宇佐美に連れて来られた先は作戦室だった。ここなら色々と説明しやすいとかなんとか。
「まずは、入隊おめでとう。スカウトって扱いだから、試験とかは全部免除されるんだ。配属先は玉狛って事でいいんだよね?」
「はい。本当は嵐山隊が良かったんですけど、空きがないそうなので……」
「ほう?なんで嵐山隊が良かったの?もしかしてファンだったり?」
「いや、彼女がいるからです」
宇佐美が手に持っていた湯呑みを握り潰した。
「………今なんと?」
「だから彼女がいるからですよ」
「どっち⁉︎」
「さぁ、どっちでしょうか」
「えー!教えてよー」
「嫌ですよ。なんか宇佐美さんって歩くスピーカーって感じしますし」
「おぉう……意外と毒舌だね……」
こほんと咳払いをして、説明を再開した。
「まぁ、とりあえずトリガーの説明するね」
言いながら宇佐美はトリガーホルダーの中を開いた。
「これが、トリガーホルダーの中身ね。このちっちゃいチップがいわゆる『トリガー』ね。使う人のトリオンをどういう形で表に出すか決めてるの。トリガーは合計8種類までセットできて、攻撃用とか防御用とかを切り替えながら戦うわけ」
チップを指差した。
「こっち側が利き手用の主トリガー。こっち側が反対の手用の副トリガー。両手で二種類同時に使えるの」
「………なるほど」
「じゃあまずは、攻撃手用トリガーから見ていこうか」
宇佐美は説明を始めた。
*
その頃、遊真と千佳は修と合流し、弓手町駅(現在閉鎖中)に来た。
「へぇ、オサムとチカは知り合いだったのか」
「ああ。いや、その前にお前たちはなんで一緒にいたんだ?」
「えっと……橋の下で知り合って……」
「自転車を押してもらって川に落ちた」
「さっぱりわからん。……まあいい。ひとまずお互いを紹介しておこう」
それで、修は眼鏡を直しながら指した。
「こっちは雨取千佳。うちの学校の二年生。僕が世話になった先輩の妹だ」
「……よろしく」
今度は遊真を指す修。
「こいつは空閑遊真。最近、うちのクラスに転校してきた。外国育ちで日本についてはまだよく知らない」
「どもども」
「えっ、修くんと同級生⁉︎じゃあ年上⁉︎ごめんなさい、わたしてっきり年下だと……」
「いいよ別に年の差なんて」
それで、修は話を進めた。
「空閑は近界民について詳しいんだ。千佳が近界民に狙われる理由も知ってるかもしれない」
「そっか。遊真くんもボーダーの人なんだ」
「う……まあ大体そんなもんだ」
「そんなもんのようです」
お互いの自己紹介を終えた所で、空閑は自分の考えを話した。
「しかし、近界民に狙われる理由なんて、トリオンくらいしか思い浮かばんなー」
「トリオン……?」
「近界民的にはトリオンの強い人間の方が欲しいだろうから、チカがしつこく狙われてるなら、それだけトリオン能力が高いってことかもな」
「トリオン能力って?」
「近界民の武器を使うための特殊な力のことだ」
「なんなら試しに測ってみるか?なあ、レプリカ」
言うと、遊真の指輪からにゅうっとレプリカが出て来た。
『そうだな。そうすればはっきりする』
「わっ」
『はじめまして、チカ。私はレプリカ。ユーマのお目付役だ』
「は、はじめまして」
レプリカの口からにょろんと、なんか変なのが出て来た。
『この測定策でトリオン能力が測れる』
「どうぞご利用ください」
「う、うん……でもちょっとこわいな……」
怖気付く千佳の前に、修が立った。
「レプリカ、僕が先に測っていいか?」
『了解だ』
修はその測定策を握った。
『計測完了』
出て来たのは新品のバスケットボールの箱の大きさの白いキューブだ。
『この立方体はオサムのトリオン能力は視覚化したものだ。立方体の大小がトリオン能力のレベルを表している』
「このサイズはどのくらいのレベルなんだ?」
「うーん、近界民に狙われるにはこの3倍は欲しいかな」
「……別に狙われたいわけじゃない」
そこを注意しておいてから、修は千佳の方を見た。
「千佳、お前も測ってもらえ。大丈夫だ」
「……うん、修くんがそう言うなら……」
測定策を握る千佳。
『少々時間がかかりそうだ。楽にしていてくれ』
「うん」
その間、修は遊真に聞いた。
「それにしても、近界民に狙われるのがハッキリ分かってるならボーダーに言って助けてもらえばいいじゃん」
「……あいつは、ボーダーには頼りたくないらしいんだ。千佳の話によると、近界民に狙われ始めた頃は、まだボーダーの基地もなくて、近界民を誰も知らなかった。だから、助けを求めるあいつの言葉を、誰も本気にしなかった。そんな中、一人だけ真剣に相手をしてくれる友達がいたらしいんだが、ある日突然その友達は行方不明になった。それ以来、人に助けを求めるのがトラウマになったそうだ」
「……ふーむ。あれ?俺は巻き込まれていいの?」
「お前は近界民だし、巻き込んだのは僕だからいいんだ」
「なるほどね。そんでオサムは千佳を助けたくてボーダーに入ったわけか」
そんな話をしてると、キィィィンッと音が響いた。
『計測、完了だ』
千佳の前に現れたキューブは車のキューブと同じくらいの大きさがあった。
「……⁉︎」
「うおお……!でっけー!オサムの何倍だ?これ!」
『尋常ではないな。これほどのトリオン器官はあまり記憶にない。素晴らしい素質だ』
「すげーな、近界民に狙われるわけだ」
「感心してる場合じゃない」
そんな話をしてる時だ。コツッと足音が聞こえた。振り返ると、学ランの男が二人歩いてきた。
「動くな、ボーダーだ」
現れたのは、三輪隊の二人だった。
*
玉狛支部。トリガーの説明を一通り終えた宇佐美。
「つまり、攻撃手がスコーピオン、孤月、レイガスト。銃手用がアステロイド、メテオラ、ハウンド、バイパー。狙撃手用がイーグレット、ライトニング、アイビスってわけですね?」
「そうだね。それと、防御用トリガーでシールド、エスクード、特殊工作員のスイッチボックス。オプショントリガーで、レーダーから消えるバッグワーム、自分の姿を消せるカメレオン、ジャンプ台のグラスホッパー、姿を瞬間的に移動させるテレポーター、ワイヤーを張るスパイダー、そんなもんかな」
「………なるほどね」
「ちょっと戦ってみる?」
「はい?」
「仮想訓練室っていうのがあるからさ」
「いいんですか?」
「いいよいいよ〜。トリガーはどうする?」
「僕はオールラウンダーでいきます。トリガーはメインにハウンド、スコーピオン、バイパー、メテオラ。サブでシールド、バッグワーム、カメレオン、アステロイドでお願いします」
「了解了解、合わなかったらまた言ってくれれば調整するよ〜」
「ありがとうございます」
地下の仮想訓練室に降りた。中はそこそこ広くて、天井も高かった。
「……広いな」
『トリガーで空間を作ってるんだよ。やろうと思えば仮想の街も作れるよー』
スピーカーから音が宇佐美の声が聞こえた。
『それで、どうする?』
「実戦形式でお願いします。街と、トリオン兵はモールモッド2匹とバンダー1匹で」
『えっ?初めてなんでしょ?いいの?』
「お願いします」
『分かったけど、危ないと思ったら止めるからね』
仮想戦闘を開始した。