はじまります。
―――人は死ぬと天国に行ける、なんていう迷信を未だに信じている人はいないでしょうが、実際直面すると絶句してしまうものなんですね。
西洋の庭園を彷彿とさせる庭。透き通るような水が湧き出す噴水。そこから伸びる水路が樹木に潤いをもたらし、辺り一面を占める澄み切った空気が、清楚な雰囲気を一掃強固なものにしています。
……え? 白い何もない空間? ヒゲの生えたジジイの五体倒置? そんなの見ても面白くもなんともないじゃないですか。
だから敢えて、目の前に立つ変な人は視界から外していたのですが、無視したままだと話が進まないですし、状況が上手く飲み込めません。
なので説明プリーズ。すると老人はパァッと顔を明るくして起き上がりました。キモいんですけど。
「なんだかんだで死んじゃったから好きな世界に転生しても良いんじゃよ?」
「こいつ腹立つんですけど」
なんで疑問形なんですか。疑問をぶつけたいっていうか殺意をぶつけたいのですけれど。マジ宇宙なんですけど。
話の詳細を聞いてみると、なんでも、元いた世界で突然事故死したけれど、気が向いたから助けてあげたはいいが、一度死した人間が蘇ると輪廻がどうとか時空改変がどうのとか……意味不明な単語を散らしつつ長々とした説明をし始めました。間違いなく誤魔化しに入っているのが確定的に明らかだったので適当に頷きながら聞き流すことに。
それから15分後。
「というわけで、好きな世界を選んでちょ」
「その語尾は死語だと思います」
しかしそんな簡単に言われても、行きたい世界なんて思い浮かびません。
どうせ好きな世界に行けるのなら、自分のやりたいことができる世界がいいですね。そんな都合よい世界なんてあるはずが……いえ、ありましたね。
「カードゲームがある世界……いえ。カードゲームが大流行している世界がいいです。遊戯王デュエルモンスターズがある世界がいいですね」
社会現象になって世界のシステムに組み込まれるような、今までとは常識からして大いに異なる世界。
どうせなら、そういう世界に行ってみたいです。
平和な世界でもいいけれど、この機を逃したら一生無い気がしますし。
「え? ゆう……ごめんなんだって?」
「デュエルモンスターズです! 遊戯王の世界ですよ!」
「………………………あー! ハイハイ、それね! うん、分かってるよ分かってる! おっちゃんちゃぁんと分かってたんだからね! 分かってて試しただけなんだからねバーカ!」
「なんで罵倒されなきゃいけないんですか」
まったく、よく分からんジイサンですね。
けれどもカードゲームの世界には行かせてくれるようです。いや、まさか本当に行けるとは……こんなチョロくて良いんでしょうか? もっと神の試練的なものがあってしかるべきだと思いますけど。
まぁ、向こうが許可を出したわけですし、問題ないですよね。
「あ、でも、お主を特別扱いするのはこれきりだから。よくあるチート能力やら特殊な生い立ち設定は用意できんぞ?」
「別にいりませんよ」
そんなインチキは必要ないです。いや、デスティニードローとかシャイニングドローが欲しいとか思わなくもないですが、あると絶対ロクなことにならないと思うので。
そんなこんなで、ボクは転生することとなったのでした。
気がつくと、赤ん坊のボクは寝台の上で寝かされていて、両側から覗き込む両親の姿が。
……人生巻き戻しすぎですよ、もう。
それから十年。
わたしは小学生になり、ようやくカードゲームに触れる機会を得ました。
ええ、辛かったです。辛かったんですよ、今まで。
赤ん坊から人生リセットが、ではなく、カードゲームをやりたくて生まれ変わったのに、カードができなかったからですよ。
何故って、ボクは女の子ですから、カードゲームなんていういかにも男の子向けなアイテムやってると茶化されるんです。
この年頃の子供ってのは非常に面倒くさくて、男子に混ざって遊んでいると男女扱いされたり、仲良くしてる男の子とデキてるだのなんだのとゲラ笑いするんです。
「え? お前女のくせにカードゲームやってんのwww? マジかwwwwおウチに帰ってプリキュアでも見てろよwwwwwベララーwwwwwww」
なんて言われる始末。ウザい小学生もいたもんですね、人が何したっていいじゃないですか。
からかわれるくらいならまだ良いんですが、勝負に負けると実力のせいじゃなくてカードのせいにして、カードを巻き上げようとする輩もいないとは言い切れません。実際そうやってレアカードを奪われたという話も聞きました。
そんな状況でカードゲームをしたって面白くもなんともないので、泣く泣く見送ることにしました。一体いつになったら遊べるのでしょうか……。
ですが十歳の時、転機が訪れました。家族の都合で引っ越した場所では、カードゲームが流行していて、男女問わず盛んに行われているんだそうで!
これには思わずガッツポーズですよ。残念ながら都心近くに住むことは叶いませんでしたが、この際なんだって良いのです。とにかくカードゲームがやりたくて仕方なかったボクにとって遊べればなんだって良いですハイ。
さらに幸いなことに、カードショップは小学校と家から近いところにあるので、学校帰りや休日に気軽に遊びに行ける距離だってことです。
これは遂に私の時代到来の予感がしますよ。やったこれで心おきなく海馬社長ごっことかできますよ! 近所の公園でやってると頭弱い子だと思われそうなのでショップでしかできませんしね(※実際やって追い出されても責任はとりません
え、どんなデッキが好きですかって? そうですね……あまり多くは語れませんが、トリシューラは愛用してましたね、主に『インフェルニティ』でお世話になりました。『甲虫装機』や『カウントダウン』、それに最近では『征竜』や『マーメイル』も使ってましたよ。ワンキル系も好きですがカウンターも愛用してましたね。ええ、割とガチでしたが何か? 大会はあんまり出ませんでしたけど。
さぁどんなデッキ作ろうかなー? でもお小遣い少ないし、強いデッキ作れないかな。あまりお金がかからないデッキを作ろう。マシンナーズとかなら、構築済みデッキがあるし、『ギアギア』のセットが確か出たから、それで強化されてるかな? ずいぶん前に出た『セイクリッド』も使いやすかったなぁ。プレアデスとトレミス高いからなんとも言えないけど。
色々な想像を膨らましながら、カードショップへ全速前進です。
一人で行くのはちょっと怖い……なーんて心配ご無用、既にお友達とお待ち合わせ済みなのです。同じクラスの紗雪ちゃんという子が、なんと一緒にカードゲームをやらないかと誘ってくれたんです!
やった! これでボッチ呼ばわりされなくて済みますよ! 新しいデッキ組んでも友達がいなくて延々と一人で二つのデッキ回さなきゃいけないなんて事態もサヨウナラ。もうボクに怖いものなんてありません! フハハ最強ではないか我が人生は!
さぁ、私の楽しい楽しい遊戯王人生の幕開けですよ!
「紗雪ちゃーん! (遊戯王で)遊びましょー!」
「リオンちゃーん! いっしょに
全然ちがうじゃないですかもぉおおおおおおおおおおおおッ!!!!!