ようこそ!ダヴィンチちゃんの素敵な聖杯戦争へ! 作:はむらび
死んでしまった。目の前で。どこからどう見ても彼本人の不注意だけど、それでも私が
さらにもうひとり。私の目の前で命を奪われようとしている。無論、救ってやる義理など無い。知り合いでも無ければ、たった一分前に突然現れた闖入者に他ならない。それに救うこともできないだろう。アーチャーに命令をするだけの時間はないし、仮にそうしたとしても間に合わない。
ああ、ダメだ。
だけど、不意に知り合いの言葉が脳裏によぎった。
「『やれることをやらずに逃げた過去』」
「そんな重荷を一生抱えて生きれるほどの強さも持ち合わせてないっぽいのよ これが!」
ああ、そうだ。この一瞬で、間に合う確率の方が少ないけど。できることがあるじゃないか。
指に全身の魔力をかき集め、集めきるのを待たずして打ち出す。
『ガンド』
それは初等呪術の1つ。軽度な呪いだが、彼女が撃つそれは莫大な魔力により拳銃弾ほどの威力を誇る。さらに魔力を上乗せしたその一撃は、サーヴァントといえど隙を産む程度にはなるだろう。
だが、間に合わない。
あと一秒、いや、その半分でもあれば届くのに。
だけど、せめて死にざまだけでも見届けようと見開いた両目に映ったのは、ランサーの槍を片腕で受け止める少女の姿。
「ねえアーチャー、
見間違いだろう。私のガンドが目隠しになってしまい、見えたのは一瞬のことだったし。
うん。そうに違いない。あんなの、強化に特化した魔術師でも不可能だろう。
「マスター、
「ステータス?何を言ってるの?まさかあっちもサーヴァントだったって訳?」
「そのまさかだろうな。ところでマスター、ランサーが逃げるぞ。追うか?」
いや、ランサーを追うのはリスクが高い。なんてったって、ここにはまだ二人もサーヴァントが居るんだから。
「先輩、私は彼等は敵対するつもりではないと判断します。かといって同盟を組むのもリスクが高いかと。」
「めんどくさいしそれでいいよ。」
その二人のサーヴァントは、ランサーが消えた途端こちらに興味を失ったように立ち去っていく。言葉から察するに、聖杯戦争序盤はこちらと中立でいるつもりなのだろう。
だとしても、聖杯戦争はバトルロワイヤル。彼らと戦う時はいずれ『来る』。
それに、目の前で人が殺されて顔色一つ変えない人たちと同盟は組めない。
殺されてしまった衛宮君の方に私は近づく。せめて供養だけでもしないと。私がこんなところで戦っていたせいで彼を巻き込んでしまったのだから。
「あれ?」
まだ息がある。心臓をぶち抜かれて一分弱も経ったにもかかわらず、出血多量、呼吸困難、心停止状態ではあるが生きている。
結局、私には彼を見捨てることはできず、それにより大事なペンダントを使ってしまったけれど。
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A‐22号。ランサーとアーチャーの交戦を確認。その場にもう二名のサーヴァントを確認しましたが詳細不明。A-31号。交戦地帯付近にキャスターのものと思われる真鍮製の鳥型の使い魔を確認。A-28号。遠坂邸への侵入には失敗しましたが一応侵入不可能というわけではないようです。A-08号。監督役の居る言峰教会への侵入も可能でしたが、正面から入ることができる範囲までで、奥まで踏み込むことは不可能でした。念のためA-34号を教会近くの民家に配備しておきます。A-12号。侵入不可能と思われたアインツベルン城への侵入に成功しました。更に探索を続け…
グシャリ。
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穂群原学園で英雄たちが戦っているころ。その『外』に沙条綾香は向かっていた。すれ違う人々には暗示をかけ、『こちらには近づきたくない』と思わせることで被害を避けようと試みながら、少しづつ戦いの中心に近づいていく。それが下策であることはわかっているが、『何もせず誰かが死ぬ』より『あと少しパトロールが足りなかったから誰かが死ぬ』のほうが嫌なのが人の性。無関係ではなくなるからだ。まあ、野次馬根性がなかったでもないが。
ぞわり。
不意に背筋を嫌な汗がよぎった。
「主殿!こいつ魔術師です!殺していいですか!?」
サーヴァントだ。
現代風の服装をしているものの、明らかにその気迫は人間のものではない。
長身の東洋人風、否。おそらく日本人の少女は、屈託のない笑みを浮かべながら、その眼は笑っておらず、こちらを射抜こうとしている。
「ダメですよ。まだ敵かどうかわかんないじゃないですか!まずは話し合いから… 沙条さん?」
あれ?
「フラット…君?」
確かに先生から聞いていた。『
だからと言ってこのタイミングでエンカウントしなくても良いじゃないか。こんなのと。
「主殿?知り合いですか?」
「ちょっと前まで時計塔で一緒の教室に居たんですよ。」
「それなら安心ですね。やっぱり
「すいません沙条さん。一つお願いがあるんですけど…」
「無理。」
断言しよう。この流れ、ロクなことにならない。
「家に泊めてくれませんか?」
「はぁ?」
なんだこのバカは。聖杯戦争をしに来たのに
「主殿のお師匠から『その宿はやめろ』となんどもお叱りが来てしまいまして。」
妙に笑顔のサーヴァントが伝える。
一体コイツはどんなろくでもない場所に宿をとった。いわくつきの幽霊物件でも何とでもなるだろうに。敵マスターの家の目の前とかか?と、予想は立ててみたが。その答えはあまりにも予想外だった。
「実家のお金で冬木ハイアットホテルのスイートルームを取ったんですけど。何が問題だったんでしょうね。」
それはダメだろう。下調べくらいしろよ。
『冬木のシリアルキラー』『冬木大火災』『冬木ハイアットホテルテロ』。この三つは、聖杯戦争に参加する魔術師なら当然知っていて当然の情報だ。否。適当な冬木市民がうっかり聖杯戦争について知ってしまったなら、まず最初に思い当たることでもあるだろう。
なにせ、それらの事件は規模が大きすぎる。『血塗られた町、冬木』なんてキャッチコピーができるほどには。
前に聞いた話では、そんな大規模な事件に先生の先生が巻き込まれたことがあるらしい。
そこに?教室一、否。時計塔一の問題児を送りこむ?
説教が十時間は終わらないだろう。
「すいません…もう何処も宿が取れなくて…」
申し訳なさそうな問題児とは裏腹に、その隣のサーヴァントは何か思案顔だ。
いかにも「どうやって脅せば泊めてもらえるか」とか考えてそうな顔をしている。
「どうしたの?」
震えを隠しながらそう聞くと、いえ、と前置きしたのちにこう返ってきた。
「さすがに女性の家に主殿を泊めろと言うのは不躾だったかな…と。」
そうか。脅しの方法を考えているわけでも無く、他の場所に泊まろうと考えてくれていたのか。
似たもの主従だと思っていたけど、こいつ案外話が分かるやつなんじゃないか?
「安心してください。主殿はわたしが一晩ずっと見張っておきますので!」
似たもの主従だった。
ブレーキの外れた暴走特急にジェットエンジンを外付けした感じの暴走主従…
実は優勝筆頭候補だったりする。