デッキ作成をするにあたって、まず何がしたいのか、何を主軸にしたデッキなのかを考える必要があるわけですが、真っ先に考えついたのは、
「こう、相手がデュエル開始と同時に後攻になったら漫画を読み始めてターンを渡さずに勝利できる、みたいなデッキを……」
「ほんとにそんなので良いの?」
別に良いのですが、そんなのをフリー対戦でブンブン回していたら友達がいなくなっちゃうというか紗雪ちゃんに嫌われるのは目に見えていたので、さすがに控えることにしました。
(なら、やっぱりこれでしょうね)
デュエルマスターズというカードゲームの特徴を、最大限生かしたデッキ。
私が作るなら、まず最初はこれだと決めていました。……嘘ですごめんなさい。ワンキル上等でしたすいません。
でも気に入ったカードがあったので、それと相性の良いカードがすべて安価だったのですよ。財布ポイント、もとい、お小遣いの少ない小学生にはうってつけのデッキと言えるでしょう。
これには紗雪ちゃんも否定はしなかったのですが、ボクが使いたいと思ったカードには、ちょっと思うところがあるようでした。
「結構、珍しいカードを選ぶのね。でも良いの? これ、初心者向きだけど、まだルール覚えてないリオンちゃんが使うにはちょっと難しいんじゃ」
「大丈夫です。紗雪ちゃんが教えてくれればなんとかなります」
「もう、他人任せじゃない」
などと言いつつ、ちょっぴり嬉しそうな紗雪ちゃん、なんだかんだでデッキをまとめるのを手伝ってくれます。
「あ、そうだ。リオンちゃんにこれあげる」
思い出したかのように、ポケットから1枚のカードを出しました。それはストレージには入っていなかった、思わず目を見開いてしまうくらい素晴らしいイラストのカードでした。
「このデッキと相性は良くないけど、私が持っていても使わないから」
「いいんですか?」
「いいわよ。今日から始めるリオンちゃんへのプレゼントよ」
ニッコリ笑う紗雪ちゃん。なんという女神……ボクが男だったら即刻オトされてますわ。でもその胸にある武器はどうにかしてください。もしくは分けてください。
そして、紗雪ちゃんがくれたカードを入れて、デッキができました。誰ですか良いデッキがデッキるよとか言ったのは? 気のせいでしょうか。
ルール説明をしてくれるそうなので、実際デッキを動かしながら教えてくれることに。
紗雪ちゃんは店頭で初心者用デッキを借りて、デュエルスペースへ。……ちょっと待ってください。そんなのがあるならボクも最初からそれ借りれば良かったんじゃないのですか?
「最初からこんなのに頼っていたらいつまでも強くなれないじゃない。それに、デッキの作り方も早く教えた方が楽だもの」
紗雪ちゃん、ひょっとして面倒くさくなってませんかね。ルール覚えてないのにデッキの作り方教えられてもチンプンカンプンなんですけれど……。
ま、まぁ仕方ないですね。紗雪ちゃんとて小学生、理屈も道理も定かでないお年頃です。ここはボクがおとなしく引き下がることにしましょう。
「じゃあまず、最初の手順から……」
「いえ。ここはまず一回勝負してみましょうよ」
ボクの予想外の提案に驚く紗雪ちゃん。そりゃそうでしょう、まだルールも把握しきれていないのに対戦申し込まれるとは思いもしないはずですから。
「だってリオンちゃん、まだルール知らないんでしょ?」
「大丈夫です。カードなら拾っ……じゃなくて、ルールブックなら拾いましたから」
「どこで?」
その辺です。
真面目な話、細かいルールはわかりませんよ。でもターン手順とか名称くらいなら、ある程度は分かりますよ。慣れるより慣れろ、百聞は一見に如かず。口で説明されるより、実際見たほうが早いものなのです。
「本当にいいの? 説明もするし、一応手加減はするけど」
「平気ですよ。カードゲームなら得意ですから」
「デュエマ、やったことないんじゃ……」
「大丈夫ですから! ところで同じ名称のカードは3枚まででしたよね?」
「同じ名前のカードは4枚までよ……」
「手札は7枚まででしたね」
「もうダメでしょこれ」
ふっ。紗雪ちゃんは甘ちゃんですね。カードゲームが一種類とは限らんのですよ。この世界には存在しなくても、ボクには遊戯王で培った頭脳があるのです! ゲイルの効果処理を把握したボクに不可能なんてありません! サクリファイスは分かりません! いい加減調整中はやめて下さい!
さぁ、ボクの本気を見せてあげるのです!
「ボルシャック・ドラゴンで、トドメーっ!」
「ほげぇーっ!!!」
負けました。あれぇ?
第三話 初めての対戦
おかしい。これは絶対おかしい。何かの間違いだ、そうに違いありません。この可愛……オホン、このボクが負けるなんて信じられません。きっと何かあったんです。そう、これはデッキが事故ちゃったんです。
「何も考えずに攻撃すればそうなるわね」
何も言い返せませんでした。
体験してみて分かったのですが、このゲーム、構築によってはデュエルの優劣がアッサリ覆ります。遊戯王みたいに一度動き出して止められなければ大量展開して即攻撃、そして勝利、とはいかないようで。手札や墓地が重要なのは大抵のTCGの共通認識なんですけれど、デュエマはそこにシールドの概念が入ってくるわけです。
シールドがライフ代わりとなっているらしく、攻撃するたびにシールドが手札に入ってくるので、次のターンでの行動の選択肢が増えるため、その都度チャンスが訪れる。このシステムはなかなか面白いと思います。ワンサイドゲームになりきらず、すべてのデッキに等しく逆転の機会を与えているのですから。
回せば勝てる、だけで済まないのがデュエルマスターズ。一方的な展開を行っても、「シールド」があれば逆転の見込みは十分あるとのこと。
このように大胆な逆転劇をあらゆるデッキでも再現可能なカードゲームって珍しい気がします。たいていのTCGだと、回した者勝ちですからね。
どんなデッキでも勝てる可能性はゼロにならない。それは大きな長所と言えるでしょう。
……プレミアム殿堂とかいうオーバースペック系カードの存在はさておき。出しただけでエクストラターンとか、おかしいでしょう。八咫烏? DDB? 知らない子ですね。
「とりあえず、これでどういう特徴があるのかは分かったでしょ?」
「そうですね」
おおまかな特徴は掴めたと思います。たぶん。
そりゃあ一回や二回回して全貌がつかめるなら苦労はしませんよ。
「じゃあ、あとは整えていくだけね。いらないカードを抜いて、必要になるカードを補充して」
「動きが円滑になるような形にもっていく、と」
デッキの構築を最善にもっていく。TCGの醍醐味って、大会に出て勝負に勝った時と同じ位、構築をあれこれ考えている時って楽しいものですよね。
「見せてもらいましょうか、3000円で作れる大会でも通じるガチデッキの実力とやらを」
「そんなの無理よ」
「えー……」
そんなこんなで。
紆余曲折を経て、ボクの最初のデッキが完成しました。
「で、できましたぁ……」
どっと疲労感が押し寄せてきました。た、大会用のデッキ組んだ時でさえこんな疲れることなかったんですけど。
自分が知らないカードゲームを一から始めるのが、これほど大変だとは。遊戯王とはまったく勝手が違うからなおさらでした。
けれども、疲労と同じか、それ以上の満足感がありました。
強いカードや弱いカードを組み合わせて、新しい発見を見出した時の喜び。それと似ています。やっぱり、あれこれ考えて、苦労して自分でデッキを作った時のあの感じは良いですね。
「最初強いカードにしか目が行かなかった人とは思えない発言よね」
紗雪ちゃん水をささないでください。折角余韻に浸っているんですから。
「本当なら、始めたばかりのうちはもっと分かりやすいデッキの方が良いんだけれど」
「大丈夫です! ボクにかかればどんなデッキだってお茶のサイサイです!」
「その自信はどこから湧いてくるのかしら」
さて、いよいよ完成したこのデッキのお披露目といきたいところなのですが、残念ながら紗雪ちゃん、今日は自分のデッキを持ってきていないのです。だからさっき初心者用デッキなんて借りてたんですね。
また同じデッキでお願いしても良いのですけれど、いかんせん向こうは初心者用デッキなので動きが単純で、何度も見ていると弱点が分かってきてそれに合わせて動けてしまいます。
なら違うデッキを借りて来よう、と紗雪ちゃんが席を立とうとした、その時でした。
「フッフッフ……対戦相手をお求めかい? それなら、このオレが相手をしてやろう!」
どこからともなく声がしました。
紗雪ちゃんと一緒に振り向くとそこには、赤い髪に全身黒いビニルスーツみたいな格好の少年が立っていました。
「毒蛇王蛇美羅! このポイズンデッキでな!」
……………………えっと。
「1、1、0と……」
「コラコラコラ! なんでだいきなり通報しようとしてんだ!」
そりゃあ変態を見たら即通報は常識ですよ……って、ああ、よく見たらライダージャケットみたいな感じですね。てっきり幼くして才能を開花させた若き変態かと思いました。多分この考えは間違ってないでしょうそうでしょう。ていうかどうにかならないんですかそのセンス。もっと腕にシルバー巻くとかさ! ないですね。というかTMレ○リューションで見かけたような……。
「あら、誰かと思えば変た、蛇美羅じゃない。何しに来たのよ」
「へっ! 久しぶりにショップに来てみりゃ、新入りがいるじゃねぇか! だったら先輩からのゴアイサツってことで、俺様の新デッキの餌食にしてやろうってわけだ!」
「また近所の年下の子供相手に負けたからって、初心者でストレス発散するなんて見苦しいわよ」
「ぐ……うるせーっ! オレ様だってな! いつも一生懸命なんだよ!」
ちっとも意味が分かりませんが、もしかして対戦したいんですかね? この年頃の男の子って素直じゃないから、下手に刺激しちゃうと意地張っちゃうみたいです。
ここは一度落ち着いてもらいましょう。
「ステイステイ」
「シャーッ! 犬じゃねーんだよ!」
キャンキャンうるさい人ですね。
蛇美羅とかいう少年は既にやる気満々でした。人の話はちゃんと聞きましょうって先生に教わらなかったのでしょうか。
まぁ、そんなに勝負したいならしてあげるのもやぶさかじゃないのですけれども。ため息をつきながらもデッキを持ったボクを見て、紗雪ちゃんはギョッと目を剥きました。
「ちょっとリオンちゃん、大丈夫なの? まだあなた初心者なのに。蛇美羅だってどれだけ三下臭漂っていてもあなたよりデュエマ暦長いのよ?」
「大丈夫ですよ。年下の子にボコられて泣き寝入りするような変態コスプレイヤーには負けません」
「お前ら……!」
わなわなと震え出す蛇美羅とかいう少年。ちょっとイジりすぎましたかね。
「俺様を侮辱しやがったこと、後悔させてやるぜ! いくぜ! シールド展開!」
―――