みかんの花香るころ…【帰郷 サスケ・サクラの章続編】 作:かなで☆
--木の葉の里、火影室--
「遅い!」
火影室のドアを開け中に入ると、カカシが開口一番サクラを怒鳴りつけた。
書類の手直しもあったため、約束の時間から20分ほど過ぎていた…。
「す…すみません…」
肩をすくめながら中に入るサクラに続いてサスケが姿を現し、カカシが目を見開いた。
「サスケ!帰ってたのか?」
「ああ」
サスケは自分も用があると、サクラと共に火影室を訪れたのだ。
部屋の中には日頃カカシの手伝いをしているナルトと、同期のメンバーが数人集まっており、それぞれサスケに駆け寄る。
「サスケ!久しぶりだってばよ。
元気だったか?」
冗談交じりに突きつけたナルトの拳を、パシッと手で受け止め、サスケは「ああ」と短く答えた。
ニシシ…と笑うその顔に、サスケの心に穏やかな感情が広がる。
しかし、それに浸る間もなく、
「サッスケく~ん!」
ナルトを突き飛ばして、いのがサスケの前に躍り出る。
「元気だった~?」
「あ…ああ」
勢いに押され気味のサスケを見て、シカマルがいのを押しのける。
「サスケ、この間は大変だったな」
しばらく前にサスケが里から連絡を受けて関わった事件のことを言っているようだ。
大人数の忍びが行方不明となった事件…
サスケは事件を調べるうちに、その中心へと入り込み、すべてを解決へと導いたのだ。
「おまえの報告書は見やすくて助かるぜ。
こいつのと違ってな」
シカマルに指をさされてナルトはむすっとした顔を浮かべる。
「オレの報告書の何が悪いっていうんだよ…」
「何って…」
サクラのつぶやきに皆の声が重なる。
『字が汚い』
「内容以前の問題かよ…っていうかサスケまで…。
ひどいってばよ」
がっくりと肩を落とすナルトに、唯一ヒナタが声をかける。
「ナ…ナルト君…私はちゃんと読めるよ。
ナルト君の字…」
「ヒナタ…。オレのこと分かってくれるのはお前だけだってばよ」
今では夫婦の二人…。
周りの目を全く気にせず、ナルトはヒナタをぎゅっと抱きしめる。
「ナ…ナルト君…」
ヒナタが顔を真っ赤にして押し返すが、ナルトはそのままヒナタを離さない。
「お前らに分かってもらわなくっても、平気だってばよ!」
「はいはい。わかりましたよ」
いのの呆れ声に、シカマルが「ったく、相変わらずだな」と続き、「いい加減離しなさい!ヒナタがまた気絶しちゃうでしょ」と、サクラが持ち前の怪力でヒナタからナルトを引きはがす。
サスケはその様子を目を細めて懐かしげに眺めていた。
久しぶりに帰ってきた里で、皆自分の事を違和感なく受け止めてくれている…
いや、そんな雰囲気を作ってくれている…
サスケはそれがありがたくもあり、このまま甘えていていいのか…という複雑な気持ちになった。
「お前ら…オレのこと忘れてない?」
不機嫌に声をあげたのはカカシだ。
肩肘をついて手に顎を乗せ、ジトリとかつての教え子たちをにらむ。
「ま、お前らが楽しそうなのはオレもうれしいけどね」
ニッと笑い姿勢を正す。
「しかしサスケ…。この間はご苦労だったな…。
大丈夫だったか?」
事件の内容には【復讐】という言葉が深く絡み合っていたため、カカシは弟子であるサスケの心を心配していた。
その想いは師弟の枠を超え、親心に近いのかもしれない。
サスケはそんなカカシの気持ちに気づき、なんとなく気恥ずかしくなる。
「…ああ」
少し視線を外すサスケ。
「よくやったな」
「……………」
子ども扱いしやがって…
サスケは心でつぶやくが、なぜか少し心地よさを感じている自分に内心で苦笑いを浮かべる。
「で、サクラ。書類は?」
「あ、はい。これです」
カカシは受け取った書類に目を通し「うん」と頷く。
「よくできてる。
この間の企画書をもとに、【子供心療室】はすでに動き出している。
このデータで、また一つ進みそうだな…」
一緒に取り組んできたサクラといのが顔を見合わせて喜ぶ。
「ここから先は、シカマルとヒナタに一度預けて、明日上と予算やその他もろもろの事を取り付けてもらうから、お前らはひと段落つけて少し体を休めろ。
立案者が倒れたら、進むものも進まなくなるからな」
「はい」とサクラといのは答え、シカマルとヒナタに託す。
「よし、じゃぁ解散していいぞ。
ナルトも、今日はいいぞ。せっかくサスケが帰ってきてるんだしな」
その言葉に、それぞれカカシに挨拶をしてドアに向かう。
「ねぇねぇ、今日みんなで焼肉行こうよ。
せっかくサスケ君も帰ってきてるんだし」
いのの案に、ナルトが「賛成だってばよ」と笑う。
「そうだな。
みんなに声かけて回るか」
シカマルがそう言いながらドアをあけ、いのと出てゆく。
「んじゃ、オレはサイを誘いに行くかな…」
と、続くナルトを、しかしサスケが呼びとめた。
「ナルト、少しいいか?カカシも…」
「ん?ああ。構わないってばよ」
「大丈夫だ」
ナルトが部屋に戻り、ヒナタに向き直る。
「ヒナタ」
「サクラ」
サスケの声も重なる。
『先に帰っててくれ』
「…てば…よ…」
・・・・・・・・・・・・
沈黙が落ち、サクラの顔が「ぽん」っと音を立てるかのよう様な勢いで赤く染まる。
静まり返った部屋の中、カカシの少しとぼけた声が響いた。
「あ…そうなの…」
『えーーーーーーー!』
二人の状況を悟った仲間のその声に、サクラは両手で真っ赤な顔を押さえながら無言で部屋を出て行った。
「ちょっとサクラ!待ちなさいよ!
どういう事か説明しなさい!」
「へぇ…。いつの間に…」
「サクラさん…よかったね…」
それぞれ思い思いに呟きながら、サクラの後に続いて部屋を出て行った。
パタリとドアが閉まり、ナルトが口を開けたままサスケを見つめる。
「なんだ…ナルト」
「なんだって…お前…いつの間にサクラちゃんと…」
「昨日」
「昨日…」
「そうだ」
淡々と答えるサスケにカカシが問う。
「サスケ、きちんと言ったのか?」
普段から口数の少ないサスケだ。
余計なお世話とは思いつつ、ちゃんとサクラに伝わる形で気持ちを伝えたのかどうか心配だった。
サスケは少し照れた表情で視線をそらしながら「ああ」とまた短く答えた。
「そうか…ならいい」
よかったな…サクラ…
サスケに命を奪われそうになったことがありながらも、一途に想い続けてきたサクラの気持ちがやっと報われ、カカシは心の底から喜んでいた。
その脳裏には、過去に螺旋眼と千鳥でぶつかり合った二人を見て、不安で泣いていたサクラの姿が浮かぶ。
それ以外にも、サクラはサスケの身を案じて本当にたくさんの涙を流してきた…。
突き放されても、冷たくあしらわれても、それでも…孤独になろうとしているサスケの心に寄り添おうと必死だった。
それに…
「よかったな…サスケ」
サクラへの気持ちに素直になれたサスケの心情の変化がカカシには嬉しかった。
「ほんとだってばよ!」
ナルトがサスケの首に腕を回し締め付けるようなそぶりをする。
「やめろ!うっとおしい!」
しかし、そう言いながらもサスケの顔は少し笑みが浮かんでいた。
痛みだけではない…喜びもこうして分かち合える…
仲間とは…そうだったな…
サスケは第七班としてともに任務をこなしていた時のことを思い出していた。
離れていた時間が、こうして思い出と共に埋まってゆく…。
ナルトも、カカシも同じように感じていた。
「で、なにか話があるんだろ?」
カカシは椅子の背もたれに体を預ける。
「ああ」
ナルトの腕をするりとはずし、サスケは二人に言う。
「サクラを、旅に連れて行きたい。
サクラは今や里では重要な戦力だからな…あんたの許可をもらっておきたい。
それと、お前にも言っておいたほうがいいだろうと思ってな」
ナルトはその視線を受けて、嬉しそうに、ニシシといつもの笑みを浮かべる。
「なるほどね…。
しかし、さっきも話していたように、サクラは今里の医療機関で新しい試みに取り組んでいる。
あまり長くは里から出せないぞ。
それに、時折戻ってもらう事にもなるだろう」
「ああ。わかっている。
これからは、オレも時折里には戻るつもりだ」
「そうか。わかった」
「すまない」
「いや、かまわないよ」
カカシはそう答えて、しばし思案し、一枚の紙を机から取り出した。
「サスケ…行先は決まってるのか?」
「いや、今は特に決めてない」
「じゃぁ、これ…頼まれてくれる?」
「………?」
サスケは顔をしかめて差し出された紙を受け取る。
「任務だよ」
カカシはニコリと笑みを浮かべた。
この日の夜、木の葉の名店【焼肉9】で久しぶりに懐かしい顔ぶれで夕飯を楽しみ、過去の話に盛り上がったり、サスケとサクラの事を祝ったり…、ヒナタにデレデレするナルトに呆れたり…ほかにもさまざまな話をし、場は盛り上がった。
執務を終わらせたカカシや、ほかの上忍たちも合わさり、にぎやかな時間は深夜まで続いた。
「それじゃぁ、お前ら気を付けて帰れよ」
楽しい時間を終え、家路につく皆の背中をカカシが見送る。
そして、すっかり暗くなった里の中を、懐かしい七班のメンバーで歩く。
「しかし…」と、ナルトに寄り添うヒナタを見て、カカシは目を細める。
「ナルトとヒナタが結婚して、サスケとサクラが…なんて状況、あの頃は想像もしなかったな」
星空を見上げながら、懐かしい記憶をたどる。
「ずいぶん時が流れたんだなぁ」
「相変わらず年寄りくさいな…あんたは」
「そうそう。カカシ先生はいっつも言う事が年寄りっぽいんだってばよ」
「ナルト君…火影様にそんなこと言っちゃだめだよ」
ちらりと見上げながら優しく叱咤され、ナルトはまたヒナタを抱きしめる。
「可愛いなぁ…ヒナタは」
「ナ…ナルト君…っ!」
ナルトは少し酔っているのか、体を押し返すヒナタを執拗に抱きしめる。
と、いつもならここでサクラの拳がナルトに落ちてくるところだが、サクラが黙り込んでいることに気づき、サスケが顔を覗き込む。
「どうした…サクラ」
思いがけず顔が近づき、サクラは慌てて体をそらせる。
「な!何でもない!大丈夫!
ちょっと酔ったかな……っと…」
「おい、危ない」
後ずさった勢いに負けて少しふらついたサクラの手をサスケが引き寄せる。
「酔ったって…お前一杯しか飲んでないだろ」
胸元まで引き寄せられ、サクラは再び慌てて離れる。
「はは…なんか…疲れてたのかな…。
酔いがまわちゃって…」
言いながら、赤い顔でカカシの近くまで後ずさる。
カカシはそんなサクラを見ながら苦笑いを浮かべる。
…確かにここ最近の疲れが原因でもあるだろうが、サスケを意識しすぎて…ってとこか…
食事中に、サスケと目があったり、体が当たったりするたびに真っ赤になっていたサクラの姿を思い浮かべる。
ま、離れてた時間のほうが長いからな…
仕方ないか…と小さく息を吐くカカシの前まで来て、サクラがまたふらついた。
「おっと」
カカシの腕に収まったサクラを見て、サスケの眉が一瞬ピクリと動く。
「あ、先生…ごめん」
「お前、本当にフラフラじゃないか…。
ちゃんと寝てないだろう…。まったく」
カカシは「ほら」と言ってごく自然にサクラをおぶった。
「サクラちゃん、大丈夫かよ…」
「最近無理してたもんね…今日はゆっくり休んでね」
「ありがとうヒナタ…」
サクラはすでに眠気に襲われ始めていた。
「サクラ、今日は実家へ帰れ。このまま送ってくから。
サスケ、行くぞ」
「ああ」
「んじゃ、オレらこっちだから」
方向が違うため、ナルトたちとここで別れる。
時間が遅いため、辺りはシンと静まり返っていて、時折吹く風に桜の花びらが舞う。
その心地よさに誘われ、サクラはいつの間にか気持ちよさそうに寝入っていた。
「悪いな、サスケ」
自分がサクラをおぶっていることに対しての言葉だ。
サスケは「別に」と言い顔をそむけるが、その表情が少しすねていることをカカシは見逃さない。
カカシにとってサスケはかつて自身のオリジナル技である「千鳥」を伝授した弟子だ。
サスケの事はよくわかっている。
「いじけるなよ」
「誰が!」
にらみつけた先で、カカシが柔らかく笑っていた。
その表情と、優しい空気に、サスケはかつて修行のために一緒に過ごした時間を思いだし、懐かしさに心が温かくなる。
「別に…」
またそう言って顔をそむける。
今度はいじけた表情ではなく、少し照れたような顔。
「今のサクラには、お前だと逆効果だろ」
無言を返すサスケをちらりと見ながら、カカシはサクラを軽くおぶり直す。
「おまえ、今日はオレのうちへ泊れ。
久しぶりにいろいろ話したいしな。
それに、将棋もどうだ」
昔よく一緒に将棋をしたが、一度も勝てずじまいだったことをサスケは思い出す。
「ああ。もう負けないぜ」
「それはどうかな…。オレ火影だからね」
「火影と将棋は関係ないだろ」
「あるさ」
サクラは二人のそんな会話を、夢うつつにその耳に捉えながら、心地の良い眠りの中へとさらに深く身を任せた。