俺が綾辻さんの彼氏か   作:杉山杉崎杉田

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第5話

 

 

時は少し戻って、会議室。修の昇格が決まり、迅と修が部屋を出て行こうとした時、城戸の隣に立っていた三輪が口を開いた。

 

「三雲くん」

 

「! はい」

 

「一つ聞いていいか」

 

「え、はい」

 

「この前、警戒区域でバラバラになっていた大型近界民、あれも君がやったのか?」

 

「えっ………⁉︎」

 

三輪が聞いたのは、学校のモールモッドの時の前の話だ。修はバムスターに襲われ、C級トリガーで挑んだ所、殺されかけて遊真に助けられたのだ。

 

「現場付近で保護した中学生は君の同級生だった。そして昨日あの場所に正隊員はいなかった。君がやったというのなら、腑に落ちる」

 

「…………」

 

なんと答えようか困ったものの、自分がやったと言わなければ遊真のことがバレる。

 

「……はい。僕がやりました」

 

自分がやったこと以外を自分の手柄にするのは気が進まなかったが、そう言っておいた。

 

「そうか。疑問が解けた。ありがとう」

 

そう言われ、修は頭を下げて部屋を出て行った。静かになった会議室で、三輪は城戸に言った。

 

「城戸司令、うちの隊で三雲を見張らせてください。三雲は近界民と接触している疑いがあります」

 

「ほう、どういうことだ?」

 

「この前のバムスターからは、ボーダーのものではないトリガーの反応が検出されています。つまり、近界民のトリガーです」

 

「なのに彼はそれを『自分がやった』と言っている、か」

 

「証拠は上がっています。すぐにボロを出すはずです」

 

「なるほど、任せよう」

 

「もし実際に近界民が絡んでいた場合は?」

 

「決まっている。始末しろ。近界民は我々の敵だ」

 

 

翌日、綾辻が目を覚ますと、目の前で伊佐が寝ていた。夜の保健体育をしていたわけじゃないけど、一緒に寝ていた。

 

「んー……」

 

目をゴシゴシと擦りながら、ふわぁ〜……っと欠伸をすると、伊佐の寝顔を見た。

伊佐の外見は、身長164cmと小柄。髪の毛は若干天然パーマの黒髪。いつも眠たげな目をしていて童顔だ。

 

(黙ってれば可愛いんだけど……生意気なんだよなぁ)

 

その生意気な奴を好きになったんだけど、と付け加えて、ベッドを出た。

 

「さて、朝ご飯作ってあげちゃおう」

 

起きた伊佐は、また地獄を見ることとなった。

まぁ、そのお陰で目はばっちり覚めたわけだが。そのまま二人で支度をする。

 

「じゃあ、私は本部に行くから。また今晩ね」

 

「ん」

 

綾辻は家を出た。伊佐も着替えて家を出る準備をする。今日は玉狛支部で色々と教えてもらう予定だからだ。

 

(あ、ついでにスーパーで食材買ってこ)

 

 

土手。そこで、雨取千佳という少女は、修と待ち合わせをしていた。昔からの知り合いだ。

携帯の画面を見ると、10:41と表示されている。

 

(ちょっと早く着きすぎたかな……)

 

直後、背後からガシャン!という音がした。振り返ると、白い髪の少年が自転車から壮大にこけていた。

 

「…………」

 

「うーむ……手強い」

 

「だ、大丈夫⁉︎」

 

「ふむ?平気平気、全然平気」

 

身長的に、小学生かと思った千佳は聞いてみた。

 

「自転車の練習してるの?」

 

「友達を待ってんだ。その間、ヒマだから練習してるだけ」

 

「そうなんだ。私もここで待ち合わせしてるの」

 

「ほう、奇遇ですな。なぁ、お前自転車乗れる?」

 

「え?うん、一応……」

 

「……やるね」

 

「そ、そうかな?」

 

「こんな絶対転びそうな乗り物がどんな仕掛けでまっすぐ走ってるのかと思ったら、別になんの仕掛けもなかった。驚愕の事実……!これで倒れずに走れるのが不思議だ……」

 

そんな事を言う白髪の……つーか遊真でいいや、遊真を見てると、携帯が鳴り出した。

 

「もしもし」

 

電話は修からで、少し遅れるとのことだ。電話を切ると、またガシャンという音がした。

 

「わっ!大丈夫⁉︎」

 

「大丈夫大丈夫」

 

放っとけなくなった千佳は、遊真の練習に付き合うことにした。

後ろから千佳が自転車を押して、遊真が漕ぐという普通の練習。

 

「おっ?おおっ⁉︎これは⁉︎走ってる!ちゃんと走ってる!」

 

目を輝かせて自転車を走らせる遊真。

 

「これはつかんできた!だんだんコツをつかんできたぞ!つかん……どぅわー!」

 

「わあ⁉︎」

 

で、川に落ちた。慌てて千佳は遊真と自転車を引き上げた。

 

「いやーあぶなかった。せっかく買った自転車が川の藻屑になるとこだった」

 

服を絞りながら遊真は呑気に言う。

 

「でも確実に何かつかめたな。おまえのおかげで。えーっと……名前まだ聞いてないか」

 

「わたしは……千佳。雨取千佳」

 

「そうか、チカか。俺は遊真、空閑遊真」

 

お互いに自己紹介をした時だ。急に千佳はピクッと反応し、後ろを見た。直後、鳴り出す警報。

 

「おっ、警報。けっこうちかいな。でも警戒区域の中か……」

 

「ごめん!わたし行くね!」

 

遊真が呟いてると、千佳は突然走り出し、その場から離れた。

 

「おいおい、そっちは警戒区域……近界民がいる方だぞ?」

 

ポカンとしてる遊真にレプリカが言った。

 

『彼女……警報が鳴る前に襲撃に気付いていたように見えたが……』

 

「………!」

 

レプリカに指摘され、遊真もそれに気付いた時だ。

 

「あれ?空閑くん?」

 

「ケンスケ」

 

伊佐が自転車で通り掛かった。スーパーの袋を籠に入れている。

 

「今、警報なってたよ」

 

「ちょっと、一緒に来てくれ」

 

「へっ?」

 

 

警戒区域内。

 

(ここまでくれば街の方にはいかないよね……)

 

千佳はそう思いつつ、中に入る。すると、ズシンズシンという重低音が響いた。見上げると、捕獲・砲撃用トリオン兵、バンダーが歩いていた。

それでも、千佳は取り乱す様子なく、建物の陰に隠れた。

 

(大丈夫、わたしは見つからない。落ち着いて……自分を空っぽにするの……自分を、空っぽに………)

 

自分に暗示をかけるようにそう心の中で唱えた。その直後だ。携帯が再び鳴り響いた。

 

「っ⁉︎」

 

当然、近くにいたバンダーは気付き、千佳の方にギョロンと顔を向ける。

 

「………!」

 

焦る千佳を余所に、バンダーは千佳に頭から突っ込んだ。

 

「ッ!」

 

だが、千佳は食われることはなかった。遊真が助けたからだ。

 

「……‼︎遊真くん……⁉︎」

 

遊真は千佳を抱えて、駆け出した。

 

「レプリカ、トリガー使って大丈夫か?」

 

『いや、付近でボーダーが戦闘を開始している。トリガーを使うのはまずい』

 

それを聞くなり、空閑はそのまま伊佐の隠れている所に逃げ込んだ。

 

「ふぅ……危なかったな」

 

「空閑くん。その子は?」

 

「雨取千佳。自転車の乗り方教わってたんだけど、警報が鳴ってから急にどっか行ったから気になったんだ」

 

紹介され、伊佐は小さく会釈した。

 

「どうも。伊佐賢介です」

 

「さて、さっさと逃げるぞ。ボーダー隊員も近くにいることだし、向こうに任せておけば……」

 

「ダメっ!」

 

意外にも千佳が大きく反論した。

 

「? なんでだ?」

 

「わたし、近界民を引き寄せる体質みたいなの。私が街に出たら、近界民は必ず追いかけて来る」

 

「……………」

 

空閑は、自分のサイドエフェクトで千佳が嘘を言ってないことに気付いていた。

 

「なら、仕方ないな」

 

空閑はニヤリと伊佐に微笑みかけた。

 

「やるか、生身でトリオン兵と第二ラウンド」

 

 


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