みかんの花香るころ…【帰郷 サスケ・サクラの章続編】 作:かなで☆
窓から暖かい風が入り込み、優しい春の香りを運び込む。
朝から気温が高くなったせいか、木の葉の里の桜が蕾から一気に姿を変え、景色を一変させてゆく。
その様子を柔らかい笑みを浮かべながら見つめているのは、かつてこの里を捨て、憎しみにその心を染め復讐へと身を投じた【うちはサスケ】。
彼は兄が犯した一族抹殺という恐ろしい出来事が、里と…自分の命を守るための「任務」であったという事を知らず、一族の復讐のため兄を手にかけた。
それは『愛する弟の手によって討たれる』という兄が求めていた【終焉】ではあったものの、真実を知ったサスケには受け入れがたい苦しみだった。
そして、兄を犯罪者とした木の葉の里を憎み、里への復讐を決め、それだけではなくこの世界のすべてを消し去ろうとした…。
だが、その闇にとらわれた心を救うために、命がけでぶつかってきた者がいた。
【うずまき ナルト】だ。
ナルトはサスケを「親友」と呼び、兄弟のように思うとさえ言い、共に死に絶えてでも「止める」との覚悟でその心に寄り添ってきた。
『お前のそういう、背負ってゴチャゴチャしてるとこ見てっと…なんでかオレが痛てーんだ』
ナルトはサスケにそう言った。
『すっげー痛くて、とてもじゃねーけどそのままほっとけねーんだってばよ』
それはサスケがナルトに対して抱いていた感情でもあった。
互いの心を痛みあう事の出来る存在…
それがサスケを救ったのだ。
すべての戦いを終え、復讐の呪縛から放たれたサスケは、今の自分ならこの世界がどう見えるのかを知りたい…と旅に出た。
それは、闇にとらわれていた自分が見落としてきたものを、一つ一つ拾い集めるような…そんな旅でもあった。
いまだその途中ではあるが、サスケはある事件をきっかけに、遠ざけてきた里と…そして仲間と向き合う決意をし、木の葉の里へと戻ってきた。
初めに会いに行く人物は決めていた。
里を捨てたあの日、闇に突き進む自分に気づき、引き留めようと必死にぶつかってきてくれた、たった一人の人物…
「サクラ…」
サスケは小さくその名を呟いた。
その声の先では、布団にくるまり気持ちよさそうに寝息を立てているサクラがいた。
昨日の夜里に戻り、真っ先にサクラに会いにゆき、サスケはずっと秘めてきた想い…目をそむけてきた自分の気持ちをサクラに伝えた。
自身の背負う闇と罪の深さ…それを知りながらも、自分を想い続けてくれるサクラにサスケは言った。
「俺の闇は…犯した罪は…深く、
進むべき道は、果てしなく、そして厳しいものになるだろう…
それでも、いいか…?」…と。
サクラはそのすべてを受け入れ、二人の心は重なった…。
共に夜を越え、共に朝を迎える…
復讐のため孤独を選んだサスケにとって、想像もできなかったぬくもりだ…。
「ん~…サスケ君…」
目を覚まさぬままサクラは幸せそうな顔で小さく身じろぎする。
それをずっと見ていたい気持ちではあったが、サスケはサクラの髪を撫で目覚めを促す。
「サクラ…起きろ」
「ん~」
「お前今日朝からカカシのところに行くって言ってただろ」
かつて彼らの担当上忍であった【はたけカカシ】は今や6代目火影だ。
サクラは自身が関わっている医療機関に関する書類を、今日提出する予定になっていたのだ。
「カカシ…先生のところ…?」
うっすらと目を開け、その瞳にサスケの姿を捉えてサクラはハッとする。
「サ!サスケ君!」
そしてガバッと起き上がり、勢い余ってベッドから転げ落ちた。
ゴツッと鈍い音がする。
「おい…大丈夫か…」
「いった…」
床に頭をぶつけたのか、後頭部を両手で抱え込むサクラ…。
サスケはため息を吐きながら座り込んでいるサクラを覗き込む。
「何やってんだ」
「…………っ!」
その顔の近さにサクラは慌てて後ずさる。
寝ぼけていた頭がはっきりとしてくる。
…そうだ…昨日サスケ君が来て…私…
みるみるサクラの顔が赤く染まってゆく。
「あ…お…おは…よ…」
声も体も固まっている。
サスケは目を細めて息を一つ吐きだした。
「ああ。
早く用意しろ。カカシのところに行くんだろ?」
「え…?あ!そうだ!
やだ!今何時?」
「9時だ」
「え~!やだ!どうしよう!」
慌てて書類をかばんに入れようとして床にばらまく。
「わっ!」
「落ち着け…。
オレが拾っておくから、準備して来い」
「ご…ごめん…」
サクラは申し訳なさそうに部屋を飛び出してゆく。
「まったく…」
呆れながら書類を拾い集め、何とはなしに目を通す。
一つ一つの項目に対して、様々な方面からの分析が事細かく書かれていて、それでいて見やすくまとめられている。
この枚数をここまで仕上げるのはかなりの労苦だ…
「あいつ…また…」
無理をしている…。
サスケはつい無理をし過ぎるサクラの性格を心配していた。
第4次忍界対戦においても、自分の体を犠牲にする覚悟であのマダラに飛び込んでいった…
実力は十分にあるが、強気なその性格と、自分に無理を強いる性分…
見ていてヒヤリとする場面が多い。
しかし、言っても聞かないのはナルトと同じ…
「あいつらは本当に無茶ばかりするな…」
そのため息の中には優しさがこめられていた…