俺が綾辻さんの彼氏か   作:杉山杉崎杉田

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第8話

 

「栞」

 

モニタールームで伊佐の戦闘が始まった丁度その時、後ろから小南桐絵が入って来た。

 

「お、小南。おつかれ」

 

「今誰が入ってんの?」

 

「新人さんだよ。伊佐賢介くん」

 

「新人?うちにそんなのが来るなんて聞いてないんだけど!」

 

「まぁまぁ、本人の希望らしいんだから」

 

「玉狛に弱いのはいらないんだけど?」

 

「トリガーを使った戦闘はどうだか知らないけど、生身でモールモッドを捉えてスカウトされたらしいよ?」

 

「………ふぅーん」

 

「彼女持ちだって」

 

「…………はぁ?」

 

「嵐山隊のどっちか」

 

「どっち⁉︎」

 

「教えてくれなかった」

 

敵の数は3、モニター上の伊佐は敵から退きつつ、メテオラを撃ちまくって家を壊し、大きく砂煙りが舞い上がる。

 

「何逃げてんのよ。たかだか3匹くらいで」

 

「いやー、初めての戦闘なんだし、慎重なのは悪いことじゃないと思うよ?」

 

煙が晴れた。モールモッド達の動きは一瞬止まっていたものの、目の前で伊佐が待っているのを見て、即突っ込んできた。

 

「って、何のために視界潰したのよ。棒立ちで立ってても意味ないじゃん」

 

突っ込むモールモッド。だが、何かに阻まれたように後ろにひっくり返った。伊佐は視界を奪っている間にスパイダーを何重にも張りまくったのだ。

 

「へぇ……そんな使い方が」

 

「そんな事したってこっちから攻撃できないでしょ」

 

伊佐は左手のハンドガンを前に向けた。しばらく狙いを定めたあと、引き金を引いた。放たれたアステロイドはワイヤーとワイヤーの間をすり抜けて、1匹のモールモッドを仕留めた。

 

「! 嘘……⁉︎」

 

「へぇ、やるぅ」

 

驚く小南と、口笛を吹く宇佐美。続いて2匹目のモールモッドも仕留めた。

ハンドガンをポケットにしまった直後、遠くから砲撃が飛んで来た。それを慌てて躱しながら、建物の陰に隠れた。見ると、バンダーがガッツリこっちを狙っていた。

すると、伊佐は建物の陰に隠れながら接近した。ある程度近付くと、伊佐は上着を脱いでその辺の瓦礫に包むと上に思いっきり放り投げた。

その上着を思いっきりブチ抜くバンダー。その直後、砲撃を撃ち終えたバンダーの口の中をハンドガンのアステロイドで狙撃した。

 

「おお……倒しちゃった。これは彼女が出来るのもわかる気もするね」

 

「………そう?もっと男らしい方があたしは好きだけど」

 

「ところでさ、小南。良いこと思いついちゃった」

 

「何?」

 

宇佐美はその「いいこと」を小南に言うと、小南もニヤリと笑って、仮想訓練室に入った。

 

 

「ふぅ……終わった」

 

伊佐はそう呟くと、ハンドガンをしまった。

 

「中々やるじゃない。あんた」

 

「?」

 

聞き慣れない声がして、振り返ると知らない女の人が立っていた。

 

「あの、どちら様ですか?」

 

「小南桐絵。玉狛のアタッカーよ」

 

「あ、失礼しました。俺はこの度、玉狛支部に配属されることになりました、伊佐賢介です」

 

「偉く礼儀正しいのね……」

 

「それで、何かご用でしょうか?」

 

聞くと、小南はトリガーを起動した。身体がトリオン体になって、髪の毛が短くなる。

 

「私と戦いなさい」

 

「は?」

 

「試してあげるわ。貴方がどのくらいやれるのか」

 

「いやいやいや、僕戦闘経験とかないんでちょっと……」

 

「今戦ってたじゃない」

 

「や、今のが初陣で……」

 

「そして、私が勝ったら彼女の名前を教えなさい」

 

「それが狙いかよ……。ていうか、僕が小南さんに勝てるわけないじゃないですか」

 

「いいから、やるわよ!」

 

小南は双月を思いっきり伊佐に叩き付けた。ギリギリ後ろに避ける伊佐。

 

「ちょっと、なにするんすか。言っとくけど俺に勝っても教えませんからね」

 

「ダメよ!絶対に吐かせるんだから!」

 

「どんだけ気になってんですか」

 

双月で攻撃する小南と、全部避ける伊佐。やるしかない、と思った伊佐は、カメレオンを使った。

 

「っ! カメレオン……⁉︎」

 

そのままどっかに逃げた。

 

 

建物の陰に隠れている伊佐は、小南を観察した。

 

(何だろう、あの武器。宇佐美さんに聞いた中にあんなのはなかった。見た感じだと威力が尋常じゃない。その代わり、何かしらデメリットもあるはずだ)

 

そう分析しながら、ハンドガンを取り出した。

 

(初見の相手と戦うときは、まずは情報を得る)

 

そう思いながら、変化弾を10発別々の弾道で放った。

 

(! 仕掛けてきた……?)

 

小南に向かって来る変化弾。それを双月で斬り落とす。

 

(チッ……全部別々の方向から……面倒ね)

 

仕方なく、小南はシールドを張った。

 

(! シールド持ち。けど、剣速が追い付かなくてシールドを張ったように見えた。多分、相当重いんだ)

 

「そこね」

 

分析してると、小南に居場所がバレ、思いっきりメテオラを放って来た。

 

「! マジ……?」

 

慌ててその場からカメレオンを使って退避した。

 

(! またカメレオン。中々イラつく攻撃の仕方をして来るわね。多分、あたしの攻撃を分析してる。でも、カメレオンだって無敵じゃないのよ)

 

一方で、伊佐は小南から一定以上の距離を保っていた。

 

(メテオラで中距離も対応できるのか。……なんかもう面倒だなー。隠すようなことじゃないし、言っちゃおうかな)

 

面倒になってボーッとしてると、ドガン!と近くの家が爆発した。

 

「っ⁉︎」

 

小南がメテオラをぶっ放していた。

 

(場所がバレた……⁉︎ いや、レーダーを見て適当にぶっ放してるだけだ。堂々と晒して隙を作って、カメレオンで奇襲してくるのを誘ってるのかもしれない)

 

分析しながら伊佐は建物を盾にしてその場を離れようとするが、メテオラで追撃して逃がさない小南。

 

(徹底して来るな……。仕方ない)

 

腹を括ると、伊佐はカメレオンを解除し、廃ビルの中に隠れた。

 

(狭い中で戦えばあたしの双月は使えないとでも思ったのかしら。それとも、待ち伏せして突っ込んで来る気?)

 

何にせよ、小南は後を追った。中に入ってからの奇襲を警戒していたが、伊佐の姿はない。

 

「…………」

 

警戒心を忘れずに中を進んだ。一階にはいないと見て、二階へ上がる。そこにもいなかった。

 

(まさか、もう外に……?)

 

そう思ったが、上の階から足音が聞こえた。

 

(! 逃がさない……!)

 

面倒になって、小南は天井を破壊して上に上がった。目の前には、伊佐が待っていた。

 

「ッ!」

 

「待った!」

 

「っ⁉︎」

 

さっそく斬りかかろうとした時、意外にも制されて小南は着地して動きを止める。

 

「何、降参?」

 

「いえいえ、交渉です。俺が負けた時に教えるの、イニシャルだけにしません?」

 

「はぁ?怖じ気付いたの?」

 

「いやー、俺もイジられるのはマジでゴメンなんで。譲歩してくれませんか?」

 

「………まぁいいわ。どうせ分かることだし」

 

小南がそういった時、ニヤリと口を歪ませる伊佐。そして、ハンドガンを上に向けた。

 

「ありがとうございます」

 

直後、放たれる12発の弾丸。弾は弾道を大きく変えてバラバラに散った。また分散して攻撃して来るのかと思った小南はシールドを張るが、違った。

弾は部屋の隅と天井に置かれているメテオラに直撃した。

 

「っ⁉︎」

 

大きく爆破し、建物が丸ごと崩れ始めた。床にも亀裂が入り、二人は落下する。

 

(! 空中じゃ身動きが取れない……!)

 

「バイパー」

 

さらに伊佐はハンドガンを乱射。360°あらゆる角度から小南に弾丸が迫った。

 

「シールド!」

 

それをシールドで防ぐが、伊佐は落下しながらも撃ち続ける。割られるのも時間の問題だ。

 

「こんのっ……!」

 

行動を切り替えた。シールドを足場にして双月のコネクターを解除し、それで上前後左右斜めの弾丸を弾いた。

 

「化け物かよ……!」

 

自分の身体が落下する前に仕止めるつもりだった伊佐だが、自分の身体は地面に着地してしまった。数では押し切れないと思った伊佐はバイパーで牽制しつつ、カメレオンで逃げようとした。

だが、小南は逃さずに、メテオラを防いで接近する。双月を振り下ろし、伊佐は仕方なくシールドでガードする。

 

「………もう逃がさないわよ」

 

「こちらもですよ」

 

「っ⁉︎」

 

直後、足元からブレードが飛び出てきた。

 

「!」

 

「それだけじゃないっすよ」

 

さらに、後ろから変化弾が迫っていた。だが、小南は、

 

「だから?」

 

自分の後ろから弾が貫通し、スコーピオンで足を取られても気にせずに、正面から伊佐を二等分にぶった斬った。

 

「っ……⁉︎」

 

「はい、おしまい」

 

(構わずに斬ってきた……⁉︎)

 

伊佐は緊急脱出した。

 

 

「……………」

 

「お、帰ってきた。お疲れー」

 

ドサッとソファーに寝転ぶ伊佐。

 

「どう?強かったでしょ。うちのエース」

 

「はい、負けました」

 

「いやー頑張った方だと思うよ?小南相手にあそこまでやったんだもん」

 

「まぁまぁね」

 

仮想訓練室から小南が出て来た。

 

「まぁまぁだけど、欠点があるわ」

 

言われて、伊佐は小南を見た。ニヤリと笑う小南。

 

「教えて欲しい?」

 

「はい」

 

「また偉く素直ね……。でも、教えて欲しいのならまずは約束のことを言いなさい」

 

「イニシャルでいいんですよね?」

 

「「うん!」」

 

興味津々の目で伊佐を見る二人。伊佐は真顔で答えた。

 

「Aです」

 

「うっそ⁉︎綾辻さん⁉︎」

 

「意外〜……」

 

「それで、欠点というのは?」

 

「いやーでも意外とありえるかも。あの子歳下好きそうじゃない?」

 

「えー?分からなくもないけど、私絶対木虎ちゃんだと思ってた。歳も近いし」

 

「あの、小南さん」

 

「そう言われるとそうかも……。でも綾辻さんかぁ……やっぱ似合わないわよ。あの完璧超人とこんなのが」

 

「いやでも実際二人並べてみないとそういうのはわからないって」

 

「小南さん」

 

「あたしはないと思うなー。いつから付き合ってんのかな」

 

「いや、でも綾辻さんって芸術面ダメダメじゃん?そういう意味だとお似合いそうじゃない?学校の勉強なら伊佐くん完璧そうだし」

 

「小南」

 

「あーそう言われるとそうかも……なんかお互いに足りない所を補い合ってる感じで」

 

「小南」

 

「何⁉︎てか呼び捨て……」

 

「小南さん、早く欠点というのを教えて下さい」

 

「……………」

 

少しイラッとしつつも、小南はコホンと咳払いをした。

 

「決め手になる攻撃がない。スコーピオンとカメレオンを持ってるなら、私のトリオン供給気管を狙うチャンスはあったはずよ」

 

「格上のあなたに接近戦を挑むのは愚策だと思ったんですよ。それに、接近戦はあまり得意じゃないんです」

 

「………それなら、あたしが鍛えてあげてもいいけど?」

 

「いいんですか?」

 

「あなたの色々と手数を考える頭と射撃の腕は認めるわ。あとは接近戦の技術だけよ。まぁ、ぶっちゃけあたしは感覚派だから、あんたに自分でコツを掴んでもらうことになるけど」

 

「よろしくお願いします」

 

「じゃ、早速始めましょう」

 

二人は再び仮想訓練室に入った。

 

 


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