『はなことば』   作: 池田 

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第1話

 

 

ある日。

 

私はいつものように、屋上の給水塔の上から街を眺めていた。

 

「んむ……」

 

昼食代わりの三色団子を食べながら、街を見下ろす。

私はこの場所が好きだ。

 

特に今日みたいに晴れた日なんか、ずっとここに居たい気分になる。

空を見上げると、雲がゆっくりと流れていった。

 

「あ、そう言えば今日は……」

 

私はそこでふと、今日が特別な日であるのを思い出す。

我ながらうっかりしていた……今からでも用意は間に合うだろうか?

 

「さて、と」

 

食べ終わった団子の串を片付けて、私は給水塔から飛び降りた。

普通の人間なら怪我をする高さだけど……幸いにも私は忍者、体の動かし方は普通の人よりは心得ている。

綺麗に床に着地して、私は校舎の中に戻った。

 

さて……特別な日の準備には特別な用意が必要だ。

そしてそれは私一人では不可能である。

 

彼女に協力を仰がなければ……。

 

「え~と、確か教室は……」

 

彼女の居るクラスを探していると、ちょうど良いタイミングで彼女が歩いているのを見つけた。

私は後ろから駆け寄り、彼女に声をかける。

 

「やすなさ~ん」

 

「その声は……あぎりさん、どうしたんですか?」

 

「ちょっと良いですか~?」

 

「良いですけど……どうしたんですか?」

 

「実は……」

 

私は、彼女の耳元で囁く。

彼女は一瞬驚いたようだが、話を聞くとすぐに乗ってきてくれた。

 

「ほう……ほうほう……なるほど……」

 

「というわけなんです~、良ければ協力して欲しいんですが~……」

 

「もちろんですよ!やりましょう!」

 

「ありがとうございます~」

 

「じゃあ私はソーニャちゃんを呼び出すから……あぎりさんは他の事をお願いします!」

 

「わかりました~、では放課後にいつもの場所で~」

 

「了解です!それじゃあまた後で!」

 

よし、これで第一段階は成功だ。

後は必要な物を用意するだけで良い。

 

放課後が楽しみだ。

 

 

 

そして、放課後。

 

私はいつもの空き教室でその時を待っていた。

柄にもなく、少しそわそわなんかしたりして。

 

まだかな……?

 

「……一体何の用なんだ」

 

「さぁ……私にも……」

 

扉の外で、声がする。

どうやらお客が来たようだ。

 

私は用意したものを確認する。

 

……うん、全て大丈夫。きっとうまくいく。

 

私はクラッカーを構え、扉が開くのを待った。

 

「おい、あぎり。来たぞ……」

 

扉が開いて、彼女が中に入ってきた。

私は、紐を引いてクラッカーを炸裂させる。

ぱん、と乾いた音が響いて申し訳程度の紙吹雪が舞った。

 

「な、何だ!」

 

「おめでと~ソーニャ~」

 

「ソーニャちゃんおめでとー!」

 

 

そう、今日はソーニャの誕生日。

 

普通に誘うと、多分恥ずかしがってしまうだろうから。

こうしてサプライズにしたわけだ。

 

「な……あぎり、お前……」

 

「びっくりしたでしょ~?」

 

「もう、ソーニャちゃんったら素直じゃないんだから~」

 

「……覚えてたのかよ、私の誕生日なんて」

 

「……忘れるわけ、無いでしょ?」

 

「ふん……」

 

ふふ、照れてる。

こう言う素直じゃない所は、昔から変わらない。

 

「という訳で……プレゼントも用意してまーす!」

 

「またそんなに……」

 

「用意したのはあぎりさんだけどね!」

 

「こんなにあっても仕方ないだろ」

 

「とにかく開けてみて!いろいろあるから!」

 

やすなさんが、彼女の袖を引っ張ってプレゼントの方へ向かっていく。

なんだかんだでソーニャもそれに付き合っているあたり、やはり二人は仲が良いんだろう。

 

私は黙って、彼女たちを見つめていた。

この場は、やすなさんに任せておいても大丈夫だろう。

 

それに……ソーニャに渡すプレゼントは、別に用意してあるから。

 

私の読み通り、やすなさんは見事に場を盛り上げてくれた。

ソーニャも戸惑いながら、楽しんでくれていたようだった。

 

「……いい友達が出来ましたね、ソーニャ」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いいえ~何も~」

 

「ほらソーニャちゃん!次!次の開けてみようよ!」

 

「まったく、騒がしい……」

 

やすなさんに誘われて、ソーニャはまた彼女の元へと近づいていく。

 

結局その日は暗くなるまで、楽しげな声が空き教室に響き続けていた。

 

 

 

 

 

帰り道。

 

「ソーニャちゃん、あぎりさん!また明日ー!」

 

「あぁ、それじゃあな」

 

「さよ~なら~」

 

分かれ道で、やすなさんが手を振りながら自分の家へ帰っていく。

 

既に暗くなった道を、私達は二人で歩いていた。

 

「……そう言えば、お前と帰るのってあまり無いな」

 

「そうですねぇ~。まぁ、たまには良いじゃないですか~」

 

「……そうだな」

 

やすなさんと別れてから、なんだか一気に静かになった気がする。

彼女が普通より元気なのか、それとも私達が普通以上に話さないだけなのか。

 

ともかく、二人の間に沈黙が横たわる。

する音と言えば、遠くで鳴っている踏切の音やカラスの声。

そして二人の足音。

 

……やるなら、今かな?

 

「ソーニャ」

 

「なんだ?いきなり……」

 

「私の手を、よーく見てください~」

 

「ん?何かあるのか……」

 

「いきますよ~、いち、にぃの、ニン!」

 

私は軽く手首を回して、一輪の花を出現させた。

突然現れた花に、彼女は目を丸くしながら「おぉ」と小さく驚嘆の声をあげる。

 

「はい、私からのプレゼント」

 

「……この花が?」

 

「クチナシの花ですよ、良ければ飾ってください」

 

「……あぁ」

 

彼女は花を受け取って、そっぽを向いてしまった。

照れ隠しのつもりだろうが、少し赤くなった頬が見えている。

 

「その……ありがとな、あぎり」

 

「……どういたしまして」

 

街灯が照らす道を、二人で並びながら歩く。

やっぱり、会話はない。

 

でも、その沈黙がなんだか心地よかった。

 

もうすぐ、ソーニャの家に着くといった所で。

彼女が小さく呟いた。

 

「……なぁ、なんでクチナシの花なんだ?」

 

「……気になりますか~?」

 

「まぁ……なんとなく」

 

「それは~……」

 

「それは?」

 

「……ひみつ、です」

 

「は?」

 

「では、また明日~」

 

「あ、おい!」

 

なんだか恥ずかしくなって、逃げるようにその場から私は去った。

なんだかんだ言って、私も恥ずかしがりのようだ。

 

少し、私にしてはキザすぎるプレゼントだったかな、なんて。

 

クチナシの花言葉。

 

それは……。

 

 

 

 

やっぱり、ひみつにしておきます。

 

 

 

 

 

おわり。

 

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