かんせんぐらし?   作:Die-O-Ki-Sin

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14話―ほーむるーむ

「あの子の中では事件が起こっていないの。学校の皆も、あの子の中では生きている」

 

 若狭先輩の告白。それならば元気過ぎた彼女の様子にも納得がいく。

 

「そんな……治そうとは、しないんですか?」

 

 圭がそう問い掛けると、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ若狭先輩の瞳が厳しくなった。そして直樹は目をそらす。きっと彼女も同じ事を聞いたのだろう。

 

「無理に治そうとしても、悪化するかも知れないでしょ?」

 

 その言葉は、言い訳としか聞こえなかった。でも私は口を出さない。ここで何か言ったって、さらに状況を狂わせるだけだ。

 

「それは……そうかもしれないですけど」

 

「えぇ。彼女は、私達の状況が何とかなってからゆっくり治していけば良いと思わない?」

 

 若狭先輩は圭が一定の理解を示してくれた事が嬉しそうに、柔らかい笑顔で言った。

 

「それに、あの子には笑顔で居て欲しいもの」

 

 丈槍先輩は2人に依存して、2人は彼女の世話をすることで精神を持たせてきたのだろう。精神の安定はとても大切な事だ。だけど……。

 

 それは、ただの共依存だ。

 

 そんな言葉を胸の奥に押し込む。若狭先輩はニコニコしているが、彼女から底知れないナニカを感じる。もしかしたら、学園生活部で一番危ないのは丈槍先輩ではなく――いや、考えないでおこう。

 ようやく見つけた生存者だったが、私は圭と引馬をここに残す事が少し不安になってきた。彼女達も……依存の輪に加わってしまうのではないか、と。

 ……それでも、いや、その方がと言うべきか。彼女は幸せになれるのかもしれない。いつ死ぬか分からない、希望の無い世界よりかはマシなのかもしれない。

 

「……まぁ。一番大切なのは今生きているって事だろ」

 

 私はそう呟いてから、部室のドアまで移動する。そして圭に向かって言った。

 

「……圭。私はお前に謝らなきゃいけないことがあるんだ」

 

 声音を低くして、言葉の外で冗談ではない事を示す。

 

「え……な、何?渚……?」

 

 想定よりもビックリしているようだ。圭の声は震えている。

 私はそんな彼女の様子を気にせず、話を続けた。

 

「私は、ここで住むことは出来ない」

 

 いつか私が不幸の引き金となることは分かっている。圭、引馬。彼女達の幸せを、私のわがままで壊すわけには……いかない。

 

「な、何で?」

 

「……」

 

 私は何も答えない。代わりに私はジャージを脱いだ。半袖の制服。私の左腕の包帯がしっかりと見える。

 

「その包帯がどうしたの?火傷か何かなんでしょ?」

 

 彼女はこの事には気づいていたようだ。でも、自分に都合の良いように勘違いしている。

 私は包帯を取りながら言う。あいつらと同じ黒ずんだ肌が見えると、部屋の空気が凍りついた。

 

「私はもう、人間じゃないんだ」

 

「――っ」

 

 誰も、何も言わなかった。ただ、怯えた目で私の腕を見つめる。そうだ。それで良い。もっと怖がれ、そして私を追い出してくれ。

 

「その、腕は……一体……」

 

 ようやく声が出るようになったのか、直樹が震える手で私の腕を指差しながら言う。

 

「……1ヶ月以上前の事になる。私は……あいつらに噛まれた」

 

 七草さんがあいつらになった。私はそう思っていた。だけど、彼女は何処かで生きているのかもしれない。あの時のゾンビは顔がよく見えなかった。ただ私が感じたのは痛みと、底知れぬ恐怖。それ以外の事は、ぼんやりと霞がかかっていて上手く思い出せない。

 

「だけど、親切な人が薬をくれた。私は……ヤケだったのかもしれない。他人に渡された薬を使うだなんてな。だけど結果として、私はこうなった」

 

 私があいつらになりかけたヒトなのか、ヒトの意識を残したあいつらなのかも分からない。それだけ私と言う存在は不安定で不自然だった。

 

「ずっと、考えないようにしてたのかもしれない。だけど、有原や西野を見て、そんな都合の良いことは無いことを思い知らされた。もしかしたら、私があいつらになってあの悲劇を引き起こしていたかもしれないんだ」

 

「でも、渚は人間だよ!優しいし、あったかい」

 

「今まではそうだったかもしれないな。だけど、明日私が突然あいつらにならない根拠はあるのか?」

 

「う……」

 

 納得がいかない、だけど、反論できない。そんな言葉にならない苛立ちを圭の表情から読み取れた。

 

「じゃあな、さよならだ」

 

 私はそのまま、扉を開けて出ていこうとした。そのとき、触れる直前だったドアが開く。

 

「うわぁっ!?」

 

 扉を開けた丈槍先輩は、扉のすぐそこに人が居たことに驚き腰を抜かしている。

 

「ヒトを化け物みたいに……」

 

 まぁ、化け物であることは間違ってはいないが。

 私は右腕を伸ばし、丈槍先輩を引き起こそうとした。その腕を、若狭先輩に掴まれる。

 

「あ、ち、違うの!これは……」

 

 そう言って若狭先輩は手を離す。

 あぁ、そうだろう。怖かろう。一見普通に見える右腕にも何かがあるかもしれない。そう考えるのは至極まっとうな事だ。

 

「……大丈夫だ……ですよ。気にしてません」

 

 そんな事では、私の心は傷つかない。そんな浅い刃じゃあ、古傷だらけの私の心に新しい傷を作ることなんてできやしない。

 

「もう、駄目だよりーさん!確かに渚ちゃんは見た目は怖いけど……優しい子だよ!私には分かるもん!」

 

 そう言うと彼女は、私の左腕を勝手に借りて起き上がった。

 

「ちょ、丈槍先輩……!?」

 

「あ、ごめんね!?手、痛かった!?」

 

 一体、彼女の目に私の腕はどう映っているのだろう。彼女は、私の腕を見ても怖がるそぶりを見せなかった。それが彼女の現実逃避によるものなのか、元々の人柄によるものなのか私は知らない。それでも……私は嬉しく思ってしまった。

 

「……そう、よね。ごめんなさい。高凪さん」

 

 若狭先輩は、本当に申し訳なさそうにそう言った。このままじゃ、いけない。ここから出ていきたく無くなってしまう。私は、彼女達の幸せを壊したくないのに。

 

「わんっ!」

 

 そんな鳴き声と、胸に小さな衝撃。所々緑色の何かで汚れた太郎丸が飛び込んできた。

 

「な、なんだ?ってか汚ぇ……」

 

 太郎丸の汚れが腕に付く。これはコケ?藻?まぁそういった類いの物に見える。

 

「コラっ!太郎丸~っ!」

 

 少し遅れて、同じような汚れが制服に付いた恵飛須沢先輩がやってくる。

 

「よくもやってくれたなーっ!!」

 

 屋上で何があったのかを知るよしもないが、彼女がそうとう怒っている事は取り合えず分かった。

 

「ゆ、ゆきおねーちゃん、くるみおねーちゃん、あし速すぎるっす……」

 

 さらにヘトヘトな様子の引馬も帰ってきた。彼女の服も汚れている。ほんとに何をして来たんだ……。

 そんな私の心の声を読んだかのように、丈槍先輩はとんでもない解答をくれた。

 

「皆!屋上の池をお掃除しよう!そして水泳大会しようよ!」




僕とお掃除して、水泳大会をやって欲しいんだ!
14話でした。前回予告しました通り、キリが悪いものの3章はこの回で終わりです。次回からは4章になります。
きっと次回からはほのぼのスクールライフが待ってる(筈)なので、シリアスさんの出番は無いかも……。

さて、次回のかんせんぐらしは~?
渚の問題を後回しにして水泳大会を始めようとする学園生活部。だけど水泳大会を始める前に必要なのは……水着!
「……なに、ジロジロ見てんだよ」
次回、かんせんぐらし第15話!「もらとりあむ」
次回もお楽しみに!

……1回やってみたかったんです。ごめんなさい。
今回もお読みいただきありがとうございました!
ではでは。
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