「っ⁉︎」
「ッ‼︎」
「なんだぁ⁉︎」
そのまま木虎は緊急脱出。直後、嵐山隊の耳元で大声がした。
『全員シールド!もしくはその場から退避‼︎』
そう言って慌てて3人ともシールドを張った。直後、嵐山のシールドを貫通した。
「っ⁉︎」
反射的に身体を逸らしたお陰で、腕が吹き飛んだ程度で済んだ。
『全員退がって!嵐山さんと時枝さんは合流して待機、佐鳥さんは次の狙撃ポイントに逃げて!』
「「「了解……!」」」
*
「あいつら逃げてるぞ三輪、追うか?」
「いや、体勢を立て直したいのはこちらも同じだ。追わなくていい」
『おいおい三輪ぁ、随分とボコボコにされてるじゃねーの?』
「援護ありがとうございます、当真さん」
『これからどうするよ?』
「それは……」
*
嵐山隊作戦室。ボフッと木虎が帰って来た。
「おかえり、木虎ちゃん」
綾辻が声をかけ、少し申し訳なさそうな顔をする木虎。
「すみません、狙撃を警戒していれば……」
「謝るのは俺の方です。援軍が来る可能性を勝手に排除していた……」
ショボーンと落ち込んでいる伊佐。
「そうね。指揮官のあなたの所為だわ」
「………ほんとすいません……」
「うっ……」
追い討ちをかけると、予想以上に凹まれて、少し罪悪感が芽生えた。すると、綾辻が伊佐の肩に手を置く。
「落ち込まないで。まだ負けてないよ」
「………うん」
「それに、最初は無傷で米屋くんを落とせたりしたんだし、ケンくんは良くやったよ」
だが、ショボーンと落ち込む伊佐は中々復帰しない。すると、木虎も自分が悪いと思ったのか声を掛けた。
「そ、そうよ。あなたのお陰で最初は優勢だったんだし!落ち込まないでよ」
「いや……でも俺がもっとしっかり画面を見てれば……」
「狙撃手は普通バッグワーム付けてるし、レーダーに映らないのは仕方ないわよ」
「いやでも皆さんに警戒するよう促せばもしかしたら……」
(め、面倒臭い……!)
木虎は心底そう思った。すると、嵐山から通信が入った。
『こちら嵐山。伊佐くん、指示はまだか?』
「すいません嵐山さん。俺が敵の援軍に気付いてれば……」
『いや、バッグワームを使われてたのなら仕方ないよ。切り替えろ。反省は後だ』
「はい……ほんとにすいません……」
『……綾辻さん、伊佐くんどうしたの?』
今度は時枝からだ。
「ゲームで負けるとこうなるんです。少し前にそれでギルド壊滅させたのがトラウマになってるみたいで……」
『なんとか出来ないの?』
「出来ないことはないんですけど……」
『頼む、迅に頼まれた仕事だ。やり通したい』
嵐山に頼まれ、綾辻は伊佐の耳元で呟いた。
「後で一緒にスマブラやってあげるから、頑張れない?」
「嵐山さん、今の状況を教えて下さい」
「子供か」
木虎からのツッコミを無視して、伊佐は嵐山の現状を聞いた。
「……なるほど」
『あっ』
「どうしました?」
『迅の方で一人緊急脱出したみたいだ』
「………よし、大体出来た」
そう呟くと、伊佐は指示を開始した。
*
「よし、充。聞いてたな?」
「はい」
伊佐からの作戦を聞いた嵐山は時枝にそう聞いた。
「賢もいいか?」
『了解っす』
「にしても、本当によく思いつくものですね。伊佐くんは」
「ゲームで学んだとは思えないな。とにかく、指示通り待機だ」
「はい」
*
数分後、さらに迅の方から一人緊急脱出したのを見て、三輪と出水は嵐山達を探すより、迅の戦闘を援護する事にしたのか、動き出した。
「! 動いた」
「よし、賢。先に行っててくれ」
『了解っす』
それを追うように嵐山達も動いた。
「おー、来た来た。三輪の読み通り」
その様子を狙撃ポイントについた当真はレーダーで見ていた。
「あれ?嵐山さんだけ?とっきーはバックワーム使ってんのか」
「嵐山さんを囮にして奇襲か、もしくはまたテレポートからの十字放火だろう。佐鳥も生きている、一応狙撃を警戒しておけよ」
「うい」
場所は何処かの公園。
「おっ、嵐山さん見っけ」
直後、出水の爆撃。それを後ろに下がってシールドを張りながら逃げる嵐山。
(………反撃は無し、本当にカウンター狙いか)
出水と三輪の攻撃を必死に耐える嵐山。なんとか凌ぎ切った。
「うおお、耐えるなー嵐山さん」
「深追いするなよ。時枝の奇襲か佐鳥の狙撃を最警戒しろ」
そう言いつつ、攻撃を再開。嵐山は後ろに下がりながら、狙撃を警戒しつつ攻撃を凌ぐ。
「……なぁ、三輪。大人しすぎないか?」
「…………」
出水に聞かれて、一瞬考える三輪。嵐山からの反撃はない。
「!」
「どうかしたか?三輪」
「出水、早く片付けるぞ……!」
「急にどうした?」
「嵐山さんの狙いは……!」
そう言いかけた時、更に緊急脱出が二つ。そして、三輪の耳元に声が入った。
『三輪くん、作戦終了よ』
オペレーターの月見蓮の声がした。
『太刀川くんと風間さんが緊急脱出したわ。奈良坂くんと章平くんも撤収中よ』
「……‼︎」
「そうだ、三輪。俺たちの狙いは、迅が勝つまでの時間稼ぎだ」
「はぁ⁉︎」
出水が声を上げた。
「なら、トッキーもいた方が時間は稼ぎやすかったんじゃねぇの?」
「それも奴らの作戦のうちだ。敢えて時枝をバッグワームで隠して、奇襲すると思わせて俺たちに全力で戦闘をさせないのが目的だったんだ」
「でも、迅さんが勝つ保証なんてないだろ」
「それはあったよ。最初に迅が言ってただろ」
嵐山に言われ、出水の頭に浮かんだのは、戦闘前に迅が言ってた台詞だった。
「くああ〜〜〜!マッジかよ、さっさと潰しときゃ良かったわ」
「それでも俺たちはなんとか粘ってたと思うぞ」
そう嵐山が言った直後、にゅっと木陰から時枝が姿を現した。
「任務達成ですね。嵐山さん」
「俺なんもしてないけど」
「ああ、充、賢。よくやった」
言いながら嵐山は通信機にも声をかける。
「木虎と綾辻もよくやってくれた」
『どうもです』
『お疲れ様です』
『いやいや、俺は?ねぇ、俺は?』
『あんたは一応、隠すことになってんでしょうが』
その声を聞いて、嵐山は若干微笑んだ。
「作戦失敗か〜……。5位のチームにいっぱい食わされたのは腹立つな〜」
「おいおい、それよりトッキー。嵐山隊らしくない随分とイヤラシイ作戦だったじゃねぇか」
いつの間に降りてきたのか、当真がそう言った。
「あー……まぁ、そうですね」
「もしかして、誰か助っ人呼んでたんじゃねぇだろうな。作戦通信参謀的な」
(大正解)
そう思っても口にしなかった。すると、三輪が嵐山に言った。
「嵐山さん、近界民を庇ったことをいずれ後悔する時が来るぞ。あんたたちはわかってないんだ。家族や友人を殺された人間でなければ、近界民の本当の危険さは理解できない。近界民を甘く見ている迅は、いつか痛い目を見る。そして、その時にはもう手遅れだ」
「甘く見てるってことはないだろう。迅だって近界民に母親を殺されてるぞ?」
「……⁉︎」
「五年前には師匠の最上さんも亡くなってる。親しい人を失う辛さはよくわかってるはずだ」
「…………」
「近界民の危険さも、大事な人を失う辛さもわかった上で、迅には迅の考えがあるんだと思うぞ」
言われて、三輪の頭には迅の顔が浮かんだ。
「…………クソッ‼︎」
短く声を上げながら、近くの壁を殴った。
*
「…………終わった。なんとか勝てたぁ……」
グデーッと綾辻に保たれ掛かる伊佐。その伊佐の頭を綾辻は撫でた。
「お疲れ様」
「オペレーターって大変だね。改めてそう思うわ」
「そうね、特に途中で失敗したからってふて腐れる人には二度と指揮されたくないわね」
木虎に言われ、伊佐は真顔で木虎の顔を見つめ返した後、綾辻に視線を戻した。
「それよりスマブラの約束だかんね。絶対だかんね」
「はいはい。じゃ、今日はもう帰ろっか」
「ち、ちょっと!無視なの⁉︎」
「今夜は寝かさないからね」
「それ変な意味に聞こえるからね」
「ま、待ちなさいよバカップル!」
二人は帰った。