2日後、朝早く起きた伊佐はボーダー本部の太刀川隊作戦室に向かった。今更だが、他の部隊、それもA級一位の作戦室に何食わぬ顔で入れる伊佐は中々の強者だと思う。
「おはようございまーす」
「また、来たな。つーかお前玉狛に顔出さなくていいのかよ」
出迎えたのは出水だ。至極当然の指摘をされてもどこ吹く風の伊佐。二人はソファーに座った。
「大丈夫でしょ。ぶっちゃけ、俺どこの部隊にも所属してないし」
「? 玉狛じゃないのか?」
「玉狛第一、木崎さん烏丸さん小南さん、玉狛第二、三雲くん、空閑くん、雨取さんで俺居場所ないんですよね」
「うわあ………」
「特に玉狛第二なんて、なんか知らない間にみんなそれぞれ目的があって、知らない間にA級の遠征部隊目指してるんですよ。玉狛にいても冗談抜きで居場所なさ過ぎて……」
「……………」
「迅さんみたいに実力があるわけでもないし、コミュ力があるわけでもないし、取り柄といえばゲームだけですし、みんな活動的な玉狛ってあんま向かないんですよね」
(いや、実力はあると思う)
「友達いないのは学校でもなんであんま気にしてないんですけど……その、なんというか、友達いないのに気を遣われるのは少し嫌なんですよね」
「ま、まぁもう分かったから……分かったから。しばらくここにいろよ。本部なら綾辻もいるし、大丈夫だろ」
「そうですね。出水さんや米屋さんや柚宇さんもいますし」
「で、綾辻とはどこまで行ったの?」
「あーそれ聞いちゃいます?」
「そりゃ気になるだろうお前」
「あー、それ私も聞きたい〜」
国近がのんきに手を挙げた。
「じゃあ、せっかくなら米屋さんや緑川くんも呼びましょうよ」
「およ?いいの?」
「中途半端に噂が広まって話に尾ひれ背びれ胸びれ付いてえら呼吸されるよりマシですから」
*
で、結果的に集まったのは出水が呼び出した米屋。米屋が呼び出した緑川、緑川が呼び出した黒江。国近が呼び出した三上、三上が呼び出した風間とあまり接点のないけど大物が集められた。
どんだけ綾辻の彼氏のこと気になってんのみんなと思いながら伊佐は話し始めた。
「えーっと、ぶっちゃけセ○クスはまだしてないです」
その一言に、男子達は「なんだよー」みたいな顔をして、女子勢は若干顔を赤らめた。
「いやー何度も寸前まではいったんですけどね」
「寸前?」
風間が首を傾げる。
「お互いにほぼ半裸で布団の中には入ったんですけど、結局何もしないで寝ちゃったみたいな。ハルちゃんが『やっぱり怖い……』って言っていつも寸止めですね」
「ああ……想像できるな〜、それ」
ウンウンと頷く国近。
「俺も無理矢理襲おうとまでしませんから。そこまで鬼畜じゃないですし。だけど解せないのは、毎回向こうから誘ってくる癖に、チキるのは向こうなんですよね」
「誘うって?」
緑川が聞いた。
「一番最初にそういう話になった時、『その……今夜、さ……』ってハッキリしない口調でいきなりコ○ドームをポケットから出して来て。一発で理解したんだけど、結局やめちゃったんだよなー」
「あー、綾辻ってしっかりしてそうでそういうとこダメそうだもんなー」
米屋が頭の後ろで手を組みながら言った。
「まぁ、そんな感じで性行為はしてないけど、一緒にお風呂とかは入りましたよ」
「お、お風呂?」
聞き返す黒江。
「うん。てっきり水着くらい着るのかと思ってて、俺は海パン履いてたんだけど、ハルちゃんは全裸で来ちゃって」
「うーわ、それは恥ずいわ」
出水が呟いた。
「顔を真っ赤にして逃げちゃったんだよなー。てか知ってました?ハルちゃんってああ見えて大胆なんですよ」
「大胆?」
聞き返す三上。
「はい。去年の夏に海に行ったんですけど、水着が思いの外際どくて……」
「どんなの?」
興味津々の米屋。
「真っ白なビキニですね。水かけたら乳首透けるんじゃね?ってレベルの」
「うっわ……意外……」
声を漏らす緑川。
「その時に俺、水鉄砲持って行って、ハルちゃんに射撃のテクニック教えたんですよねー。ゲームのだけど」
「水鉄砲って……子供ですか」
呆れる黒江。
「分かってねぇな。水鉄砲は水鉄砲で奥が深いんだぞ。あれはお前、重力も関係してくるから標的より若干上向けて撃たないと当たらなかったりもするし。で、その時に俺、本当に透けないかなーってビキニの乳首の所に水かけてみたんだけど……」
「透けるわけないだろアホか」
「いやそれが透けたんですよ若干」
ガタッと反応する全員。
「本人が気付いてなかったんで言いにくかったんですけど、俺以外にハルちゃんの裸見られたくなかったんで、こっそり言ったら喧嘩になっちゃって、あれマジで焦りました」
「どうやって仲直りしたの?」
「キスしました」
おお〜っと周りから声が上がった。ちなみにその頃、すでに論功行賞は発表されていた。
*
夕方。伊佐と綾辻の恋物語は昼の2時まで続いた所で、伊佐に防衛任務が入ったため解散となった。
今は、防衛任務が終わった伊佐が太刀川隊の作戦室に戻って来たところだ。
ウィーンっと未来的な音を立てて開いた扉の奥に立っていたのは綾辻だった。
「あ、ハルちゃん。いたんだ」
「ねぇ、ケンくん」
「んー?」
「緑川くんに、『白のビキニ』って言われたんだけど、どうしてそのことを緑川くんが知ってるのかな?」
「えっ」
この後、メチャクチャ喧嘩した。ちなみに伊佐は特級戦功だった。