【完結】衛宮切嗣「僕は、メガガルーラを許さない」   作:吉田さん

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ぼうけんのはじまり

1.

 

 

 

マサラタウン。それは人間による土地開発が進んでいる現代において、数少ない自然豊かで空気の澄んだ田舎の小さな町である。

そんな町に住む青年――衛宮切嗣はこの町の外れにある。ポケモン界の権威ことオーキド博士の研究所へと足を運んでいた。

 

「……ついに、この日が来たか」

 

研究所にいる研究員たちと軽く挨拶を交わしながら、切嗣は一人呟く。

その言葉には「ようやくこの時が来た」といった風な万感の想いが込められており、切嗣がどれだけこの日を待ち望んでいたのかが伺える。

 

「来たよ、オーキド博士」

 

「おお。ようやく来たかキリツグ」

 

研究所の最奥の自動ドアが開き、切嗣はそこにいた老人と言葉を交わす。そしてこの老人こそ、オーキド博士その人だ。そして――――。

 

「ようやく来たか。衛宮切嗣」

 

「……言峰、綺礼」

 

あえてスルーしていた青年に名前を呼ばれ、苦々しい顔をしながら切嗣はそちらへと顔を向けた。

研究所の壁に背を預け、腕を組んで佇んでいる男、言峰綺礼。

所詮、切嗣のライバルといったところか。・・・切嗣としては、甚だ遺憾なことだろうが。

 

「これこれ、仲良くせんかいおまえたち。これからもおまえたちは互いを高め合う関係――好敵手(ライバル)なのじゃぞ?」

 

「……」

 

「……好敵手、ねえ」

 

それはないだろう、と。切嗣は内心で顔を顰める。

切嗣は横目で綺礼を見る。相変わらず何を考えているのかわからない顔をしていて、それが非常に腹ただしく。切嗣は直ぐに視線をオーキド博士へと向けた。

綺礼は綺礼で切嗣と同じような行動を取っていたが・・・。そんな二人の様子を見て、オーキドは失笑しながら二人に三つのモンスターボールを見せる。

 

「ほれ、初心者用ポケモンじゃ。このなかからひとつ、自分の欲しいポケモンを選ぶが良い」

 

「……」

 

「……」

 

その言葉に対する返答は、無言。

切嗣が無言な理由は単純明快。綺礼のあとにポケモンを選ぶことにより、綺礼に対するアドバンテージを取るつもりだからである。

衛宮切嗣は言峰綺礼と相容れない。ゆえに何度も衝突し、その結果周りからは互いを競い合う好敵手(ライバル)に見えるのだ。

そんな曲がりなりにも衝突してきた相手である。切嗣は綺礼が旅の途中でポケモンバトルを仕掛けてくることなど手に取るようにわかる。

それも、おそらくこちらが疲弊した時に集中的にしかけてくるだろう。

序盤なら、ポケモンを育てている最中に、とか。

まあ切嗣は最初のポケモンで最後までいくつもりはないので、あまり意味のない行為だと言われれば意味のない行為ではあるのだが。

それでも、なんとなく、なんとなく優位にたっておきたかったのである。

もしかしたらいまここで、貰った瞬間にポケモンバトルを開始させられるかもしれないのだから。

だから、衛宮切嗣は動かない。

言峰綺礼がポケモンをその手に取るまで、動くつもりは毛頭なかった。

 

そして、言峰綺礼も動かない。

何も映さない瞳でジッ、と。ポケモンの入っているモンスターボールを眺めていた。

そんな二人の様子を訝しみながら、オーキドは口を開いた。

 

「ほれ、どうしたんじゃ? ポケモンを――」

 

「――わからない」

 

オーキドの言葉を遮るかのように、綺礼もまた口を開く。

その続きを促してか。オーキドは口を閉じ、綺礼の言葉の続きを待つ。

 

「わからないのです、博士。わたしは、一体なぜ、ポケモンを手にしなければならないのかを」

 

「……は?」

 

「確かにわたしは、ここにポケモンを受け取りに来た。けどなぜ、わたしはポケモンを受け取りに来たのかがわからない」

 

「いや、あの」

 

「本当にポケモンを欲しいのか、いざその場に立つとわからなくなりました」

 

「えーっと、な?」

 

「ポケモンを欲しいなどと思ったことはない。だが、なぜかポケモンを受け取らなければならないと思い至り、今日わたしはここに来た」

 

そこから先は、切嗣はよく覚えていない。

ていうか始めから支離滅裂で意味不明な言葉の羅列だったために、切嗣は考えることを放棄していた。

オーキドの説得(?)により、綺礼がヒトカゲを手にしたことだけは確認したが。

そして切嗣は、心を殺し、感情を消し去りゼニガメの入ったモンスターボールを手に取る。・・・甚だ不本意なことである。

何が悲しくて、こんなどんくさそうなポケモンを手にしなければならないのだろうか。

切嗣個人的には、始めのポケモンはフシギダネがベストだった。

“ねむりごな”や、“やどりぎのたね”などの有用な技を習得出来るからだ。

実に、実に切嗣好みのポケモンであると言えたのだが・・・まあ、仕方あるまいと切嗣はゼニガメの入ったモンスターボールを手に取る。

 

ここまで来るのに約一時間半、長丁場である。オーキドは漸くか、と息を吐き。

 

「カゲカゲ」

 

「……」

 

綺礼はなんの感情も見せない瞳でヒトカゲをジッ、と見つめ。

 

「……」

 

切嗣はポケットのなかにモンスターボールをしまい、足早に研究所を去ろうとする――

 

「待て、衛宮切嗣」

 

「……」

 

その言葉に、切嗣の足がピタリと止まる。

 

「せっかく博士にポケモンを貰ったのだ。少し、ポケモンバトルというものに興じてみないか?」

 

やはり来たか、と思いながら。切嗣は振り返る。

 

「いいだろう言峰綺礼。その申し出、引き受けよう」

 

「ほう? まさか、貴様が応じてくれるとは思ってもみなかったぞ」

 

「やらないのかい? なら僕は、帰らせてもらうが」

 

「随分とせっかちだな衛宮切嗣。急いてはことを仕損じるぞ」

 

「ほざけ」

 

二人の視線が飛び交う。先ほどまでなんの感情も宿してなかった綺礼の瞳に、切嗣への敵意という名の感情が篭る。

 

「……」

 

「……」

 

地を蹴り出し、二人は同時に駆け出した。

 

「いけ、ゼニガメ」

 

「迎え撃て、ヒトカゲ」

 

二人の指示を聞いたゼニガメとヒトカゲが、互いに牙を向きながら相対する。そして、二人は――

 

「……」

 

「……」

 

互いに睨み合っていた。

 

「……お主たち? ポケモンに指示を――」

 

「「必要ない」」

 

「……ええー」

 

あまりにもの全くの同時返答に、オーキドは返す言葉がなかった。

 

「この程度の敵を相手に、僕の指示を仰ぐ必要があるポケモンなら。僕にはいらないね」

 

「言うではないか衛宮切嗣。おまえの方こそ、足元を掬われないことだ」

 

「ご忠告をありがとう、言峰綺礼」

 

「もっとも、お前の敵が足元の存在ではなく。天上の存在かもしれんわけだが」

 

「……」

 

「……」

 

「「殺す」」

 

かくして、場外乱闘が始まった。――――結果。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所が跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、行こうか」

 

最低限の荷物をビジネスバッグにまとめた切嗣は、ついにマサラタウンを出る。悲願を達成するために。

 

「……ポケモンチャンピオンになって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――メガガルーラを禁止にする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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