・・・・・・・・・
「笠原 綿希《かさはら ゆうき》」はどこにでもいる一般的な男子高校生だ。身長や体重はもちろん、体力測定ではかる全ての競技の数値も平均から大きく外れない。顔や学力もいたって平凡。今まで付き合った相手は2人。どちらも半年程度しか続かなかった。別れた理由もたいした事ではなかった。
そんな彼の数少ない趣味のひとつ。それがゲームだ。といっても私生活よりそちらを優先するような廃人なんてこともなく、学校の友人と話すネタになればいい程度の気持ちで続けている。
彼の高校生活も残り半分となった10月。日本全てのゲーム好きを沸きあがらせるひとつのゲームが発売された。「ソードアートオンライン」。仮想空間、天空城アインクラッドを舞台に全100層からなるダンジョンを攻略するVRMMO。事前に公開されていたPVには普段ゲームへは見向きもしないような人種にさえ、プレイ意欲を植え付ける何かがあり、それなりにゲームが好きな綿希の購買意欲を高めるには十分すぎるものだった。学校中がこの話題で持ちきりになり、先行プレイにゲームの優先獲得券までついてくるという「βテスト」に応募したものは100を超えた。もちろん綿希もクラスメイトとともに応募し、当然のように落選した。まわりで当選したという話も無く、綿希は、後日1万人がプレイできるようになる正式サービスの開始を待つことになった。
そして発売から1週間が経った11月6日。綿希は自室のベッドで横になっていた。
「うーん、ミラクル・・・」
1万人がプレイできるとはいえ、その権利への応募はとてつもない倍率だったという。そのなかから幸運にも綿希はそのゲームを獲得した。学校では彼以外に当てた人がいなかったことから、一時的にヒーローのような扱いを受けたほどだ。サービスの正式開始日である今日が開校記念日だということも幸いしている。
「あいつら、このゲームが出来なくて本当に悔しがってたからな。今日の感想を明日教えて、次の休みにでも貸してやるか。」
誰も居ない空間で軽く笑いながら綿希はひとりつぶやく。はたからすればなかなか不気味な光景なのだが、そんなことも気にならないくらい彼は興奮していた。そして時計が午後1時を指すと同時に彼はゲームの中へ身を投じた。
「リンク・スタート!」
それが彼がこちらの世界で発した最後の言葉。そのまま彼の意識は、ゲームの中へ、仮想空間へ飛び込んでいく。もちろんたかがゲームであり、仮想空間は現実とは異なる。メニューからログアウトを選択すればすぐに現実へ帰還できるだろう。これがただのゲームであれば。ゲームの開発者茅場明彦はこう言った。
「これはゲームであって遊びではない」
その言葉に違和感を感じるには彼はあまりにも幼かった。そして、この日を境に彼はこの世界を大きく変える人物になる。
・・・・・・・・
ゲーム内でのニックネーム、アバターを作成し、第一層、「始まりの街」で綿希は感動していた。
「ここが、ゲームの中・・・。」
風景が、吹き抜ける風が、握り締めたこぶしの感覚があまりにも現実と変わらない。何もしらないでここに足を踏み入れたなら、現実といわれても少しも疑わないだろう。それほどにこの世界は完成されていた。ここがゲームだとわかる数少ない場所が自身の視線の左上。ステータスバーだ。綿希のゲーム内での名前は「Yuki」。本名をローマ字表記にしただけだが、これ以上しっくりくるものは無かった。緑色のライフゲージの上にある「Lv1」の文字が、まだ彼が駆け出しもいいところなのを物語っていた。
「すげえ・・・」
感嘆の声が漏れる。いやそれしか出せないといったほうが適切だろう。外国の街並みを再現したような光景に目を奪われ、他のプレイヤー達が武器を買い、街の外へ向かう中で彼はひたすら街を探検していた。全てが新しいこの世界で彼は時間を忘れた。一通り散策を終え、自分も他にならってフィールドへ出る準備を始めようとしたとき、街に異変が起こった。
鐘の音が鳴り響く。平和な遊びの終わり、そして未知のゲームの始まりを告げり音がプレーヤー達へ届いた。
・・・・・・・・・
「プレーヤーの諸君、ようこそ私の世界へ」
宙に浮かぶ巨大な赤ローブは自身を茅場と名乗り、こう続けた。現在、始まりの街の空は赤く染まっており、中心広場には全てのプレイヤーが集まっていた。その後も茅場と名乗るそれはこう続けた。
現在、全プレイヤーはログアウトできない状態であると。
ログアウトするにはこのアインクラッドを攻略する必要があると。
そして、このこのゲームの中でゲームオーバー、つまりHPが0になった時点で--------
『現実の肉体も死を迎える』と。
理解の追いつかないプレーヤー達が宙の茅場に向かって何かを言っているのも聞こえず、ユウキはただ呆然としていた。それこそ夢でも見ているかのように、ただ突っ立ていた。
(死ぬ?でもこれはゲームだから・・・。でもナーヴギアの高出力バッテリーなら・・・。)
でも、でもと頭の中を考えが言ったりきたりする。もはやこの世界に初めて来たときの感嘆など無く、その心中は惑い、不安、そしてわずかな死への恐怖で埋め尽くされていた。
「諸君らにプレゼントを用意した。」
困惑するプレーヤーを気にも留めず茅場は彼らのストレージ内にあるものを取りださせる。
(これは・・・、手鏡?)
周りのプレーヤーと同じようにユウキはそのアイテムに自身の顔を写した。鏡が割れるようなエフェクト。その直後、周りから悲惨な声があふれ出した。隣に居た女性は自分と同じくらいの青年へ変化していた。周りの人の顔がみな変わっている。いや、周りだけでない。もう一度手鏡を見ると、彼にもその変化はおきていた。現実より少しだけかっこよく作っていたつもりのアバターは剥がれ落ち、いつもの綿希と変わらない顔がそこにはあった。
「君達に真実を教えた。それでは検討を祈る。」
結局プレーヤーが困惑しているうちに茅場は消えた。
空の色は元に戻った。しかし空気はうって変わって明らかに重い。ひとりの女性プレーヤーが甲高い叫び声を上げた。プレーヤー達がぽつぽつと言葉を漏らし、それが不安への、恐怖への叫びに変わる。まわりにどよめきが広がるその中で、あくまで平凡な少年、ユウキは結局は他の多数のプレーヤーと同じようにそこに立ち尽くすことしか出来なかった。
読んでいただきありがとうございました。久々かつほぼ初めての投稿なので、行間の空白など読みづらければ教えてくれると嬉しいです。1話と本タイトルなんも関係ないですね…。2話ではタイトルになった理由のところまで話を進めたいです。主人公の名前が話に関わるのはまだ先のお話。
次回は早ければ明日。土曜か日曜かも。