BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A. 作:B.O.A.
アメリカ合衆国大統領の特命により、レオンとアメリカ特殊部隊所属のジャック・クラウザーが南米に派遣され、ハヴィエ確保の任務に当たる。
途中、マヌエラを保護した彼等はベロニカ植物と融合したハヴィエを殺害、居城からヘリで脱出する。
バイオハザード・ダークサイド・クロニクルズ ~オペレーション・ハヴィエ~
BGM:バイオハザード・オペレーション・ラクーン・シティより「The Terrible Power of G」
・見滝原市、裏通り。
平日の午前中、その裏路地となれば人影が無いのは、最早常識的と言っても良いだろう。
「……話って何?」
嘘で学校を抜け出した鹿目まどかは、彼女を呼び出した張本人の佐倉杏子に連れられこの場所に来ていた。
切り出したまどかと相対する杏子は、普段とは異なる神妙な顔付きで、
「……アンタ、さやかの事聞いてるか?」
「へ……? 何かあったの!?」
「ハァ……やっぱりか」
“アイツ”なら言わない。
その予想が的中し、だが杏子は浮かない顔であった。
その様子を見て、まどかは言い知れない不安を覚える。
「学校に登校して無かったから、てっきり仁美ちゃんや上条君の見舞いに行ってるもんだと思ってたけど……」
「アイツは…………“魔女”になった」
「え……? …………う、嘘…………」
「本当だ。この目で見た」
杏子の言葉と共に、まどかの頭に何かがなだれ込んでくる。
それは、昨日のプラットフォームでさやかが“魔女”になる光景だった。
「そんな…………何で…………!? さやかちゃん、ただ魔女から人を守りたかっただけなのに……どうして!!?」
「始めから……そうなる運命だったんだ。全部、アイツの思惑通りに。」
「っ!!」
「昨日の夜の事だがな……」
手に持ったドーナツを荒々しく噛みちぎりながら、杏子は語り出す。
それは杏子が、“勝手に”泊まっているホテルの一室に戻った後の事。
“「やあ。久しぶりだね」”
“「今更どのツラ下げて出て来やがった、テメェ……」”
“「やれやれ、僕としては重要な情報、これから起こりうる事態について知らせに来たのだけど」”
“「……起こりうる事態……?」”
“「さやかの遺体の事だよ。どうやら、“彼等”は回収したがってるみたいだ」”
“「ッ!!?」”
“「“魔法少女”は稀有な存在、“彼等”にとっては遺体でも十分な価値があるそうだ。……まあ、僕個人の意見としては、“抜け殻”に大した価値も無いと思うけど」”
“「…………何が目的だ。何でテメェはアイツを…………!!!」”
“「“エントロピー”、っと言っても君には理解出来ないだろうね」”
“「……何?」”
“「簡単に言うなら、今、宇宙全体でエネルギーが枯渇している、つまり宇宙が滅びかかってる。それを止めるには“エントロピー”、この宇宙の物理法則を超えた力が必要だ。そしてその力こそが、“魔法少女の魔力”だったって事さ」”
“「宇宙….…!?」”
“「君達の魂が発生させる魔力、詰まる所“感情エネルギー”という物は、当に“宇宙延命”に理想的なエネルギー源だ。特に、“第二次性徴期”の少女の“希望と絶望の相転移”が効率が良くてね。纏めると、僕らの目的は、《魔法少女が魔女になる瞬間に発生させる膨大なエネルギーを回収し、この宇宙を延命させる事》さ」”
“「……その為に、アタシ等を喰い物にしてるって訳か……ッ!!」”
“「勘違いはしないで欲しい。僕らだって止むを得ずにやってる事なんだ。僕らには、君達の様な“感情”は無かったからね。でも、長い目で見れば、これは君達にも、それどころか全宇宙の生命体の役に立つ事なんだ。僕からすれば、これ程の名誉は無いと思うけど」”
“「ふざけんな。そっちから押し付けといて何が名誉だッ!」”
“「心外だなぁ。僕らは君達の合意の上で契約しているんだよ? “会えて伏せた事”があったとは言え、無理に押し付けているつもりは無いんだけど」”
“「合意? 会えて伏せた? テメェに都合の良い事だけ言って、アタシ等騙してただけじゃねェか!!」”
“「今までずっと人類を見て来たけど、騙すという概念は未だに僕らには理解に苦しむ事だね。認識の相違は飽くまで君達の問題なのに、どうしていつも君達はそれを棚に上げて僕らを憎悪するんだい? 全く訳が分からないよ」”
“「…………もういい、コレ以上はウンザリだ。……アタシがテメェから聞きてェのは一つだけ……本当に、さやかを元に戻す方法はねェのか?」”
“「僕の知る限りでは前例が無い以上、確信を持っては言えないけど……ただ、“魔法少女”はこの世の条理を超えた存在、例え彼女を魔女から戻せたとしても何らおかしい事は無いね』
“「…………」”
“「……ひょっとして、彼女を本気で魔女から戻す気かい?」”
“「オメェに関係ねェだろ」”
“「仮にそのつもりなら、急いだ方が良い。恐らく今朝にも、“彼等”は動くと思うから」”
“「……チィッ!!」”
「じゃあ……」
「ああ、まだ勝負は付いちまった訳じゃねェ——さやかを、まだ助けられるかもしれない」
杏子はまどかと目を合わせる。
そこには、“一人の少女”としての固い決意が込められていた。
「アイツはアタシに無い“強さ”がある、アタシがなりたかった奴だったんだ。そんな奴が自分の“絶望”なんかに負けちゃいけねェ。アタシなんかよりも強くなきゃいけねェんだ……こんな身勝手な理由だけどさ、結局、テメェで認めらんないだけなんだけどさ……無理強いはしないし、守り切れる保証も」
「もう良いよ。私は手伝う」
「アンタ……?」
驚いた顔をする杏子に、まどかはニコリと笑うと、
「私は、さやかちゃんを助けたい。魔法少女じゃないし、何の力も持ってないけど、それでも私が手伝える事があるなら何でもする。これは、私が決めた事」
「…………」
「どうするにしたって自分の決断次第だし、だったら私は少しでも皆の力になりたい。だから、手伝わせて欲しい」
「!」
一旦目を丸くした杏子は直ぐに少し破顔して、
「……それ、アイツの請け負いか?」
「ティヒヒッ。バレちゃった?」
何処か悪戯っぽく笑うまどか。
それに笑顔を返す杏子だったが、ふとその顔に影が指す。
「……杏子ちゃん?」
それに気付き、心配気な声を出すまどか。
対し、杏子はニヤリと笑ってまどかを見て、
「そうだな……やってみるまでは分かんねェ。案外、魔女真っ二つにしたら、中からさやかのソウルジェムがポッコリ出てくるかもしんねェ……だったら、ココでウジウジしてる方が無駄か」
うん、とまどかは一回頷く。
そして、彼女は自身の右手を差し出して、
「私、鹿目まどか」
「へ?」
「自己紹介、ちゃんとしてなかったから」
「…………」
はぁ、と溜息を吐き、ポニーテールに束ねた髪を乱暴に掻いた杏子は、
「……佐倉杏子だ。よろしく」
その言葉と共に、何処からか取り出した“うんまい棒 辛子納豆味”をまどかの手に握らせる。
訳が分からず間抜けな顔をするまどかに背を向け、彼女は裏路地を歩き出す。
(……良かったんだよな? “アレ”を伝えなくて……)
後ろからまどかが慌てて追ってくる気配。
それを感じながら、杏子は更に考えを深める。
(タダでさえ、アタシ等の事に巻き込んでんだ。これ以上はコイツの身が持たないだろう。……アイツも望んでないだろうし)
昨日の一件、それを受けてなお、杏子は竜二を“悪い奴”とは思えなかった。
まどかを身を呈して守り、さやかに真っ先に頭を下げた彼が、この事件の全ての元凶だとは思えなかった。
全て演技だと言われれば、それに反論出来る証拠がある訳では無いが、
(……あの時の“目”、アレは演技じゃない)
アレが演技で出来るなら、そもそもアタシ等程度に疑念なんて抱かせないだろう、とすら彼女は考えていた。
その“目”の先に、彼は一体何を見ていたのか。
(……取り敢えず、今はさやかの事が先だ)
思考を切り替え、杏子は手元のソウルジェムを見る。
微かに黒く濁るそれはチカチカと赤く点滅している。
魔女が近付くとその魔力を探知し、地雷探知機の様にその間隔を狭めて教えてくれるのだ。
更に、その探知した魔女の魔力の性質は、直接杏子の脳に伝えられる。
それによって、杏子は“さやかの魔力を持った魔女”を追えるのだ。
「……こっちだ」
二人は道を進む。
美樹さやかを助ける為に。
進むその先に、錆びれた煙突が立っていた。
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・見滝原市、廃工場。
ドォン!!!!!
「ッ!!!」
足音が扉の向こうで響く。
ほむらは手に握った“デザートイーグル”を扉に向ける。
マミも片手でマスケット銃を向ける。
グルルルルルル…………。
唸り声が、扉を一枚挟んだ向こう側から響く。
言葉にするなら、“複数の動物が同時に唸った”様な声だった。
「…………ッ!」
扉に注意を向けつつ、ほむらはチラチラと周りを確認する。
大きな発電機がある分この部屋はそれなりに広く、また天井も高い。
二階の部分にあたる足場が壁に沿って突き出ているのが見える。
縦に広いこの部屋の長辺の、角に近い部分に扉は付いていた。
自分はその正面、マミはその右側の壁に張り付いていて、左手には3m程で壁がある。
扉の対辺に発電機が備わり、その上の壁に窓が付いている。
そこから中に注ぐ日の光で、辛うじて部屋全体は見渡せた。
『…………Mayday……Mayデェイ…………』
声が聞こえたのは、その時だった。
「ッ!!?」
その声は扉の“向こう”から響いた。
どう聞いても人間の発音ではない声で、その言葉は続く。
『……This イズ the “Oーシャn Squエア”.……エmerジェンcy callinグ…………アタッking テrroリスs……』
何かのSOSの様に聞こえる。
額に脂汗を滲ませ、ほむらは扉を睨む。
その背後にピンクの触手が降りるのを、マミは右目で見た。
「後ろぉッ!!!」
マミが必死に叫ぶ。
ほむらは振り向く事なく左手の盾に手を触れる。
直後に、全てが停止する。
「…………」
一旦息を整え、一気に後ろを振り向く。
「ッ……!!」
目と鼻の先、凡そ十cm先に触手の先端があった。
鈍いピンク色の触手の先に、黒い短剣の様な棘が一本生えている。
(……?)
何処となく、触手自体に既視感を覚えるほむら。
その心当たりは直ぐに思い至った。
「......まさか」
これは“彼”なのか。
その答えは、扉の向こうとマミの頭にしか無い。
取り敢えず一歩下がり、目の前の触手に向けて一発発砲。
直後に宙に停止する銃弾を置いて、ほむらは右側に数歩移動する。
距離を置いた所で、解除。
直後に動いた銃弾が伸ばされた触手の先端を撃ち抜き、棘を砕いて血肉を飛ばす。
身を捩りながら、触手が左の壁にあるダクトに引っ込むのを二人は見る。
『Nおoぉォぉoォォooぉぁaぁァぁa』ァaぁぁァaaァァアアああアAアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
響いた悲鳴が、途中で人外の咆哮に変わる。
身の毛がよだつその叫びに、二人が扉の方を向いた直後、
くの字に曲がった扉が、ほむらの左手の直ぐ先を高速で飛んで行った。
吹っ飛んだ扉は発電機に当たってガシャァン、と喧しい音を立てる。
某然とするほむらの前で、こじ開けられた扉の向こうに“赤い光”が幾つも瞬く。
それが左にずれて見えなくなり、
轟音と共に、扉の左側の壁が“打ち抜かれる”。
「ッ!!!??」
瓦礫と砂埃で、あっという間に視界が覆い尽くされる。
ほむらとマミは腕で顔を覆い、慌てて右側、部屋の奥へ避難し出す。
途中、ほむらはマミに近付き手を貸そうとしたが、
「ッ!!?」
煙の向こうから細い“何か”が伸び、それを拳銃で迎撃する。
弾を嫌がり僅かに引いたそれは、爬虫類と昆虫を合わせた風な細い“右腕”だった。
だが飽くまでその長さと比較してであり、少なくとも大人の太腿位の太さはある。
手は三本の指に分かれ、カエルの指の様な形の短いそれの先には大型のサバイバルナイフの様な太い爪が生えていた。
そこに日の光が当たって、暗い灰色の肌がはっきりと見える。
「……何なの……?」
ドォン!!!!!
ほむらに応える様に、一回、大きな音が響く。
突き出た細腕が曲がり、床にその手を突く。
直後、グンッと煙の中で何かが持ち上がり、
それが、二階の足場のよりも更に上に浮かぶ。
「……何て事……」
予想外の大きさに、ほむらが見上げながら呟く。
煙も収まり始め、その異様な姿が次第に明らかになる。
それは、真っ直ぐ此方を向いて立っていた。
真っ先に目に付くのは、異常に太い左腕。
灰色の右腕や両足の細さに反して、赤い筋肉が剥き出しの左腕だけが数倍は太い。
右腕よりやや短いそれの先からは、恐ろしく大きい爪が四本生えて、床を掻いて耳障りな音を立てる。
爪の長さは1m程だろうか。
右腕と同じく灰色の胴体も細身の爬虫類の様であり、左腕以外は全体的にヒョロっとした印象を与えている。
ただ、全高で5m以上、全長で10m以上はあるだろう巨体であったが。
その背には肩から生えた巨大な肉腫を背負っており、赤オレンジのそれの後部には左腕の物と同じ爪が縁に沿って十本生えている。
青っぽい色の頭部は比較的小さ目で、その上部には幾つもの“赤い目”が並んでいる。
そのすぐ下には、緑色の鱗の生え、獣の様な太い牙の生えた下顎と、棘が幾つも内向きに生えた三つに裂ける青い上顎が、獲物を見付けてその口を半分開いていた。
フシュウ、とそこから大量の唾液が滴り落ちる。
尾は三本生えており、中央の大きめでヒレの生えた黄色い尾の側に、やや斜めに二本生えた黒い甲殻の物が伸び、その先に“デンノコ”が付いている。
挙句に、ソレの右腕側の肩から吊り下げている小さな短い肉腫が、その先に空いた二つの黒い穴でほむら達を“見詰め”、
『……テェィsty……』
ボヤく様に“自身”の口を動かす。
目的:“怪物”を倒す。
フォァァァアアアアアン…………。
絶句する二人の前で、ソレが微かに吠えると、
ズシィ……!!!
右手と両足の三本で立ったソレが、ゆっくりとした動作で歩き出す。
一歩一歩、踏みしめる様に。
「マミ! 後ろに下がってて!!」
どう考えても拳銃で対処出来る相手では無い。
ほむらは手負いのマミに叫び、自身は盾からより強力な火力を呼び出す。
“FN
各国でその名が知られる、“軽機関銃”の代名詞。
アサルトライフルの様に“自動小銃”のカテゴリでは無く俗に“分隊支援火器”と呼ばれるカテゴリの、信頼性の高い強力な銃だ。
銃上部の安全装置を解除、ベルトリンクが付いているのを確認、背後にマミが周ったのを気配で感じ、ほむらは銃を脇に挟む様に構えて“怪物”に向ける。
一歩一歩向かってくる怪物の、右腕を狙って発砲。
直後に細い腕にNATO弾が当たり、瞬時に大量の血肉が床に弾け飛ぶ。
ファォォォォォォオオオオオオオァァァアアアアアアン!!!!!!
絶叫を上げて一旦後退した“怪物”は、だが今度は四つ足で這う様に向かってくる。
ドォン!!!!! 、っと左腕が床に下ろされる度に衝撃が床を走る。
近付けまいとほむらは
部屋の横幅を覆い尽くして向かってくるので、横に避ける事も出来ない。
今度は自ら後退しながら射撃を続ける彼女は、一瞬だけチラリと背後を見て、
『マミ、そこの角にもう一つ扉がある。そこからあなたは出て。私は此奴を引き付ける』
『でも……』
『あなたは身体の回復が先、それが済んだら戻って来て欲しい。私の力では“彼を殺す”事は出来ても“彼を止める”事は出来ない』
『ッ!!? 暁美さん、まさか……』
『その反応で確信出来たわ。あなた、“彼”と戦ったのね』
『…………』
『……過ぎた事をとやかく言うつもりは無いけど、自分で“後始末”位はつけなさい』
念話を送りながらも銃撃を続ける彼女の背に、硬い感触が当たる。
壁の端まで追い詰められたのだ。
そこからも射撃を繰り返すも、向こうに止まる気配は無い。
真っ直ぐ“此方に”向かってくる。
『チャンスよ、今なら安全に出られる。急いで、早く!!』
『......暁美さん、無事でいてッ!!』
ほむらから扉寄りに離れた位置にいたマミが、足を引き摺って扉に向かう。
“怪物”は、ほむらの射撃に気を取られてマミに気付いていない様子だ。
彼女が扉に辿り着いた時に、
「……ック!!」
ほむらは完全に追い詰められていた。
彼女は魔女との戦闘経験があっても、B.O.W.との戦闘経験は殆ど無い。
“銃撃の反応で弱点を探す”というクリス等が常識的にやる事を、彼女に求めるのは流石に酷だろう。
基本的に魔女の弱点は、非常に大雑把な事が多いからだ。
フォァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
“怪物”が咆哮し、左腕を高く持ち上げ、ほむらに向けて素早く突き出す。
その手は一瞬で壁に突き刺さり、凄まじい衝撃音が辺りを覆い尽くす。
だが、肝心の
代わりに、“怪物”の手の上に何かが乗っかっている。
円筒状のソレに“怪物”が顔を近付ける。
カチリ、と中から音がした。
(……決まったわね)
彼女がいるのは二階、それも“奴”とは反対側の扉の向こうに身を隠し、粉塵の舞い上がる室内を覗いていた。
“奴”の苦悶の咆哮が聞こえ、その巨体が床に崩れ落ちる音が続く。
大きな振動がこの場所にも伝わり、二階の床が微かに揺れる。
(あの程度で死ぬとは思えないけど……殺す訳にも行かないし、マミが来るか“彼等”が来るまで時間を稼ぐか)
彼等が“コレ”に何の対策もしてないとは思えない。
恐らく鎮圧の為に“彼等”が来るだろうし、この先を考えても“かくれんぼ”していた方が効率が良い。
彼女は廊下に引っ込み、自身が嘗て歩いてきたのと同じ方向に、二階の廊下を進んで行く。
二階も二階で錆や埃が多いが、右の壁に窓がある分明るさに問題は無い。
「…………」
最低限の警戒を続けながら、窓の外にも目をやるほむら。
窓の外には寂れた廃工場の煙突や建物が見え、渡り廊下の様な簡素な足場が建物を繋いでいる。
と、
「......今の?」
その廊下の一つの上で、不自然な“揺らぎ”が動いていた様に見えたのだ。
ほむらはその方向に目を凝らすが、既に“揺らぎ”は消えてただ無機質な光景だけが目に映るばかりである。
見間違いかもしれないが、可能性は捨て切れない。
窓枠に少し歩み寄るほむら。
それが、彼女の命を救った。
最初に感じたのは、爆弾が起爆したかの様な衝撃。
喰らえば、真面に立つ事すらままならないだろう振動。
それが床を伝い、廊下に立つほむらを襲う。
だが、彼女が“床に倒れる事は無かった”。
それよりも早く、彼女の身体がバランスを崩すよりも速く、手を伸ばして窓枠を掴むという反射的行動を起こすよりも早く、
何かが背中に引っかかり、そのまま一瞬で空中に投げ出される。
ほむらの呼吸が止まる。
糸の切れたマリオネットの様に、無茶苦茶な体勢で宙を舞う彼女の目に映るのは、自分がいたであろう“建物の屋根”。
そして、
「がッ……!!!?」
落ちたのは硬いアスファルトでは無く、鉄製の渡り廊下の一つ。
何度か跳ね、最後にうつ伏せに倒れた彼女は、それでも先ず自身のダメージを確認しようとする。
その直後、
「ッ!? う......ぐぅッ……!!!」
背中に走る、焼ける様な痛み。
端正な顔を歪め、激痛に必死に耐えながら背中に手をやると、生暖かい液体によるヌメッとした感触が伝わる。
ほむらには確認出来なかったが、この時背中には右脇腹から左肩にかけて大きな裂傷が出来ていた。
彼女の身体に影が指したのはその時だった。
「ッ!!?」
ほむらが上に目を向けると何時の間にか“怪物”がそこにいて、三本足で立ったまま左腕を右側に伸ばしている。
何が起きるか、彼女は瞬時に理解した。
両手両足を使い、痛む背中を無視して全力で四つん這いのまま前に跳ぶ。
幸いにして、手足は問題無く動いた。
『アイ neeド ハg』
その直後に、“怪物”は左腕で裏拳気味に廊下を薙ぎ払う。
鋼鉄製の床が、まるでチーズの様に裂ける。
吹き飛んだ破片が20m近く飛んで、地面のアスファルトに落ちてけたたましい音を立てた。
それを見る事無く、ほむらは時間停止を発動。
その場から離れるべく、ゆっくりと立ち上がって小走りに走り出す。
(バカな……アレを喰らって平然と出来るなんて......)
死ぬ事は無いと思っていたが、幾らか足留めになるとは考えていた。
自らの認識が甘かった事を自覚する。
背中の激痛を感じながらも、廊下の先の建物に到着し、曲がり角に背を付けて身を隠す。
取り敢えず、角から顔を出してカウンター代わりのミニミを乱射、再び身を隠してその上で時間停止を解除。
絶叫が轟くのを聞きながら、ミニミのベルトリンクを付け直し、もう一度時間停止の上角から顔を出す。
視界が、黒い物で埋め尽くされた。
心臓が止まった様に錯覚した。
時間停止しているので危険が無い事に気付くのに、凡そ5秒もかかった。
黒い物の正体は、眼前に迫った黒色の“棘”だった。
最初に自分を背後から襲った、あの触手の物だった。
(そんな……!!?)
前の“怪物”に目を向けるほむら。
“怪物”はその場を動いてなかった。
代わりに、背中に背負った肉腫の後部から10本の触手を伸ばしていた。
“赤オレンジ色でシワのよった肉腫”に空いた十個の“白い牙の生えた穴”から伸びた、先に黒い棘が生えた二の腕程の太さのそれの内、此方を向いた一本だけに棘が付いてなかった。
棘は、「射出」されていた。
(此方の位置に気付いてる!!!??)
先程の“乱射”でバレたのか。
撃った瞬間は見えなくても、一定方向から集中的に攻撃されれば、位置に気付かれる可能性も無いとは言えない。
(でもそれは連射された時の可能性、実行出来るにしても攻撃が早過ぎる……!!!)
角に身を隠して、ほむらはミニミを盾にしまう。
こういう場合の対策は、実は無い訳では無い。
まあ、“相手が発射後の銃弾を軽々と避ける”場合の対策だったが、流用は出来る。
彼女が盾から取り出したのは、ミニミよりも口径の大きい長銃。
“
竜二の“ウィンチェスター”と異なり、此方はポンプアクション式の“散弾銃”。
“イサカM37”同様、現代のショットガンの代名詞に挙げられる銃だ。
(攻撃方向でバレるなら……)
ハンドグリップを操作し弾丸を薬室に入れると、彼女は角を飛び出し“怪物”に肉薄する。
背中の痛覚は、この時は切っていた。
四つ足を地面につける“怪物”の頭部に銃口を向けて、発砲。
瞬時に空中で停止した弾丸はほぼ拡散せず、ひと纏りになっていた。
続けて、その股下を潜りながらグリップ操作、腹目掛けて立て続けに発砲する。
更に、この時に気付いた“左足付け根の大目玉”にも一発入れておく。
七発分を撃ち込んだほむらは、最後に後ろから一発放とうとして、
(……へえ……)
肉腫の右側、やや後ろ向きに付いた“大目玉”に最後の一発を撃つ。
これで、弾倉の全弾を撃った事になる。
そして、
時が、動き出す。
『NUウゥゥゥuuuウウウアァァaaaア』アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
至近距離からの散弾を受け、然も弱点の大目玉にも撃たれ、絶叫と共によろめく“怪物”。
そのまま足を踏み外し、地面に落下する。
その上に、“突然”幾つもの“パイプ爆弾”が出現、降り注ぎ、
轟音が、工場を包み込んだ。
(……やり過ぎたかしら)
“怪物”が落ちた場所から50m程離れた建物の角、暁美ほむらはその角に背を付けたまま、爆発の衝撃をやり過ごしていた。
割と本気で心配する彼女だが、そこから爆発の跡を覗く気は無い。
自らの身を優先し、“奴”に見付かる材料を減らしているのだ。
(あの“揺らぎ”の事も、まどかの事もあるし、ここで手間取ってる暇は無い)
背中の傷は、既に応急処置を済ませている。
痛みは多少残るが、血の臭いや血痕で位置がバレる事は無い。
(……翌々考えれば、その可能性の方が近かったわね)
どれ程自身の考えに余裕が無かったかを痛感し、ほむらは思わず渋い顔になる。
犬の様に臭いでバレたのかもしれないし、体温や音かもしれない。
彼女が予想した様な超反応かもしれない。
だが、魔法で体臭は消したし、あの爆音で此方の音が聞こえる訳も無く、今自分は攻撃位置とは全く別の場所にいる。
残留する体温も、一瞬で移動する彼女の物が残る訳も無い。
(……マミがやられた事で、無意識の内に過大評価してたのかもしれない……)
そう思い、そろそろ生きてたら動く頃か、と耳を澄ませるほむら。
直後に、何かが引き摺られる様な音がする。
起き上がっているのか、とほむらは思う。
(此方の位置には気付いてない筈、向こうが遠ざかったのを確認して、その後適度に爆弾で引き付け……)
ダァンッ!!!!! 、と重い物を叩きつける様な音がした。
(え……?)
音の元凶が分からず一瞬某然とするが、直ぐに“奴”が飛び上がったのだと気付く。
(上空から探すつもりかしら? でも、上の障害物の多いこの場所でそんな事をして……)
直後に同じ音がした。
かなりくぐもってた。
建物の向こうから響いたのか、と彼女は思う。
凄まじい破壊音が響いた。
自分の真後ろの建物の中からだった。
(なっ!!?)
盾に手を伸ばそうとし、指先が触れて、
真後ろの壁ごと、大きく前に跳ね飛ばされた。
3tトラックに猛スピードで追突された様な衝撃だった。
「がはぁッ!!!? ……う、ぐ、ぐぅぅ……!!」
何mも飛び、うつ伏せに倒されて苦痛に呻くほむら。
受け身も取れずに正面から倒れた彼女は、湧き上がる吐き気を堪えながら、少し起き上がって頭だけで後ろを振り向く。
端正だった顔が、打ち付けた事で腫れ上がり、鼻血すら垂れていた。
(…………どうして…………)
“奴”はそこにいた。
その左手の爪を振り上げ、幾つもの触手を伸ばし、
(……臭いも、音も、全部消した筈……)
尾の“デンノコ”を振り回し、大きく口を開き、
(なのに…………)
一歩一歩、踏み締める様に、
(どうして、こっちの居場所が分かるの!!!??)
向かってくる。
初の一万字越え、どうも、B.O.A.です。
書いてる内に、イメージが「追跡者」になるのはどういう事だろうか?
元々別のコンセプト重視だったのに……。
……まあ、そっちが薄い訳じゃないし、良いか。
では、また次回。
さあ、惨劇の始まりだ。