俺が綾辻さんの彼氏か   作:杉山杉崎杉田

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第14話

 

翌日の朝。昨日の夜から現在まで、二人でスマブラをやっていて、綾辻の眠気はマックスだった。

 

「少しくらい遅刻してけば?」

 

「無理だよ……今日も嵐山隊は仕事なんだから……」

 

フラフラと玄関に向かう綾辻。その様子を後ろで見ていた伊佐は、自分もさっさと準備をして、すぐに隣に立った。

 

「………ケンくん?」

 

「途中までチャリで送るよ」

 

「いいよそんな……悪いし」

 

「俺がゲームに付き合わせた所為だから、気にしないで」

 

「ケンくん……」

 

家を出て鍵を閉めると、伊佐は自転車を出した。その後ろに跨り、伊佐の腰の辺りに抱き着く綾辻。

 

「………割と胸あるね」

 

「よ、余計なこと言わなくていいっ」

 

出発進行。伊佐は軽々と自転車を転がし、綾辻は伊佐の背中に、前のめりに凭れかかる。背中の柔らかい感触を愉快に感じていた伊佐だが、ヤケにユラユラと揺れているのに若干不安になった。

 

「ハルちゃん、大丈夫?」

 

「…………」

 

「ハルちゃん?」

 

「………Zzz〜……」

 

「………」

 

寝てるようなので、慎重に走った。

 

 

ボーダー本部。爆睡してる綾辻をおんぶして歩く伊佐。それを見ながら周りがからかうような台詞を言う。

 

「ヒュー、流石彼氏だな」

 

「そうですね」

 

「…………」

 

実にからかい甲斐のない男だった。すると、たまたま通り掛かった出水が、からかった小荒井に聞いた。

 

「えっ、綾辻って彼氏いんの?」

 

「いますよ。最近のボーダーじゃその噂で持ちきりですよ」

 

「あのおぶってるのが?」

 

「はい」

 

「おい、余りばら撒いてやるなよ」

 

「いいじゃねぇか、奥寺。どーせいつか知られるんだし」

 

一応、奥寺が止めるも、小荒井に反省の色はない。出水は面白いことを知った顔をして、ニヤリと笑った。

 

「おーい、綾辻」

 

「……だぁめだよ〜けんくん……そんなわたし達、まだ未成年……」

 

「おい、綾辻」

 

「あの、ハルちゃん今寝てるんで。起こさないであげてください」

 

「ハルちゃんって呼んでんの⁉︎」

 

「はい。ていうか、あなた誰ですか?」

 

本当は知っている。だが、昨日の件は関わってないことになっているので、他人のフリをした。

 

「ああ、悪い。俺は出水。太刀川隊のシューターだ」

 

「失礼しました。俺は伊佐賢介です」

 

「……もしかして、新しくボーダーに入るのか?」

 

「一応、スカウトされました」

 

「おお、マジか。スゲェな」

 

「では、ハルちゃんを送らないといけませんので。失礼します」

 

「待てよ。話くらい聞かせろって。てかなんで綾辻寝てんの?珍しい」

 

「昨日から今朝までゲーム付き合わせてしまって、それでかなり眠いそうです」

 

「お前、ゲームやるのか?」

 

「はい。一応」

 

「なら、うちの作戦室こいよ。俺たちのオペレーターが超ゲーム強くてさ」

 

「行きましょう」

 

即答した。

 

 

とりあえず、綾辻を嵐山隊の作戦室に置いて、伊佐と出水は太刀川隊作戦室へ。

 

「うーっす」

 

「失礼します」

 

中に入った直後、目の前に現れたのは顔の長い少年だった。

 

「………何用かな?」

 

「オペレーターさんとゲームしに来ました」

 

「いや動じないのお前?」

 

出水から若干引いたような台詞が飛んできた。

 

「出水先輩、彼は?」

 

「客だよ。お前変なこと言ったらブッ殺すから」

 

一撃で黙らせると、出水は伊佐を中に入れる。中には、オペレータの国近柚宇と太刀川がゲームをしていた。

 

「柚宇さん、いる?」

 

「お〜、出水くん。どしたの〜?」

 

「ちょっと、紹介したい人がいてさ。ゲーム仲間にどうかと思って」

 

「おお〜、どんな人どんな人〜?」

 

パァッと明るくなる国近の前に、出水は伊佐を差し出した。直後、明るくなった顔色が一転してブラックホールと化す。

 

「ああああ〜‼︎」

 

大声をあげながら、伊佐を指差した。

 

「? 伊佐、知り合い?」

 

「いえ、知りません」

 

「嘘だ!絶対知ってる!」

 

「いやなんで俺の知ってることを見ず知らずの人に判断されなきゃいけないんですか」

 

「だって私は知ってるもん!」

 

「自分が知ってることを他人が知ってると思わないでください」

 

「二年前の6月の市内格ゲー大会決勝戦!」

 

「…………ああ、あの時の」

 

「思い出した⁉︎」

 

「一番弱かった人」

 

「」

 

直後、ゆらりと立ち上がる国近。

 

「お前ぇ……ゆるさぁーん!」

 

声を張り上げた国近は、太刀川の方を見た。

 

「太刀川さん」

 

「ど、どうした?」

 

「退いて」

 

「いや、でも今ゲーム中……」

 

「退、い、て」

 

すごすご退く太刀川を見ても、まったく悪びれる様子なく国近はコントローラーを伊佐に渡した。

 

「リベンジ!」

 

「はぁ、いいっすけど。あの時みたいに負けたからって泣いて怒らないで下さいよ」

 

「えっ、柚宇さんその癖外でもなの?」

 

出水がドン引きしても、国近はまったく気にせずにスマブラをつけた。

 

「もしかして、ここでも泣いて怒るんですか?」

 

「そうなんだよ。お前あの大会の日大変だったんだぞ。1日拗ねてまったく仕事しなかったんだから」

 

「愉快な人なんですね」

 

「早く!」

 

はいはい、とコントローラーを受け取って国近の横に座る。

 

「んっ、お前……」

 

「あ、初めまして。新しく玉狛支部に配属されることになった伊佐賢介です。宜しくお願いします」

 

「ああ、俺は太刀川慶だ。玉狛ってことは、迅と知り合いか?」

 

「はい。一応、あの人にスカウトされて……」

 

「へぇ!迅がスカウトする程の奴か!なぁ、今度俺と…」

 

「早く!」

 

急かされて、仕方なく会話を打ち切って伊佐は画面を見た。

 

「もう一度言うけど、負けても泣かないで下さいよ」

 

「分かってる!てか泣いたことないし!」

 

「ええ………(困惑)」

 

伊佐を困惑させるほどの国近とのゲームが始まった。

 

 

「おーい綾辻、いい加減に起きろー」

 

ペチペチと頬を叩かれて、綾辻は目を覚ました。薄っすらと開けた目に映っていたのは、嵐山の姿だった。

 

「………あらしやまさん……?ケンくんは……?」

 

「賢介なら綾辻を置いた後、出水と太刀川隊の作戦室に行ったよ」

 

「たちかわたい……?」

 

伊佐→太刀川隊作戦室→太刀川、出水、唯我、国近→割とゲームやる人たち→その発端→国近。

そこまでのフローチャートが出来上がった直後、綾辻はコンマ数秒の速さで出て行った。

 

 


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