退廃の風と絶対悪が英傑を求めて来るそうですよ?   作:アイ

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呼ばれし者__“久遠の鳥”

久遠財閥のご令嬢──久遠飛鳥は参っていた。

 外ではジリジリと照りつける日差しにうだるような暑さ、喧しさが何のそのと蝉達のラブコールが鳴り響いている。そして彼女の居る自室は空調設備という文明の利器が存在していない。窓を開放し涼をとるにしても限度というものがあった。

 

 

「あー……暑い。季節が季節だからって、お日様も少し頑張りすぎじゃないかしら……」

 

 

 そう愚痴を溢すもお天道様が日差しの加減をしてくれる訳もなく。

 彼女は確りと着込んだシャツのリボンを半ば乱暴に解くと、胸元を第二ボタンまで解放する。首元の圧迫感と、篭っていた熱気が一気に抜けていく感覚に思わず息を吐いた。

 

 

「ハァ……まったく。お父様もお母様も、伯父さんに伯母さんもこんな時期まで親族会議なんてしてるんじゃないわよ。十五になったばかりの娘に泣き付いてくるなんて本当、情けないものね……」

 

 

 ベッドの上で呆けながら思い出すのはほんの少し前のやり取り、財閥解体に関しての親族会議の顛末。

 

 彼女の生きる今は昭和。世界で二度目の大戦が勃発し、そして日本が連合国に敗北を喫してまだ数年しか経過していない年だ。現在日本は米国管轄の下様々な面で矯正政策を成されており、その一つには軍事開発の資金源ともなった財閥の解体という事項が存在していた。勿論、それは日本で五指に数えられていた財閥である久遠財閥とて例外ではない。

 しかし、この解体案件は数ヶ月の話し合いを経ても尚終結を見せていなかったのだ。その原因となっていたのが久遠財閥現当主である。彼はもう床から出られない程に老齢の身なのだがその発言力と影響力は衰え所を知らず、彼が断固として解体を拒む姿勢に親族らは手も足も出せていなかったのだ。

 

 そこで、最終手段として連れてこられたのが飛鳥だった。

 財閥の令嬢とは言え十五に過ぎない彼女が何故最終手段とされたのか。それは彼女の持つ特異的な能力にあった。

 

 

『久遠飛鳥が口にしたことは絶対となる』

 

 

 他所の者に言えば何を言ってるんだと訝しまれてもおかしくない話。だが、それは事実であった。

 

 

『相変わらず、お爺様は無駄に元気が宜しいようね。そのお陰でこんな実の無い話し合いに私まで駆り出される始末。本当往生際が悪いったらないわ。お爺さまもいい歳なのだから、引き際というものをちゃんと弁えてくれません? お爺様の時代はもうお終いで、世代交代の頃合なの。

────というわけで、さっさと財閥を解体して速やかに棺の中に引っ込んでください』

 

 

 以上が、出会い頭早々に飛鳥が老当主に言い放った言葉だ。それはもはや会議などとは呼べるものではなく、一方的な命令であった。

 

 一通り思い出し、自然と口から溜め息が吐かれた。

 

 

「あーあ……つまらない」

 

 

 次いで口から出たのは本音。

 彼女はほんの少し期待していたのだ。一世紀近くも財閥当主の座に収まる程の手腕と貪欲、強情さの持ち主が、少しは自分の力に抵抗できるのではないかと。

 

 

「はぁあ、何かおもしろ愉快な事が起きないかしら。これなら戦争が長引く方がまだ刺激的に感じるものねェ……」

 

 

 物騒な事を呟きながらも、また部屋に篭りだした熱気に思わずベッドから身体を起こす。

 

 と、そこで飛鳥は不意に違和感を感じた。固定されたその視線が向くのは彼女の机の上。そこには一通の封書が置かれていた。

 それだけなら何ら不思議な事ではないが彼女は封書に身に覚えが無く、且つ少し前まで部屋を留守にしている間窓も含め戸締りはちゃんと確認していた。そしてその際には、机の上には何も存在していなかったのだ

 

 

「……フフ。まだまだ、捨てたものじゃなかったわね」

 

 

 チラリとベッドの上に放り投げていた鍵を見る。部屋の鍵はそれ一つしかない。ならば一体誰があの封書を置いたのだろうか。念のために部屋中を見回してみるが、何処にも封書を投じる事の出来るような隙間は確認できない。

 

 気付けば彼女の口許は笑みを浮かべ、暑さも忘れて思考が回り始めた。

 ベッドから腰を上げ、机の傍により封書を手に取り差出人を確認する。が、そこにあるべき名はなく、あったのは『久遠飛鳥殿へ』という宛名のみ。

 ますます浮かんだ笑みが深くなった。

 

 

「────飲み物はいいわ。下がって」

「はい……」

 

扉の向こうにまで来ていた使用人を下がらせる。それ程までに、彼女の好奇心は手元の封書にあった。

 

 

「何処の誰とも知らないお方、中々に素敵な投書じゃない。フフフ……精々、私の期待を裏切らないことを願おうかしらね」

 

 

 そして飛鳥は、嬉々として封を切った。

 

 

 

 

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