「生身でトリオン兵とって……?」
千佳が恐る恐る確認するように尋ねるが、伊佐も遊真も答えなかった。
「空閑くん、あの近界民については何か知らない?」
「あれはバンダー、捕獲・砲撃用のトリオン兵だ。近距離で戦えば大して強くない、修でも倒せるレベルだ」
「修でもって……酷い言いようだね」
「それと、これは全部のトリオン兵に言えることだけど、弱点はあの口の中の目みたいな所だ」
「………目みたいなところ、であって目じゃないの?」
「あそこでものを捉えるのは確かだけど、バンダーの場合はあそこから砲撃が飛んで来るぞ」
「砲撃、ね」
少し顎に手を当てて考える伊佐。自分の買い物袋の中を見た。中には砂糖、醤油、小麦粉、ねぎ、大根が入っている。
「………いけるな」
「なんか思い付いのか?」
「うん。しかも、今回は捕獲じゃない」
そう言うと、伊佐はいつもの無表情で間を置いてから言った。
「駆除だ」
*
説明の時間はないので、遊真と千佳は伊佐に言われるがまま、準備をした。
遊真はいざという時のために千佳を守り、その千佳は囮役。二人はバンダーの前に出た。
「来るぞ、千佳」
「うん」
直後、二人に向かって砲撃をぶっ放つバンダー。遊真が千佳の手を引いて、走って回避する。
「ケンスケが指定した建物って何処だっけ」
「もう少し先だったと思う」
そのまま二人は真っ直ぐと走り、マンションの中に逃げ込んだ。その二人を追いながらマンションに突っ込むバンダー。
その直後、マンションは大きく爆発した。
「っ⁉︎」
「な、なんだ⁉︎」
遠くで戦っていたボーダー隊員から声が上がった。マンションを通り抜けた遊真と千佳が上を見上げると、マンションが爆発していた。
「うおっ、何あれ……。何したんだケンスケ?」
「さ、さぁ……?」
話してると、伊佐が歩いて来た。
「終わったよ。空閑くん、雨取さん」
「ケンスケ、何したんだこれは?」
「粉塵爆発だよ」
「………フンジンバクハツ?」
「部屋に小麦粉を充満させて、火をつけると爆発するんだ。トリオン兵の身長はどのくらいか目測で推測して、頭が突っ込みそうな部屋を選んだんだ。あとは、トリオン兵が突撃して、火花でも起こせば爆発するって感じ」
「なるほど、分からん」
「ま、この爆発を喰らって生きてられる生物なんているはずないから。さて、戻ろう」
そう言った時だ。ズシンと後ろから音がした。後ろを見ると、バンダーが立ち上がろうとしていた。
「えっ、嘘でしょ……?」
「ふむっ……やっぱりか」
「…………」
倒しきれなかった。伊佐も千佳もバンダーを見上げる。遊真が最終手段のつもりか、いつでもトリガーを起動できるように身構えた。その時だ。
バンダーの口の中の目の様な所に弾丸が突き刺さる。
「っ⁉︎」
「ボーダーだ。大丈夫か?」
そう言いながら降りてきたのはボーダー隊員だ。
「お前らがやったのか、これ?」
「俺は何もしてないよ。全部、ケンスケの考えた作戦だ」
言いながら遊真は伊佐を指した。
「そうか。まぁいいや、俺たちは後処理がある。ここは警戒区域だ、お前らはさっさと帰れよ」
遊真と伊佐と千佳は警戒区域を出た。
*
千佳と遊真と別れ、伊佐は玉狛支部に向かった。
「すみませーん」
声を掛けると、ニュッと顔を出したのはメガネの少女だ。
「………おお、来た。迅さんの言ってた新入りさんだよね?」
「伊佐賢介です」
「宇佐美栞です。よろしくね。さ、入って入って」
言われるがまま、伊佐は玉狛支部に入った。直後、視界に入ったのは変な犬と子供だった。
「………?」
「むっ、しんいりか……?」
「宇佐美さん、これは?」
「林藤陽太郎、ここの最古参メンバーの一人だよ」
「ふーん……俺は伊佐賢介。よろしくね、陽太郎くん」
「うむっ」
軽く自己紹介して、伊佐は栞の後に続いた。