Zero and heroic king   作:river01

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王の決闘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ。召喚した使い魔に貴族がのぅ・・・」

 

 

『サモン・サーヴァント』で担任をしていたコルベールの報告に、トリステイン魔法学院学園長オールド・オスマンは困ったように頭を掻いた。

 

報告の内容は他でもない、ルイズが最後に召喚した黄金の鎧を纏った男、ギルガメッシュについてである。

 

 

「はい、オールド・オスマン。春の使い魔召喚は代々行われてきた神聖な儀式ですが、さすがにこれは問題かと・・・」

 

 

ギルガメッシュの出で立ちと言動に、コルベールはどこかの国の相当な位を持つ貴族であると当たりをつけていた。

 

そんな立場ある者を強制的に召喚という形で連れ去り、しかも使い魔として従者にしてしまうなど、下手をしたら戦争にも発展しかねない外交問題である。

 

 

実の所、ギルガメッシュは正確にはこの世界でいうところの貴族ではないため、コルベールのこの懸念は徒労に終わるのだが、そんなことは今のコルベールには想像もつかない。

 

 

他を圧倒する強烈な威圧感。

 

人の目を引きつけずにはいられない魔性じみたカリスマ。

 

 

あれを貴族と呼ばずして何だというのか。

 

 

「それで、その召喚されたという貴族の青年はどんな様子だったのかね?」

 

 

「はい。遠くから見かけただけなので詳しくは分かりませんが、ミス・ヴァリエールとは親しくしておりました。あの様子では恐らく、『コントラクト・サーヴァント』も済ませたものかと・・・」

 

 

「本人も同意の上ということなら、それほどの問題にもならんじゃろ。安心せい」

 

 

「そうだと良いのですが・・・」

 

 

楽観的に捉えるオスマンとは対照的に、コルベールはまだ不安そうであった。

 

そんなコルベールにオスマンはやれやれと肩を竦めてみせる。

 

 

「全く、君は心配症じゃのう。そんなことじゃから、そのように頭が禿げあがってしまうんじゃよ」

 

 

「この事と頭は関係ないでしょうが!!」

 

 

何気に気にしている頭のことを指摘され、コルベールは声を張り上げる。

 

そんな剣幕を手で制しながら、オスマンはあくまで呑気そうに呟いた。

 

 

「ま、その青年とは一度きちんと話をせねばならんじゃろうがのう」

 

 

オスマンが呟いたちょうどその時、学園長室のドアがノックされた。

 

 

「誰じゃ?」

 

 

「私です。オールド・オスマン」

 

 

「おお、ミス・ロングビル。どうかしたかね?」

 

 

入ってきたオスマンの秘書を務める緑髪の女性、ミス・ロングビルが多少慌てた様子で話しだす。

 

 

「ヴェストリの広場で決闘騒ぎが起きています。まだ始ってはいないようですか、野次馬の生徒に邪魔されて、教師たちも止められないようです」

 

 

「まったく、暇を持て余した貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんじゃね?」

 

 

「一人はギーシュ・ド・グラモン」

 

 

「あのグラモンんトコのバカ息子か。オヤジも色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きじゃ。大方女の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」

 

 

「それが・・・」

 

 

どんな仕事もテキパキとこなすロングビルにしては珍しく、歯切れの悪い様子で後を続けた。

 

 

「聞いた話ですと、ミス・ヴァリエールが召喚した、貴族と思しき青年とです」

 

 

つい先ほど話題としていた人物が出てきて、オスマンとコルベールは顔を見合わせた。

 

 

「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用を求めておりますが・・・」

 

 

「・・・いや、しばらくは黙って様子を見ておくとしよう」

 

 

いつになく真剣な様子で、オスマンは告げる。

 

それを聞き、ロングビルはその旨を教師たちに伝えるべく、学園長室を去っていく。

 

 

基本的に、この学園では貴族同士の決闘は禁じられている。

 

徹底して、というほどではないが、とりあえず生き死にに関わるような大惨事になったことは一度もない。

 

 

だがそれはあくまで学園の生徒たちに適用されるルールだ。

 

学生ではない、しかも他国の貴族には適用されない。

 

となればこの決闘、迂闊には止めることは出来ない。

 

くだらない理由であるならまだいいが、もしそれが互いの誇りを懸けたものであるなら、それを第三者が止めることは両貴族に対する最大の侮辱となる。

 

 

「まったく、事をややこしくしおって・・・」

 

 

溜め息まじりに呟いて、オスマンは杖を振って壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリの広場の様子を映し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君、決闘だ!!」

 

 

学園西側にあるヴェストリの広場で、ギャラリーにアピールするようにギーシュがそう宣言する。

 

ギーシュの言葉に、噂を聞きつけて集まった生徒たちがワァーと騒ぐ。

 

その中心で薔薇の杖を優雅に振るギーシュは、なかなかに恰好よかった。

 

 

(ど、どうしよう・・・)

 

 

しかしその実、内心ではビビりまくっていた。

 

 

(やっぱ、決闘なんてやめとけばよかったかな・・・。い、いやいや、あれだけの侮辱を受けたんだ。あそこまで言われて黙ってたら男じゃないぞ。ああ、でもなぁ・・・)

 

 

外面だけは優雅に振舞いながら、内心ではウジウジとそんなことを考える。

 

先ほどまでの完全に頭に血が昇っていた状態から時間も経ち、ギーシュもようやくのクールダウンを見せている。

 

 

そしてクールダウンすると同時に、元のヘタレたギーシュに戻っていた。

 

 

(だ、大丈夫さ。相手は魔法が使えないって言ってたじゃないか。メイジでもない者に負けるはずはないよ。うん、きっとそうだ。きっと・・・多分・・・)

 

 

必死に自分を励ましても、考えれば考えるだけ不安が圧し掛かってくる。

 

 

ギーシュとてそこまでの馬鹿ではない。

 

相手が喧嘩を売っていい者か良くない者かの判断くらい、キチンとつけられる。

 

そしてあのルイズに召喚された貴族らしき男は、明らかに後者だった。

 

 

あの貫禄。

 

あの威圧感。

 

まるで己が最強であると、存在すべてで表現しているようではないか。

 

メイジではないと聞かされても、少しの慰めにもならない。

 

 

(ああ、何だってこんなことに・・・)

 

 

本当はすぐにでも逃げ出したい。しかしそんなことは、周りが許さなかった。

 

 

「いいぞー、ギーシュ」

 

 

「あの高慢ちきの鼻を明かしてやれ」

 

 

外野は呑気なもので、好き放題言っている。

 

本人がいれば決して言えないであろうことも、本人がいない今ではお構いなしだ。

 

 

こんな空気の中で、今さら決闘から逃げだしたいなどど、どの口で言えるだろう。

 

皆の歓声に優雅に応えながら、内心ではそいつらのことを罵りまくった

 

 

感情に流されての行動は、大抵は上手くいかないものである。

 

 

そんな時、輪を囲むように集まっていたギャラリーの一方向が、突如として割れる。

 

そしてそこから、金髪赤眼の青年がゆっくりと歩み出てきた。

 

その途端、あれほど騒がしかった周囲の喧噪がピタリと止む。

 

青年より放たれる無言の威圧が、それ以上騒ぐことを彼らに許さなかった。

 

 

「よく来たね。逃げなかったことは褒めてあげようじゃないか」

 

 

スラスラとそう言いながらも、内心では言葉を噛まなかったことにホッとしていた。

 

 

そんなまるで余裕のないギーシュとは対照的に、青年は心底どうでもよさそうに告げる。

 

 

「御宅はよい。さっさとせよ」

 

 

そのあからさまにこちらを見下した態度に、ギーシュのしぼみかけていた怒りに再び火を灯す。

 

元より、ここまで来ては、今さら後になど引けはしないのだ。

 

ならば後は負けのことなど考えず、家名を汚したこの男に自分の魔法の威力を見せるのみ。

 

 

覚悟を決め、ギーシュは杖を振った。

 

 

「僕の二つ名は『青銅』。従って君の相手はこの青銅のゴーレム、ワルキューレがするよ」

 

 

ギーシュの武器である七体のゴーレムの内、まずは一体を様子見に出す。

 

 

しかし肝心の相手は、まるで気にしていない。

 

構えらしい構えもとらず、ぶらんと自然体のままでこちらを見据えている。

 

 

「嘗めるなっ!!」

 

 

キッと叫び、ギーシュはゴーレムを突貫させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんのよあいつ・・・」

 

 

ギーシュがゴーレムを構築したというのに何も仕掛ける様子のないギルガメッシュの姿に、ギャラリーに混じって決闘を観戦するルイズはハラハラとしていた。

 

ギルガメッシュにどんな力があるかは知らないが、ああも無防備ではどう見てもゴーレムのやりたい放題だ。

 

魔法も使えないと言っていたというのに、どうするつもりだろう。

 

 

「あの、ミス・ヴァリエール」

 

 

と、隣で一緒に見ていたシエスタが不安そうに話しかけてくる。

 

 

先ほどのギーシュとの一件で、一応ギルガメッシュに助けられた形を取っていたため、彼女は恩義を感じていた。

 

それにギルガメッシュの方もシエスタに用があったようだし、そのことも気になってこうして付いてきていた。

 

 

実の所ギーシュはシエスタのことを許すつもりだったので、むしろギルガメッシュは事態をややこしくしただけなのだが、それはもはや彼女にはより知らぬことである。

 

 

「本当なんですか?あの人がメイジじゃないって」

 

 

「ええ。自分でそう言ってたわ。今だって杖を持っていないでしょ」

 

 

そう言ってルイズが指すギルガメッシュの手は空。

 

何もせずにただぶら下げているだけである。

 

 

「でも、それじゃあどうやってメイジの方と戦うんですか?」

 

 

「そんなの私だって分からないわよ。それこそ私のほうが知りたいくらいで―――」

 

 

そう言っている内に、ギーシュのゴーレムが動き出した。

 

それなりに素早い動きで、無防備のギルガメッシュへと迫る。

 

 

「危ないっ!!」

 

 

シエスタが目をつむる。

 

ルイズも数秒後のゴーレムに殴り飛ばされるギルガメッシュの姿を想像して、身を硬くした。

 

 

だがその時、ギルガメッシュの後ろより一条の閃光が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何が起きたのか、ギーシュには分からなかった。

 

ただ目の前に広がる光景だけ見れば、それを言葉に表すことは出来る。

 

 

まず、ギルガメッシュに殴りかからんとしていたゴーレムは、今は無残なまでに粉々となり、地にその残骸を曝している。

 

そしてゴーレムの代わりにギーシュとギルガメッシュの間には、一本の剣があった。

 

 

「何だ、それは・・・?」

 

 

呆然と、地に突き刺さる剣を見つめ、ギーシュは呟く。

 

 

シンプルな造形ながらもその刀身は冴えわたり、素人目にもそれが名剣と呼べる一品だと分かる剣。

 

そして何よりギーシュを驚かしていたのは、その剣に内蔵された魔力量だった。

 

 

もはやディティクトマジックなど使用せずとも分かる、途方もない魔力の波動。

 

一番レベルの低いドットメイジのギーシュでさえ理解できた。

 

それが自分の知る物などとは桁外れの、とんでもないマジックアイテムであることを。

 

 

「どうした?まさかこれで終わりか」

 

 

ギルガメッシュの嘲笑に、ギーシュは混乱しつつも何とか杖を振るう。

 

出現したのは残りの六体のゴーレムすべて。

 

こうなっては、もはや出し惜しみなどしていられる状況ではない。

 

とにかく自分の全力をぶつけるしかギーシュにはなかった。

 

 

「その青銅人形共が、貴様の全力か。所詮は雑種だな。おもしろくもない」

 

 

しらけきった様子で、ギルガメッシュは六体のゴーレムを見回した。

 

 

「まあそれでも、全力は全力だ。人の身で我に挑みかかるその蛮勇に免じて、今度は我の力を見せてやろう」

 

 

そう言って、ギルガメッシュは今までただ下げていた手を、片腕のみ僅かに上げてみせた。

 

そしてその指をパチンッと鳴らす。

 

 

           ゲート・オブ・バビロン

「開け―――――――“王の財宝”」

 

 

王の命令に従い、ギルガメッシュの後方で開け放たれる異界の門。

 

 

広がったその光景に、この場にいるあらゆる者が瞠目した。

 

誰もがそのあまりに圧巻な光景に言葉を口にすることもできなかった。

 

 

開かれた空間の門から、幾数もの武具が出現する。

 

そのすべてが見る者を魅了する至高の逸品であり、内蔵する魔力も先ほどの剣と同格か、あるいはそれ以上。

 

これほどの物は国レベルで見ても一本あるかどうかだろう。

 

 

それが目に見える範囲で十六本。

 

人類最古の破格の英雄ギルガメッシュにのみ許された、壮観たる宝具の総列であった。

 

 

「あ、あうぁ・・・」

 

 

そしてその矛先を向けられているギーシュにとっては、まさしく恐怖の光景に他ならない。

 

もはや決闘のことも忘れて、沸き上がる怖れに身を震わせていた。

 

 

「さて。確か貴様らの流儀では、貴族とは魔術によって戦うのであったな」

 

 

と、宝具の列を背にギルガメッシュは唐突に話しかけてきた。

 

 

「本来ならば貴様らの流儀になど合わせる必要もないのだが、郷に居ては郷に従うもまた一興。此度は我もその流儀に乗ってやろう」

 

 

そう言ってギルガメッシュが空間より取り出したのは、一冊の本。

 

分厚い教典のようなその本を開き、そこに載っている古代文字で記された呪文を読み上げる。

 

 

瞬間、ギルガメッシュの周囲に火炎の円陣が燃え上がった。

 

 

「なっ!?」

 

 

驚くギーシュを尻目に、燃え盛る火炎はあたかも大蛇のように伸び、あっという間三体のワルキューレを飲み込んだ。

 

青銅で造られたワルキューレはその炎に耐えきれず、瞬時に溶解した。

 

 

「そ、そんな。き、君は、魔法が使えないんじゃなかったのかい!?」

 

 

「それは聞き違いだな。確かに我は魔術師ではない。だが―――」

 

 

言いながらギルガメッシュは新たなページをめくる。

 

 

「魔術を使えんなどと言った覚えはないぞ」

 

 

後半の言葉は呆然としているルイズに向けて、ギルガメッシュは告げる。

 

そして残り三体のワルキューレに向けて、再び古代文字の呪文を唱えた。

 

 

今度の魔法は真空の刃だった。

 

ハルゲギニアの魔法で言うところの『エア・カッター』に似た風の刃が無数に飛び交い、ワルキューレを切り刻んでいく。

 

数秒後には、バラバラとなったワルキューレの破片がカラカラと地面に落ちた。

 

 

「ま、参った・・・」

 

 

七体のゴーレムすべてを失い、ギーシュは完全に戦意喪失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着はついた。

 

 

膝をついたギーシュの姿に、誰もがそう思った。

 

もちろんルイズも。

 

 

この決闘、いや、もはや決闘とも呼べない一方的な蹂躙は、ギルガメッシュの勝利で終わった。

 

 

なのに、なぜ――――――

 

 

「ギルガメッシュ、待ちなさい!!」

 

 

なぜ自分の使い魔である黄金の英雄王は、今も残虐なる殺意の笑みをギーシュに向けて浮かべているのだろう。

 

 

「何だ?ルイズ」

 

 

「ギルガメッシュ、決着はついたでしょう。あなたの力は十分に分かったわ。だからもうその武器を納めなさい」

 

 

静かに、だがはっきりとルイズは言う。

 

 

ここで自分がギルガメッシュを止められなければ、恐ろしい事になる。

 

根拠はないが、しかし確信を持って、ルイズはギルガメッシュの姿を見据える。

 

 

だがそのルイズの言葉を、ギルガメッシュは鼻で笑って切り捨てた。

 

 

「フン、決着だと?とんだ早合点だな。まだ最後の裁定が残っておるというのに」

 

 

「最後の、裁定?」

 

 

「決闘の勝敗は無論、この我の勝利だ。だがな、敗者の扱いはまだ決まっておるまい。それが決まらぬ内は、確かな意味での決着とはいえん。すなわち―――」

 

 

そこでギルガメッシュは、ギーシュを見た。

 

その双眸に、快楽的な殺意を抱きながら。

 

 

「地に伏した敗者を、寛大なる慈悲を以て救うか、あるいは冷酷なる死をくれてやるか。それは勝者が決めることだ」

 

 

その言葉に、膝をついて伏していたギーシュがビクリとその身を震わせた。

 

 

「な、なに言ってんのよ!!勝負がついたんだから、決闘はこれでお終いよ」

 

 

「たわけが。お前の意見など聞いておらん。そもそも決闘という言葉を口にする以上、命を捨てる覚悟を抱くは当然のことだ」

 

 

「そんなの―――」

 

 

なおも言い募ろうとするルイズ。

 

しかしその眼前に飛来した三本の宝剣が突き刺さり、ルイズは言葉を飲み込んだ。

 

 

「ルイズよ。お前には我に意見する栄誉を与えた。故にある程度の僭越は不問に処す。

 

しかし王の裁定に口を挟むほどの不敬を許した覚えはない。これ以上の口出しは、お前とて許さぬぞ」

 

 

向けられたギルガメッシュの殺気に、ルイズは委縮して口を噤んだ。

 

ルイズが沈黙すると、改めてギルガメッシュはギーシュへと視線を戻す。

 

 

「さて、小僧。裁定の時だ」

 

 

恐る恐る、ギーシュは顔を上げる。

 

ギーシュの目に、自分を見下ろす血色の双眸が映った。

 

 

「本来ならば、貴様如き雑種など我にはどうでもよい。我自らの手で殺してやるほどの理由もなかった」

 

 

言いながらギルガメッシュはゆっくりとギーシュへと歩み寄っていく。

 

 

「しかし貴様はこの我の言葉に横やりを入れた。また身の程も弁えぬ罵声の数々で、我を侮辱した。そのような輩、王の慈悲を賜す道理もない」

 

 

ギーシュの元まで歩む道中で、ギルガメッシュは一体目のワルキューレを粉砕した宝剣を手にする。

 

それを引き抜き、ギルガメッシュは剣を片手にギーシュの眼前に立った。

 

 

そして、王の裁定が下される。

 

 

「故に、死ね。それが我の決定だ」

 

 

感情を一切欠いた声で、ギルガメッシュは冷酷なる処刑を宣告した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

恥も外聞もない哀れな悲鳴を上げて、ギーシュは遁走する。

 

しかしその退路は、即座に飛来した宝剣宝槍によって封殺された。

 

 

「どこへ行く?我はお前に死ねと決定したのだ。王の命を無視して去るは無礼であろう」

 

 

飛来した宝具の衝撃に無様にすっ転ぶギーシュに、ギルガメッシュは恐怖を与えるようにゆっくりと歩み寄る。

 

その一歩が大地を踏みしめる度に、ギーシュは魂の底まで震え上がった。

 

 

(まったく、いかに雑種相手とはいえ、これほど歯応えがないとはな・・・)

 

 

しかしギーシュを追い詰めるギルガメッシュも、今の状況はあまり好ましいものではなかった。

 

 

この決闘は、仮にも英雄王のハルゲギニアにおける初陣である。

 

その記念すべき闘争が、ここまで呆気ないのはギルガメッシュとしても不本意だ。

 

 

これでは茶番どころか、単なる時間の浪費でしかない。

 

そのような無為なる行為に興じたこと事態、この英雄王の沽券に関わる。

 

 

「・・・ふむ。一つおもしろい余興を思いついたぞ」

 

 

そう呟くとギーシュの眼前に立っていたギルガメッシュは、唐突に自身の足元に手にしていた剣を突き立てた。

 

そして目の前のギーシュより一歩だけ後退する。

 

 

「貴様に最後の機会を与えてやろう」

 

 

「え?」

 

 

ダラリと無防備に両手を下げ、ギルガメッシュは告げた。

 

 

「一撃のみ、反撃を許す」

 

 

ギルガメッシュの言葉に、ギーシュは呆然とする。

 

その言葉の意味が、今の彼にはよく分からなかった。

 

 

「その一撃にて、我を倒してみろ。さすればこの決闘は貴様の勝利。この場より生き延びることが出来る」

 

 

ギルガメッシュの言葉がギーシュの耳に届く。

 

その言葉の中でも、今のギーシュには生き延びるという言葉が最も印象強く残った。

 

 

生き延びれる?自分はこの男を相手に、生き延びることが出来るのか・・・?

 

 

「どうした?これが貴様が生き延びる最後の機会なのだぞ。よもやこの好機を放棄したりはすまい?」

 

 

嗜虐の笑みを浮かべ、ギルガメッシュはギーシュの様子を興味深そうに見つめる。

 

 

その笑みで、ギーシュには理解できてしまった。

 

目の前の男に、自分を助けるつもりなど微塵もない。

 

自分がこうして今生きているのは、この男の単なる気まぐれに過ぎないことを。

 

 

窮鼠猫を噛むという格言よろしく、この男は自分の反応を楽しんでいるのだ。

 

追い詰められた鼠がどのような反撃に打って出るのか、遊戯の心で眺めている。

 

 

しかも自分という鼠が相対するのは、猫ではなく獅子。

 

どれほど牙を突き立てようと、その存在を打倒することなど敵わない。

 

 

そしてそれは、目の前の男も分かっている。

 

分かっているからこそ、その慢心を以て自分に気まぐれの機会を与えているのだ。

 

 

単純に、自分の快楽のために。

 

 

この男に命乞いの類は一切通用しない。

 

そのようなつまらない事を口にすればその瞬間、この男は先の決定通り、呼吸するかのような自然さで、あっさりと自分を惨殺するだろう。

 

 

「・・・ほう」

 

 

故に、ギーシュは立ち上がった。

 

花弁は尽き、最初の優雅さなど見る影もない薔薇の杖を握りしめ、ギーシュは目の前の絶対の男を睨みつける。

 

 

すでに身の震えは止まっている。

 

極限まで追いつめられたギーシュの精神は死の恐怖を越え、その魂を勇敢に奮い立たせていた。

 

 

自分はこの男に勝てないだろう。

 

しかしながら、敗者には敗者なりの意地がある。

 

打倒することが敵わぬならば、その一噛みでせめて血の一滴でも流させてみせよう。

 

 

今こそこの天上の存在に示すのだ。

 

ギーシュ・ド・グラモンという人間の意地を、強さを、矜持を。

 

 

「アンスーン・ケン・ソエル・ユル・シゲル・ティール・ウィルド・・・」

 

 

ギーシュの口より、流れるようにルーンの呪文が紡がれる。

 

その声に恐怖は微塵たりと存在しない。

 

精神はこれまでの生涯で最も奮い立ち、身体を駆け巡る魔力も激流の如き勢いだ。

 

 

そしてギーシュの渾身の一噛みが、ギルガメッシュに襲いかかった。

 

 

「っ!?」

 

 

ギルガメッシュの表情に驚愕が浮かぶ。

 

 

ギーシュの呪文が完成した瞬間、ギルガメッシュの足元の大地が沈み込み、代わりに周りの大地が隆起する。

 

隆起した大地はそのまま巨大な顎のように、ギルガメッシュの身体を飲み込んだ。

 

 

『グランドスパイク』

 

『土』『土』『土』の三重属性にて紡がれるトライアングルスペル。

 

 

ギーシュの抱いた決死の覚悟が、彼の奥底に眠る魔法の才を一気に覚醒させたのだ。

 

 

「うおお!スゲェぞ、ギーシュ!!」

 

 

「そんな魔法、一体いつ覚えたんだよ!?」

 

 

周りから歓声が上がる。

 

それを聞くギーシュ自身にも信じられない心地だった。

 

自覚がない様子で呆然と、ギーシュは己が手を見つめる。

 

 

男子としてはいかにも細く頼りない、自分の手。

 

この手があれほどのスペルを紡ぎだし、あの男に一矢報いることを成功させたとは、自分自身でも実感が湧かなかった。

 

 

「―――驚いたぞ。雑種にしては、なかなか見事な抵抗であった」

 

 

その声にギーシュは仰天して、閉じた大地の顎を見る。

 

一固まりとなった土の山に、中心から亀裂が入る。

 

亀裂はあっという間に全体でと広がり、中より飲み込んだ者を吐き出した。

 

 

「最後の最後で、少しは楽しませてもらった。褒めてつかわす」

 

 

まるで変わった様子のないギルガメッシュの声。

 

しかしその身に纏う装束は一変していた。

 

 

見るも神々しい黄金の鎧。

 

召喚時に見せたその鎧を、再びギルガメッシュは纏っていた。

 

 

「よもや我にこの鎧を使わせるとはな。正直、予想以上だった」

 

 

トライアングルスペルの直撃と受けたというのに、ギルガメッシュには何の損害も見られない。

 

 

すべてあの鎧が防いでしまったのだろう。

 

 

仮にもギルガメッシュが愛用の品として選んだ鎧。

 

そこらの凡庸な鎧とは次元が違うのだ。

 

 

ともかく、これでギーシュの万策は尽きた。

 

七体のゴーレムはすべて倒され、精神力も今の『グランドスパイク』で打ち止め。

 

もはや対抗する術はない。

 

そもそも、この一撃で仕留めきれなかった時点で、ギーシュの命運は決定したのだ。

 

 

すぐに下されるであろう死の運命。

 

だがそれを前にギーシュは、驚くほど静かだった。

 

身に迫る死に臆することなく、一種の諦観でその結末を受け入れていた。

 

 

自分は確かな意地を見せた。

 

恥じる事のない人生を生き切った。

 

その思いが、今のギーシュの胸にはあった。

 

 

「ふむ・・・」

 

 

ギーシュのその様子を見つめつつ、ギルガメッシュは先ほど突き立てた剣を引き抜く。

 

それをギーシュへと向けて、死を与えんと振り上げる。

 

 

ギーシュは動かない。

 

ただ静かに、自分の生命を断つであろう宝剣の刃を待つ。

 

 

その様子を目にし、ギルガメッシュは笑みを浮かべて言った。

 

 

「フン、気が変わったぞ」

 

 

そう言って、ギルガメッシュは先ほどまであれほど漲らせていた殺意を沈め、剣を空間の鞘へと戻した。

 

宙に浮かんでいた宝具も、次々とその姿を消す。

 

 

突然の事態に最も驚いたのは、他でもないギーシュ本人だった。

 

 

「なぜ・・・?僕を殺すんじゃなかったのか?」

 

 

「なに、ただこの場で安易に殺すには惜しいと判断したまでだ」

 

 

口元に愉快そうな笑みを浮かべ、ギルガメッシュは答えた。

 

 

「人は危機に瀕した時、その本質が現れる。その属性は大きく分けて二つ。

 

震えあがってただ縮こまる者か、奮い立って立ち向かえる者か。

 

貴様はその後者に属する。ならば貴様にはまだ見所がある」

 

 

傲慢なる英雄王よりもたらされる称賛の言葉。

 

それは相手のあらゆる肩書きを無視した、真に相手の価値を認める言葉だった。

 

 

「小僧。貴様の名は?」

 

 

「ギ、ギーシュ・ド・グラモン・・・」

 

 

「ギーシュか。その名、覚えよう」

 

 

そう言ってギルガメッシュはギーシュに背を向けて歩き出す。

 

それは今度こそ、この決闘が決着したことを示していた。

 

その事実、自分が生き残ったのだということを実感し、ギーシュはフラフラとその場に座り込む。

 

 

力が抜けてしまって、立つことが出来ない。

 

先ほどまでの事を思い返すと、改めて膝が震える。

 

しかし同時にその胸には気高い誇りがあった。

 

 

決闘の結果を見れば、敗北したのはギーシュだろう。

 

だがそれでギーシュを敗者と嗤うなら、それは英雄王の呵責なさを知らぬが故。

 

あの超絶の存在と相対し、いまだに命を繋げている事、それ自体がすでにひとつの栄誉であり、勝利だった。

 

 

思い返してみれば、自分がこの手で掴み取った勝利は、これが生まれて初めてだった。

 

名門貴族の子として生まれたギーシュには、大抵のものは何もせずとも手に入れることが出来た。

 

 

だがそれらはあくまで他者より与えられた物。

 

自身の力で勝ち取った物ではない。

 

思えば、自分が最初にギルガメッシュの暴言に怒った時、あれほどあっさりとその怒りを萎ませてしまったのも、真に自身の手で手に入れたものではなかったからではないのか。

 

 

貴族としての在り方も、その家名の価値も、所詮は他人に言われて懐いたもの。

 

そんなものに対して、真の怒りなど抱けるはずがない。

 

 

しかし、この勝利だけはギーシュが自らの手で掴んだ物だ。

 

そのことがギーシュには何より誇らしく、ギーシュの中で今までにない輝きを放っていた。

 

 

「せいぜい励めよ、ギーシュ。今後我を更に楽しませるためにな」

 

 

肩越しに振り返り、ギルガメッシュが言葉をかける。

 

 

目に映る堂々たる意志を示す背中。

 

他者を省みず、それ故に他者に流されることの無い、絶対唯一の強さを湛えた王者の姿。

 

 

その孤高にして気高い後ろ姿を、ギーシュは焦がれた瞳で見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡に映るその光景を、コルベールとオスマンは言葉もなく見つめていた。

 

先ほどまでの他国の貴族だとか外交問題だとかといった心配事が、今では思考の片隅にさえ思い浮かばない。

 

 

鏡の中で繰り広げられた超常の光景。

 

それを目にすればいやがおうにも理解できた。

 

 

彼の者は、そのような常識では縛れない規格外なのだと。

 

 

「ふぅぅむ、これは・・・」

 

 

鏡には今、決闘を終えたギルガメッシュの姿が映っている。

 

その姿を眺めながら、オスマンはこの人物をどう扱うべきか迷った。

 

 

メイジの常識さえ逸脱した圧倒的な力。

 

そしてそれを担う者の気性は天災の如き気まぐれさ。

 

今回は血が流れることは無かったが、果たして次もそうだとどうして言えるのか。

 

 

そのようにオスマンが考えていると、鏡の中のギルガメッシュの視線が唐突にオスマンの方を向いた。

 

 

「っ!」

 

 

よもや遠見が見抜かれた?

 

 

向けられる血色の双眸にオスマンはとっさにそう思い、そしてそれは見事に的中していた。

 

 

「そこな我を覗き見る不埒者よ」

 

 

明らかに自分に向けられたその言葉に、オスマンはその身を震わせる。

 

 

完全に気付かれている。もはやそう確信せざる得なかった。

 

 

「王の姿を覗き見るとは度し難い無礼。すぐにその卑しい視線を引っ込めろ、痴れ者がっ!!」

 

 

鏡越しからのギルガメッシュの一喝。

 

その迫力に当てられ、オスマンは手にしていた杖を思わず取り落とした。

 

 

瞬間、オスマンからの魔法が途絶え、鏡に映っていた映像も消える。

 

 

「まったく、ミス・ヴァリエールもとんでもないもんを召喚したもんじゃのう・・・」

 

 

やれやれと肩を落とし、オスマンは呟く。

 

 

齢100歳をゆうに超える老獪たる自分を、ただの一睨みで臆させた途方もない王気。

 

それを目の当たりにし、オスマンは諦めと共に悟った。

 

 

もはやあれは他人が何を考えたところで益体のない存在。

 

あの者の行動を決定できるのは、あくまで彼本人だけだ。

 

どう足掻いたところで、あれを他人が御することは出来ないだろう。

 

 

そんな存在の出現に、しかしどこか痛快さを感じつつも、オスマンはふぅと息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不埒者に釘を刺し、ギルガメッシュは本来の要件へと戻った。

 

 

「シエスタよ」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

話しかけてきたギルガメッシュに、裏返った声でシエスタは答えた。

 

その様子は誰の目から見ても明らかなほど緊張している。

 

 

だが、それも無理もない。

 

英雄王の超絶の威光を目の当たりにした直後のこと。

 

その本人に声をかけられ、緊張しないほうが無茶だった。

 

 

「お前を、我が従者に任命する。今後は我の元に控え、我のために奉公せよ」

 

 

「わ、私が、ですか!?」

 

 

「左様。よもや不服はあるまい?」

 

 

問いかけるギルガメッシュ。

 

しかしそれは問いの形をしてはいても、その実反論など許さぬ宣告であった。

 

 

英雄王の威光を以て投げかけられるその言葉に対し、誰が首を横に振れるだろう。

 

ましてそれが何の力も持たぬ平民の少女であれば猶の事。

 

気がつけばシエスタは首を縦に振っていた。

 

 

「うむ。誠心誠意我に仕えるがよい。確かなる忠義には、我は確固たる恩賞を以て応えよう」

 

 

一方的な契約を終え、用を済ませたギルガメッシュはヴェストリの広場から立ち去っていく。

 

 

広場からいくらか離れた所で、後ろからルイズが追い付いてきた。

 

 

「待ちなさいよ、ギルガメッシュ」

 

 

呼びかけられ、ギルガメッシュは足を止めて振り返った。

 

 

「ねぇ、聞かせて」

 

 

「うん?何をだ?」

 

 

「どうして、ギーシュを助けたの?」

 

 

あの最後の心変わりの瞬間まで、ギルガメッシュは確かにギーシュを手に掛けるつもりでいた。

 

あれほど冷酷に振りまいていた殺意を何を以て止めたのか、ルイズは気になった。

 

 

「言ったとおりの意味だ。奴にはまだまだ楽しむ余地がある。現時点で早々に散らせてしまうのも、少しばかり惜しいと感じたのだ。故に、生かした。それだけの事よ」

 

 

「楽しむって・・・、ギーシュの何が楽しいのよ?」

 

 

「決まっている。我が味わうは奴の生そのもの。矮小なる人の愚かしい苦行の生こそが、我が最大の娯楽なのだ」

 

 

高らかに、ギルガメッシュは言い放った。

 

 

「人としてこの世に生を受け、その身に添わぬ傲慢なる生を歩まんとする者。そんな者共の生の在り様を、我は好む。

 

善意も悪意もひとしく区別無く、己が領分を越えた悲願に手を伸ばさんとする愚か者。

 

そんな儚くも、しかしながら眩しい者を、我は愛でよう」

 

 

常時の彼からは想像も出来ないほどに澄んだ瞳で、ギルガメッシュは告げる。

 

 

ギルガメッシュのその言葉は、目の前のルイズではなく、もっと遠い彼の地に在った何者かに向けているようだった。

 

 

「故に、お前もまた励むがよい、ルイズ。幾多の苦渋と挫折を味わい、なおもその気高い精神を色褪せぬ者よ。

 

その内に宿る輝きが、類い稀なる至宝の光であるか否か、このギルガメッシュが見定めてやる」

 

 

はるか高みから投げかけられるギルガメッシュの言葉。

 

 

小さなルイズはそれに答えを返すことも出来ず、ただ自分が召喚した大きすぎる存在の姿を、その瞳に映していた。

 

 

 

 

 

 

 

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