Zero and heroic king   作:river01

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王と『閃光』

 

 

 

 

 

いまだ陽光の照りつけぬ朝靄の中。

 

ルイズとギルガメッシュ、そしてギーシュは、自身が乗る馬の手入れをしていた。

 

 

彼らの行き先はアルビオン。

 

一度拝命を受けた以上、その命令を遂行してみせるのが臣下たる者の務めだ。

 

例えその去り際が、主君に対しどれほど無礼なものであったとしても。

 

 

またギルガメッシュも、この任務に同行することを表明していた。

 

ルイズに言われてのことではなく、ギルガメッシュ自身が言いだしたことである。

 

その理由は、もちろんアンリエッタの任務のためなどでは断じてない。

 

事実、ギルガメッシュは任務の内容自体よく知らないし、聞こうともしていなかった。

 

 

彼が興味を引かれたのは、目的地のアルビオンそのものである。

 

天に浮遊してハルケギニア中の空を飛行し続けるというアルビオン大陸は、ギルガメッシュに多大な関心を与えた。

 

その心の動きに従い、半ば物見遊山の心情で、こうして自身も付いてくる事を表明したのだ。

 

 

ちなみにギーシュは、その野次馬根性でどこからか王女の勅命たるこの任務の事を聞きつけ、半ば強引に同行を求めたのである。

 

根っからの女好きであるギーシュは、トリステインの“華”と名高いアンリエッタに何とか名前を覚えてもらおうと必死だった。

 

 

そうして共通の目的地を持つ三人であったが、その間に漂う空気は仲間というには険悪が過ぎた。

 

ギルガメッシュはいつもとさして変化はないのだが、ルイズの方は自身の険悪さを隠そうともしていない。

 

口を利く事はおろか、目さえも合わそうとしていなかった。

 

 

昨夜ルイズが懐いた怒りは、たったの一晩で解消されるほど生温いものではない。

 

そんな両者の重い空気に挟まれ、ギーシュはオロオロとした困惑を見せていた。

 

 

「あの、陛下。ルイズと、何かあったので・・・?」

 

 

「なに、大した事ではない」

 

 

チラリとルイズに視線を向け、ギルガメッシュは挑発的に言った。

 

 

「我がちと道化の滑稽振りを笑ったら、奴にはそれがいたく不快だったらしくてな。その道化に妙な幻想でも抱いておったらしい。まあ、つまらぬ瑣事よ」

 

 

あえて聞こえるように言われたその言葉に、ルイズはキッと鋭い視線を向ける。

 

だがそれも一瞬のことで、すぐにギルガメッシュから視線を外して、はっきりとした拒絶を示す無視を貫く。

 

ルイズはこの旅の道中、抗議の意を込めて徹底的な無視を決め込むつもりであった。

 

実に子供じみた怒りの表し方であったが、ここまでありありと見せるギルガメッシュへの拒絶の意思は、彼女の怒りの深さを明実に示してもいた。

 

 

そんなルイズの無視を決め込んでおきながら、その実誰よりもこちらに意識を向けている彼女の態度に、ギルガメッシュは笑みを漏らす。

 

彼にとってはそんなルイズの反抗的態度でさえ、突き甲斐がある娯楽の一つになり得るようだった。

 

 

「あの、陛下。一つよろしいでしょうか・・・?」

 

 

そんな中、おずおずといった様子でギーシュが口を開いた。

 

 

「何だ?」

 

 

「僕の使い魔も同行させたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

「お前の使い魔だと?どんなものだ?」

 

 

「はい!!これです!!」

 

 

ギルガメッシュの問いに元気よく答え、ギーシュは足元の地面を指差した。

 

そうしてからギーシュが足で軽く地面を叩くと、その地面がモコモコと盛り上がり、巨大なモグラが顔を出した。

 

 

「・・・何だそれは?」

 

 

「これこそ我が使い魔ヴェルダンデです!!ああ、僕の可愛いヴェルダンデ!!」

 

 

小さいクマほどもあるモグラを抱きかかえ、ギーシュはそれに頬ずりを始める。

 

その様子には、さすがのギルガメッシュも呆れを見せていた。

 

 

とはいえ彼も、この世のあらゆる欲を網羅した男。

 

どんな形に対して魅力を覚えるかなど、それは人の数と同じほどに存在すると心得ている。

 

泥だらけの巨大モグラを顔を擦りつけてまで愛でるギーシュのその奇怪な趣向も、一つの形であると素早く納得した。

 

ただし、理解はしなかったが。

 

 

「そんなの連れていけるワケないでしょ。私たちは馬で行くのよ。大体アルビオンに行くのに、地面を掘って進む生き物なんて連れてってどうするのよ」

 

 

そんなギーシュに、ルイズは笑みの一つも見せずに冷たく告げた。

 

そのルイズの言葉が気に障ったのか、バッと立ちあがってギーシュは反論した。

 

 

「ヴェルダンデを馬鹿にするな!!ヴェルダンデはそんじょそこらのジャイアントモールとは一味違うんだ!!」

 

 

「ほう。何か芸の一つでも持っておるのか?」

 

 

「ええ、それはもう!!何といってもこのヴェルダンデは―――」

 

 

ギーシュがそう言いかけた時、ヴェルダンデと名乗る巨大モグラが、その鼻をひくつかせた。

 

クンクンと鼻を揺らし、ルイズの元へと擦り寄っていく。

 

 

ギルガメッシュ達の方を完全に無視していたルイズは、そのヴェルダンデの接近に気付かない。

 

そしてヴェルダンデは、いきなりルイズの事を押し倒した。

 

 

「や!ちょ、ちょっと、何なのよ、こいつ!!」

 

 

身体中をヴェルダンデの鼻でつつきまわされ、ルイズは地面をのたうち回った。

 

その過程でスカートがめくれ、衣服のほうも徐々に乱れていく。

 

美少女が獣姦されているとも取れるその光景は、なかなかに官能的なものだった。

 

 

「ちょっと、ギーシュ!!アンタ、さっさとこのケダモノを何とかしなさいよ!!」

 

 

慌てた様子でルイズは叫んだ。

 

だがそんなルイズの姿を眺めるギルガメッシュとギーシュはというと―――

 

 

「ほほう。獣の分際で人間に欲情するとは、確かに稀有な奴よ」

 

 

「そんな!!ヴェルダンデ!!君には僕がいるじゃないかぁぁぁっ!!」

 

 

何やら感心しているギルガメッシュに、何だかよく分からない叫びを上げるギーシュ。

 

そんな二人の様子には、ルイズを助けようとする気配は微塵も見られなかった。

 

 

元より、ヴェルダンデの行為はルイズへの色欲に駆られての意図ではもちろんなく、生物的習性によるものだ。

 

鉱石や宝石を好むヴェルダンデの習性が、ルイズの右手の薬指にはまる『水のルビー』に対して反応したのである。

 

故に、先ほどまでの緊張感を台無しにした効果以外には、ヴェルダンデの行為に害は無かった。

 

それと一応断ってはおくが、ヴェルダンデの性別はオスである。

 

 

ヴェルダンデの珍行により、どこかまったりと微妙な空気が漂い出したその時、一陣の風が舞い上がってルイズに張り付くヴェルダンデを吹き飛ばした。

 

 

「誰だっ!!よくもヴェルダンデを!!」

 

 

愛する使い魔を傷つけられ、激昂してギーシュが叫んだ。

 

皆の視線が集まる中、朝靄の内より羽帽子をかぶった一人の精悍な貴族の青年が現れた。

 

 

「すまないね。婚約者がモグラに襲われているのを、見て見ぬ振りで通ることは出来なかったんだ」

 

 

相手の戦意を解きほぐすよう、穏やかな口調で青年は言った。

 

そう言ってから貴族の青年はくいっと帽子を上げて、男らしい口髭を生やした端整な顔立ちの面を一同に見せた。

 

 

「トリステイン魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」

 

 

青年―――ワルドの口から出た魔法衛士隊という言葉に、ギーシュは抜き掛けていた杖を納めた。

 

魔法衛士隊とは、貴族の男子ならば誰もが憧れる、王家を守護する精鋭中の精鋭なのだ。

 

ましてその隊長格となれば、それはすなわちトリステイン最強のメイジの称号と言っても過言ではない。

 

 

そんな相手だと分かり、さすがに分が悪いとギーシュは理解した。

 

それにもう一つ、名乗りの前に気になる発言をしていたことも、ギーシュが矛を納める要因になっていた。

 

 

「あの、今、ルイズの事を婚約者とかって・・・」

 

 

動揺する声で、ギーシュは気になる発言の件について尋ねようとする。

 

 

だがそんなギーシュの問いかけは鮮やかに無視して、ワルドは真っ直ぐにルイズの元へと向かった。

 

 

「ワルド様・・・」

 

 

「久しぶりだな、ルイズ!!僕のルイズ!!」

 

 

衣服の乱れを整えながら立ち上がったルイズを、ワルドは人懐っこい笑顔を浮かべて抱え上げた。

 

 

「相変わらず君は軽いな。まるで羽のようだよ」

 

 

「そんな、お恥ずかしいですわ」

 

 

精悍な美男子であるワルドに見つめられ、ルイズは頬を朱に染める。

 

 

歳が進むに連れ会う機会に恵まれなくなり、実に久方振りとなる婚約者同士の再会。

 

二人の馴れ合いの時間は、今しばらく続くかに見えた。

 

 

だが意外な事に、ワルドは会話もそこそこに抱きあげていたルイズを地面に下ろした。

 

同時に浮かべていた人懐こい笑みも内に潜め、諭すような微笑を浮かべて告げた。

 

 

「さて、ルイズ。再会は嬉しいけど、少し待っていてくれるかい?」

 

 

それだけ言ってワルドはルイズに背を向けると、ギルガメッシュの方へと歩を進めた。

 

ギルガメッシュの面前に立ち、両者の視線が交差する。

 

 

そしてワルドは、目の前に立つギルガメッシュに対して、帽子を取って優雅に一礼してみせた。

 

 

「御初御目に懸かります。私の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。畏れながら貴殿はギルガメッシュ殿であると御見受けしますが、如何に?」

 

 

ギルガメッシュに対するワルドの謙った態度に、ルイズとギーシュの二人は驚いた。

 

 

ワルドの示す礼節には微塵の不足もなく、相手に向ける純粋なる敬意が表れている。

 

不必要に阿りも委縮もせず、高貴なる者を尊ぶ端然としたその姿勢は、まさしく敬愛の礼と呼ぶにふさわしい。

 

 

少なくともそれは、今日初めて会う見ず知らずの人物に対して、魔法衛士隊隊長たる者が見せる態度ではなかった。

 

 

「ほう。我の事を知っているのか?」

 

 

「御噂はかねがね、聞き及んでおります。此度の道中に私も同行する任を姫殿下より承りました。御身の側にて旅路を共にすること、どうか御容赦のほどを」

 

 

「フン、いいだろう。同行を許すぞ、ジャン・ジャック・ワルド」

 

 

殊勝なるワルドのその態度を当然のように受け止め、ギルガメッシュは言葉を返す。

 

別にギルガメッシュに行動の決定権があるわけでもないというのに、やはり当然のようにワルドもその許しの言葉を受け取った。

 

 

あくまで自然体なままの二人のやり取りに、ルイズとギーシュは置いていかれる形でただ呆然としていた。

 

 

「さて、では早速出発と行こうか。任務は急を要するし、アルビオンまでの道のりは長い。少しでも急がなくてはね」

 

 

ギルガメッシュとの問答を終えたワルドが、ルイズの元まで戻って来る。

 

ワルドが口笛を吹くと、朝靄の中から一頭の立派なグリフォンが姿を現した。

 

 

「さあ、ルイズ。君は僕のグリフォンに」

 

 

グリフォンに跨り、その背の上からワルドが手を差し伸べてくる。

 

差し出されたその手に、ルイズはなんとなくの躊躇いを見せて、無意識の内にその視線はギルガメッシュの方を向いた。

 

 

だが目に映ったギルガメッシュの姿から思い出されたのは、昨夜のアンリエッタに対する暴言と無礼な態度の数々。

 

思い出されたそれらの事柄に、ルイズは再び怒りを復活させ、感情に流されるままにワルドの手を取った。

 

 

「ええ、ワルド様。ご一緒に参りましょう」

 

 

ルイズの答えにワルドは微笑みを浮かべて応え、しかしすぐに自分の手元までルイズを引き寄せる事はせずに、その視線をギルガメッシュの方へと移した。

 

 

「そういうことで、よろしいでしょうか?」

 

 

ギルガメッシュに向けて、ワルドは問いかける。

 

ルイズの身を自分が預かることに、ワルドはギルガメッシュからの了承を得ようとしていた。

 

あたかも正当なる所有者に対し、それを借り受ける許可を求めるように。

 

 

そんなワルドの態度が、ルイズにはすごく気に食わなかった。

 

 

「いいわよ、ワルド様。あんな奴は放っておけば」

 

 

ムッとした声音でそう言って、ルイズは自らワルドの跨るグリフォンへと騎乗する。

 

だがルイズがそうしても、ワルドは自分の視線を決してギルガメッシュから離そうとはしなかった。

 

 

そんなワルドに対し、ギルガメッシュは無言のまま、僅かに息をついて肩を竦めてみせる。

 

それを肯定の意志表示と受け取り、ワルドはようやくその視線はギルガメッシュより離した。

 

 

「君。名前は?」

 

 

「は、はい。ギ、ギーシュ・ド・グラモンです」

 

 

憧れの魔法衛士隊の隊長であるワルドに声をかけられ、やや緊張した様子でギーシュは答えた。

 

 

「ほう。グラモンというと、君はあのグラモン元帥の・・・。では、ギーシュ君。君はラ・ロシェールまでの道のりは分かるかね?」

 

 

「ええ。一応は・・・」

 

 

「うん。それは結構」

 

 

ギーシュの答えに、ワルドは満足したように頷いた。

 

そうしてから再び、ギルガメッシュの方へと視線を戻す。

 

 

「私のグリフォンと馬とでは速度やスタミナ配分に差があります。ここは私がグリフォンで先行し、道中の宿やアルビオンまでの足を手配致しましょう」

 

 

ルイズとギーシュと接する時とは違い、確かな礼節を見せてワルドはギルガメッシュに話しかける。

 

そのワルドの言葉に、ギルガメッシュは頷いて了承の意を示した。

 

 

「それでは、次の拝謁はラ・ロシェールにて」

 

 

最後にその一言を残して、ワルドはルイズを膝元に置いたまま、グリフォンを飛翔させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルビオンの玄関口である港町ラ・ロシェール。

 

トリステインからそこまでの道中は、早馬でも二日はかかる長い道のりだ。

 

その道のりを、ギルガメッシュとギーシュをそれぞれ乗せる二頭の馬が突き進んでいた。

 

 

先行するのはギーシュの乗る馬だ。

 

彼はギルガメッシュのラ・ロシェールまでの案内人である。

 

そんな責任と覚悟のいる大任を仰せつかり、ギーシュはその顔に浮かぶ疲労の色を次第に強くしていった。

 

 

一度自分が好奇心を抱いたならば、ギルガメッシュはそれを満たす事に一切の迷いも持たない。

 

その性格の彼が、目的に辿り着くまでの過程の道のりを、わざわざモタモタとしていく理由などない。

 

事実二人の馬はすでに途中の駅にて二度の交換が行われており、道中の速度も一度として落ちていない。

 

そんなペースのギルガメッシュを先導する役割を担うギーシュに休みなどあるはずもなく、半ば馬に倒れ込むような形で馬を走らせ続けていた。

 

 

「陛下は、アルビオンに行くことがそんなに楽しみなのですか?」

 

 

後ろに続くギルガメッシュへと、ギーシュは声をかけてみる。

 

その問いかけは、とにかく会話などして何とか相手のペースを落とそうと、そんな下心も含んだものだった。

 

 

「かつて塔を築いて挑みし天空に、自ら鎮座する大陸とは興味深い。この世界はまだまだ、我を飽きさせることはなさそうだ」

 

 

ギーシュとは対照的にケロリとした顔で、ギルガメッシュは答えた。

 

 

「はあ・・・。まあ確かに、あのアルビオン大陸の光景には、皆が心奪われるのも分かりますよ。僕も一度父に連れられて行ったことがありますが、初めて見たときの感動は今だって忘れていません」

 

 

疲労の中に、過去の記憶を懐かしむ郷愁の感情を映して、ギーシュは言った。

 

そのギーシュの言葉に、ギルガメッシュは興味を引かれたように彼に関心を向ける。

 

 

「ほう。それほどの物か?そのアルビオンとやらは」

 

 

「ええ、それはもう!!なんたってあの『白の国』は―――」

 

 

ギーシュがそう言いかけたその時、自らに向けられる殺意にギルガメッシュの表情が引き締まる。

 

手綱を引いて馬を止め、虚空よりデルフリンガーの柄を抜き放つ。

 

 

次の瞬間、無数の矢の雨がギルガメッシュにめがけて殺到した。

 

 

「ふん」

 

 

鼻を鳴らし、飛来してくる数多の矢をギルガメッシュは手にしたデルフリンガーで悉く叩き落としていく。

 

矢の雨が降り終え、後に在るのは無傷のギルガメッシュと、その周りの地面に突き刺さる無数の矢であった。

 

 

「うわ!うわわ・・・っ!?」

 

 

突然の矢による洗礼に、ギーシュの動揺した声が響く。

 

先行していたため少々距離が開いていたのと、元より矢の雨はギルガメッシュのみを標的としていたらしく、ギーシュもまた無傷であった。

 

ただ突然の事態に驚いた馬が高々と前足を上げ、そこに寄りかかっていたギーシュは必然的に地面へと叩き落とされはしたが。

 

 

悲鳴を上げるギーシュは放置して、いきりたつ自らの馬を鎮めながら、ギルガメッシュは自分達が進む峡谷の上を見上げる。

 

今の矢による奇襲は、道を挟む両側の崖上より放たれた物と見て間違いはないだろう。

 

 

夜盗の類か、あるいはアルビオン貴族の妨害か。

 

このような奇襲に持ってこいの地形を事前に押さえていたことから、単なる物盗りとは考えにくい。

 

しかし王女が枢機卿にさえ話していないこの任務が、昨日の今日でアルビオン貴族に知れて、空の向こうの彼らに妨害工作を打てたというのもまた奇妙である。

 

 

ほんの僅かな時間思案してみたが、結局この襲撃者に関する答えは出なかった。

 

 

「おお、旦那。ようやく出番か。あの蔵ん中は最高だけど、やっぱ入れっぱなしってのは寂しいからな。で、俺はどうすりゃいいんだ?」

 

 

「いや、もう終わりだ」

 

 

にべもなく、ギルガメッシュは告げる。

 

 

彼が襲撃者について考えるのを止めたのは、何も答えが出なかったからではない。

 

そもそも自分が、わざわざ思考を費やしてまで考えるに値しない事柄だと気付いたからである。

 

 

誰が何の理由で及んだかなど、どうでもいい。

 

この自分の歩み、英雄王の行く先に立ち塞がるならば、そんな愚か者にはただ断固とした殺意を以て応じる他の対処など在りはしないのだ。

 

 

「どこの差し金かは知らぬが、王たる我に手を上げたのだ。その罪、もはや貴様らの命を以て償うより他はないぞ」

 

 

宣言と共に、天空にて開かれる黄金の都へと続く空間の扉。

 

そこより現れる無数の宝具達が、崖上に居座る襲撃者へとその矛先を向ける。

 

ギルガメッシュの意思に従い、それらの宝具はちょうど先ほどの矢の雨の返礼の形となって、襲撃者の頭上に降り注いだ。

 

 

襲撃者達の断末魔など、かすかな音にさえなりはしない。

 

その場に轟くのは、放たれた宝具がもたらす破壊の爆音のみ。

 

耳を覆いたくなる轟音の後、宝具の洗礼を前に襲撃者の姿はもはや影も形も見えず、崖であった地形は単なる平地と化していた。

 

 

「あー、もう・・・。旦那はちょっとあっさり終わらせすぎだぜ。これじゃあ俺のする事がねぇじゃねえか。ったく、せつないねぇ・・・」

 

 

「ぼやくな、煩わしい」

 

 

愚痴るデルフリンガーを蔵に納め、ギルガメッシュはギーシュの方に目を向ける。

 

見ればギーシュは、馬から落ちた衝撃と先ほどまでの轟音により白目を向いて失神していた。

 

彼が乗っていた馬もとうに逃げ出しており、随分と情けない姿で地に醜態を曝している。

 

 

捨て置くか、そんな考えがギルガメッシュの思考によぎる。

 

かなり本気でそうしても良いかと考えていたギルガメッシュであったが、とはいえ道案内を途中に放りだすわけにもいかない。

 

やれやれと嘆息してから、ギーシュを叩き起すべく、ギルガメッシュは馬を降りた。

 

 

その時、どこからか自らを見据える気配を、ギルガメッシュは感じ取った。

 

 

「・・・!」

 

 

視線の気配に、ギルガメッシュは素早く反応した。

 

僅かに警戒心を表に出して、すっかり見晴らしの良くなった周囲を見回す。

 

しばらくの間注意深く気配を探っていたが、結局はその正体を掴むことは出来なかった。

 

 

視線の存在を感じられたのは、ほんの一瞬のみ。

 

僅かな事でしかなかったためはっきりと理解したわけではなかったが、その視線は恐怖や嘲笑といった類のものではなかった。

 

 

感じられたのは、観察の視線。

 

見据える対象を過大評価も過小評価もせず、その能力の明確な数値を測らんとする、ガラス玉のように無感情でクールな瞳。

 

卑しき者の醜悪な眼差しほどの不快さはないものの、正体を掴めぬその視線の存在を、ギルガメッシュは鬱陶しく感じた。

 

 

「は~い、ダーリン♪」

 

 

その時、はるか上空より、ギルガメッシュも認知する女性の声が投げかけられる。

 

振り向いて見上げてみればそこには、青い竜に跨ってこちらに向かってくるキュルケとタバサの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュルケとタバサと合流し、ギルガメッシュはそこからの足を風竜シルフィードに切り替えた。

 

話を聞けば、朝方早くに偶然ギルガメッシュらが出かけるのを目撃したキュルケが、友人のタバサを叩き起して付いてきたらしい。

 

 

この時、シルフィードが飛び立つ直前にギーシュが目を覚ましたことは、彼にとって相当の幸運だっただろう。

 

もし意識を取り戻すのがあと一分遅れていれば、まず間違いなくギーシュはその場に放置されていたのだから。

 

 

そうして四人をその背に乗せたシルフィードは、ラ・ロシェールに向けて飛び立った。

 

風竜の飛行速度は竜種の中でも最速。

 

いかにまだ幼体であるとはいえ、その進行速度は馬であった時の比ではない。

 

一行はその日の夜には峡谷に挟まれる港町ラ・ロシェールへと辿り着いた。

 

 

辿り着いたギルガメッシュ達を迎えたのは、門の所でギルガメッシュの到着を待っていたワルドであった。

 

新たに加わったキュルケとタバサの事も、ギルガメッシュが口添えすると特に追及はせず、ワルドは一行を手配した宿へと案内した。

 

ワルドが案内したのは『女神の杵』亭という名の宿。

 

貴族専門の、このラ・ロシェールで最も上等な宿である。

 

そこで待っていたルイズとキュルケが対面し、また一悶着あったりもしたが、とりあえず六人は今後のことを話し合うべく一階の酒場に集まっていた。

 

 

「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」

 

 

席に座る一行に、ワルドは残念そうに告げた。

 

 

「ほう。なぜだ?」

 

 

「明日の夜は双月が重なる『スヴェル』の月夜です。その翌日の朝に、アルビオン大陸はこのラ・ロシェールに最も近づきます。この最短距離分の『風石』しか、ここの船は積んでおりません」

 

 

「その『風石』、とは?」

 

 

「『風』の魔法力を備えた特殊な鉱石です。それを機関とすることで、船は宙に浮かぶのです。ギルガメッシュ殿」

 

 

ギルガメッシュの問いに関してのみ、ワルドは淀みのない敬語を以て答える。

 

そのワルドの様子を、隣のルイズは不満そうな顔で見つめていた。

 

 

「私の魔法力で補えば、出港時間を短くすることも出来ますが、いかがされますか?」

 

 

「よい。気長に待つとする。この宿の質も、まあ許容できぬほどでもないしな」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

一礼してから、ワルドは改めて皆へと向き直った。

 

皆を見回しながら、一行の座る机上に鍵束を置く。

 

 

「ここまでの道中の疲れもある。これからにも備えて、今日はもう寝よう。二人一組の相部屋だが、部屋も取ってある」

 

 

「は~い♪だったらあたしはダーリンと相部屋ね」

 

 

皆が何か言うより早く、ギルガメッシュの腕に身体を絡めてキュルケがそう宣言する。

 

その宣言にルイズは思わず口を開き掛けたが、ギリギリのところで口に出掛けた言葉を飲み込んだ。

 

 

この先、自分は絶対にギルガメッシュの事を無視し続けると決めたのだ。

 

この自分勝手な男に、僅かでも自分の怒りのほどを思い知らせるために。

 

一言謝罪の言葉を聞くまで、ルイズはギルガメッシュの事を許す気は全くなかった。

 

 

「この宿で最も上質の部屋を手配致しました。どうぞ御身がご利用ください」

 

 

そんなルイズの憤りを余所に、ワルドはそう言って特別に装飾が為された鍵をギルガメッシュの前に置いた。

 

そのワルドの対応を、ルイズはムッとして見咎めた。

 

 

「ワルド!!なんだってそんな―――」

 

 

そう癇癪しかけたルイズだったが、その手をワルドがそっと取って微笑んでみせる。

 

見せられる大人の余裕に、ルイズは爆発しかかった感情を沈ませた。

 

 

「さあ、ルイズ。僕たちも同室で。婚約者同士だからね。それに、二人きりで話もしたいんだ」

 

 

いろいろと複雑な心中のルイズに、その申し出を断ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

「えーと・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

消去法で相部屋の組み合わせとなったギーシュとタバサの間には、重い沈黙の空気が流れていた。

 

別に険悪な雰囲気というわけではないのだが、とにかく二人の間には会話が成立しないのだった。

 

 

「い、いやぁ、明日はこのラ・ロシェールに足止めだね。観光になりそうなものがあればいいけど」

 

 

「・・・・・」

 

 

適当な話題を見繕って、ギーシュは口を開く。

 

だがタバサはしゃべらない。

 

 

「そ、そういえば、最近調子はどうだい?なんだか、陛下に振り回されることが多くなってるみたいだけど」

 

 

「・・・・・」

 

 

今度は世間話をかけてみる。

 

だがタバサは答えない。

 

ギーシュの隣のベッドに腰かける小柄な青髪の少女は、同室者の存在など置物ほども気に掛けず、黙々と読書にいそしんでいた。

 

 

(お、重い・・・)

 

 

元来おしゃべりでお調子者な性格のギーシュに、この沈黙は辛すぎる。

 

女好きであると同時に小心者で、一線を越えた事の無いギーシュには、女の子と一つの部屋を共にするというこのシチュエーションは興奮してしかるべきものである。

 

 

だがこの時ギーシュが感じる鼓動の音は、ドキドキではなくドンヨリであった。

 

 

(ああ、陛下がうらやましいなぁ・・・)

 

 

今頃はキュルケと二人で、いいことをしているに違いない。

 

そういえば、あのワルドという貴族とルイズは婚約者であるらしい。

 

婚約者同士の夜であるなら、想像すれば童貞の自分が前かがみになるような行為に及んでいてもおかしくはないだろう。

 

 

その中で、自分だけはこの体たらく。

 

夜の街の喧噪の音が、いやに遠く聞こえるギーシュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうしてゆっくりと君と話すのは、久し振りだね」

 

 

窓際に位置するテーブル、そこに向かい合う形で座って、ワルドとルイズはワイングラスを傾ける。

 

差し込む月夜の光は、昂っていたルイズの精神を安定させ、目の前の婚約者との郷愁の念を思い起こさせていた。

 

 

「覚えているかい?あの小船の事。あの日、君はお姉さん達と魔法の才を比べられて、いじけてあそこに隠れていたな」

 

 

「もう、変なことばかり覚えているのね」

 

 

「そりゃ覚えているさ。君のことなら何でもね」

 

 

「その割には今までずっと、私のことをほったらかしにしていたくせに」

 

 

酒の力もあってか、少々上機嫌になってルイズは意地悪を言ってみる。

 

ここ最近いろいろと心労の溜まることばかり起きていたからか、ワルドとの穏やかな時間は、ルイズの精神を深くリラックスさせていた。

 

 

「確かに、そうだね。それは謝るよ。本来なら、婚約者なんて言える義理じゃないことも分かっている。けど、これだけは信じてくれ。僕は君の事を、ほんの一時だって忘れた事はなかったよ」

 

 

真摯な眼差しを向けて、ワルドは語った。

 

 

「思い返してみれば、ルイズ。君は幼少の頃から周囲と違っていた。確かに失敗ばかりだったけど、その代わりに誰にも負けないオーラを放っていた。魅力といってもいい。

 

あの頃から、僕は確信していたよ。君には特別な力がある。始祖ブリミルのような、歴史に名を残す素晴らしいメイジになるだろうって」

 

 

「そんな・・・。買い被りすぎよ」

 

 

ワルドの惜しみない称賛の言葉に、ルイズは恥ずかしくなって頬を赤に染めた。

 

爆発しか出来ない『ゼロ』である自分を、よりにもよって始祖ブリミルと比べるなど、畏れ多いにもほどがある。

 

ワルドだってきっと挨拶か冗談のつもりで言っているんだろう、そう思ってルイズは彼の言葉を話半分に耳にを傾けていた。

 

 

そんなルイズの態度に構わず、ワルドはなおも語り続ける。

 

 

「買い被りなんかじゃないさ。僕だって並のメイジじゃない。だからこそ分かる。そして何より、君という存在の価値は召喚した使い魔が証明している」

 

 

そして話題がギルガメッシュに及んだ途端、ルイズは不快に顔をしかめた。

 

 

「彼の事を知ったのは、フーケの尋問に立ち会った時さ。彼女の話の中で、春の『サモン・サーヴァント』で召喚された人間のことが話題に上がってね。その話から噂を辿っていくと、いろいろな事を知ることが出来たよ。

 

モット伯での一件のこともね。あれは伯爵自身が怯えて口を閉ざしているから、起訴こそされていないが、あれをやったのは彼なんだろう。その目撃証言だけでも、その力のほどが伝わってくる。

 

あれほどの御方を使い魔として自らの元に来臨させたんだ。これだけでも、君の中に眠る特別な力の証明になる。『メイジの実力を知るなら使い魔を見よ』とは、まさに言い得て妙だな」

 

 

「別に、そんなすごいことじゃないわよ。使い魔には勝手にやらせちゃってるし、あいつがすごくても私がすごいってことじゃないし」

 

 

「謙遜することはないよ。あんな壮大な存在をこの地に招き寄せた。それだけを見たとしても、いかなる魔法をも超える素晴らしい偉業さ」

 

 

熱っぽい口調で、ワルドはギルガメッシュの存在を通した称賛を送ってくる。

 

気の無い様子でそれを受け取りながら、ルイズはずっと気になっていた事を憮然顔で尋ねた。

 

 

「ねえ、ワルド。どうしてそんなにギルガメッシュに謙るの?」

 

 

初回のワルドとギルガメッシュの対面時から、ずっとワルドの態度には違和感を持っていた。

 

ワルドがギルガメッシュに向ける態度は、単なる礼儀上の敬意だけでは表せない。

 

あれは真に敬愛を感じ、格上に仰ぎ見る者に向ける礼節だ。

 

 

確かにギルガメッシュには、平民貴族の身分などを無視した、王者の風格と言うべきものが備わっている。

 

しかしだからといって、噂を聞き及んだだけの初対面からいきなり自らの主君であるように接する理由にはならない。

 

主君への忠義とは、ただ一目会っただけで築けるほどに軽いものではないのだ。

 

ましてワルドはトリステイン魔法衛士隊の隊長という地位にある人物。

 

並の貴族とは力もプライドも違うはずだ。

 

 

それほどの力を持つワルドが、ギルガメッシュに対して明らかに自分を下に見ようとする事が、ルイズには分からなかった。

 

 

「そりゃ、あいつの力はすごいけど、でもあなただって陛下を守る親衛隊の隊長でしょう。もっと堂々としても―――」

 

 

そこまで言いかけた所で、ルイズはワルドの浮かべる表情が変わっていることに気が付いて、思わず言葉を止めた。

 

その時のワルドの浮かべる顔は、心底からの戸惑いの感情。

 

全くの思慮外の問いかけを受けたかのように、答えるべき言葉が見つからずに困惑している。

 

そんなワルドの表情は、ルイズも見たことが無かった。

 

 

「そんなに不自然だったのか・・・、俺は・・・?」

 

 

ようやくその口から出た声も、口調が明らかにこれまでと異なっていた。

 

ルイズは気づかなかったが、自身の呼び方まで変わっている。

 

今もルイズの事など完全に認識外の様子で、自らの思考に埋没していた。

 

 

「ねえ、ワルド」

 

 

「そうか・・・、そうなのか。いや、確かにそうなんだろうな・・・」

 

 

「ねえってば!!」

 

 

ルイズに強く呼びかけられて、ワルドはハッと我に返った。

 

そしてすぐに先ほどまでの余裕ある表情を顔に被せて、ルイズへと意識を戻した。

 

 

「いや、ごめんよ。そうだね、何となく、かな。彼の気品高さに当てられたのかもしれないよ」

 

 

当たり障りの無い答えだけを以て、ワルドはこの話題を中断する。

 

何だかうまくはぐらかされた気がして、ルイズは釈然としなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴族専用の宿の中で最も上等というだけあって、ギルガメッシュに割り当てられた部屋はかなり立派な作りであった。

 

その部屋は今、僅かなロウソクの光のみの薄暗闇の中にある。

 

扇情的な夜の闇の中、レースの飾りが施された天蓋付きのベッドに、裸体のギルガメッシュとキュルケが重なり合うように横になっていた。

 

 

両者の身体に薄らと浮かぶ汗と息づかいのほどから、すでに二人が情事の後であることが洞察出来る。

 

異性とのまぐわいも、ギルガメッシュにとっては己の欲を満たす重要な娯楽の一つなのだ。

 

そんな事に及んだ後の特有の気だるげな雰囲気の中、キュルケが隣のギルガメッシュへと話しかけた。

 

 

「ねえ、ダーリン。あの子爵がルイズの婚約者ってホント?」

 

 

「そうらしいぞ。あの色香の足らぬ小娘には、随分と釣り合わん男ではあるがな」

 

 

「アハハッ、確かにそうね~」

 

 

試しにキュルケは、頭の中でルイズをあのワルドという貴族の隣に並べてみる。

 

どこをどう見ても夫婦には見えない想像の中の二人の姿に、キュルケは思わず失笑を漏らした。

 

 

「でもあたし、あのワルドって人のこと、どうも気に食わないのよねぇ~。顔はいいんだけど、目が冷えきってるんだもの。まるでこっちの事を、物か何かと見てるみたい」

 

 

「ほう。さすがは幾多の男共を手玉に取った女狐よ。なかなかに男子を見る目があるな」

 

 

キュルケの言葉に、ギルガメッシュは感心したようにそちらへと顔を向けた。

 

 

「あのワルドという男、奴の立ち振る舞いには明確で強い意志が宿っている。その意志の源泉たる感情は、己を世界の舵を握る存在たらんとする貪欲な野心であろう。少なくともこれまで見てきたこの世界の雑種の中では最も覇気がある。

 

あれはすべてに置いて自らが利せんがために動く感性の持ち主だ。人も名誉も、そして国ですら道具と見なし、ただ己を高めんがために利用する。恐らく、奴の目には他のすべてが、自らが利用出来るかそうでないかの二択に分別出来るのだろうよ」

 

 

今日見てきたワルドの姿を思い返しつつ、ギルガメッシュはつらつらと語っていく。

 

ワルドの在り様を語るその様子は、どこか愉快そうでもあった。

 

 

「その在り様は美徳だ。あれは覇者となりうる素質がある。あの男が特定の何者かに忠義を尽くすことなどまずあり得ん。今の魔法衛士隊という称号にも、満足など覚えておるまい。あれは自らの生が他人に委ねられるのを嫌う。己のすべてを自身の手で決めねば気が済まぬ気質であろうからな。

 

そしてそれこそが覇を志す者の正しい在り方だ。王者ならば、外聞はともかくとして、内においては己こそを最上の存在と置かねばならぬ。他者の言葉に流される事を良しとする者など、王などとは言えん。

 

まあとはいえ、確かにあれは女に幸を与えられる類の男ではあるまいよ。先に言った通り、奴は何に置いても自分ありきだ。自分以外の他者、ましてや女の幸福など推し測れはすまい」

 

 

「ふ~ん。でもぉ、ダーリンにだけは彼、随分と畏まった態度を取ってたけど。まるで自分が仕える主君みたいに」

 

 

呑気な口調でキュルケはギルガメッシュとの話を続ける。

 

ワルドの覇者足りうる器の事も、キュルケにとっては自分にとってはつまらない男とだけ受け取ったようだ。

 

 

他の何よりも優先し、情熱の中に生きる。

 

それこそキュルケという人間の行いの不文律なのだ。

 

 

「それは少し違っておるな。奴の我に対する敬意は本物だが、それは主君に向けるべき臣下の礼節とはちと質が異なっている。まあ奴自身、自らの敬意の質に自覚があるかは怪しいがな」

 

 

「何なの?その質の違いって?」

 

 

「さあな。それはもう少し、奴という人間を見定めれば明らかとなるであろうよ」

 

 

今後の事に思いを馳せ、ギルガメッシュは愉悦の笑みを浮かべる。

 

それは彼が、新たな娯楽を発見した時に浮かべる特有の凶々しい笑みであった。

 

 

「奴にはまだ一癖二癖か見所がありそうだ。なかなかに興味を湧かせてくれる。アルビオンへの道中、思わぬ拾い物をしたな」

 

 

愉快そうな口調で言いながら浮かべるギルガメッシュの笑みを、キュルケはすぐ隣で見つめていた。

 

気の弱い者ならば直視していることも難しいおぞましさを備えたギルガメッシュの笑み。

 

しかしそんな表情ですら、今のキュルケにはギルガメッシュを彩る魅力の一つに思えるから不思議だ。

 

 

(これも惚れた弱みってやつかもしれないわね)

 

 

苦笑しながらキュルケは、そんなふうに自分の感情に対して思った。

 

 

「でも、そんな奴なら、ルイズを二人っきりにしたままでいいの?あの二人、婚約者なんだし、放っといたらそのまま結婚しちゃうかもよ。ダーリンの話だと、ルイズには相性悪いでしょ、彼」

 

 

「そんな事も自らで見抜けぬならば、そんな愚鈍は我が関心を向ける価値などない。奴にくれてやる」

 

 

試しに問いかけてみたが、やはりのギルガメッシュの解答にキュルケは笑みを漏らす。

 

あくまで他人を自分の道具と見なし、己の快楽のためにのみ活用していく傲慢不遜な在り様。

 

だがそれでこそこの『微熱』が惚れ込む男だと、キュルケは熱い気持ちで思った。

 

 

「ところでさぁ、ダーリン」

 

 

話に一区切りがついた所で、キュルケは妖艶な表情を浮かべて、ギルガメッシュへと迫った。

 

 

「さっき覇者には女を幸せに出来ないって言ってたけど、それじゃあダーリンも女を幸せに出来ないの?」

 

 

「たわけ。この我の器を雑種共と同じ尺度で測るでない。我が手の中に居る内は、室共にはこの英雄王が極上の悦楽を与えよう」

 

 

「そう?それじゃあ是非とも証明してくださらない?」

 

 

挑発的な色を含んだキュルケの言葉に、すぐにその意図を察したギルガメッシュは笑みを返した。

 

 

「ほう。先ほどあれだけ可愛がってやったというのに、まだ快感を求め足らぬとは。貪欲な女よ」

 

 

「お言葉を返しますけれど、あたしもそこいらの女と同じにされては困りますわ。殿方にリードされてばかりなんて、あたしのプライドが許しませんもの。

 

ですから、此度の情事の主導権はこちらに譲っていただきますわよ」

 

 

「やってみるがいい。我は挑戦ならばいつでも受けて立ってやるぞ」

 

 

お互いの宣言の後、キュルケは再びギルガメッシュの逞しい肉体へとのめり込んでいった。

 

 

 

 

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