俺が綾辻さんの彼氏か   作:杉山杉崎杉田

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第19話

ラウンジ。遊真と伊佐は自販機の前にいた。

 

「なぁ、ケンスケ」

 

「?」

 

「この鉄っぽい奴もおカネなんだろ?」

 

「うん」

 

「けど、紙のおカネの方がずっと価値は上じゃんか」

 

「そうだね」

 

「なんで紙の方が鉄よりも価値は上なんだ?」

 

「それは、例えばさ、500円玉ってデカイでしょ?」

 

「うむ」

 

「1000円は500円の2倍だから、単純に計算したら、500円玉の2倍のサイズになるわけだ」

 

「ふむ?」

 

「ただでさえ、デカイ500円玉が2倍とかになったら重いじゃん。そういう事だよ」

 

「しかし、10円玉は100円玉より大きいぞ?」

 

「それは、使われてる鉄の価値が違うんだよ。そういうので調整も出来るんだ」

 

「なるほど……」

 

言いながら、遊真はおめあての飲み物を買う。

 

「買い物をしたら、おカネが増える。これも謎だ」

 

「それはお釣り。130円の物を500円玉で買ったら損するでしょ?」

 

「……なるほど、残りの分を返してるわけか。……あっ」

 

ポロっと遊真の手から10円玉が落ちる。コッコッとバウンドして、そのまま転がって行く。だが、途中で誰かの足に当たって止まった。

 

「我が物顔でうろついてるな……近界民……!」

 

(! 三輪秀次……!確か、極度の近界民嫌いの人だよね)

 

三輪は自分の足に当たった10円玉を拾い、遊真に手渡した。

 

「どうも」

 

「この度、ボーダーに入隊する事になった伊佐賢介です。宜しくお願いします」

 

まったく空気を読むことなく、伊佐は礼儀正しく頭を下げた。

 

「…………三輪秀次だ」

 

一応、挨拶を返しておきながら自販機で自分も飲み物を買う三輪。

 

「どうした?元気ないね。前はいきなりドカドカ撃ってきたのに」

 

「へっ?撃たれたの?」

 

「本部がお前の入隊を認めた以上……お前を殺すのは規則違反だ」

 

「ほう……?」

 

「おっ、黒トリの白チビじゃん!」

 

陽気な声が聞こえた。米屋が陽太郎を肩車して階段から降りてきた。横には雷神丸がいる。

 

「がんばっとるかね?しょくん」

 

「そういや、ボーダー入ったんだっけか!……あと、アレか。綾辻の彼氏!」

 

「伊佐賢介です。よろしくお願いします」

 

「おう、米屋陽介だ。よろしくな」

 

「『ヤリの人』とようたろう……?なんで一緒にいるの?」

 

「クソガキ様のお守りしてんだよ」

 

「陽介はしおりちゃんのイトコなのだ」

 

「ほう、しおりちゃんの」

 

「つーか秀次、お前なんか会議に呼ばれてなかったっけ?」

 

「風間さんに体調不良で欠席すると言ってある」

 

「ふむ、体の調子が悪いのか?」

 

「違う違う、近界民をブッ殺すのは当然だと思ってたのに、最近周りが逆のこと言い出したから混乱してんだよ」

 

「あーそっか、お姉さんが近界民に殺されてるんだっけ」

 

「………‼︎なぜそれを……⁉︎」

 

それを聞くなり、顔を背ける米屋。「あっ、バラしたのこいつダナ」と一発で分かった伊佐だった。

 

「仇討ちするなら力貸そうか?」

 

「………⁉︎なに……⁉︎」

 

「オレの相棒が詳しく調べれば、お姉さんを殺したのがどこの国のトリオン兵か、けっこう絞れるかもよ。どうせやるなら本気でやった方がいいだろ」

 

「…………」

 

何か言いたげな顔をするが、三輪は遊真の肩をグイッと退かして、階段を上がる。

 

「……ふざけるな………!お前の力は借りない……!近界民は全て敵だ………!」

 

「おい秀次、どこ行くんだ?」

 

「…………会議に出る」

 

「やれやれ、真面目なヤツはつらいねぇ……」

 

「ちょっと三輪さんって可愛いですね」

 

「伊佐、それ本人に聞かれたら殺されるからな」

 

そこを注意しておいてから、米屋は「あっ」と声を漏らして、遊真を見た。

 

「そういや俺、お前と勝負する約束だったよな!ひまならいっちょバトろうぜ!」

 

「正隊員と訓練生って戦えるんだっけ?かざま先輩は戦ってくれなかったけど」

 

「ポイントが動くランク戦は無理だけど、フリーの練習試合ならできるぜ。風間さんはプライド高いから、ガチのランク戦で戦いたいんだろ」

 

「ふむ……?」

 

「オレは楽しけりゃなんでもいーんだ。ほれほれ対戦ブース行くぞ」

 

「ほう」

 

で、対戦ブース。そこは、ヤケに人が集まっていた。

 

「なんだぁ?妙に観客多いな」

 

画面には、緑川と三雲と書かれていた。すると、ちょうどそのタイミングでモニターから声が聞こえた。

 

『10本勝負終了、10対0。勝者、緑川』

 

「あっ、おさむっ⁉︎負けた‼︎」

 

「いつぞやのメガネボーイじゃん。緑川とランク戦か?」

 

「ミドリカワ……?」

 

ブースから修がふーっと、息を吐きながら出てきた。

 

「こらおさむ!負けてしまうとはなにごとか!」

 

「なんか目立ってんなー」

 

「陽太郎……⁉︎空閑……!」

 

「おつかれメガネくん」

 

上から声が聞こえた。

 

「実力は大体わかったからもういいや。帰っていいよ」

 

その言い草にイラっとする遊真、陽太郎。そして、周りからボソボソと声が聞こえる。

 

「……なぁ、この見物人集めたのは君?」

 

伊佐が緑川に聞いた。

 

「……違うよ。風間さんと引き分けたっていうウワサに寄ってきたんだろ。俺は何もしてないよ」

 

「へぇ……悪くないこと言うね」

 

「?」

 

「いや、一応嘘ではないのかな?まぁいいや、とりあえず俺と勝負しようよ」

 

「はぁ?」

 

「今、君が三雲くんにしたことをそのまま返してやるから」

 

「お、おい伊佐!」

 

「俺が負けたら、そうだな。彼氏の権限でハルちゃんのオッパイを一回揉ませ……」

 

直後、伊佐の後頭部にドロップキックが炸裂した。振り返ると、綾辻が立っていた。

 

「………何を勝手なことを言ってるの⁉︎」

 

「お、綾辻」

 

さらに、「おーいっ」と声が掛かる。

 

「賢介くーん、ゲームやろ〜」

 

国近だった。

 

「おいおい、モテモテじゃねぇか伊佐」

 

からかうように陽介が言った。

 

「いや、俺今からグリーンリバーを……」

 

「いいからっ、アレから何度も国近さんにゲーム相手やらされてる私の身にもなってよ……」

 

「………了解っす。ごめん、緑川くん。やっぱなし」

 

「あ、うん。そう……」

 

さっさとどっか行こうとする緑川。だが、今度は遊真から声が掛かった。

 

「じゃあおれとやろうぜミドリカワ。もしおまえが勝ったら、俺の点を全部やる」

 

「な……⁉︎」

 

「あれ?俺との勝負は?」

 

「や、それC級じゃん。訓練用トリガーでオレと戦うつもり?」

 

「うん。お前相手なら充分だろ」

 

「っ」

 

直後、緑川は柵から飛び降りて、遊真の前に立った。

 

「いいよ、やろうよ。そっちが勝ったら何点欲しいの?」

 

「点はいらないをその代わり、俺が勝ったら、先輩と呼べ」

 

「……OK、万が一俺が負けたら、いくらでもあんたを……」

 

「いや、おれじゃない。ウチの隊長を先輩と呼んでもらう」

 

遊真が修を指差す。

伊佐は女二人に引き摺られて行った。

 


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