Zero and heroic king   作:river01

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王と品評会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「品評会に出なさい」

 

 

「断る」

 

 

ルイズの言葉に即答し、優雅に席に座るギルガメッシュは手にするティーカップのほうに意識を戻す。

 

その中に注がれた紅褐色の茶を口にし、味わいを十分に吟味してから、傍らに控えるシエスタに顔を向けた。

 

 

「なかなかに葉の味わいを引き出しているな。しかし、まだ改善の余地はある。精進するがよい」

 

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

声をかけられたシエスタが深々と頭を下げ、答える。

 

モット伯の屋敷での一件以来、シエスタはより献身的にギルガメッシュの世話をするようになっている。

 

今までギルガメッシュの身の回りを管理していた人形も、すでにその役割を失いつつあるほどだ。

 

また僅かにはにかんだその表情からも、シエスタが単なる隷属の関係でこうしているのではないのは明らかだった。

 

 

「って、なに私を無視して紅茶の話なんかしてんのよっ!!」

 

 

ルイズが叫ぶ。

 

ギルガメッシュはさも煩わしそうに彼女へと視線を向けた。

 

 

「この我に雑種共の見世物になれ、だと。ハッ、話にならん。王であるこの我がそのような道化芝居に興ずるか」

 

 

春の使い魔品評会。

 

春先に行われるこの行事は、トリステイン魔法学院での祭りのようなものだ。

 

 

進級しての最初の授業で手に入れた使い魔でそれぞれに芸を競わせ、その優秀さを皆に示す。

 

また夜には『フリッグの舞踏会』と呼ばれるダンスパーティーも開かれ、生徒たちはこの年に一度の祭りで恋に娯楽にと興じるのだ。

 

 

二年の進級生にとっては、まさに自分の力量を皆に見せつける絶好の機会。

 

だがルイズの場合、その肝心の使い魔にまるでやる気がないのだった。

 

 

「あのね、この使い魔品評会は私たち二年生にとって、欠かせないことなのよ。使役する使い魔によって、メイジの力量は判断されるんだから。

 

アンタだって一応私の使い魔でしょ。だったら―――」

 

 

「フン。では、ルイズよ。この我が出れば、お前の格が決定するのか?」

 

 

予期せず投げかけられたギルガメッシュの問いに、ルイズは返答に窮した。

 

 

「えっ・・・!?」

 

 

「この我を使い魔如きの枠にあてはめる事自体、相応の無礼ではあるが。しかしそこを許容して我がその品評会とやらに出席したとしよう。

 

そうなれば無論のこと、我に匹敵する存在などおるまい。我は最強だからな。だがそれで、お前が最強のメイジであるという、証明になるというのか?」

 

 

ギルガメッシュの問いかけに、ルイズは答えることが出来なかった。

 

 

このギルガメッシュという、己が召喚した使い魔の強大さは、もはや疑いようも無い。

 

だがそれが自分の優秀さを表しているかといえば、それは否だ。

 

 

召喚には成功しても、魔法が使えるようになったわけではなく、相変わらず爆発してばかり。

 

使い魔がすごくても、自分が『ゼロ』であることに変わりはない。

 

 

「お前が我と肩を並べるには、余りに未熟が過ぎる。我が傍らに立つ栄誉が欲しくば、せいぜい己を磨くのだな」

 

 

そうとだけ言って、ギルガメッシュは再び紅茶の香りと味わいを楽しむ。

 

 

その使い魔の姿に、ルイズはもう言葉をかけることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双月の光が照らしだす、トリステイン魔法学院の本塔。

 

宝物庫のある五階の壁に、黒いローブに身を包んだ人影が垂直に佇んでいた。

 

 

「ふぅん。どうやら本当に『固定化』の魔法以外はかかっていないようだねぇ」

 

 

その人物の名を、『土くれのフーケ』という。

 

最近にトリステインの巷を騒がす、土のトライアングルメイジの盗賊である。

 

その盗みのやり方は変幻自在にして神出鬼没。

 

時に夜闇に乗じて侵入し、時にその自慢のゴーレムで屋敷を破壊して、目当てのマジックアイテムをことごとく手に入れるのだ。

 

パターンを読ませぬその手口は、トリステイン王宮の衛士たちも頭を悩まし、まさしく大怪盗の名にふさわしいメイジであった。

 

 

そんなフーケが次に狙いを定めたのは、このトリステイン魔法学院の秘宝と呼ばれる品。

 

こうして宝物庫の位置にある壁に佇んでいるのも、盗みのため、宝へと繋ぐ壁の厚さを測るためだ。

 

 

「どうやら、あのコッパゲの情報は確かなようだねぇ。今夜に仕掛けてもいいが・・・、いや、せっかくだし、三日後の品評会の日にしよう」

 

 

足の裏を使って壁の厚さを測りながら、フーケは自身の想像にほくそ笑む。

 

フーケが盗みを働く理由は、単純に財宝を求めてということもあるが、もう一つに貴族達の慌てふためく滑稽な顔を見るためという、個人的な感傷も含まれていた。

 

 

「せいぜい年に一度のお祭り騒ぎの日に、赤っ恥をかいてもらおうじゃないのさ。ふんぞりかえる貴族の坊や達にね」

 

 

ローブに隠されたフーケの口より漏れた呟きが夜闇の中に消え、フーケもまたその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は移り、三日後の使い魔品評会当日。

 

広場に設置されたステージの上では、生徒たちが順番に自身の使い魔を披露し、その有能さをアピールしている。

 

ある者は輪の形をした火を吹かせ、ある者は音楽に合わせた芸をさせる。

 

それを審査員の教師陣が評価し、観客席の生徒らが歓声をあげていた。

 

 

そうして使い魔を連れた生徒たちが代わるがわるに入退場を繰り返していき、やがてルイズの出番となった。

 

 

「えー、それでは次はミス・ヴァリエールの使い魔ですが・・・」

 

 

進行役のコルベールが、少々困った様子でルイズを見る。

 

ステージに上がったルイズは、しかし一人きりであった。

 

 

「その、使い魔の方が品評会への出席を拒否したとのことでして・・・」

 

 

コルベールがルイズの一人である旨を伝えると、観客席の生徒たちは一斉に笑いだした。

 

曰く、さすがゼロのルイズだ、だの、使い魔までゼロになったのか、だのである。

 

 

ここで、ルイズの使い魔であるギルガメッシュの人格をよく知る者達は、この成り行きに納得していた。

 

あの自尊心の権化のような男が、自身を見せ物にするようなこの行事に参加などするはずがない。

 

それを考えれば、この成り行きは当然と、ルイズを笑うようなことはしなかった。

 

 

そのような罵詈雑言を受けながら、しかしいつものように怒鳴り返すような真似はせず、ルイズは黙ったままステージより降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージを降りたルイズは、沈んだ表情で、会場より離れるように学園内の敷地を歩き始めた。

 

今頃は今年最高の使い魔を決める最終審査が行われているだろうが、使い魔を連れてきていないルイズには関係がない。

 

とにかくルイズは、あの自身の使い魔を誇らしげに見せる者達の空間に居たくなかったのだ。

 

 

(未熟、か・・・)

 

 

ギルガメッシュの言葉を思い出す。

 

確かに、その通りなのだろう。

 

あれほどの超絶な力を有する男を、『ゼロ』の自分が使い魔にするなど、分不相応なのは当然だ。

 

 

ましてそんな存在を使い魔として従えるなど、笑い話にもなりはしまい。

 

モット伯の屋敷の一件でついた自信も、いまでは萎んでしまっていた。

 

 

(けど、だったらアンタは何で召喚されてきたのよ・・・?)

 

 

使い魔召喚の儀式、『サモン・サーヴァント』は、召喚者にとって最もふさわしい存在が使い魔として召喚される。

 

ならば自分がギルガメッシュを召喚したことにも、何らかの意味があるのではないか。

 

 

そう思うが、これまでの自分とギルガメッシュの行動を振りかえると、そんな考えにもまるで自信を持てない。

 

これまでの行動の主導権を握ってきたのは、明らかにギルガメッシュだ。

 

自分はただ彼の行動に振り回されてきただけ。

 

 

こんな体たらくで、召喚の意味など考えても自信など持てるはずもない。

 

自分がギルガメッシュを召喚してしまったのは何かの間違いで、本当の自分の使い魔は他にいるのではないか。

 

そう考えたほうがどれほど自然だろう。

 

 

そのような弱気を抱きながらルイズは歩を進め、品評会の行われている広場のちょうど裏手へと回る。

 

そこでルイズは、学園の本塔に拳を振り上げる、土の巨人の姿を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、まさかここまで頑丈とはね」

 

 

自慢のゴーレムの鉄拳を受けてなお傷一つ作らない宝物庫の壁に、三十メイルにもおよぶ破格の大きさのゴーレムの上に立つフーケは舌打ちした。

 

厚さや材質だけを考えれば自分のゴーレムで十分に粉砕できる計算だったが、かけられた『固定化』の魔法が予想以上に優れていたらしい。

 

スクウェアメイジが複数で重ねがけした『固定化』は、保存の効果のみならず壁の強度自体も増大させていたのだ。

 

 

さてどうしたものかとフーケが考えていると、突然宝物庫の辺りで爆発が起きた。

 

 

「な、何だいっ!?」

 

 

爆発に驚いて、フーケはゴーレムの下を見下ろす。

 

そこには杖を構える一人の女生徒の姿があった。

 

 

「今のはあいつの仕業か。品評会をすっぽかすなんて、とんだ不良学生だね・・・!」

 

 

言ってる途中で、フーケはハッと気づいた。

 

 

先ほどの爆発にさらされた宝物庫の壁。

 

ゴーレムの一撃にも耐えた頑強な壁にヒビがはいっているではないか。

 

女生徒が放った、思わぬ威力の未知の爆発魔法に、フーケは首を傾げる。

 

 

だが、チャンスであることは間違いない。

 

フーケは再びゴーレムの腕を振り上げさせ、その拳を宝物庫の壁へと打ち落とした。

 

 

インパクトの瞬間に鉄へと変化したゴーレムの拳は、頑強だった壁を見事に粉砕し、フーケはゴーレムの腕を伝って宝物庫の中へと入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にそびえ立つ巨大なゴーレムに、ルイズは再び杖を振るった。

 

唱えた呪文は『ファイヤーボール』だったが、起きたのはいつもの爆発だった。

 

 

爆発がゴーレムの身体の一部を吹き飛ばしたが、その巨体から見れば焼け石に水。

 

削れた箇所もあっという間に再生してしまう。

 

 

どう考えても勝ち目は無かったが、しかしルイズは逃げようとはしなかった。

 

 

馬鹿にされたくないから、『ゼロ』と蔑んだ連中を見返したかったから、そんな理由もあったが、何より彼女の思考を捉えるのは、自身の使い魔の姿だ。

 

あの男の隣に立とうという人物が、立ちはだかる敵を前に臆病に逃げ出すなどあってはならない。

 

理屈ではなく、直感的なもので、ルイズはそう感じた。

 

 

その直感こそが、ルイズをこの巨大なゴーレムへと立ち向かわせていたのだ。

 

 

しかしそのルイズの思いも、ゴーレム側からはより知らぬ話。

 

そんな思いなど気に掛けず、ゴーレムは先ほどから煩わしいルイズの小さな身体を、その巨大な手で掴み取った。

 

 

「きゃあ!この、離しなさいよ!!」

 

 

叫ぶが、もちろんそんなものでゴーレムが手を緩めるはずもない。

 

ギリギリと強くなっていくゴーレムの握力に、ルイズの表情に苦悶が浮かぶ。

 

 

だがその時、ルイズを掴むゴーレムの腕に、一条の閃光が飛来した。

 

 

ズガアァァァァン!!

 

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

 

ゴーレムの腕が粉砕され、掴まれていたルイズは拘束より解放される。

 

三十メイルもの全長を持つゴーレムの手より投げ出されたルイズは、そのままはるか下の地面へと落下していった。

 

 

『フライ』も『レビテーション』も使えないルイズには、この自由落下に対して為す術がない。

 

このまま地面に激突すれば、間違いなく即死だろう。

 

その未来を想像し、ルイズは目を瞑った。

 

 

だがその空中を降下するルイズの身体を、横から飛び出した人影が受け止めた。

 

 

「あ・・・!」

 

 

受け止めた人物の姿に、ルイズは思わず目を見張る。

 

自分を抱きかかえるたくましい腕、逆立つ金の髪に絶世の優美さを備えた面持ち。

 

 

その人物こそは間違いなく、ルイズの使い魔たる英雄王ギルガメッシュに他ならなかった。

 

 

(私を助けてくれたんだ!)

 

 

その頼もしい腕に抱かれ、ルイズは思わず頬を朱に染める。

 

しばしの時間、二人は宙を舞い、ほどなくして地面へと降り立った。

 

それと同時に、ギルガメッシュの赤い双眸がルイズへと向く。

 

ギルガメッシュの美麗の面相に正面から見つめられ、ルイズの頬の朱がさらに深くなる。

 

 

そんなルイズに対し、ギルガメッシュはにべもなく告げた。

 

 

「いつまで抱えられておる、たわけ」

 

 

その一言と共に、ギルガメッシュは無造作にルイズの身体を離す。

 

支えを失ったルイズは、そのまま地面にお尻から落下した。

 

 

「きゃん!」

 

 

思い切り地面に叩きつけられ、ルイズはヒリヒリと痛むお尻をさすりながら立ち上がる。

 

とりあえずギルガメッシュに文句を言おうとしたが、その目に自分らへと迫るゴーレムの姿が映り、ルイズは言葉を飲み込んだ。

 

 

平均的な土メイジの生成するゴーレムの規模から考えても異常な大きさといえる、巨大なゴーレム。

 

それが正面から迫って来る光景というのは、なかなかに見る者を圧倒するものだった。

 

 

「天に仰ぎ見るべきこの我を、あろうことか見下ろすとは何たる了見かっ!!」

 

 

しかしながら、それはあくまで常人に適用される話。

 

英雄王の目にその光景は、逆にその烈火の如き怒りに油を注ぐだけの不敬としか映らなかった。

 

 

「その不敬、もはや元の大地に還すことも許さぬ。塵となりて我が前より失せるがいい」

 

 

ギルガメッシュの言葉と共に展開される、猛烈な魔力を迸る宝具の刃を群れ。

 

 

矛先を目の前のゴーレムへと向けるそれらの宝具は、ギルガメッシュが手を振り下ろすと同時に一斉に射出された。

 

 

炸裂する無数の閃光。

 

その光が瞬くたびに、ゴーレムの身体に巨大な穴が穿たれ、その質量を削り取っていく。

 

 

数秒後には、ゴーレムはギルガメッシュの宣告通り、破片の一つも残さず塵となって消滅した。

 

 

消え去ったゴーレムに、ギルガメッシュは侮蔑も露わにフンッと鼻を鳴らす。

 

そのギルガメッシュに対して、ルイズはおずおずといった様子で声をかけた。

 

 

「あ、あの・・・」

 

 

「ん?」

 

 

声をかけられ、ギルガメッシュがルイズの方を向く。

 

そのギルガメッシュに、ルイズはやや躊躇い気味に口を開いた。

 

 

「その、ありがと。私のこと、助けにきてくれて・・・」

 

 

やたらプライドの高いその性格のためか、本当にボソボソといった感じでルイズは言う。

 

口ではそんな調子だったが、ルイズは自分を助けにきてくれたギルガメッシュに素直に感謝していた。

 

 

こんなに早く駆けつけてくれたという事は、彼も自分のことを気にかけてくれていたという事だ。

 

その事が、ルイズには何だか嬉しかった。

 

 

しかしながら、当のギルガメッシュはルイズの謝辞に対し、心底からの困惑を浮かべていた。

 

 

「何を言っている?お前のことなど、ただのついでだぞ」

 

 

「へ?」

 

 

きょとんとするルイズ。

 

そのルイズに、ギルガメッシュはさも不快気に語り出した。

 

 

「あの土人形めが起こした衝撃で、我が楽しんでいた茶に埃がはいったのだ。我の楽しみを邪魔した泥人形など、存在しているも不愉快であったのでな。

 

故に、粉砕しにきた。それだけのことよ」

 

 

どうやらこの男は、自分がいろいろと深刻に悩んでいる時に呑気に紅茶など啜っていたらしい。

 

それを聞き、何だかルイズは先ほどまであんなに悩んでいた自分自身がひどく滑稽に思えてきた。

 

 

ああ、この男のことを自分がどう悩んだって、何が変わるわけではない。

 

自分の実力うんぬん以前に、要するにこの金ピカ男が生粋の我儘野郎だというだけの話なのだ。

 

 

壊された宝物庫や、いつの間にか姿を消した盗賊、それと騒ぎに気づいてやって来る者の声など、対応すべきことはいくらでもある。

 

しかしルイズは、とりあえず溜まったフラストレーションを発散させるべく、目の前の己の使い魔へと杖を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

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