翌日。ボーダー本部のラウンジ。一人でソファーで携帯をいじってる伊佐を見つけた緑川がヒョコヒョコと声を掛けた。
「イサケン先輩!ランク戦やりましょ!」
「……………」
「イサケン先輩?」
「ああ、いいよ。ちょうど俺もお前を探してたんだ」
「?」
「フルボッコにするから覚悟しとけよ」
「?」
緑川はボコボコにされた。
*
風間隊作戦室。
「と、いうわけでハルちゃんと喧嘩しました」
「………いや、なんで私に言うの?」
三上が困惑した様子で聞いた。
「国近さんが『相談するならみんなのお母さんのみかみかだよ〜』って」
「いや、誰がお母さん?」
「お願いしますみかみか。昨日、俺とハルちゃんの話散々聞かせてやったじゃないですかみかみか。なんならとんこつラーメン奢りますからみかみか」
「あの、ちょいちょい『みかみか』挟むのやめてくれる?」
まずはそこを注意すると、いつの間にか三上の隣にいた風間が口を開いた。
「それで、なんで喧嘩したんだ?」
「あれ?風間さんノリ気?」
三上が若干引いたが、風間は特に気にした様子はない。
「あとで一戦な」
「ええ……風間さんもですか?まぁいいや、緑川くんが『白ビキニ!』ってハルちゃんに言ったみたいなんです」
「緑川は締めたのか?」
「さっき10本やってボコボコにしました」
「緑川とか……」
「謝ったほうがいいんじゃねぇの?」
「待て、何故出水ここにいる」
「扉開いてたんで」
「いやー謝っても許してくれますかね。過去の喧嘩で謝れば許してくれることなんてほとんどなかったんすよね」
「なら、何かあげればいいんじゃない?綾辻さんの好きなものって何なの?」
「俺」
「ウザっ」
三上に聞かれて即答すると、思いの外鋭い一撃が返ってきた。
「そうじゃなくて、他によ」
「えーっと……この前手作りのグミ作ってあげたら喜んでましたね。あとは猫と片付け?」
「それでいいじゃない。またグミ作ってあげたら?」
「前の喧嘩でその手は使いましたね」
「ワンパターンだと仲直りできない確率はあるな」
風間にもそう言われ、腕を組む四人。
「片付けを手伝ってあげるのは?」
「嵐山隊の作戦室が汚れてるとは思えないですね」
「あー……確かに。どいつもこいつも爽やかだもんな。佐鳥を除いて」
ウンウンと出水が頷く。
「猫をあげるわけにもいかないよね」
「というか、どこに猫がいるんだ?」
「あ、いますよ」
「「はっ?」」
三上と風間が短く声を漏らした。
「大規模侵攻の日に俺の家のゲームが心配で急いで帰ったんですけど、」
「一番に心配するのはそこなのか」
「ハルちゃんが無事なのは分かってましたから。その時に足怪我してる子猫見つけて、それ以来飼ってるんです」
「意外と優しいのなお前」
「名前はマグロです」
「前言撤回だこの野郎」
呆れる出水。
「でもお前一人暮らしなんだろ?そんな猫飼う余裕あんの?」
「ないですよ?でも特級戦功いただいたので最近はある程度余裕あります」
「へぇ〜、てっきり全額ゲームにブチ込むと思ってたから意外だわ」
「高校行ったらバイトも始めないといけないんですよね〜」
「何処の高校行くの?」
「ハルちゃんと同じ高校です」
「おーじゃあ私と同じだ」
「つーか、それいけんのか?あそこ進学高だぜ?」
「これ、俺の成績」
伊佐は携帯で写真を見せた。
『国語15点、数学100点、理科100点、社会100点、英語100点』
「スゲェけど国語」
「ハルちゃんに教えてもらってます」
「まぁなんでもいいけどよ……」
「話が脱線したな。……つーか何の話だっけ?」
「えっと……あ、そうそう。グミの作り方ですよ」
「あれ?そんな話だった?」
結局、それから綾辻について話し合いが行われることはなかった。
*
伊佐が玉狛に向かってから30分後、風間隊作戦室。ウィーンッと扉が開いた。
「失礼します……」
「? 綾辻さん?」
三上がお茶を用意して、ヤケにダメージを受けてる綾辻をソファーに座らせた。
「助けて歌歩ちゃん!ケンくんと喧嘩した!」
「あっ」
「ん?どしたの……?」
(忘れてた。さっきのその話だった……)
この後、なんとか仲直りした。