Zero and heroic king   作:river01

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王と王女

 

 

 

 

 

それは淡い、幼かった日々の記憶―――

 

 

ラ・ヴァリエール家が有する見るも大きく豪奢な屋敷の中庭、そこに存在する池の小船の中で、幼いルイズは泣いていた。

 

この池の小船は彼女にとって秘密の場所。

 

魔法のことで叱られると、ルイズは誰も気に掛けないこの場所に逃げ込むのであった。

 

 

「泣いているのかい?ルイズ」

 

 

そうして頭から毛布を被り、むせび泣くルイズに、深く帽子を被りマントを羽織った一人の立派な貴族が声をかけた。

 

歳のほどは十六ぐらい、六歳のルイズからは十歳も年上である。

 

 

顔はよく見えずとも、その人物が誰なのかルイズにはすぐに分かった。

 

最近になり、父が戦死したことで若くして領地を受け継ぐことになった、晩餐会をよく共にした憧れの子爵。

 

そして彼と自分の父との間に交わされた、淡い口約束ではあるけれど、結婚の約束。

 

 

そんな憧れの婚約者にみっともない所を見られ、ルイズは恥ずかしくなった。

 

 

「子爵様、いらしてたの?」

 

 

「今日は君の父に呼ばれたのさ。あの話のことでね」

 

 

その言葉の意味を察し、ルイズは頬を染めて俯いた。

 

 

「いけない人ですわ。子爵様は・・・」

 

 

ルイズははにかんで言った。

 

そんなルイズに、子爵はおどけた調子で言った。

 

 

「ルイズ。僕の小さなルイズ。きみは僕の事が嫌いかい?」

 

 

子爵の言葉に、ルイズは首を横に振る。

 

 

そんなことはない。

 

たくましい体躯に穏やかな表情を浮かべるその姿は、見惚れるほどに素敵で凛々しい。

 

それに彼だけは、魔法が使えないと叱られ同情される自分を励ましてくれる、自分にとって唯一の味方だ。

 

 

嫌いだなどととんでもなく、彼はまぎれもなくルイズの憧れの人だった。

 

 

しかしそれが恋愛感情と同義であるかと問われれば、はっきりとした答えを幼いルイズには口にすることは出来ない。

 

彼女の精神は、まだあまりに幼いのだ。

 

人が人を愛するという概念の理解には、彼女はまだまだ程遠い。

 

 

「いえ、そんなことはありませんわ。でも・・・。私、まだ小さいし、よく分かりませんわ」

 

 

「たわけめ。お前如きの意思など、初めから訊いておらぬわ。これは我が下した決定だ」

 

 

唐突に、目の前の人物の声色が変化する。

 

その声に、ルイズは「へ?」と、間抜けにポカンと当惑した表情を浮かべた。

 

ついでに、いつの間にやら身体の方も十六歳の物に戻っている。

 

 

その時、風が吹いて子爵がかぶっていた帽子が飛んだ。

 

そこから現れたのは、ルイズの憧れの子爵では断じてなかった。

 

 

「そも、お前は理解などする必要はない。他ならぬこの我が、我の物になれというのだ。お前はただこの光栄に歓喜し、我のみの色に染まるがいい」

 

 

帽子の中から現れたのは、彼女の使い魔たるギルガメッシュであった。

 

見れば、マントを羽織っていたはずの相手の格好も、いつの間にか黄金の鎧姿に変化していた。

 

 

「ふ、ふざけないでよ。誰が、アンタなんかの―――」

 

 

「ほう。そういえばここは池のようだな。ふむ、せっかくだ。時には庶民の道楽たる釣りにでも興ずるとするか」

 

 

「って、アンタ。人の話はちゃんと聞きなさい―――!?」

 

 

叫ぶルイズの足に、じゃらりと鎖が伸びる。

 

きょとんとするルイズを尻目に、ギルガメッシュはそのまま鎖を振りまわし、その先に繋がれるルイズを池の中に投げ入れた。

 

 

「げぼ!?がぼごぼ」

 

 

「釣り具はお前だ。さあ、この我のために、存分に魚を釣り上げるがいい」

 

 

溺れるルイズに、小船の上から勝手なことをほざくギルガメッシュ。

 

唐突に水の中へと放り込まれたルイズは、当然酸素を求め、水上へと浮上した。

 

 

だがそこに、無数に飛来する宝剣の雨が浮かび上がったルイズに襲いかかった。

 

 

「誰が浮くことを許した?我はお前に魚を釣り上げよと命じたのだ。一度水の中に潜ったならば、確かな戦利品を携えて帰還するが義務であろう」

 

 

「い、いやぁぁぁぁ~~~!!」

 

 

降りかかる剣の雨に追い立てられながら、ルイズは悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

悪夢より目覚め、ルイズはバッと身を起こした。

 

 

彼女がいるのは実家の屋敷の池ではもちろんなく、使い魔によって大幅なリフォームが施された自分の部屋。

 

その、この部屋の家具の中では最も質素なベッドの上に、ルイズは居た。

 

 

「夢の中でさえ負けた・・・」

 

 

現実でも完全に主従が逆転し、夢の中でさえその関係が覆らないことに、ルイズはがくりと頭を落とした。

 

 

沈んだ気持ちに陥りながら、ルイズはチラリと横目で自分よりも遥かに豪奢なベッドで眠るギルガメッシュの姿を見た。

 

その様子はルイズのへこみようなどどこ吹く風で、腹が立つほどグッスリと安眠しているのが分かった。

 

 

その様子に、ルイズの中で怒りの感情が沸き上がってきた。

 

この使い魔の行いのせいで主の自分は毎日胃を傷めているというのに、肝心の使い魔はこのハルケギニアの生活を勝手気ままに満喫している。

 

最近ではもう飽きたとかで、授業に同行することもなくなったほどだ。

 

 

どこまでも主を尊重するという気持ちを欠片として持たない使い魔。

 

そんな使い魔の実に安らかな寝顔に、ルイズは大いに憤りの念を懐いていた。

 

 

今回ばかりはルイズの怒りこそ完全に理不尽なものだったが、テンションの上がりまくっているルイズにそんなことはどうでもいい。

 

ともかく、どうにかしてこの使い魔にギャフンと言わせてやりたい。

 

この傲慢な顔に、何とか泥を塗る方法はないものか―――

 

 

「そうだわ!」

 

 

ひらめいて、ルイズはベッドより飛び出る。

 

そして自分の机の上より、ペンを一本手に取った。

 

 

顔に泥を塗るという表現よりルイズが思いついた仕返しの方法。

 

 

ラクガキ、である。

 

 

実にベタな手法ではあったが、使い古されるだけあって決まるとかなり効果的だ。

 

もしうまくいって、気付かぬまま皆の前に姿を現したならば、この男の権威は地に堕ちることだろう。

 

 

その時のギルガメッシュの顔を想像して、ルイズは思わず笑みを漏らした。

 

 

そうしていざ考えを実行せんと、そろりそろりとルイズは忍び足で歩み寄り、ギルガメッシュの眠るベッド元まで来る。

 

睡眠し、傲慢さが抜け落ちたギルガメッシュの寝顔は、やはり絶世の美青年と呼ぶにふさわしく、その顔にルイズはつい一瞬見惚れてしまう。

 

 

だがすぐに気を取り直し、いざその顔にラクガキを行うべく、手にしたペンを伸ばした。

 

 

「そうね・・・、内容はとりあえず『私は使い魔』としておこうかしら・・・」

 

 

思案しながらゆっくりと、ルイズはペン先を近付ける。

 

考える言葉は悪口としてはインパクトが弱かったが、そこはやはりギルガメッシュに悪戯をするという蛮行に対し、やや腰が引けているせいだろう。

 

そうしてついにペンの先がギルガメッシュの顔に届こうとした時―――

 

 

「へ?」

 

 

ペンを持つその手に、虚空より伸びた鎖が絡みついた。

 

どことなく先ほどの夢を思い出す展開に、ルイズは表情をきょとんとさせた。

 

 

「・・何をしている?」

 

 

きょとんとしているルイズに、パチリと目を開けたギルガメッシュが尋ねる。

 

つい先ほどまで穏やかな寝息を立てていたその顔には、今はニヤリと笑みが―――好意的なものでは決してないが―――張り付いていた。

 

 

「いや、えっと・・・」

 

 

「こんな夜更けにどうした?その手に握るペンは何だ?」

 

 

ベッドより起き上がりながら、ギルガメッシュはルイズの手にするペンを指して問う。

 

ルイズは苦笑いを浮かべながら何とか誤魔化した。

 

 

「これは、その、ちょっと明日の授業のために勉強しようと思って・・・」

 

 

「ほう。勉強か」

 

 

相槌を打ちながら、ギルガメッシュはルイズの手よりペンを奪い取った。

 

 

「ふむ。言われてみれば我も何やら勉学をしたい気分となってきたぞ」

 

 

「へ、へえ。そうなんだ」

 

 

「うむ。この世界の語字は学んだが、やはり復習することは大事だな。もう一度やり直してみるとしよう」

 

 

がしりと、ルイズの頭をギルガメッシュが掴む。

 

サァーと、ルイズの顔より血の気が引いた。

 

 

「さて、何の語学より学びなおすか。まずはソフトに、『私は卑しい奴隷です』から始めるとするか」

 

 

「い、いやぁぁぁぁ~~~!!」

 

 

夜の魔法学院に、ルイズの夢の中と同じ哀れな悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

着替えを終えて宿舎から出た生徒たちにより、部屋の窓より足から鎖で宙吊りにされ、失神しているルイズが発見された。

 

引き上げられたその身体の至る所には、多種多様の罵詈雑言の数々が書き込まれていた。

 

 

「うわー・・・」

 

 

目にしたルイズの姿に、生徒達はそんな声を上げる。

 

あまりにも無残なその姿は、もはや笑いさえも起こさず哀れを皆に誘っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリステイン魔法学院に続く街道を、王家の紋章を象った、聖獣と呼び名高いユニコーンに引かれた馬車が静々と進んでいた。

 

一角獣ユニコーンは、無垢なる乙女しかその背に乗せないといわれている。

 

その由来から、ユニコーンは王女の乗る馬車を引くのに相応しいとされていた。

 

 

その馬車は、トリステイン王女アンリエッタの物であった。

 

 

時折窓のカーテンより顔を出し、街道の観衆へと優雅な微笑みを見せて手を振ってみせる。

 

うら若き王女のその姿に、観衆の歓声は一段と高くなった。

 

それにもう一度微笑みで応えてから、アンリエッタはカーテンを閉める。

 

 

観衆の目が無くなると、アンリエッタは途端に大衆用の仮面を脱ぎ捨て、その美貌の表情を曇らせた。

 

 

現在の彼女が治めるトリステインの情勢は決して平穏なものではない。

 

『白の国』と名高い浮遊大陸アルビオンで起きている、アルビオン貴族による王家への革命。

 

その大勢もほぼ決し、王家が貴族派の元に倒されるのも時間の問題だ。

 

 

そしてこの事によって生じるトリステイン側の問題は、勝利をほぼ確定させつつある貴族派の掲げる大義名分であった。

 

 

『ハルケギニアを統一し、奪われた聖地を奪還する』

 

 

革命派の貴族達はその大義の元に決起し、今回の内乱を引き起こしている。

 

 

未だ小競り合いの絶えない各国を統一し、あの強力なエルフ種族に奪われたブリミル光臨の聖地を奪還するなど、他人の耳には絵空事にしか聞こえない。

 

だが真偽のほどはともかく、統一を宣言している以上、近いうちに新たに樹立する新政府が次に向ける矛先は、小国たるこのトリステインであろう。

 

 

トリステインの政治を司るアンリエッタらにとっては、それこそが最大の問題だ。

 

今回の遠出も、来たる新生アルビオンの脅威に対抗するため、大国ゲルマニアとの同盟を実現させるためである。

 

 

「はあ・・・」

 

 

今日何度目になるか分からない溜め息を、アンリエッタはついた。

 

しかしその溜め息が国事を憂いてのことかと言えば、そうでもない。

 

元より彼女がどれだけ国のことを思っても、あまり関係はないのだ。

 

 

先王が崩御した現在、トリステインの政治権力を握っているのはアンリエッタではなく、枢機卿マザリーニである。

 

いかに王族であろうと、所詮は世間知らずの小娘に過ぎないアンリエッタの手腕が、老獪たるマザリーニのそれに敵うはずもない。

 

事実、今回のゲルマニアとの同盟政策、ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と自分との婚儀の件も、すべてマザリーニの手によるものだ。

 

 

「ワルド君。殿下のご機嫌がうるわしゅうない。何か気晴らしになるものを持ってきてくれないかね?」

 

 

「かしこまりました。猊下」

 

 

そんなアンリエッタの様子もつぶさに読み取って、マザリーニは周囲を護衛する魔法衛士隊の、特に自身の覚えの良い隊の隊長に声をかける。

 

その様子には、仮にも本人の望まぬ婚礼を推し進めたことに対する負い目の感情は見られなかった。

 

 

命を受けた凛々しい貴族の青年は、街道に咲く花を『風』の魔法を用いて摘み取り、アンリエッタの元まで持ってくる。

 

花を受け取って青年との軽い会話の後に、アンリエッタは隣のマザリーニに尋ねた。

 

 

「あの貴族は、使えるのですか?」

 

 

「ワルド子爵。グリフォン隊隊長にして『閃光』の二つ名を持つスクウェアメイジです。彼に匹敵する使い手はアルビオンにもそうはおりますまい」

 

 

マザリーニのお墨付きを貰い、アンリエッタは考える。

 

あの貴族にならば、自分が懸念している件を処理する任務を任せても良いかもしれない、と。

 

 

アンリエッタの懸念とは、かつて自分がアルビオンの王子にしたためた一通の恋文。

 

始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓ったあの手紙がゲルマニアの手に渡れば、当然自分の婚儀の話は取り消し、すなわちゲルマニアとの同盟は水疱に帰するだろう。

 

 

無論アンリエッタとてそれを何とかしたいと思っているが、その方法をアンリエッタは持っていない。

 

誰かに相談したくても、現在の王宮に、彼女が心より信頼して胸の内を暴露できる人物など一人もいないのだ。

 

 

そんな思いの中で、ワルドという青年の殊勝で誠実な態度に一抹の光明を見出したアンリエッタだが、それでもやはり最後のふんぎりがつかない。

 

 

今回の手紙の件は、完全にアンリエッタの私情が招いた結果だ。

 

そのような自らの不覚を、今日初めて顔を知った人物に明かすというのはやはり躊躇われる。

 

どこかに、自分が心より信頼して自らの懸念を明かすことが出来、なおかつそれを解決してくれる頼りになる貴族はいないものか。

 

 

そんな都合の良い事を考えた時、アンリエッタの脳裏に一つの名前が思い浮かんだ。

 

 

「枢機卿、土くれのフーケを捕らえた、貴族の名はご存知?」

 

 

「覚えておりませんな。たかが盗賊如きに気をかけている余裕は、今のトリステインにはありませんので」

 

 

マザリーニのにべもない返答に、アンリエッタは顔を顰める。

 

しかし彼女は自らが話題に上げた貴族の名をよく覚えていた。

 

 

このトリステイン中の貴族を騒がせた大盗賊フーケの捕縛は、かなりの話題となっている。

 

特に最近となって、『チェルノボーグの監獄』にて裁判を待っていたフーケが監獄内より脱獄したのだ。

 

 

王宮ではアルビオンのことに気がいってさほど関心は向けられていないが、巷では現在一番の話題の元である。

 

そのニュースはアンリエッタの耳にも届き、その功績より爵位申請が為されていた貴族の名の中には、彼女がよく知る名前もあった。

 

 

(ルイズ・・・)

 

 

幼馴染みの活躍に、アンリエッタは希望を見出す。

 

 

彼女ならばあるいは、自分の抱えるこの悩みを解決してくれるのではないかと。

 

 

そんな王女の思いを導くかのように、ゲルマニアからの帰りの馬車は魔法学院へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっぷし!!」

 

 

かわいい仕草でくしゃみをし、ルイズは鼻から垂れた鼻水をズズッと啜る。

 

 

魔法学院の正門前、急な王女の来臨の報に生徒一同は整列してやって来る王女を出迎えている。

 

その中には無論のこと、ルイズの姿もあった。

 

 

(あいつあいつあいつあいつあいつぅ~~~!!)

 

 

寒気がする身体を押さえながら、ルイズは心の中で唸った。

 

 

寝巻き姿のまま一晩中吊るされ、その身を夜風にさらされ続けたルイズの体調ははっきりと悪い。

 

おまけに長時間逆さ吊りにされたせいか、ガンガンと頭痛と吐き気がして平衡感覚が定まらない。

 

ちなみに身体中に書かれていたラクガキは、全部を消す時間は無かったのでとりあえず顔のみを優先して落とし、あとは服で誤魔化した。

 

 

彼女の不調の元凶であるギルガメッシュ本人は、この場にはいない。

 

吊るされて一時間ほどした頃にルイズが失神し、生徒達に起こされた時には、すでにギルガメッシュは学院のどこにもいなかった。

 

 

(そりゃ最初にやろうとしたのは私だけど、でもいくらなんでもここまでする?っていうか、自分で吊るしといて、放置してどっかに行っちゃうって、一応助けるでしょ、普通!?)

 

 

沸き上がってくる怒りの念は留まることをしらず、ルイズは口には出さず胸中のみで自身の使い魔のことを罵倒し続けた。

 

 

しかしその昂った感情も、馬車より降り立ったアンリエッタの姿を目に映すと一気に冷却した。

 

 

(姫様、綺麗になったわ)

 

 

自分にとっては仕えるべき主君であると同時に幼い日を共に過ごした無二の友人でもあるアンリエッタの姿に、ルイズは思わず見惚れた。

 

二人が成長するに連れて、ルイズとアンリエッタが仲の良い友達としての日々を過ごすことは難しくなり、学院に入学してからは勉学に追われて顔を見る機会さえなくなっていた。

 

その時間という名のスパイスが振りかけられたアンリエッタの姿は、ルイズに一層彼女を美しく気高く見せていた。

 

 

「あれがトリステインの王女?あたしのほうが美人じゃない」

 

 

そんな思いに囚われるルイズに、隣から畏れ多いにもほどがある事をほざくキュルケの声が聞こえる。

 

その言葉にキッと目を向けてルイズは言い返そうとするが、その動きで目に映った凛々しい貴族の姿に、思わず言葉を飲み込んだ。

 

 

(ワルド様―――!!)

 

 

はからずも昨夜の夢の中にも出てきた憧れの婚約者。

 

ジャン・ジャック・ワルド子爵その人の姿に、ルイズは思考を停止し、ポカンとした表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンリエッタ王女が魔法学院を訪問しているちょうどその頃。

 

一応はマスターであるルイズを、ラクガキ追加逆さ吊りにした上で放置したギルガメッシュはというと―――

 

 

「ふむ、ついでにこれもだな」

 

 

「は、はい」

 

 

手に取った衣服をポイポイと傍らのシエスタへと投げ渡し、ギルガメッシュは店内の品を物色する。

 

 

現在ギルガメッシュとシエスタが居るのは、城下町トリスタニアのとある大きな衣服店。

 

そこでギルガメッシュが見繕うのは、自分のための衣服である。

 

 

これまでは自身の蔵の中の服を纏っていたギルガメッシュであったが、かつて着こなしたそれらの衣服に、すでに彼は飽きを覚えていた。

 

そこでギルガメッシュは、王女の出迎えに追われていたシエスタを半ば強引に連れ出し、自身のためのショッピングに出向いたのだ。

 

 

「あの、随分とお買いになられますね」

 

 

フラつくバランスを取りながら、シエスタは尋ねる。

 

すでに幾つもの店舗を回り終えた彼女の手には、購入した衣服類が山のように積み重ねられている。

 

ちなみにそのどれもが最高級の素材であしらわれた一流品である。

 

 

「うむ。まあどれも我が蔵の品に比べれば三流品だがな。だが、それならばそれで楽しみようもある。遊び着としては十分だ」

 

 

「はあ・・・」

 

 

ギルガメッシュの言葉に、シエスタは生半可な答えを返す。

 

通常、ショッピングというものは女性が楽しみ男性がそれに付き合っていくものだが、この二人の場合は全くの逆らしい。

 

 

「でも、良いのかしら。みんなは出迎えの準備で忙しいのに、私だけこんなことしてて・・・」

 

 

「たわけ。我が従者ならば、何においても我の意思を優先させる。それが当然であろう」

 

 

「は、はい。それはもちろん。でも、ギルガメッシュ様は良かったのですか?アンリエッタ殿下の来訪に立ち会われなくて」

 

 

「必要なかろう。たかが雑種共の王族、気に掛けるほどの価値はない」

 

 

さらりとギルガメッシュは言い捨てる。

 

 

彼の感性論理からすれば、この世において王を名乗ることが許されるのは自分唯一人である。

 

アンリエッタらハルケギニアの王の事も、あくまで異世界の事柄ということで許容してはいるが、自分と対等に見る気など端から無い。

 

そんな彼が、わざわざ退屈な王女の歓迎式などに立ち会うはずがなかった。

 

 

「さて、とりあえず購入はこれぐらいにするか」

 

 

見繕った衣服の購入を終え、店を出たギルガメッシュがそう言った。

 

その言葉に、シエスタはホッとする。

 

 

だが次に出たギルガメッシュの言葉は、安心したシエスタを再び驚愕させるものだった。

 

 

「ではシエスタよ。次は仕立て屋に行くぞ」

 

 

「え!?し、仕立て屋って、どうしてですか?」

 

 

「素材や装飾は悪くないが、しかしデザインがどうにも気にくわんのでな。その衣服共を切り崩し、我専用の衣服を仕立てるのだ」

 

 

「え、えぇ~~~!!?」

 

 

仰天するシエスタの叫びは気にも掛けず、ギルガメッシュはずんずんとその独歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンリエッタを魔法学院に出迎えた日の夜。

 

未だギルガメッシュの帰ってこない自室にて、ルイズは落ち着きなく過ごしていた。

 

 

立ち上がったと思えば、再びベッドに腰かけ、次は枕を抱いてぼんやりとする、といった具合である。

 

 

そのルイズの奇行の原因は、王女の出迎えの時に目にした憧れの人、ワルドのために他ならない。

 

 

遠い昔に交わした、結婚の約束。

 

あの時はそれがどういうことかもよく分からなかったが、今ならはっきりと分かる。

 

 

結婚。

 

互いを愛し合い、その生涯を共に歩む事を誓う神聖な儀式。

 

そのことを思うと、どうしてもルイズは意識せずにはいられなかった。

 

 

(べ、別にそんな気にすることなんてないわよ。昔の話だし、大体婚約のことだって、単なるその場だけの口約束に決まっているわ)

 

 

必死になってルイズは自分にそう言い聞かせる。

 

 

何しろかつては単なる一領主に過ぎなかったワルドも、いまや魔法衛士隊の隊長。

 

文句なくバリバリのエリートコースだ。

 

そんな出世頭の人物が、魔法もロクに使えない自分にわざわざこだわるとは思えない。

 

 

(でも・・・)

 

 

だがもし、彼があの約束を忘れていなければ?

 

今にもこの部屋のドアを叩いて、自分の前に姿を現したら?

 

もしそんなことになれば、自分は一体どうするのだろう。

 

 

そんな思いが頭から離れず、ルイズはどうしても落ち着く事が出来なかった。

 

 

(あいつは、なんて言うのかな・・・)

 

 

そこまで思いを馳せた所で、ルイズの脳裏に浮かぶのは自身の使い魔たる黄金の男。

 

仮にワルドと自分が結婚するといったら、あの男は何と言うのだろうか―――

 

 

ドンドン

 

 

「っ!?」

 

 

そんな思いの中、唐突にドアがノックされる音が聞こえてルイズは仰天した。

 

 

自分の使い魔は、ノックなどという礼節を重んじる性根など欠片と持ち合わせていないので、この来訪者はギルガメッシュではない。

 

まさか本当にワルドがやって来たのではと思い、ルイズは大いに動揺した。

 

 

トントントン

 

 

さらに短く三回、規則正しいノックがなされる。

 

そのことに、ルイズは別の意味でハッとした。

 

 

最初の長い間隔の二回のノックに、次の短い間隔の三回のノック。

 

これを互いの存在を知らせる合図としていた者を、ルイズは知っていた。

 

 

急いでベッドから立ち上がり、僅かに乱れていた髪などを整える。

 

そして開かれたドアから現れた者は、果たしてルイズの予想した通りの人物だった。

 

 

「姫殿下!!」

 

 

黒頭巾を被り、それと同じ漆黒のマントを羽織ってはいたが、そこから覗かれる面貌は紛れもなくトリステイン王女アンリエッタその人であった。

 

 

仕えるべき主君の突然の登場に、ルイズは慌てて膝をついた。

 

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。ああ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。あなたとわたくしはお友達じゃないの。あなたにまでそんな余所余所しい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!!」

 

 

「もったいないお言葉でごさいます。姫殿下」

 

 

黒頭巾をはずし、感極まった表情で抱きついてくるアンリエッタに、ルイズははにかんだ顔でそう答えた。

 

 

「懐かしいわ、ルイズ。ところで・・・」

 

 

と、ある程度の抱擁を終えてから、アンリエッタは部屋の内装に目を向け、やや困惑した声で言った。

 

 

「その、随分と素晴らしい部屋に住んでいるのね。こんな華びやかな住い、王宮にもないわ。まるで物語の中の神々の住まう聖殿のよう」

 

 

「いえ、その、ちょっと金持ちの同居人がいまして・・・」

 

 

苦笑いを浮かべつつ、ルイズは何とかそうとだけ答える。

 

その様子を、アンリエッタは別の意味に勘違いして受け取ったようだ。

 

 

「あら、ひょっとして恋人の方?」

 

 

「断固として違います」

 

 

ここだけはやけに強くはっきりと、ルイズは断言した。

 

 

「そ、そう。ところで・・・」

 

 

ルイズの剣幕に圧されながら、アンリエッタは黒マントの中より自身の杖を取り出して、部屋全体にある魔法をかけた。

 

 

探知魔法、ディティクトマジック。

 

 

魔法の仕掛けや覗き穴などの隠し機能を見破るその魔法で、アンリエッタはこの部屋が誰にも盗聴されていないことを理解した。

 

 

「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからね」

 

 

「探知の魔法?あの、姫殿下、一体何を?」

 

 

「ああ、ルイズ。ごめんなさい。いきなり過ぎましたね。ただ、これからする話は内密のものなの」

 

 

そう一言前置きしてから、アンリエッタは真剣な表情となって語り出した。

 

 

「あなたに、お願いしたいことがあるのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、アンリエッタがルイズの部屋に訪問した頃、ギルガメッシュはやや上機嫌な様子で住まいであるルイズの部屋への帰路についていた。

 

その彼が纏う装束は、これまで彼が着ていたものとは違う、今日新調した新しい衣服である。

 

 

全体を黒と白の二色で統一するその服装は、動きやすくシンプルであれど、同時に貴人の風格をも強調している。

 

ハルケギニアではあまり見られないそのデザインは、現代世界でいうところのライダースーツという形容が適切だ。

 

 

彼の上機嫌振りも、このお気に入りの遊び着を手に入れたためだ。

 

 

その衣服は市販の物では当然なく、購入した大量の衣服から材料を切り出し、新たに仕立て上げたものである。

 

仕立て屋の店主を半ば恐喝のように注文し、自身のセンスの元に作り直されたのがこの衣服だ。

 

ギルガメッシュの要求通りのデキと時間で完成できる腕を持っていた事も、その仕立て屋にとっては幸運だっただろう。

 

 

ちなみに余った衣服達はすべて破棄した。

 

重ねて言うが、どれも最高級の素材が使われた一流品である。

 

 

「戻ったぞ」

 

 

ノックなどせず、不躾な態度でギルガメッシュはルイズの部屋のドアを開ける。

 

 

恐らくルイズからは、今朝の蛮行についての癇癪があるだろう。

 

それを予想し、そのルイズをいかにからかってやるかとギルガメッシュは考えていた。

 

 

だがその思考も、ルイズの他に同室するもう一人の少女の姿に中断された。

 

 

「む?」

 

 

「あら?あなたは・・・」

 

 

入って来たギルガメッシュの姿に、アンリエッタもそちらに目を向ける。

 

彼女はちょうど、一件の解決のための王子宛ての手紙と道中の糧にと『水のルビー』をルイズに手渡した所であった。

 

 

そんなアンリエッタを、ギルガメッシュは不躾に指さしてルイズに問うた。

 

 

「ルイズよ。この雑種は何だ?」

 

 

「なっ!?」

 

 

「ギ、ギルガメッシュ!お、王女殿下に対して、なんて口聞くのよ!!」

 

 

あまりにも無礼が過ぎるギルガメッシュの言葉に、ルイズが慌てて彼を諌める。

 

だがそう諌めるルイズに、ギルガメッシュは言葉を訂正するどころか、ポカンと呆けた表情を見せた。

 

 

「王・・・女?この小娘がか?」

 

 

呆けたままの表情で、ギルガメッシュはその視線をアンリエッタへと向ける。

 

もはや侮辱と呼んでも差し支えないギルガメッシュの態度に、さすがのアンリエッタもムッと顔に不快を顕わにした。

 

 

「その通りです。わたくしこそはトリステイン王国第一王女アンリエッタ・ド・トリステインです。あなたが何者かは知りませんが、王族を前にしその対応は無礼でしょう。まずは名を―――」

 

 

しかしアンリエッタのその言葉は最後まで紡がれることはなく、突如として部屋中に響き渡った哄笑によってかき消された。

 

 

弾かれるように轟いたその哄笑はギルガメッシュの物。

 

限りなく下品なその笑いには何の遠慮も礼節もなく、他のどんな言葉よりも、相手のあらゆる尊厳を踏みにじる最大の侮辱であった。

 

 

そのような辱めに、アンリエッタの表情が不快から真っ赤な怒気へと変わった。

 

 

「一体何を嗤うのです!?王家の者に対してそのような品の無い振る舞い、許しませんよ!!」

 

 

矮小な小娘の身の上ながら、精一杯の王の威厳を見せて、アンリエッタは言い放つ。

 

 

だがそれでもギルガメッシュの哄笑は留まらず、むしろ余計に興が乗ったかのように更に勢いが増す。

 

やがて苦しそうに腹を押さえながら、ギルガメッシュは笑いに息切れしながらも途切れ途切れに言葉を漏らした。

 

 

「―――国という操り手に繰られて―――その芸当を以て衆愚共を笑わせる―――そんな輩が、自らに王の名を冠するだと?

 

ハハハッ、これは傑作だ!!おいおい、異界の王とは道化の芸者と同義なのか?」

 

 

もはや抑えが効かぬとばかりに呼吸を乱して笑うギルガメッシュの口より言い放たれた言葉に、アンリエッタ怒りを横に置いてハッとした。

 

 

王族などという肩書きは名ばかりで、実際には何の力も持たない王女。

 

民からの人気も、あくまで“華”としての人気であり、“王”としての支持ではない。

 

ただ周りの者に言われるがままに振舞い、先王亡きトリステインの顔としてのみ民草の支えとなる自分の在り様は、まさに国に操られる人形のそれであった。

 

 

そんな自らの様を漠然とは自覚していたアンリエッタであったが、ただ胸の内で思うのと他者よりはっきりと言葉にされて突きつけられるのとでは、ショックがあまりに違いすぎた。

 

 

「この国の王家には美貌はあっても杖はないという、衆愚共の小唄は耳にしてはいたが、よもや真実その通りであったとは!!

 

いやはや、久方振りだぞ、ここまで笑わせてもらったのは。お前は大した道化だな、小娘よ」

 

 

「な、何の根拠を以て、そのような暴言を口にするのです!?何も知らないあなたが!!」

 

 

思わぬ自身の内面を突くギルガメッシュの言葉に怯んだアンリエッタだったが、しかし一応の意地を見せて反論する。

 

 

言う事は的を射ていても、しかしアンリエッタの観点からはギルガメッシュはあくまで初対面の人物だ。

 

そんな見ず知らずの者にただ言われているだけなど、小さくとも確かに存在するアンリエッタのプライドが許さなかった。

 

 

「フン。根拠、だと?」

 

 

だがそんなアンリエッタの反論も、ギルガメッシュは鼻で嗤ってみせた。

 

 

「そんなもの、見れば分かろう」

 

 

「何が分かるというのです!!今日初めて会ったようなあなたに!?」

 

 

「十分であろう。一目あれば、その者の研磨ぶりを測るには事足りる。そしてその印象は、おおよそその者の状態を誤らぬものだ」

 

 

笑いを納めて呼吸を定めるように大きく一息し、ギルガメッシュは語り出した。

 

 

「人間の生とは、宝石に例えられる。自らを磨き、己の在り様を見定めて動き、命の価値を貫く者は、その内の宝石の輝きを引き出す。

 

逆に己の在り方さえロクに定めず、ただ漫然と生を浪費するのみの雑種は、見る価値もない薄汚い原石のままだ。命を腐らせているだけに過ぎん。

 

その宝石の質にこそ我は娯楽を見出している。例え凡庸な雑種とて、宝石足り得る生を行く者は我が関心を示す価値がある」

 

 

淡々と語っていく中、ギルガメッシュの赤い双眸がアンリエッタを映す。

 

一目で相手の魂の形まで見抜く英雄王の眼に、アンリエッタは意識を飲み込まれるような錯覚を覚えた。

 

 

「その点に関して、貴様には我に魅せるに足る輝きを備えておらん。それはすなわち、己の命を動かしていないということだ。

 

ましてそれが王たる者の生であるならば、それが意味する事は唯一つ。貴様には王道が無いのだ。自己の中に置き、王として貫くべき信念の在り様が、貴様には存在しておらん。あたかも風には揺らめき、力を込めれば折れて倒れる柳のようなか細き性根よ。

 

ふむ、まだ合点がいかぬという顔だな。では貴様にも理解できるよう、容易い証明方法を提示してみせよう」

 

 

ギルガメッシュの言葉にただただ圧倒されるだけのアンリエッタに、ギルガメッシュはゆっくりと、たった一言のみを告げた。

 

 

「貴様は、王になどなりたくないのであろう?」

 

 

「!!?」

 

 

その言葉に、アンリエッタは息を飲んだ。

 

 

その言葉はまぎれもないアンリエッタにとっての真理。

 

狭苦しい鳥籠のような王族という名の肩書き。

 

それを疎ましいと思わなかった日など、一日とて無かった。

 

 

それを思えば、この任務の件とて同じだ。

 

国のためなど外面の理由でしかなく、本当にアンリエッタが恐れるのはこの件が露見することによる皆からの批難の目に他ならない。

 

 

本当に国のためを思っているのなら、ルイズなどではなく、すぐにでもマザリーニに相談していたはずなのだ。

 

彼ならばきっと、少なくともアンリエッタよりは効果的な解決策を編み出してくれただろう。

 

国のためを思うなら、恥をかくことなど恐れずにそうするべきだった。

 

 

だがアンリエッタにはそれが出来なかった。

 

王の名を持つ立場とは、その行動の一つ一つにまで価値を問われるのである。

 

明かされた事実によって、「王族としてあるまじき行為」と糾弾されるのが怖かった。

 

 

だからこそアンリエッタは、心から信頼できるルイズにだけ、この任務を託そうとしたのだ。

 

 

「これが答えだ。他でもないお前自身が、誰よりも己の王としての価値を否定している。実に滑稽な矛盾よ。

 

ほれ。こんなもの、もはや道化の笑い話とするしかないであろう」

 

 

「あ、ああぁ・・・」

 

 

ギルガメッシュの言葉に答える気力は、すでにアンリエッタには無かった。

 

心の内側にあるものを曝け出され、その不格好さが露呈されたアンリエッタには、自分の姿がひどく無残で惨めなものに見えた。

 

 

やがてはこの場所に居ることも居た堪れなくなり、アンリエッタは脱兎の如くこの部屋から走り去って行った。

 

 

「姫様!!」

 

 

声を上げて、ルイズはその後を追おうとするが、駆け去っていくアンリエッタの足は速く、あっという間に視界から姿を消していった。

 

 

廊下の先、立ち去って行くアンリエッタの駆け足の音をしばし呆然と聞き届けて、ルイズはキッと厳しい視線を部屋の中のギルガメッシュへと向けた。

 

 

「・・・どういうつもりよ?」

 

 

明らかに険のこもった声音で、ルイズは問い質す。

 

しかしそんなルイズの声にも、やはりギルガメッシュは眉一つ動かすことは無かった。

 

 

「どういうつもり、とは?」

 

 

「決まってるでしょ!!姫様に対して、なんであんな侮辱を吐いたりしたの!?」

 

 

「なんだ、そんなことか。それこそどうということはない。単なる事実を述べたまでよ」

 

 

あくまで平然と、ギルガメッシュは言う。

 

そのギルガメッシュの態度が、一層ルイズに憤りを与えた。

 

 

「王たる己の在り様を見出すことも出来ず、ただ国という枠組みの中に縛られ、それに奉仕する奴隷。全く愉快な滑稽さよ。そういう意味では、あれも見世物としての価値くらいは備えておるといえるかもしれんな」

 

 

先ほどのアンリエッタの様を思い出し、ギルガメッシュは口元を歪ませ笑い声を漏らした。

 

 

その時、部屋に置かれていた家具の一つがギルガメッシュに向けられて投げつけられた。

 

 

「む?」

 

 

顔面に向けて投げつけられたそれを、ギルガメッシュは僅かに首を動かすのみで回避する。

 

そうしてから彼は、自分に家具を投げつけたルイズへと目を向けた。

 

 

目にしたルイズの顔にあるのは、抑えきれないばかりに表情に浮かび上がる憤怒のみ。

 

 

ルイズは今、仕えるべき主君を目の前で罵倒され、貶められたのだ。

 

しかもそれを行ったのは自分の使い魔。

 

使い魔の行いの責任は、すべからく主人にも責が及ぶ。

 

言うなれば今のギルガメッシュの暴言の数々は、彼女自身が言ったことに等しい。

 

 

仕えるべき主君であり、同時に幼い日々を共に過ごした大切な親友であるアンリエッタを、自らに侮辱させた。

 

それは、常に高潔な貴族たらんとするルイズにとって、断じて許せる物ではない。

 

 

そうして懐いたルイズの憤怒は、これまでの癇癪とは訳の違う、譲歩の余地など微塵もない本当の怒りの感情であった。

 

 

「アンタなんか大ッ嫌いっ!!」

 

 

叫ぶように言い放って、ルイズはギルガメッシュの居る自室から、乱暴に足音をたてながら出て行く。

 

彼女の最後の大音量の叫びは反響して、ギルガメッシュ唯一人となった部屋の中にしばらく響き残っていた。

 

 

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