結局、いくら考えても答えは出なかった。七草生体研究所の七草が彼女だと言う確信は無い。でも彼女が薬を持っていたことを考えれば、彼女がこのパンデミックに関わっている確率は高いだろう。
「……圭、私は少し寝るよ。何かあったら起こしてくれ」
私は後部座席にいた。左側には引馬が眠っている。昨日約束したから、今日の運転は圭の役目だ。とは言えモールと学校は遠くないからすぐに学校に着くとは思うけど。
「うん、時間は少ないかもしれないけどゆっくり休んでね、渚」
「悪ぃな」
私は右側のドアに体重を掛けると、目をつむる。車の規則的な振動が私の眠気を増幅させていった。
「……こうやって無防備だと、ちょっと可愛いんだよね」
そんな彼女の言葉を私は取り合えず、聞かなかったことにしておいた。きっと圭も疲れてるんだ。うん。
「……きて、渚」
誰かに肩を揺すられている。うっすらと目を開けると、少し嬉しそうな表情をした圭が視界に入った。
「……ん?何だ、圭」
「学校、着いたみたいだよ」
私は体勢を戻し、窓の外を見る。
「へぇ……」
たかが1ヶ月程度通っていないだけなのに、酷く懐かしく感じた。
永遠に続くような日常の中で、私が自宅の次に……いや、もしかしたら自宅以上に長い時間を過ごしたかもしれない場所。
車は校舎の裏側に止められていた。
「さっき表から入ろうとしたんだけどさ、校庭に結構あいつらが集まってたの。だから取り合えず裏まで来て、渚を起こそうと思って」
「そっか。ありがとな」
ふと左側に目を向けると、引馬はせわしなく周囲を見回していた。
「ここがおねーちゃんたちの学校っすか?」
そしてキラキラとした瞳で問いかけてくる。
「あぁ。巡ヶ丘学院高等学校って言うんだ」
「こ、こーとーがっこう?」
「あー……高校ってことだよ」
何はともあれ、目的地に到達することは出来た。次の課題は、学校への侵入方法。
「渚、どうしよっか……」
「校庭にそんな集まってたのか?」
「うん。何て言うか、放課後の部活中みたいな感じで」
サッカー部や陸上部。そんなところか。あいつらには生前の記憶でもあるのだろうか。
「……車で蹴散らす!……のは危ないよね。でも1人ずつやっつけてたら日が暮れちゃうかな……」
圭が頭を掻きながら思考を巡らせている。私も何か考えねば。
今私達が使えるのは持ってきた食料に消火器位の物。これで出来る事は……。
「圭、引馬。荷物を頼めるか?」
「う、うん。わかったよ」
「おっけーっす!せんぱいっ」
私と圭は席を交換した。圭と引馬には持ってきた荷物を持たせておく。
「2人とも、どっかに掴まっとけよ」
車を発進させ、正門へ向かう。正門は開かれており、車での侵入も難しくは無さそうだった。
「行くぞっ」
私はそれなりにスピードを出して校庭に突っ込む。何人かゾンビ達を引いて行く。その度に車は大きく揺れた。
私は玄関前に車を止めると、二人に向かって叫ぶ。
「急いで校舎の中に入れ!中にあいつらがいたら知らせろ!」
「う、うん!」
圭と引馬は校舎内へと走っていった。足の怪我は完治していないが、すぐ進めば校舎の中には入れる。
私のやるべき事は、車の音に寄ってきたあいつらへの牽制!
私は助手席から消火器を取り出すと、ゾンビの群れに向けて構える。
「久しぶりだな、名前も知らない誰かさんよ!」
そして、発射。白い粉は煙のように広がり、あいつらの視界を遮った。私はその隙に校内へと侵入する。
「圭、引馬、どこだ?」
「渚、こっちこっち」
玄関を開けて右側の部屋から圭が顔を出していた。周囲にあいつらの気配は感じない。私は足音をたてないよう、そっと電算室と書かれた部屋へ入り込んだ。
部屋は外から入る光だけが頼りになっており、薄暗い。
「ここのパソコンって動くのかな?」
足にしがみつく引馬の頭を撫でながら圭が言った。
「さぁな。でも太陽光発電があった気がするから動くんじゃないのか?」
最も今は動かすつもりも無いが。明かりに誘われてあいつらにこられたら困る。この学校の中で何処までが安全なのかはまだ分からないのだ。
「……さて、学園生活部を探すとしようか」
「うん」
「が、がんばるっす」
私は制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出すと、構内見取り図のページを開く。1階にある階段は3つ。どれも2階に進むものだ。
「一番近いのは……っと」
この部屋を出てトイレの先にある階段が一番近いようだ。2階の真ん中の階段に繋がっているだろう。生存者が何階の何処に居るかは分からないから、広い範囲を見渡せる真ん中の階段は都合がいいだろう。
「よし、行くぞ」
安全区域を作るために、何かしらのバリケード等が建てられているかもしれない。
「ま、まって渚。しゃがんで」
圭に肩を掴まれ、その場にしゃがみこむ。コンピューターの群れの中からこっそり顔を出して覗きこむと、ゾンビが1体部屋に入ってきている事に気づく。
「圭、引馬。私が合図するまでは絶対に出てくるなよ」
私は姿勢を低くし、なるべく音を立てずにゾンビに近寄り、後ろを取る。
「……おやすみ」
私は消火器を振り上げると、それを思いっきりゾンビの頭に降り下ろす。大きな音がして、ゾンビの頭がパソコンに突っ込む。
「今だ!」
「行こっ、理千亜ちゃん!」
「うんっ」
圭が引馬の手を引き走り出す。私はゾンビが動かないのを見届けると、2人の後を追った。
「きゃっ!」
2人が逃げた先――男子トイレからゾンビが飛び出てくる。さっきの音に寄せれたのだろう。
「任せろ」
私は2人の前に躍り出ると、消火器を発射しようと構える。だがしかし。
「ッ!?弾切れ……!?」
仕方がないので私は消火器を横に薙いだ。ゾンビの頭は不快な音を立て半分ほどの太さになる。
「ひっ……」
その光景に引馬が小さな悲鳴をあげた。
「我慢だ、引馬。後ちょっとで休めるさ」
「……ぅ、うん」
そして私達は階段を上り、2階に到着した。階段から顔だけ出して2階の様子を探ると、違う階段から同じ様な姿勢で周囲を見渡していた1人の少女と目があった。
ようやっと学校へ到着です。12話でした。
最初に考えたものとだいぶブレて来てしまったような気がします。主に渚の半ゾンビ化の扱いとかですね。
ここまであんまりその設定には触れてきませんでしたが、学校で暮らし始めてからは生かしていきたいなー……と思っております。グダグダな進行で申し訳無い……。
さてさて。それではまた次回お会いできれば嬉しいです。
ではでは。