「……」
「……」
気まずい沈黙。少女は私と同じ制服を着ている。彼女が学園生活部のメンバーなんだろう。2階を覗き見てから急に黙ってしまった私を心配したのか、圭が声を掛けてくる。
「渚?何かあったの?」
「あったっていうか……居た」
私達は取り合えず荷物を床に置くと、両手をあげて階段から廊下に出る。
すると階段から上半身だけを出した少女は、シャベルを背負ったまま近づいてきた。
「……いた、生存者だ……!」
「えっと……」
圭が何か言いたげにしている。大方美紀とやらの事を聞きたいのだろう。だが彼女はそんな圭の様子に気付かず、話を続けている。
「良かった……あたしたちだけじゃ無かったんだ……。おっと、そうだ。取り合えず上まで来てくれないか?ここはまだ制圧できて無いんだ」
「あ、あぁ……ありがとう」
どうやら思っていたよりも歓迎されていた様だ。私が生存者にした対応とはまるで違う。
私達は荷物を手に取ると、彼女の後を追って3階へと登っていった。
「3人は今まで何処に居たんだ?……いや、いいや。それは皆集まって話した方が良いよな。そうだな、えっと……」
誰かが居たことがよほど嬉しかったのだろうか、彼女の話が尽きることは無い。3階の廊下を進み、やがて彼女はとある部屋の前で足を止めた。
生徒会室のプレートの上に、学園生活部と書かれた紙が張り付けてある。
「まぁ、何はともあれ……ようこそ!学園生活部に!」
そう言って彼女は扉を開いた。しっかりと電気は通っているようで、部屋の中は明るい。
部屋の中にはもう2人の女子が居た。1人は何やらノートを取っていて、もう1人は私達の姿を見た途端に飛び込んできた。
「……圭っ!」
涙声でそう叫んだ彼女は、圭に抱きつく。
「美紀……!」
そうか、彼女が圭の言っていた……。
圭も負けじと彼女を抱き返す。2人は何も言わなかった。ただ、この再開を噛み締めるように、2人で泣き合っている。
「ワン!」
犬の鳴き声が聞こえた。2人の足元に、1匹の犬が寄り添っている。
「太郎丸!太郎丸も居たんだね!」
圭は太郎丸を抱き抱えると、くるくるとその場で回転した。
「わふー……」
……ちょっとだけ犬が気持ち悪そうにしていた。
「って圭!お前、足……」
「……え?あ、きゃあっ!?」
私に言われて気づいたのか、圭は足の痛みにつまづき倒れてしまう。ちょうど、美紀とやらを押し倒す形で。
「ちょ、もう、圭ってば……」
「あ、あはは……ごめんねー、美紀」
私は、彼女を連れてこれて良かったと思う。ここにはそれなりの生活環境が揃っている。ここで暮らしていけば、その内自衛隊とかが助けに来てくれるかも知れない。
……私の役目は、これで終わり。
そんな風に考えていると、私達を案内してくれたツインテールの女子が私に聞いてきた。
「そのちっちゃい子はともかく、2人はここの生徒だよな?」
「あぁ。……私は2年A組の高凪渚だ」
「へぇ、2年生なのか。てっきり3年生かと思ってたよ。あたしは3年の恵飛須沢胡桃。よろしくな」
3年生だったのか……。
「え、えっと……それは失礼した……ました?」
やっぱり敬語は上手くいかない。ついため口が出てしまう。
「無理して敬語使わなくたっていいよ。それにしても高凪、ねぇ……どっかで聞いたことあるような……?」
恵飛須沢先輩はシャベルを背負ったまま顎に手を当て考え事を始めた。
さっきまでノートを取っていた少女――いや、彼女は女性と言った方が良いかもしれない。とにかく彼女はノートを閉じると私達の方に向き直った。
「挨拶が遅れてごめんなさいね、高凪さん。私は若狭悠里。学園生活部の部長をやっているわ」
目を薄く開いたおっとりとした感じの女性。それが彼女の印象だった。
「わ、わたしは引馬理千亜っす……」
怯えているのか、緊張しているのか。引馬は私の足に隠れながらおずおずと自己紹介した。
「よろしくね、理千亜ちゃん」
「う、うん!」
引馬はその柔らかい笑顔にすっかり懐柔されてしまったようで、とてとてと彼女の元に駆け寄る。
「あ、あの、先輩方」
ひとしきり再開を喜んだ後、圭が先輩2人に向けて言った。
「私は2年の祠堂圭です。美紀を助けてくれて、本当にありがとうございます!」
頭を深々と下げる圭。そんな態度をされることに慣れていないのか、恵飛須沢先輩は少しだけパニックになっている。
「え、あー、その、あれだ。うん。気にすんなよ」
「そうよ。美紀さんもずっと貴女の事を考えていたわ。だから一緒に居てあげてね」
「は、はい!」
その後も3人は雑談を続けていた。雑談と言っても本当の雑談じゃない。今までどうしていたのか、とかをお互いに教えあっている感じだ。
「わんっ!」
スカートに重力を感じる。視線を下げると小さな犬が私のスカートにしがみついていた。
「なんだ?スカートの中でも見たいのか?」
私はその犬を抱えあげると、視線を合わせて言った。
「ご、ごめんなさい!こら、太郎丸。変な事しちゃ駄目でしょ?」
髪の短い少女が太郎丸に話し掛ける。太郎丸はその言葉に反応し彼女の方を向く。しかし。
「わふ」
そっぽを向いてしまった。少女は結構ショックを受けているようだ。
「って、そうだ。高凪さん、あの時はありがとうございました」
彼女はそう言って頭を下げる。あの時……?
「えっと……誰だっけ?」
「あ、私は2年B組の直樹美紀です」
直樹美紀……。そこまで聞いてようやく思い出すことが出来た。
だいぶ前の事だが、繁華街でチンピラ2人に絡まれてた子だ。
「あぁ、繁華街の。あの後大丈夫だったか?」
「はい。お陰様で」
それを聞いて安心した。たまに逆恨みしてお礼参りして来るやつもいるのだ。私ならいくらでも相手になってやれるけど、彼女はそうも行かないだろうから。
情報交換を終えたのか、圭がこっちに首を突っ込んで来た。
「何々?2人とも知り合いだったの?」
「うん。前に繁華街で絡まれたときに助けてくれたんだ」
「へぇー、やっぱり渚って王子様だね!……私もね、渚が助けてくれたんだ」
王子様とか言われる度に顔が熱くなってしまう。私は誉められたときどう反応すれば良いのか知らない。
「とにかく圭を連れてこれて良かったよ」
「……渚、本当にありがとね」
私達の話が一段落つくと、部室のドアが勢いよく開く。
「たっだいまー!……って、あれ?」
猫の様な帽子を被った、子供っぽい女子が部屋に入ってきた。しおりに書いてあった生徒は3人。そうなると彼女がこの部活の最後の1人。
「も、もしかして皆新入部員!?」
彼女の頭の中には素敵なお花畑でもあるのだろうか。少女は目を輝かせると若狭先輩に抱きついた。
「凄いよりーさん!大漁だよ!入れ食いだよっ!」
「釣りかよっ!」
恵飛須沢先輩の突っ込みをスルーして、彼女は一回転すると明るく元気な声で話し掛けてきた。
「私、丈槍由紀!いやぁーこれだけ入部してくれれば私達が卒業した後も安心だね!めぐねぇ!」
丈槍先輩はそう言って、誰もいない空間に笑いかける。
「はーい、佐倉先生」
彼女だけを残して、部屋の温度が下がっていく。彼女はそれに気づいているのかいないのか、そこにいない誰かと話を続けている。
「ゆ、ゆき!」
「ん?どしたの?くるみちゃん」
こちらの呼び掛けにはしっかりと答えてくれる様だが……。
「い、いや。屋上に園芸部の手伝いに行こうと思ってな。付いてきてくれよ」
「えー?もぅ、くるみちゃんってば甘えん坊さんだなー」
「なんだとぅ?」
恵飛須沢先輩は丈槍先輩の頬をつねる。先輩の頬は柔らかい様で、まるでギャグ漫画の様に伸びている。
「い、いひゃい!いひゃいよ!くりゅひひゃん!」
恵飛須沢先輩はパッとつねっていた手を離す。
「反省したか?」
「ごみん……」
丈槍先輩が両の頬をさすりながら謝る。そして半ば引っ張られるように恵飛須沢先輩に連れていかれた。
「屋上……?わ、わたしもいくっすー!」
「わんっ!」
何を思ったか引馬と太郎丸も付いていってしまったが、3階から上は安全圏のようだし、きっと大丈夫だろう。
「え、えっと……若狭先輩」
淀んだ空気の中で、圭が最初に口を開いた。
「丈槍先輩は……」
そんな圭の言葉を遮って若狭先輩は語り始める。
「あの子の中ではね、平和な日常が続いているの」
いやぁ、既存の人物を書くのって難しいですね……。書いててこの子って絶対こんなこと言わないよなぁ……っていうのが多々あります。
さて、13話でした。お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けましたでしょうか?感想や評価もありがとうございます!
さてさて、以前1章は大体何話ほど……といった話をしたと思います。ですのでもうそろそろ3章も終わりとなりますが、あんまりキリが良くないかもしれません。ですので大体原作(章の数字)巻位の出来事だと思って頂けると幸いです。
それでは、また次回も見ていただけると嬉しいです。
ではでは。