ただ、正直にしかものを言えないだけです」
「おおう……お前の腹黒さも分かった気がしたわ……。まぁいい。よろしくな」
「はい」
挨拶を終えて、迅と伊佐は部屋を出た。
「なぁ、伊佐」
「はい?」
「ちょっと時間くれるか?」
「良いですけど……」
さっきの会議室的な部屋に入った。中にいた修や遊真達はいなくなっている。
「さて、頼みがあるんだけど、いいか?あ、これ他言するなよ」
「何ですか?」
「近い内に、遊真の黒トリガーを狙ってA級上位部隊が攻めてくる」
「………」
「その時に、多分俺と嵐山隊が迎撃する事になると思うんだ」
「それで?」
「本当は現場で指揮とって欲しいんだけど、入隊早々から悪目立ちしたくないだろ?だから、オペレーターとして指揮をとって欲しいんだ」
「それはいいですけど、相手の情報とかはくれるんですよね?」
「ああ、勿論」
「分かりました。でもオペレーターって言われてもあまり勝手が分からないんですけど……」
「大丈夫だよ。その辺は本職のオペレーターに聞けばいいさ」
「本職?」
「ああ」
*
迅に言われて、伊佐は本部に入った。で、たまたま通り掛かった人に声を掛ける。
「あの、すみません」
「あん?おお。お前は粉塵爆発の」
「あ、どうも」
偶然にも、バンダーの時に助けてくれた人だった。
「あん時はすごかったぜ。お前ボーダー入ったのか?」
「はい、一応」
「そうか。俺は柿崎国治だ。よろしくな」
「は、はい。伊佐賢介です」
「それで、どうしたんだ?」
「嵐山隊の部屋ってどこにありますか?」
「ああ、案内してやる。こっちだ」
で、案内してもらった。嵐山隊の前は、おそらく高校生くらいの隊員で溢れていた。
「………ったく、こいつら」
「何の騒ぎですか?」
「あーいや、前に嵐山隊のオペレーターに彼氏がいることが発覚してな。それがボーダーの新入りらしいんだけど、その事を聞きたがってるやつが未だに諦めてねーんだよ」
「……なるほど」
「おーいお前ら、退け。こいつが嵐山隊に用があるんだとよ」
柿崎が言うが、どいつもこいつも聞く耳を持たない。
「ったく……おいお前ら!」
「その彼氏って俺ですよ」
「っ⁉︎」
直後、その群れが全員止まった。そして、柿崎の横の伊佐を全員見る。
「………まじ?」
「嘘だと思うんならそれでいいですけど、いいから退いてくれませんか?」
全員が固まる中、無視して伊佐は通り抜ける。だが、一番最初に機能したのは米屋だった。
「マッジかよ!ちょっと話聞かせてくれよ!」
「後でいいですか?」
「つれないこと言うなよ。少しでいいからさ」
「今からハルちゃんとイチャイチャするんで」
言うと、全員「おお〜」と声を出す。柿崎も後ろで、「あいつスゲェな……」みたいな表情をした。
「失礼します」
ノックをしながら伊佐が嵐山隊のドアをノックした直後、開いたドアから手が伸びてきた。それが伊佐の頭を掴んでアイアンクローを決める。
「何を恥ずかしいことを堂々と宣言してんのよ!」
「イタイイタイイタイイタイイタイ……」
「どうすんの⁉︎これからずっとからかわれるんだよ⁉︎だからバレたくなかったしこれまで隠してたのにもうっ!」
「締まってる締まってる締まってる締まってる締まってる……」
「何しに来たのか知らないけど今からほんとお説教だから!早く来なさい!」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」
作戦室に彼氏を引き込む綾辻を見て、その場にいた男全員が引いていた。