翌日、ボーダー鈴鳴支部。
「昨日、玉狛第二の子と戦ったんだって?」
来馬が村上に聞いた。そう言う通り、伊佐が焼肉屋にいる間、遊真は村上とランク戦をした。
「やりましたよ。6-4で勝ちました」
「鋼相手に6-4か……!相手はまだ中学生だろう?すごいな……!」
「でも、鋼くんが勝ったんなら、もう一対一なら負けないわね」
オペレーターの今がそう言うが、村上は首を横に振る。
「そんなことはないよ。相手も学習して成長する。それに昨日の個人戦は、全力じゃなかった可能性もある」
「……様子見だったってこと?」
「かもしれない。戦い慣れしてる感じだったからな。一対一の場面があれば俺が倒します。でも、チームで仕留められればその方がいい」
「うん。そうだね」
「それと、俺はあの伊佐って方の奴も気になってます」
「? あのガンナーの子?」
「そういえば、笹森くんのこと背負い投げしてたっけ」
「接近戦もですが……荒船と空閑が戦ってる間の援護射撃、全部荒船に当ててるんですよね。空閑には当てずに」
「……なるほど。今までの2戦は実力をなるべく隠してるのかもって事か」
「見た感じ、随分と落ち着いてる様子でしたし、もしかしたら空閑と同レベルのエースなのかもしれない」
「と、なると空閑くんと、その伊佐くんっていうのを合流させるわけにはいかないね」
「転送位置にもよりますが、俺がどちらかを倒します。もう片方は任せますよ」
「うん。分かった」
この後、太一が来てカップ麺テロを起こした。
*
どっかの家。
「これ、昨日の村上先輩と空閑くんの10本勝負ね」
熊谷友子が記録を見せた。
「空閑くんの情報は少なかったから。データがもらえてよかったよ」
『村上先輩に前半4-1とか、相当ヤバいですね』
パソコンの向こう側から、那須隊オペレーターの志岐小夜子の声がした。
「荒船さんと駿くんにも勝ってるし、昨日のランク戦も見たけど、この子が間違いなく玉狛第二のエースだわ」
「……そうかな。この伊佐くんって子も、中々曲者な気がする」
「? でも、この子笹森くん相手に一点しか取ってないわよ。その前の試合は何もしてないし」
「だけど、荒船さんと空閑くんの時の援護は、空閑くんには当てずに荒船さんに当ててるし、この前の大規模侵攻の時は、米屋くんと出水くんと組んで人型を抑えて特級戦功もらってたよ」
「でも、その二人の力が大きかったっていうのもあるんじゃないの?」
「うん。それもあると思う。けど、それだけで特級戦功は取れないんじゃないかしら」
『あっ、伊佐くんの模擬戦のデータもありました。この子も緑川くんに勝ってますね。………なんか、すごいエゲツないけど』
「ちょっと見せてくれる?」
小夜子から送られてきた映像を、那須と熊谷は見た。直後、すごく嫌そうな顔をした。
「………何これ。私刑?」
「なんか伊佐くん、相当怒ってるみたいだけど……緑川くん何したのかしら」
「でもこの様子だと、下手したら空閑くんと伊佐くんのダブルエースって事もありそうね」
「鈴鳴もいるし……一番辛い戦いになりそうね」
『それなんですけど、今月1日のランク戦で諏訪隊が鈴鳴第一に勝ってるんですよね。二人残して』
「うちが防衛任務の時?」
『はい。見逃してました。その試合、諏訪隊はアタッカーの火力を捨てて、村上先輩の間合いには絶対入らない戦法でした。「村上先輩さえ封じれば勝てる」っていう判断だと思います』
「なるほど……」
『だから、うちも村上先輩と伊佐くんをぶつけて、空閑くんを那須先輩の間合で抑えられれば……』
「なるほど……そういうのもアリなのね」
「じゃあマップもそれ用のとこを選ばなきゃね」
「あとは……茜ちゃんがどうなるかね……」
「……そうだね」
*
と、いう具合に他の隊から思いっきりマークされている伊佐は、その頃、太刀川隊作戦室にいた。
「いやー、強くなりましたね国近さん」
「そりゃあ、毎日毎日賢介くんとゲームしてたらこうなるよ」
「出水さんも、サムスの使い方がなってきましたね」
「いやー本当はネス使いたいんだけどな」
「あれセンスなさすぎなんで。本当あれ使うとゴミなんで」
「いや言い過ぎだろお前それは……」
「ていうか、賢介くんのゼロスーツサムスがおかしいんだよ」
「は?何言ってるんですか。俺のさいつよはフォックスですよ」
「いやあれ使うとお前カスだから」
「うん。カス以下」
「………ひどい」
そんな話をしながらゲームをしてると、バンッ!と机を叩いて綾辻が立ち上がった。
「そうじゃなくて!何やってんのケンくん!」
「? スマブラ」
「もう直ぐランク戦始まるのに何でこんな所でゲームやってんの!」
「作戦は全部三雲くんに丸投げしたからねー」
「したからねーじゃないよ!あなたも部隊の一人ならちゃんと働きなさい!」
「働いてんじゃん。こうしてゼロスーツサムスと自分の動きを重ね合わせて、次の試合、どうやって戦うかを想像してるんだよ」
「いやいやいや!流石にその言い訳は無理あるよ!」
「大丈夫大丈夫、ちゃんとあとで玉狛にも行くから」
「玉狛に行くのついでなの⁉︎」
「そういや伊佐、昨日結局シたのか?」
「あーまたハルちゃんがチキって結局……」
殴られた。