(迅さんが言うには、分断するまでは何もしなくて良い、って言ってたよね)
それを思い出し、最初の戦闘はのんびりすることに決めた。
「それで、どうやって勝つつもりなの?ケンくん」
「簡単だよ。多分、嵐山さん達を追ってくるのは三輪隊と+αだからね」
「侮ってると痛い目見るよ?」
「大丈夫、戦闘経験は向こうのほうが上でも、指揮官の経験は俺の方が上だ」
「ゲームででしょ?」
「うん」
「……………」
少し伊佐が心配になる綾辻だった。
「でも実際、ケンくんのゲームの腕はすごいよね〜。一回見に行った時ビックリしたもん」
「まぁ、周りがそうでもなかったけどな。特に決勝の……なんてったっけ?カントリー……なんとかってのたいしたことなかったわ」
「カントリー?国?………あれ、なんか身近にそんな人がいたような……」
『おい、作戦中だ!全部聞こえてるぞ!』
「「すみませんでした」」
嵐山の声が聞こえて、慌てて謝った。
「……でもよくあの時応援に来てくれたね」
「当たり前だよ〜。あの後、ちゃんと私の買い物も付き合ってくれたし。………ケンくんの、カッコ良い姿みたかったし」
「ありがとう。ハルちゃん」
「ケンくん……」
『おい、作戦中だって言ってんだろバカップル』
「「すいませんでした」」
すると、敵の分断に成功したのか、嵐山隊と迅が別れた。
『来るぞ、伊佐』
「了解しました。嵐山さん」
『なんだ?』
「勝っちゃっていいんですよね?」
『もちろんだ』
「了解」
*
嵐山達は三輪隊+出水を誘い込んだ。米屋と合流している代わりに、古寺と奈良坂の姿はない。
「こちら佐鳥、お前の読み通り三輪隊+αが来た。けど三輪隊の狙撃手はいなくて、米屋先輩が合流してる。あとは出水先輩がいるよ」
『ありがとうございます。佐鳥さんはその場で待機、絶対に撃たないで下さい』
「了解」
一方で、分断された嵐山達は三輪隊と正面から向かい合う。
「嵐山隊……何故玉狛と手を組んだ?」
「玉狛は近界民を使って何を企んでいる?」
「玉狛の狙いは正直よく知らないな。迅に聞いてくれ」
「なんだと……⁉︎」
「近界民をボーダーに入れるなんて普通はありえない。よっぽどの理由があるんだろう。迅は意味のないことをしない男だ」
「そんな曖昧な理由で近界民を庇うのか⁉︎近界民の排除がボーダーの責務だぞ‼︎」
「お前が近界民を憎む理由は知ってる。恨みを捨てろとか言う気はない。ただ、お前とは違うやり方で戦う人間もいるってことだ。納得いかないなら迅に代わって、俺たちが気の済むまで相手になるぞ」
「…………」
三輪が黙り込んだときだ。後ろの出水が攻撃態勢に入った。
「やるならさっさと始めようぜ」
「!」
「早くこっちを片付けて、太刀川さんに加勢しなきゃなんないからな」
両攻撃と見た佐鳥は言った。
「撃つぞ、伊佐」
『ダメです』
「なんでっ?」
『あれが攻撃態勢であることが確定したわけではありません。仮に両防御だった場合、三輪隊の誰かが佐鳥先輩を一人殺しに来て、こちらは誰かにカバーさせなきゃいけない。タダでさえ人数で負けているのにそれは困ります』
「………じゃあいつ撃つんだよ」
『こちらから指示します』
「…………わかった」
一方、射撃戦が行われている嵐山隊vs三輪隊は激しい撃ち合いになっていた。
狙撃手の援護がいつ来るか分からない三輪隊は若干押され気味だが。
「全員退け」
言いながら米屋が孤月を振るった。
「旋空孤月」
斬撃が飛び、嵐山隊の3人は大きく後ろに飛んで回避。その隙を逃さずに出水と三輪は追撃した。
『嵐山さん、メテオラを二発』
「なんでだ。当たらないぞ」
『当てるのが目的ではありません』
「了解」
上空からメテオラを三発放つ嵐山。当たらなかったものの、道路を大きくぶっ壊し、煙が舞い上がった。
『時枝さん、敵の真後ろにテレポート。移動完了後、嵐山さんと挟み討ちでぶっ放して下さい』
「了解」
『佐鳥さん、木虎さん』
「ん?」
「何?」
『仕事です』
煙の中で弾丸を浴びている三輪、米屋、出水はシールドを張ってなんとか堪えていた。
「クッ……!」
「挟まれたか。どうする秀次⁉︎」
「上に逃げるしかないだろ!」
三人はシールドを張りながら大きくジャンプして弾丸を回避した。その直後、パッとビルの上が二つ光った。
「ッ⁉︎」
その弾丸が一発米屋の頭に直撃。もう一発目の出水はなんとか防いだ。さらに、三輪に木虎がスコーピオンで斬りかかった。
「くッ……‼︎」
「秀次!」
緊急脱出直前の米屋が、三輪の腕を引いてなんとか脚一本で済んだ。
「すまん、陽介」
「じゃ、あとよろしく」
米屋はバシュッと消えて行った。だが、嵐山隊の攻撃は終わらない。
『木虎さん、追撃お願いします。嵐山さん、時枝さんはその援護、佐鳥さんは隙があれば仕留めるつもりで狙撃して下さい』
「「「「了解」」」」
四人とも従った。
*
「ふぅ……」
「す、すごいね……」
息をついた伊佐に綾辻が引き気味に呟いた。
「俺は、将棋でもチェスでもまずは相手の退路を断つタイプだから」
「性格悪っ」
「……………」
*
一方、牽制しつつ退く三輪と出水。
「おいおいおい、どうすんだ三輪!ヤバくねこれ⁉︎」
「分かってる!」
三輪は奥歯を噛み締めた。
(この戦法……嵐山隊の戦い方じゃないな。別の所に誰か指揮官がいるのか?いや、そんな事はどうでもいい!それより、まずはこの状況を何とかしないと……!)
頭の中でどうやって逃げ切るかを巡らせている時だ。
「三輪!」
「っ!」
目の前の木虎がスコーピオンを振り被った。
「しまっ……!」
「まず一人」
木虎がそう言った直後、バシュッと音が響き、木虎の胸に穴が開いた。