BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A. 作:B.O.A.
Tーウィルスによるイヌ型B.O.W.「ケルベロス」による、最初の犠牲者が出現。
以後、アークレイ山中で多数の猟奇殺人事件が勃発。
ー某所ー
暗い箱の中で、俺は目を“覚まさせられる”。
狭い箱の中で両手両足を拘束された俺は、身動き一つせずにただ箱が揺れるのを感じる。
この箱は何処かに向かっているようだ。
疲弊した意識の中で、そう思う。
と、箱が開き、俺の身体に光が当たる。
『“実験体TYPE2”性能確認実験、関係者は各項目に従い、速やかに準備フェイズを遂行して下さい』
無機質な女の声が聞こえる。
『第一準備フェイズ、実験体のバイタルの確認……異常なし。第一フェイズ完了』
拘束された俺に、白い服の誰かが近付いてくる。
“黒い虫”みたいなガスマスクを顔をした人だ。
『第二準備フェイズ、実験体にサンプル“リッカー”を投与』
その人が、何か赤い液体の入った注射器を取り出す。
ドクンッ。
俺の中の“何か”が脈打つ。
「サンプル、投与」
くぐもった声でそう言うと、その人は俺に注射器を近付ける。
その針が俺の右腕に刺さり、赤い液体が入ってくる。
『サンプル投与確認。第二フェイズ完了』
『全ての準備フェイズの完了を確認。これより実験フェイズを開始します。関係者は、機材の数値を記録して下さい』
女の声が響く。
『第一実験フェイズ、実験体のバイタル、状態の記録』
俺は自分の右腕が熱くなるのを感じる。
その熱はそこから広がり、やがて胴体に辿り着く。
ドクンッ!
脈が強くなる。
『実験体のバイタルに異常、急激に体温、血圧、脈拍が上昇。想定内です』
脈がどんどん強く、速くなる。
熱も全身に行き渡っている。
両腕が、妙に痒い。
『実験体の脳波が異常値を検出。脈拍、体温、血圧、何れも上昇中。危険域に達する恐れがあります』
熱い、熱い、あつい、あつい。
一人でにからだがうごく。
かゆみもとまらない。
『実験体の身体に異常。変異を開始した模様』
あついあついあついあついあついかゆいかゆいかゆいかゆいあついかゆいあついかゆいあついあついかゆいあつかゆあつかあつかああつあうあああかあいいいあかいつきあきういいかあいかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
『脈拍、血圧、体温低下。脳波正常』
『身体の変異停止。バイタル安定。第一実験フェイズ完了』
また、あの声が聞こえてくる。
全身の熱も引いて、痒みも無い。
ただ、胸の奥だけは、じんわりと熱がある。
頭も、少しぼうっとする。
『第二実験フェイズ、変異後の実験体の性能検証。後30秒で実験体の枷を解除します。速やかに実験場から出て下さい』
カシュッっと言う音が手と足から聞こえてくる。
恐る恐る力を込めると、枷は簡単に外れてしまった。
ゆっくりと箱を出て、外に足を着ける。
『実験体の解放を確認。暫く現状観察』
外は白いドームみたいな形で、殺風景な感じだった。
自分の足で立ち上がり、一歩前に進もうとしたが、バランスを崩して前に倒れかける。
咄嗟に掴む物を右手で探すと、硬い何かに触れて、傾いた身体が止まる。
あれ?
箱は後ろにある。前は殺風景、何もない。
自分の右手を見る。
俺の右手って、こんなにいっぱいあったっけ?
『第二フェイズ再開。ターゲット投入』
ガシャン、と言う音がする。
前を見ると、二人の子供が出て来る。
歳は俺より少し若い、男の子と女の子だ。
胸の奥が、ヤケに熱くなる。
『ターゲット投入完了。性能検証開始』
俺は二人に話しかけようと、近づいて見る。
「■■■■■■■■■■■!!!」
「■■■■,■■■■■■!!?」
何か二人とも、大きな声を出して走って行く。
必死に壁を叩いている。何がしたいの?
俺は二人を呼び止める為に、右手を伸ばす。
『実験体、ターゲットを殺害』
二人とも、背中に触れた途端にお腹まで手が突き抜けた。
随分と柔らかいな、粘土みたいだ。
そのまま軽く振ってみる、チーズみたいにバラバラになった。
胸の奥が凄く熱い。何か安心する。
『第二実験フェイズ完了。全ての実験を完了しました。これより終了フェイズを開始します。第一終了フェイズ、実験体の行動停止。鎮静ガス散布開始』
周りから青いガスが出てくる。俺の下から上がってきて包み込む。
何だか眠い。身体が重い。怠い。
『鎮静ガス散布完了。実験たいのばいたるをか…………』
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・見滝原市内、ビジネスホテル一室。
シングルルームのベッドの上で、竜二は身体を起こす。
そのまま辺りを見渡し、ゆっくりとベッドから降りる。
「…………」
そのまま辺りを見渡して、廊下に続くドアの方を向いた時、
「おっ、やっと起きたか」
バスタオルで髪を拭きながら、パジャマ姿の杏子が出て来る。
その様子を竜二はジッと見詰める。
「……何だよ。風呂ぐらい借りてもイイだろ? ホテルのなんだし、アタシもこのホテルに泊まってるしさ」
「…………」
杏子の言葉に反応を示さず、ただジッと見詰める竜二。
「…………?」
ここで、漸くそれを疑問に思った杏子が竜二の顔を覗き込む。
竜二はただ無表情に、黒い目を杏子に向けていた。
何処となく、その目が充血してる様に見える。
(…………!)
何か、得体の知れない恐怖を竜二に感じる杏子。
まるで、自分を獲物に狙っているような・・・・・・。
と、ここで、
「…………」
「!」
竜二が杏子の方にゆっくりと歩き出す。
「お、おい。何か言えよ。恐えじゃねェか」
「…………」
一切の反応を示さず、不気味なくらいゆっくりと、竜二は杏子に迫る。
杏子の額に脂汗が流れる。
「な、なあ…………。ホントにさ…………」
「…………」
向かってくる竜二から逃げるように、杏子が後退しようとした時だった。
竜二が突然走り出す。
「!?」
至近距離でいきなり突進してきた竜二を前に、杏子は目を見開いて呆然とする。
竜二が右手を素早く出して、杏子の眼前に迫って、
杏子のポケットに入っていたカ◯リー◯イトを掴む。
「……………………」
杏子は驚愕で目を見開きながら硬直し、竜二はそのポケットに手を突っ込んだまま無表情に停止する。
時が止まったように、二人は身動きをしない。
「……………………あ……………………」
杏子が、硬直した体勢のまま、微かに声を出したかと思いきや、
「あ、あああ後で! 後で聞くつもりだったんだからな!? 飲み物欲しくて冷蔵庫開こうとしたら、偶々蹴飛ばしたカバンに一杯入ってるのを見て、こんなにあるなら気付かれないとか思ってたんじゃないぞ!! 駄目だったら返すつもりだったんだからな!!」
早口に言葉を捲し立てる杏子。
「…………」
竜二は杏子を見ながら、ポケットからカロ◯ーメ◯トを引き抜く。
「…………ッ!!」
叱られると思って、身構える杏子。
竜二は手に持った箱に目を落とすと、
バリバリバリバリ。
突然、“箱ごと”中身を食い始める。
「!?」
再び驚愕した杏子の前で、無我夢中で食らう竜二。
箱や包装の所為で、その口が赤く染まる。
「…………」
一箱食い切った竜二は、再び杏子を見詰める。
口から一筋の血が顎を垂れ、床に落ちる。
(ッ!!?)
狂気的な何かを感じて、思わず身を震わせる杏子。
真っ白になった頭で、必死に言葉を紡ごうとして、
「あ、あっち! あっちに一杯あるぞ!? アタシはもう持ってない!!」
「…………?」
杏子が竜二の後ろを指差した事で、初めて竜二が反応する。
杏子はその隙に竜二の後ろに回り込み、カバンの蓋を開けて、
「ほらここに!! ここにある……って、うわぁ!!?」
カバンに突っ込んでくる竜二を見て、杏子は悲鳴と共に後ろに飛びずさる。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ。
カバンに頭を突っ込むようにして中身を食い漁る竜二。
その光景を、尻もちを突いた体勢のまま、杏子は呆然と見ていた。
暫くした後、急に竜二動きを止め、その後ゆっくり頭を上げる。
「…………」
そのまま、杏子の方を向く。
ズタズタになった口は真っ赤に染まり、血が幾重にも垂れている。
その目が、杏子と合う。
「…………大丈夫か?」
「…………ああ、済まない」
竜二が正気を取り戻したのを確信し、緊張が解れる杏子。
竜二が洗面台に向かったのを見て、そのまま地べたに寝そべってしまう。
(はあ~、何だったんだよあれ…………)
洗面台から戻ってきた竜二が、冷蔵庫を開けると中からジュースとアイスコーヒーを出して、
「運んで来てくれたのか、感謝するよ」
「偶々アタシも泊まってたからね。ついでだよ」
杏子にジュースを手渡し、カバンを閉めて洗面台の方に放ると、窓際の椅子に腰掛けてコーヒーの栓を開ける。
「…………」
杏子もベッドに腰掛けるが、栓を開けずにジッと竜二を見る。
「…………聞くな」
「!!」
一口コーヒーを飲んだ竜二が突然そう言って、杏子の目を見据える。
暫くそのまま固まる二人だったが、
「…………分かった、聞かないよ」
「助かる」
その声で、再びコーヒーを飲み出す竜二。
杏子も、ここで漸く栓を開く。
暫く、会話が無い時間が流れる。
「……そう言えば、お前はここに泊まってたんだよな?」
「ん、そうだけど?」
ふと、竜二が杏子に尋ねる。
「家族は? 一緒なら後で挨拶しに行くけど」
「…………ッ!」
杏子が顔を曇らせ、俯いてしまう。
竜二は、同じ反応をした少女を数時間前に見ていた。
「……ああ、悪い。そんな気は無かったんだ」
「…………分かってるよ、そんな事」
「じゃあ、ここまでにしよう」
「…………」
無言の肯定を受ける竜二。
竜二はコーヒーを飲み干すと、新たな話題を作る。
「んじゃ、これからお前はどうすんだ?」
「アンタに関係あるか?」
一蹴。竜二は少し顔を引き攣らせる。
「……まあ、マミも復活したみたいだし、アタシはここを観光してから戻る…………っ」
言ってる途中で、杏子はあの“青いヤツ"を思い出す。
「どうした?」
「……いや、アイツに一言言ってやるか」
「ひょっとして、アイツってのは美樹ちゃんの事かい?」
「名前なんて知らんが、多分ソイツだ」
杏子は空を睨むと、
「アイツは、アイツにはマミみたいな生き方は出来ねェ。その内きっと後悔する事になる。それを教えてやるんだ」
「…………」
竜二は一つ溜息を付くと、
「お前、美樹ちゃんに惚れてんのか?」
「は?」
「いや、初めて会った赤の他人にそこまで構おうとするなんて、それ位しか無いだろ?」
「な……、そんな訳ねェだろ! アタシは百合じゃねェ!!」
(百合なんて良く知ってんな……)
竜二は変な感心を抱く。
「じゃあ、何でだ?」
「何でって言われても…………」
口ごもる杏子に、竜二は、
「理由が無いって事は、お前は余程のお人好しって事になるぞ」
「ッ、んな訳ねェだろ!!」
急に杏子は怒鳴り出す。
「アタシはな、グリーフシード欲しさに何十人と見殺しにしてんだよ!! お人好しってのは、マミやアイツみたいなバカなヤツを言うんだろうが! アタシをアイツらと一緒にすんじゃねェ!!!」
「…………」
「街の事なんかどーでもイイ、正義やら人助けなんかクソ食らえだ! アタシはアタシがやりたい様にやれればイイんだよ!!」
言い切った杏子は、ふと、竜二が面白そうに見ている事に気付く。
「…………何だよ、何がオカシイんだよ!」
「いやなぁ…………」
ニヤニヤ笑う竜二は、
「お前、何か俺に“悪い奴”って見られたいように聞こえるからなぁ」
「ッ!」
「お前の言い方じゃあ、悪い事を自慢する訳でも無いし、マミちゃんや美樹ちゃんの事を本気で侮辱するようにも聞こえん。寧ろ、そういう奴と自分とを比べて卑下してるように聞こえるな」
「…………」
「やってる事は事実だろうし、お前もそれで良いって思ってるんだろうけど、それで正しいなんて多分思ってないんだろ? だから、自分の事を卑下すんじゃないの?」
「…………だから、どうだって言うんだよ」
杏子は静かに語り出す。
「アタシには、マミみたいな生き方は出来なかった。誰かの為に命をかけて戦えるのは、本当に限られた相応しいヤツだけ。アタシが見た中で、それが出来んのは今の所マミだけだ。だから、アイツには同じ事をして欲しくない。きっと、アタシと同じミスをする」
「…………」
「だから、アタシはアイツに言ってやるんだ。世間的に間違いでも、アタシと同じで、好き勝手やるのがアイツにとっても正解だってな」
竜二は一度目をつむって、再び開くと、
「そう思うなら、美樹ちゃんに全部伝えるといいさ」
「…………アンタ」
「止めると思ったか? 生憎、俺は正義の味方って柄じゃない。お前の言い分も納得出来る程はワルだよ」
竜二は手を横に広げると、
「どうするにしたって、ハッキリ言って結局俺は関係ない。決めんのはお前だし、お前の意見を聞いてくれるかは美樹ちゃん次第だ。俺から言えんのは、どうせするなら全力でやれって事だ」
「…………」
杏子は竜二を見据えると、
「アンタ、本当にポリ公かよ?」
「違うかもね」
適当に返す竜二。
クックックッ、と杏子は笑うと、
「アンタ、面白えよ。気に入った」
「そいつはどうも」
「そーだな。明日でも行ってみっか」
「善は急げって言うしな……、って善じゃないか」
杏子はベッドから立ち上がると、
「アンタはこれからどうするんだ?」
「明日は一日中食べ歩きかな。燃料補給しなアカンし」
「ふーん、じゃあ、商店街の◯◯◯◯◯ってトコ行ってみろよ。中々良かったぞ」
「おっ、そこは俺が目を付けてた所だ。よし、本命にしとこう」
杏子はドアの方に向かうと、竜二も立ち上がる。
「今日は本当に済まんな。長居させちゃって」
「気にすんな。元はアタシの所為だし」
「そんじゃ、お休みな」
「あ、ちょっと待て」
「?」
杏子がポケットを漁って、
「ほい」
「??」
“うんまい棒”を竜二に渡す。
「じゃ」
そう言って杏子は部屋を出ていった。
「…………」
一人残された竜二は、その手の菓子を見る。
“「やるなら全力で」”
「俺は、間違っちゃいないよな…………」
“「結局は自分次第」”
「俺が、選んだんだ…………」
“「私と違う、答えを出して」”
「……………………」
竜二は天井を仰ぐ。
「俺は、何をすれば良い…………?」
「……………………」
杏子は、出てきたドアの前で佇んでいた。
(…………竜二、か)
杏子は、ここに来た直後の事を思い出す。
“「ふーん、あれがこの街の新しい魔法少女ね…………」”
“「本当に彼女と事を構える気かい?」”
“「だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ。あんな奴」”
ランドマークタワーの展望台で、杏子は病院の屋上で演奏を聞いてるさやかを見ている。
“「それとも何? 文句あるっての? アンタ」”
“「……全て君の思い通りにいくとは限らないよ。この街には、もう一人魔法少女がいるからね」”
キュウべえがそんな事を言い出す。
“「あの子は極めつけのイレギュラーだ。どういう行動に出るか、僕にも予想しきれない」”
“「ハン……上等じゃないの」”
“「しかも、それだけじゃない。この街には、“アンノウン”がいる」”
“「アンノウン?」”
“「魔法少女でも無いのに、魔女や使い魔の事も知らずに結界に踏み込んできたんだ」”
“「ハァ? どうやってさ?」”
“「分からない。そもそも、認識出来てる時点でおかしいんだ。今までに無い事だよ」”
"「…………うぜェなソイツ。見つけたら潰すか」”
(アイツが“アンノウン”だ。間違いない)
杏子は確信するも、少し顔を俯ける。
(…………アイツの目…………)
竜二が釘を刺した場面を思い出す。
“「…………聞くな」”
(昔のアタシの目をしてた…………)
杏子は、一つだけ気付くべきだった。
竜二が、ズタズタになった口で、平然とコーヒーを飲んでいた事に。
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・???
『データの方はどうだ?』
「順調。良質なデータが集まってるわ。特に、“彼”が単独行動したのは棚ぼただったわね」
『ただ、これで“ヤトノカミ”の手札は晒してしまったぞ』
「でも、利益としては五分五分よ。これ以上は高望みね」
『では、次の段階に移るか』
「ええ、“ヤトノカミ”の制御を外しましょう」
女が手元の端末で何らかの操作をする。
その様子を、二つの赤い目が見ていた。
……今回は疲れた……。
どうも、B.O.A.です。
杏子ってキャラは、本当にムズイ。
何度家の廊下を往復した事やら。
次回も、頑張っていきます。
感想等お待ちしてます。(^-^)/