BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・2003年 2月

新型B.O.W.開発の情報を受け、クリス、ジル等が所属する「私設対バイオハザード部隊」がアンブレラ・コーカサス研究所襲撃作戦を実行。
新型B.O.W.「TーA.L.O.S.」を撃破するも、有用な情報は手に出来ずに終わる。



バイオハザード・アンブレラ・クロニクルズ ~アンブレラ崩壊~



BGM:バイオハザード・ダークサイド・クロニクルズより「The First Mutation of “G”」



chapter 5-6

・見滝原市、廃工場。

 

 

 

目的:“怪物”を引き付ける。

 

 

 

少し時を遡った、廃工場の一角。

太いパイプが幾つも張り巡らされているその場所に、暁美ほむらは“忽然”と姿を現す。

激しく息切れする彼女は、そのままパイプの間を縫う様に走って行く。

今の所、背中以外に目に見える大きな傷は受けていない。

 

フォァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!

「チィッ!!!」

 

上から聞こえる咆哮に、憎々しげに舌打ちするほむら。

直後に飛んできた“赤い線”を横にステップして躱し、天窓から此方を覗く“怪物”を睨む。

 

(……埒が空かない。どれだけ私が離れても、“向こう”は完璧に追ってくる……!)

 

“怪物”は天窓の枠を無理矢理押し広げて中に入り込み、直ぐ真下の一階に放置されてた資材を押し潰して、“怪物”は此方を見やる。

咄嗟に“デザートイーグル”を向けるほむらだったが、

 

(……ッ!! 駄目!!!)

 

撃てず、前方の扉に向かって再び逃走する。

パイプの張り巡らされたこの場所では、一般的な銃は“跳弾”の恐れがある。

相手の巨体に余程撃ち込む自信が無い限りは、此処で銃を使うべきでない。

唯でさえ、灰色の時点で薄暗い工場に溶け込んでいるのに、然も“透化”するのだから尚更だ。

 

(……そう、透明にもなるのよね彼奴は……)

 

ほむらも、この時点で既に“怪物”が“透明”になる事を知っていた。

彼奴は“厄介”からでも生まれたのか、とほむらは思う。

と、

 

グルルルルルル…………。

 

此方を見ていた“怪物”が、突然その上体を持ち上げ二足で立ち上がる。

そして、その場で軽く咆哮を放ったソレは、倒れ込むかの様に再び上体を倒しかけ、

 

 

 

ほむらは、此処で時間を停止する。

 

 

 

(……また“アレ”か……!!)

 

マミの車にすら追い付いたあの突進、今の“怪物”の行動はその予備動作だった。

余りにもあからさまな動作なので、数回見てる内に彼女も気付いたのだ。

そして、

 

 

 

 

 

(……良い加減、見飽きてきたわね)

 

 

 

 

 

止まった時間で建物の中から出た彼女は、怪物の前方から大きく回り込み、“怪物”から向かって右真横の位置に移動する。

そこで盾から“VSS”を取り出し、自らが走ってきた後の虚空を狙う。

 

 

 

解除。

 

 

 

直後、建物の壁を突き破って“怪物”が突進してくる。

爆弾でも爆発したかの様な、大きな音が辺りに響く。

ただ余り突進に小回りが効かないのか、最初の進路の真横にいたほむらからは大きく外れた位置を巨体が過ぎる。

“怪物”は途中で四肢でブレーキを掛け、アスファルトを削りながら停止する。

硬い物が擦れ合う嫌な音を響かせて止まると、体勢を立て直すべくその場で軽く足踏みを始める。

 

 

 

再び時間停止。

 

 

 

(冷静に見れば、意外と隙だらけなのよね)

 

丁度、左側面を見せて足踏みする“怪物”の足の付け根、そこに生えた“大目玉”に狙いを付け、発砲。

フルオートで放たれた銃弾が、目玉の方を向いて静止する。

アレが弱点っぽい事は、初めから予測が出来ていた。

 

 

 

解除。

 

 

 

直後に、静止していたライフル弾が一斉に目玉に突き刺さり、

 

フォォォォォォォォァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!???

 

“怪物”が苦痛に絶叫を上げる。

それを尻目に、ほむらは再び別の建物に逃げ込む。

あの後、突進や射出、放射に跳躍と、様々な行動を起こす“怪物”相手に、ひたすら逃走と様子見を繰り返す内に、彼女はこの戦法に辿り着いたのだった。

偶々今回は逃げ込んだ場所が失敗だったが、本来は頭部にも撃ち込む筈であった。

 

(知性を失ってるのか、それとも“彼”の意識が無いのか……何方にせよ、これで上手くは行ってる)

 

パターンの様に、予備動作を見て進路の真横に移動しそこから眼球に射撃する、それだけの事に“怪物”が対応する素振りが全く無いのだ。

彼女が序盤以降怪我を負っていない辺りに、その単純さが伺えるだろう。

 

(……だけど、)

 

建物に入り、彼女は一角で壁に背を付ける。

順風満帆の様に思える状況だが、二つの大きな懸念があった。

一つ目が、この戦法では自身の魔力を消費してしまう事。

“怪物”が魔女で無い以上、余り使い過ぎると逆に赤字になってしまう。

そして、もう一つが、

 

 

 

フォァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!

 

 

 

(堪えてる様子が全く無い)

 

これが一番の問題だった。

先程から“VSS”の他にも、“ミニミ”、“レミントン”と撃っているが、まるで効果が無い。

そもそも、複数のパイプ爆弾の爆発すら平然としている。

単純な身体の強靭さでは説明がつかない。

元が“彼”なのだし、恐らく、瞬時に“再生”でもしているのだろう。

 

(このままでは、一方的に此方が削られるだけ……“殺す”事も、考えないといけないか……)

 

今回の件の元凶はマミである。

彼女は兎も角、自分が“彼”にそこまでしてやる道理は無い。

取り敢えず彼女を引かせるのと、一応は“同類”が引き起こした事態なのでその責任を感じて戦っていたが、そろそろ潮時かもしれない。

 

(…………)

 

大きな音が響く。

“アレ”が跳び上がった音だ。

恐らく透化もしている。

どういう訳か、“彼奴”は地上で透化したがらないのだ。

壁に背を付けたまま、彼女は自身の盾を見つめる。

 

爆弾以上の“火力”が、そこに詰まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井を突き破り、建物に“怪物”が飛び込んでくる。

何の機材か分からないがお構いなくそれ等を踏み潰して、“怪物”は実体化しつつ辺りを見渡す。

 

 

 

いる。

 

此処にいる。

 

 

 

身体の奥底で、それを感じる。

狭い部屋の、四方を壁で閉ざされた、その向こうにいる。

 

 

 

どうする?

 

喰う、コロス、焼く、ghcdgcdd、逃げru、Die、ウえつケル、gyhdytjrvrvchrwhobyin、あそぶ、潰す、千ギる、Shoot、対ワsuる、thffvcthcfghhgfewwssfwqq、殴ル、ける、fhvcdcxdgfgbhhhjjj、サク、kiる、ねる、砕ku、ノロう、ggfky…………、

 

 

 

数多の思考がその“怪物”の脳、“背中の肉腫”を巡る。

ノイズがかかった様なそれには、まるで一貫性が存在しない。

“怪物”は混乱し、簡単な結論すら出せない。

訳も、理由も無く、取り敢えずその方向の壁を左手で殴る。

重機に吊り下げられた鉄球を当てたかの様に、轟音と共に壁が崩れて煙が上がる。

 

『Mエyデェy……メェyday……』

 

“一人で”に、肩の肉腫が喚く。

気配が近い。

いる。

 

 

 

 

 

 

いた。

 

 

 

 

 

 

いた。前にいた。いる。いるの。居たわ。居たねっ。いやがった。居てしまった。何で居るんだ。居るのは必然。いるいるいる。居なさった。

どうする? どうする。コロス。ヤル。ヤっちゃえ。ダメだ。喰っちゃえ。クイタイ。喰うクウ食う。ヤっちゃえヤっちゃえ。皆殺しだー☆。kill。ヤレヤレヤレヤレ。

 

先程より妙に“クリア”な思考が生まれる。

が、方法を問うと先程と同じだ。

一体の思考と言うより、“一団”のそれと言った風だった。

適当に、“怪物”が舌を伸ばして見付けた“ソレ”を貫こうとする。

 

“ソレ”が消えた。

 

虚空を舌が貫く。

“怪物”がそれを戻すより早く、

 

 

 

 

 

左側面に“何か”が刺さり、凄まじい爆風が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FGMー148“ジャベリン”。

 

アメリカ陸軍などが使う“携行型対戦車ミサイル”。

非常に威力は高いが、余りに高価(一基10万US$)なので限られた人間にしか射撃許可が出ないらしい。

 

 

 

 

 

時間停止し建物の外に出たほむらは、そこからそれを担いで発射、弾頭は建物の窓枠をくぐって真っ直ぐ“怪物”に突き刺さったのだ。

結果、建物の一角が完全に吹っ飛ぶ形となった。

 

(流石にこれは効いたでしょう……)

 

それ以前にお陀仏の可能性もあるが、その時はその時だ。

打ち切ったジャベリンを盾に仕舞い、ミニミを取り出して舞い上がる土埃に向ける。

やがて煙が晴れ、“怪物”の姿が見えてくる。

 

(…………)

 

それを見たほむらは、ゆっくりと銃口を下に降ろす。

そして、銃を持ったままそこへ歩き出す。

 

 

 

 

 

“怪物”は、一言で言うと“爆散”していた。

 

 

 

 

 

腕やら内臓やら頭やら、何処の部位かも分からないが物まで大小様々な肉塊が転がっていた。

爆風から生き残った建物の壁に貼り付いているのもある。

どう見ても、生きている様には思えなかった。

 

(……終わったわね)

 

ほむらは、既に嘗ての時間軸で鹿目まどかを殺そうとした“美国織莉子”を殺害した事もある。

竜二には命を救われた事もあったが、ここにいる以上、最悪佐倉杏子に連れられたまどかと遭遇する恐れもある。

彼女を守る為なら、今更殺害など厭わない。

肉の焼ける臭いの立ち込める周囲を見渡し、ほむらは動く物がない事を確認する。

 

(巴マミと合流するか。あの子の様子も気になるし)

 

踵を返し、ほむらはその場から立ち去ろうとする。

と、左足付近に小さな肉片があるのに気付く。

真っ黒に焦げて、半ば炭化している様にも見えるそれを見下ろし、ほむらは小さく溜息を吐く。

 

(……結局、引っ掻き回すだけ引っ掻き回しただけだったわね……)

 

期待が無かったと言えば嘘になる。

どれ程あり得ないと思っていても、心の何処かで“もしかしたら”とは考えていた。

“魔女”を認識出来る“大人の男性”と言うだけで、何かしら突破口になるかもと思った事もある。

だがその何れも、唯の夢物語であった様だ。

 

(まあ、良い夢が見れたわ。……さようなら、竜二(イレギュラー))

 

もう、二度と会う事は無いだろう。

心の中で別れを告げ、肉片から視線を外す。

“自らの願い”の為だけに、彼女は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで、“万能細胞”と言う物をご存知だろうか。

最近だと“誘導多能性幹細胞(iPS細胞)などが話題になったが、そもそもは理論上あらゆる臓器、組織に“遺伝子によって誘導される事で”変形する事が出来る“分化万能性”を持った細胞の事を指す。

なので、自然界では生命の“発生”の初期段階にある“胚”の一部の“内部細胞塊”や一部の生殖細胞が挙げられ、“内部細胞塊”を人工培養した胚性幹細胞(ES細胞)なども以前に開発されていた。

つまり、そもそもは“万能細胞”は“生命体の誕生”に深く関わる存在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起こったのか、始めはほむらには分からなかった。

肉片から目を逸らした瞬間に、それは起こったからだ。

本当に、唐突に、

 

 

 

 

 

左脇腹に、鋭い痛みが走った。

 

 

 

 

 

「ッああっ!!?」

 

驚愕と激痛に悲鳴を上げる。

左脇腹に手をやって確認すると、7cm程度の“黒い棘”が服の上から突き立っていた。

直後に、その棘が小さく動き出し、

 

 

 

 

 

腹を内側から弄られる様な、不快な鈍痛が身体を駆け巡った。

 

 

 

 

 

(----ッッ!!!??)

 

苦痛よりも、ゾッとするような恐怖を感じる。

顔の血が一気に引くのをはっきり感じた。

身体の中を虫が這い回る様な、そんな様子を想像し、ほむらの全身に鳥肌が一斉に立つ。

左手で棘を掴み、一気に抜き去ろうとする。

が、

 

(抜けないッッ!!!??)

 

それどころか、逆にズブズブと潜り込んでいる。

不快な鈍痛が潜り込む度に広がり、強まってくる。

手の中で棘が脈打つのを感じ、今までの冷静な思考が一瞬で吹っ飛んだ。

両手で棘を掴み、ほむらは半狂乱になって引き抜こうとする。

ブツブツと、腹の中から音がするが、彼女の気には止まらなかった。

そして、急に手の中の抵抗が無くなり、腹から棘が引き抜かれた。

 

 

 

 

 

赤とピンクの、長い臓物ごと。

 

 

 

 

 

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」

 

絶叫が轟く。

だが丁度そこが敷地の対角だったので、身を休めているマミの耳には届かなかった。

飛び出た腸を引き千切り、腹の肉ごと抜けた棘を遠くに投げ捨てる。

自己本能なのか、痛覚は殆ど感じなかった。

 

(い、一体何が……ッ!!?)

 

彼女が目を向けた足元の肉片、その炭化した表皮が大きく裂けていた。

死んだと思っていた、“それ”から放たれたのだ。

 

 

 

直後、辺りに泥を捏ねる様な音が響き渡る。

 

 

 

(まさか……そんな……ッ!!?)

 

蒼白になり、泣きそうな顔でほむらは背後を恐る恐る振り返る。

 

 

 

 

 

肉片が、動き出していた。

サイズの違う様々な肉塊が、一点に寄り集まっていた。

腕の様な肉塊が“デンノコ”になり、足の様な物が頭になり、顔の様な物が背中の肉腫になり。

全く違う部位が、全く違う形になって“怪物”を作り上げる。

その辺で跳ねていた、“棘についた肉塊”も触手に巻き取られて飲み込まれていく。

 

 

 

 

 

グロロロロロロロロ…………。

 

今までとは、発声が全く異なる唸り声が響く。

悍ましさが、より強調される声だった。

 

(此奴……不死身なのッ!!!?)

 

“ソレ”がゆっくりと立ち上がる。

今まで通りに立った“ソレ”の、肩の肉腫が消えていた。

メキメキという音と共に、背中の肉腫が半分に分かれる。

それが肩の上で大きく展開され、あたかも“翼”の様に軽くはためく。

その右側の“翼”に付いた“赤い大目玉”が、微かに震えるほむらの姿を捉えた。

 

 

 

グォォォォォァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアfghtyhgyjnibhnyhreqqplbxasbafgtgverujhgjjjynjjujjj!!!!!!!!!

 

 

 

形容出来ない様な、それだけで悪夢を呼びそうな咆哮が響いた。

 

 

 

目的:“怪物”を倒す。

BGM:「The Third Mutation of “G”」

 

 

 

呆然とするほむらを余所に、“怪物”が動く。

軽く足を捻る様に身構え、横に回転する様に小さく跳び上がる。

 

「ッ!!!」

 

ギリギリで、我に帰ったほむらが瞬時に屈み込む。

その真上を、“デンノコ”と巨大な尾が通り過ぎる。

跳び上がった勢いでそのまま後ろに後退した“怪物”は、上体を軽く持ち上げ鎌首を擡げて、

 

 

 

その口から、真っ赤な“血のブレス”を放つ。

 

 

 

一直線に飛ぶそれに、間一髪でほむらが盾を掲げる。

幸い“ヤトノカミ”程の威力はなく、魔力で強化された盾を貫く事はなかった。

が、無茶な体勢が災いし、ブレスの威力に押されてほむらの身体は大きく吹き飛んだ。

 

「がッ!! あ、あぐぁッッ!!??」

 

吹き飛んだ身体が地面に接触した直後、思い出したかの様に脇腹に激痛が走り、ほむらは呻き声を上げて藻掻く様に手足を動かす。

が、直ぐに盾に手を伸ばし、“怪物”が飛び掛ってくる前に、

 

 

 

時間停止。

 

 

 

「う……うっぐぅ……ぁぁ……ッ」

 

呻きながらもどうにか立ち上がり、ほむらはその場から逃げ出す。

“怪物”は、ほむらのいた位置に左爪を突き立てようと低く跳んでいた。

 

(変形して、動きにキレが出来てる……!?)

 

工場の敷地を駆け抜けていくほむらの表情が絶望に染まる。

 

(これ以上の火力は、用意した方が赤字だ……“ロケットランチャー”を複数撃ち込んでも、欠片からでも復活するなら意味が無い……ッ!!)

 

“ワルプルギス”を諦める覚悟なら、塵一つ残さず消し去れるだろう。

用意したところで、あの機動力で避けられる可能性も否定は出来ないが。

 

(決着を急いだ事が、こんな形で裏目に出るなんて……!!)

 

一つの建物に辿り着き、扉から中に入り込む。

時間停止を此処で解除し、更に奥へ走って行く。

何処まで逃げても、彼女の心に安息は訪れない。

謎の正確過ぎる索敵能力が、ボディーブローの様に此処で効き始めていた。

 

(多少魔力を浪費してでも、“鬼ごっこ”に徹するべきだった……!!!)

 

建物の中を走り、階段を登り、また廊下を走っていく。

今の彼女に出来る事は、工場内を出鱈目に走って、追ってくる“怪物”を撹乱する事だけである。

己の失敗に苦々しい表情になるも、それを悔いる様な暇はない。

“アレ”から生き残る為に、長い廊下を走り抜ける。

 

 

 

はっきり言って、勘だった。

何となく、足元が微かに揺れた気がした。

 

 

 

ほむらは足を止め、直様全力で後ろに跳ぶ。

直後、十本の触手とそれを生やした“翼”が、廊下の床を破って突き出てくる。

 

(先回りしてる!!!??)

 

知能すらも向上しているのだろうか。

触手の先と“翼”の爪を廊下の壁に突き立て、無理矢理上がって来ようとしている“怪物”を、盾から引き抜いたレミントンで撃とうとして、

 

「ッ!!? あぅッ!!!??」

 

棘の刺さっていた脇腹に再び鈍痛が走る。

ひょっとしたら、“棘の欠片”でも残ってるのかもしれない。

だが、それに構っている暇は無い。

痛みを無視し、ほむらは床から突き出る“翼”の目玉を狙いレミントンを連射する。

 

フォァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアhvvffjikwqgvxaabkumiopolnhy!!!!!!???

 

絶叫が下から響き渡る。

最初は“前の形態”の咆哮に似た甲高い声だったが、終わりはノイズの様な気味の悪い声に変わっていた。

魔女のそれに、何処か似てなくもない。

“翼”と触手が下に引っ込み、怒りの篭った唸り声が響いた後、

 

 

 

矢継ぎ早に、触手が床を突き破ってほむらを襲う。

 

 

 

「チィッ!!!」

 

レミントンを連射して応戦するも、触手の勢いは留まる所を知らない。

触手から射出された“棘”を躱して、魔力の消費が痛いがほむらは時間停止を敢行。

続けて炸裂手榴弾を盾から抜いて穴目掛けて放り投げ、廊下を逆に走って的当な部屋から建物の外に脱出する。

 

 

 

解除。

 

 

 

爆発音と“怪物”の怒号がくぐもって聞こえる。

それを余所に、ほむらは建物の壁沿いに走りながら、服の脇腹を捲って傷の様子を確認する。

そして、

 

 

 

(何……これ…………)

 

 

 

それを見て、思わず絶句し立ち止まる。

脇の傷口から、灰色に近い黒の“何か”が皮膚を侵食している。

先程と同じ様な鈍痛がある以上、恐らく体内の方も同様だろう。

 

(さっきの“棘”の影響? 毒物でも入れられ----ッ!?)

 

ほむらは思い出す、彼が最初に語った言葉を。

 

 

 

“「元々は、アンブレラって言う会社が作ったウィルス兵器が発端でな。それを使って二次的に作ってるのがアレ(B.O.W.)って事だ」”

 

 

 

(……まさか……)

 

 

 

“「そう、遺伝子を変異させるウィルス兵器だ。ばら撒いただけで、“リビング・デッド”の再現が起こっちまう」”

 

 

 

この傷口の惨状とその言葉から、ほむらは、

 

 

 

 

 

 

 

(“感染”……した…………?)

 

最悪の状況を、悟った。

 

 

 

 

 

 

 

(--------ッ!!!??)

 

 

 

身の毛のよだつ悪寒が全身を走り、ほむらは声にならない悲鳴を上げる。

自分が“アレ”と同じになる、そう考えただけで気が遠くなりそうだった。

魔法少女なのでそれで“死ぬ”事はないだろうが、肉体その物は人間の少女である以上、肉体が変異して制御出来なくなる可能性も否定出来ない。

然も、飽くまでソウルジェムは“魂の在りか”であり、彼女達の思考や記憶は元の脳に存在する。

つまり、実質的な“消滅”の危機が迫っていた。

 

(早く対策を取らないと……ッ!!!??)

 

BSAAに縋るのが最適だが、肝心の連絡役があのザマである。

いつ来るか分からない応援を待つ程、悠長な事態には思えなかった。

咄嗟に思い付いたのは、何処かに隠れている筈の“黄色い魔法少女”。

自分よりも治癒魔法が上手の彼女に頼るのが、今は得策とほむらは思った。

マミを探すべく、再び壁沿いに走り出したほむらは、デザートイーグルを出すべく盾裏に手を突っ込む。

 

 

 

 

 

グォォォァァァァァアアアアアアアアアアアアggfjnvfgwdvoplkknngegcswqqqaghj!!!!!!

 

突然、目の前の角から“怪物”が姿を見せた。

 

 

 

 

 

顔を上げたほむらの前で、横滑りしながら三つ足で此方側にターンした“怪物”は、

 

 

 

咆哮し、二足で此方に駆けてくる。

 

 

 

(速い!!!??)

 

デザートイーグルを出した直後でなければ、時間停止は間に合わなかっただろう。

幸いにも全てが停止したのは、左爪が目の前数cmに迫った瞬間だった。

 

(取り敢えず、マミの捜索を優先して……!!!)

 

“翼”の眼球目掛けて、カウンターを入れるべくデザートイーグルを向けるほむら。

 

 

 

 

 

 

 

銃を持つ手に、目が行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

(…………え?)

 

最初は、自分が見た物が信じられなかった。

だが、それは紛れもない事実として彼女の目の前に現れる。

 

 

 

 

 

右手に、大きな黒いシミが生まれていた。

 

 

 

 

 

(…………あ…………)

 

何度も同じ時を繰り返した彼女の脳裏に、学校の“保健体育”の授業が浮かび上がる。

彼は、確かにあの時“ウィルス”だと言っていた。

そして、ウィルス性の症状はある程度ウィルスが体内で増殖してから起きる物だと習っている。

つまり、

 

 

 

 

 

 

 

既に、手遅れ(発症済み)

 

 

 

 

 

 

 

(……嘘…………そんな…………)

 

彼女の意思とは裏腹に、最悪の知識が更に掘り起こされていく。

兵器というのだから、そもそも“感染”から“発症”は短くて当然、更に発症後の効能も“速効”であっておかしくはない。

それに、例え直ぐにマミが見付かっても、恐らく彼女でもコレの治療には手間取るだろう。

それ程の猶予が、果たして存在するのか。

 

(…………どうして、こんな事が…………)

 

1時間か、30分か、それとも5分、3分か。

先の見えぬ、だが近い未来に確実に起こる“悪夢”に、ほむらの心にも何時しか限界が迫っていた。

然も、“リセット”は出来ない。

彼女の“中”の物は、巻き戻しても“追ってくる”。

 

(…………私は…………)

 

自分の中の、“何か”が呆気なく崩れていく様な気がした。

それは、繰り返した時間によって積まれた彼女の膨大な“経験”だった。

そもそも、幾ら時間を繰り返して戦ってきたからと言って、“魔法少女”である以上彼女は第二次性徴期の少女なのだ。

特殊な訓練を積んだ兵士ですら、“予期しない極限状態”に置かれてパニックになるというのに、彼女がそうならないという保障が何処にあろう。

 

(私は……私はッ、まどかを救うまでは、それまでは死ねないッ!! 何があっても、絶対に、死ねない…………ッッ!!!)

 

“自分が自分でなくなる”という恐怖は、全身に広まりつつある鈍痛という形を持って、彼女に残酷過ぎる“現実”を教えていた。

“時間が無い”という焦りは、掌まで侵食し始めた黒いシミを形作り、彼女の精神を確実に蝕んでいた。

左手のソウルジェムの輝きが、暗く濁っていく。

 

(…………死ねないの…………私は、“約束”したからっ…………)

 

震える両手から、デザートイーグルが零れ落ちる。

落ちたデザートイーグルは、直ぐに空中に静止する。

目をやって、ほむらは気付いてしまう。

 

 

 

左手も、黒く染まり出していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

抗えない“悪夢”が、少な過ぎる“猶予”が、彼女の交わした“約束”が、失敗し続けた“絶望”が。

その全てが、一人の“人間”の少女の心を、容赦無く押し潰す。

 

 

 

 

 

 

 

「いやだっ……私はっ……まだっ…………!!」

 

心で耐えきれなくなった想いは、等々言葉になって彼女から溢れ出した。

両手で頭を抱えたほむらは、子供の様にその場に蹲ってしまう。

絶望に染まり切ったその顔にすら、黒い“悪夢”は侵食し出す。

 

「いやだっ、いやだぁっ!!!」

 

受け入れられない現実に、ほむらは叫び声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

時間停止は、解除されていた。

 

 

 

 

 

 

 

“怪物”は、蹲る彼女を暫し眺め、

 

 

 

なら、はっきりと教えてやろうとでも言うかの如く、

 

 

 

その左手を、振り下ろした。

 

 

 

 




暑いです。B.O.A.です。

書いてる内に、どんどん酷い状況になりました。
その所為で分量が増え、予定では一話の所を二分割という事態に発展しました。

「D.R.A.G.O.N.」と「G」はまた別物です。
「G」の様な遅効性が、「D.R.A.G.O.N.」にあるとは限らない。
イメージとしては、「正常な細胞」と「癌細胞」ぐらいの違いがあります。

では、次回もなるべく早くに投稿する様努力します。
感想等、お待ちしております。



……ほむら、ゴメン。

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