【完結】衛宮切嗣「僕は、メガガルーラを許さない」 作:吉田さん
2.
ポケモンバトル。それは文字通り、ポケモン同士の戦いだ。
トレーナーはポケモンに指示をし、ポケモンはトレーナーの指示通りに動き、ポケモン同士で競い合う。
審判からの指示により戦闘不能になれば敗北、相手のポケモンを戦闘不能にすれば勝利である。・・・さてこのポケモンバトルだが、楽にそして確実に相手から勝利を勝ち取るならば、一体どんな戦略を取るべきだろうか。
Levelを上げる?
否。それは基本的事項だ。
相手の戦力を分析し、戦略パターンを導き出す?
否。そんな事も出来ないものがポケモントレーナーを名乗ろうなど、烏滸がましいにもほどがある。
タイプ相性を突き詰める?
否。重要ではあるものの、そればかりにとらわれてしまっては、相手の奇策に絡め取られる。
否、否、否、否――――否だ。
どれも違う。どれも違うんだ!!
そう切嗣は葛藤した。如何にして、自身が確実にポケモンチャンピオンになれるかを、切嗣は模索しまくった。
そんな切嗣の苦悩を見て、言峰綺礼は嗤っていたのを切嗣はよく知っている。
言峰綺礼は誠実で真面目な好青年などと評価する大人たちを見て、切嗣は「そんなはずはない」と断じる。
閑話休題
そんな綺礼の歪な笑みを見て、イラっときた切嗣はすぐさま行動に移した。――イシツブテを投げつけたのだ。
イシツブテ合戦。それは、古来よりマサラタウンの民へと伝承され続けた儀式とも呼べる儀礼。
マサラタウンの人間は、幼少の頃より重さは軽く二十キロを超えたイシツブテを軽々と片手で持ち上げ、相手に向かってボール感覚で投げつけるという、他の町の人間が見れば正気の沙汰とは思えないような所業を平然とやってのけるだけの戦闘能力を有しているのだ。
ゆえに、彼らはこう呼ばれる――マサラ人と。
切嗣が近くに転がっていたイシツブテを投げつける。それを綺礼は何事もなかったかのように躱す。
それを見た切嗣はまたもやイシツブテを今度は音を超えた速度で投げつける。それを綺礼は煩わしい蝿を振り落とす感覚でペチン、と叩き落とす。
それを見た切嗣はイシツブテを投げつけ空間に穴を開き、イシツブテに次元を超越させながら多方面から綺礼を嬲り殺しにするようにするも。綺礼はそれを全て叩き潰した。
かくして不適に、そして人を不愉快にさせるような笑みを浮かべる言峰綺礼と、親の仇を見るかのような形相をした衛宮切嗣の構図が出来上がったのである。
「……なんなんだ、キミは」
「なんだ、とは。つれないことを言うな衛宮切嗣」
「ちっ」
忌々しい奴め、と。切嗣は内心で毒づくも、それで何かが解決するわけでもない。
――こうなったこいつは執拗に僕の嫌なことをしてくるからな……。
それも、ものすごく的確に。
例えるならばドミノがラスト一個で完成するぜ! といったタイミングで全てを破壊されるあたりだろうか。
取り敢えず、「いまここでこれだけはするな」といったことを言峰綺礼はことごとく成してくるのだ。・・・嫌いにならないわけがない。
「……いつまでいるつもりだい?」
「それを言う、義務がわたしにあるのかね?」
「……僕が知りたいからだ」
「それは衛宮切嗣、お前の都合であり。私には一切、関係のない事だ」
「……」
「……」
――正論だけに腹が立つッ!!
歯を噛み締め、切嗣はどうこの場を切り抜けるか模索する。
先ほどまで思考していたポケモンバトルに関する必勝法の一切合切を捨て去り。切嗣は
――どうすれば、どうすればいいッ!?
ある意味。いや普通に、これはポケモンバトル必勝法より難易度は高いのではないのか? そう思いながらも切嗣は諦めない。
諦めなければ、必ず道は切り開ける。そんな根性理論を持ち出すほどにまで、切嗣は急いていた。
そんな切嗣の内心を見透かしているのか、綺礼の口の端が少しだが釣り上がる。そしてそれを見た切嗣が額に青筋を立てるの堂々巡り。
水と油、犬と猫、北風と太陽、etcetc。衛宮切嗣と言峰綺礼とは元来そういうものなのだ。
この二人は決して相容れない。
――……面倒だ。さっさと消し去らなければ。
と、そう思い至った時だった。
「……ッ!!」
雷が落ちてきたかのような衝撃が、切嗣に降りかかる。
口を半開きにし、目を大きく見開く。そんな切嗣の異様な姿を見て訝しんでいた綺礼だったが。やがて「つまらないことになったな……」とだけ言い残し、彼は踵を返した。
「……は、はは」
そして残ったのが切嗣だけになったとき、彼は笑みをこぼす。
「そうか、そうだ、それが最善だ……!!」
彼の頭のなかで、次々とピースが当てはまっていく。
かくして、切嗣は必勝の方法というものを、編み出してしまった。
♦︎♦︎♦︎
「試合、開始ッ!!」
ポケモンリーグの公認ジム。
ポケモントレーナーはそれらのジムを周り、ジムリーダーと呼ばれる存在に認められる事で得ることができるジムバッジを七つ集めることでポケモンリーグへと挑むことが出来るのだ。
そんなポケモンジムの一つに青年、衛宮切嗣はいた。
そして彼のあたまのなかには、既に対戦相手たるジムリーダーの情報が詰まっている。
――ジムリーダーの名前は、遠坂時臣。
心を殺し、感情を消し去り、彼は動きだす。
――優秀なポケモントレーナーで、伝統的なポケモントレーナーの家系に属している。
スイッチを切り替え、彼は必殺のポケモントレーナーへと至る。
――そして、ポケモントレーナーであることに誇りを持っている、か。
と、そこまで考えたところで。ジムリーダーの遠坂時臣から切嗣へと声がかけられた。
「まずは、ここまでよく辿り着いた。と言っておこう、挑戦者」
「……どうも」
「キミは確か、ポケモンジムの挑戦は初めてだったね」
「……」
「なればこそ、教えてあげよう。ポケモンジムの険しさ、厳しさを――」
途端。時臣の雰囲気がガラリと変わる。先ほどまでの柔和で人の良さそうな笑みはなりを潜め。冷徹で、冷酷なポケモントレーナーとしての顔へと変わる。
「征け、イワーク!!」
時臣が持つ杖の持ち手に備え付けていたモンスターボールから、その巨体が姿を現す。
「イワァァァアアアクッ!!」
「見たまえ! このイワークの神々しさを!! かつて、我が祖先が探求に探求を重ねた結果爆誕した、クリスタルのイワークをッ!!」
遠坂時臣がクリスタルのイワークについて熱弁しているなか、切嗣は動き出した。
「……」
腰を低く下ろし、モンスターボールを構える。
その佇まいは歴戦の戦士を思わせる風格と重圧を感じさせるもので、自然と時臣の口も閉じられた。
――どうやら、覚悟のかけらもない。初心者ポケモントレーナーではないようだね。優秀な師でもいたか。
――だからこそ、面白い。
好戦的な笑みを浮かべ、時臣は切嗣を迎え撃たんとイワークを待機させる。
「さあ、来いッ!!」
時臣の言葉が合図になったのか、切嗣からモンスターボールが解き放たれる。そして――――
「だぼっ!?」
遠坂時臣の顔面に、モンスターボールから飛び出たゼニガメが直撃した。
「……やはり、な」
そう言った切嗣の手には、光り輝くジムバッジがあった。
彼の作戦はこうだ。
“ジムリーダーを直接狙う”
それも、ごくごく自然を装って。
例えばポケモンがモンスターボールから飛び出したところが相手の顎、とか。
切嗣はそれを、あの時のように空間の壁を破壊し、次元の異なる空間から攻撃することにより可能とした。
一度それにより、空間を司るポケモンなどという仰々しいポケモンとリアルファイトすることになった事など、これのためならば些細なことだった。
「……なっ。遠坂時臣がやられた!?」
「フン、ジムリーダーの恥さらしめ」
「おいおいウソだろ!?」
「んま、遠坂時臣はジムリーダーのなかでも最弱! 俺にかかれば、ちょちょいのちょいっ、てね!」
♦︎♦︎♦︎
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという、ジムリーダーがいる。
彼はジムリーダーだけでなくトレーナーズスクールの講師も勤めているという、極めて優秀な人間だ。
「……ふっ、来たか」
そんなケイネスは紅茶のカップをソーサーにおき、“テレパシー”にて送られてきた情報に笑みを浮かべた。
「衛宮切嗣」
それが彼の有する、ヤマブキジムへとノコノコやってきたチャレンジャーの名前だ。
ニビジムのジムリーダー、遠坂時臣を僅か一分という異例の記録で打ち破ったポケモントレーナー。
実に、実に楽しみだとケイネスは嗤う。
「さあ、来るがいい衛宮切嗣。このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが有する。ヤマブキジムのトラップを全て乗り超えて!!」
「……なんてめんどくさいジムだ」
そう切嗣が呟いた場所は、ヤマブキジムのなか――ではなく、ヤマブキシティにある巨大企業。シルフカンパニーのオフィスのなかである。
「カメラからの情報だけでも、百四十を超える罠に、一部が異界と化していて、毒タイプポケモンによる……頭が痛くなる」
正直、ケイネスはバカなのだろう。でなければこんな罠を張り巡らせるわけがない。まともな感性をしたトレーナーではないのだろうと切嗣はまとめる。
「……これを馬鹿正直に攻略しようとするトレーナーがいることにも驚くが」
まあいい、と切嗣はほくそ笑む。
自分がそんなめんどうなことをするわけではないのだから。
『号外!! ヤマブキジムが爆発! それに伴い、ジムバッジの叩き売り! さらに、ジムの職員であるランサーが死亡、この人でなし!』
「……フッ」
計画通り。そう呟いて、衛宮切嗣はヤマブキシティを後にした。